2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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上村紀夫氏(以下、上村):まずはマイナス感情の発生機序、プログラムですね。なぜマイナス感情は発生すると思いますか? そこに関与してくるのは、会社が提供できるレベルと従業員が求めるレベルのギャップです。
例えば従業員が「給料として50万円は欲しいな」と思っていて、でも会社のほうでちゃんと出せるのは30万円しかない。じゃあこの20万円はなんなのか。この20万円がマイナス感情の蓄積の要因になります。
それはおそらく給与の話だけではないです。例えば業務環境。「業務量はこれぐらいがいいな」と思っていたとして、それがちゃんと満たされているかどうか。やりがいのある仕事ができているかどうかですね。
最近はワークエンゲージメントといった話も出ていますけど、それに対して会社のほうで提供できているレベルと、従業員が求めているレベルの間に乖離が発生する。端的に言ってしまうと、これがマイナス感情の発生源です。
これをちゃんと理解していかないと、「若手がなぜ離職をするのか」「優秀人材がなぜ離職するのか」というあたりを把握するのが表面的になってしまい、とても難しくなります。根本はこれです。話を聞けば「当たり前じゃん」と思うんですけれど、実際の対策を考える時に意外と抜けているんです。
これは人によって感じ方が違います。例えば同じ職務の方がいらっしゃって、Aさんが求める給与は40万円くらいだとします。でもBさんは「これくらいだったら、外から見ても30万円あたりかな」と思っている。
そこで会社さんが提供しているのが35万円となった場合に、同じ職位の方にとっても感じ方が違って、Aさんにとってはこれは足りないのでマイナス感情になります。ですが、Bさんにとってこれはプラス感情を生み出す可能性があります。プラスは長持ちしないんですけれども、これは後で話します。
ということは、Aさんとしては「この会社は給与が悪い」と表現します。でもBさんとしては「この会社は給与がいい」と表現します。なぜそれが起こるのか? 当たり前だと思うかもしれませんけど、従業員によって捉え方が違うからです。
本当に当たり前なのですが、なぜこれが起こるのかというところがテーマです。つまり、そもそも人それぞれ仕事になにを求めるかが異なってくるからなんですね。それは価値観や性格、キャリア、環境などによって変わります。例えばこうやって人がたくさんいて同じように働いて楽しくやっていても、働く際に求めるものはそれぞれ異なります。
かたちも違うし、程度も違うし、ぜんぜん異なってきます。ましてやこの頃はダイバーシティという話もあって、どんどん変わっていきます。その変化の度合いが、文化とかも含めて昔に比べて速くなり、幅が広がっている。これが今だと思います。ですので、それにどうやって会社が対応すればいいかが人事上の施策に関連してくる。
じゃあ、この求めるものはなんなのか。弊社では「労働価値」と呼んでいます。経済学をやっていた方からすると労働価値というのはまた違う意味合いに見えてくるので、ちょっとここではいったん外してください。「労働価値観」だと思っていただければいいです。
厚労省や経産省がけっこういろいろ論文などを出していますけれども、そこでも「労働価値観」という言葉を使われています。なので、みなさんがもし今日学んでいただいたことを「実際どうなっているんだろう?」と思って考えていただく時には、「労働価値観」という方向で検索していただくと見えてくる可能性が高いと思いますね。
今日は「労働価値」という言葉で統一させていただきます。この中でキャリコン(キャリアコンサルタント)の方がいらっしゃったら、もしかしたらよくご存じかもしれませんけど、ドナルド・E・スーパーの「14の労働価値」という理論があります。
1940年ぐらいのアメリカの心理学者で、日本ではいわゆる戦時中ですね。もうかなり古い時代の方です。どういう研究かというと、仕事の重要性研究というものをやって、その中で仕事になにを求めるかを14個にまとめたんですね。
(スライドを指して)これを価値観、労働価値としてまとめたものですね。じゃあ、どんなものがあるのか。その14個を紹介していきます。
1つめは「能力活用」。この頃多い「自分の能力を発揮したい」という思いですね。それはまあ、やりがいとかにもつながってくるのかなと思っています。
2つめは「達成」。達成感が欲しい、良い結果が出せたという実感を得ること。これが達成ですね。
3つめは「美的追求」。僕はこれをまだちゃんと理解できていないです。たぶん芸術系や広告系といった、いわゆるクリエイティビティの高い方々にとってはすごく重要だと思います。美しいものを作り出すこと。つまりここでもう私との間に労働価値の違いが出ているんですね。
4つめは「愛他性」。人や社会の役に立てること。最近これが増えてきているのは間違いないです。
5つめは「自律性」。命令を受けずに自分で仕事が設計できること、構築できることが重要視されている。
6つめは「創造性」。新しいものを生み出す。
7つめは「経済的報酬」。お金です。給与もそうですし、もしかしたらストックオプションかもしれないし、いろんなパターンがあると思います。お金をたくさん稼げること。それが短期的なのか中長期的なのか、これも人によって戦略が変わりますよね。
8つめは「ライフスタイル」。つまりワークライフバランスと。そんなものですね。
あとこの頃多いのが「通勤時間が無駄だから作りたくない」とか、そういった方々が多くて「地元で働きたい」という方もけっこう出てきているのは確かですね。
9つめ。これは昔はよくあったと思いますが、最近は減っていると思います。「身体的活動」。体を動かしたいということですよね、体を動かして仕事をしたい。これもおかしくはないですね。
10個めは「社会的評価」。社会で認められたい。社会に自分の仕事、自分たちの仕事を認めてほしいということです。
11個めは「冒険性」。これも最近は増えている感じですね。わくわくしたい。
12個めが「社会的交流性」。これを語る時にわかりやすい例でいくと、育児をしながらお仕事をされる時に、なぜ保育園に8万円や9万円などすごく高い金額を払って(子どもを預けて)仕事をするのかというところなんですね。
時短で働く方も多いので、給与としては……。そしてお金が出なくなって、でもさらに多くのお金を払わなきゃいけない。「いくら儲かるの?」「2万とか3万」「でも、しんどいじゃん」となるんですけど、でも働きたい。なぜならば、これです。社会的交流性を持ちたいから。これはけっこうあります。
「キャリアの中断が嫌だから」という方もいらっしゃいますし、あとは家にいるとお子さんとの関係性だけになってしまうので、そういったものから抜けたいというのもあるみたいですね。それが社会的交流性です。これもけっこうみなさん持っていらっしゃいます。
13個めは「多様性」。いろんな仕事がしたい。1回でマルチタスクをいろいろしたいという方もいらっしゃいますね。
最後に、14個めは「環境」。業務の環境が心地よいこと。「うわー、いっぱいあったわ」と思いました。みなさんも(メモを)書いていると手がしんどくなっちゃうんですけど、ちゃんとまとめました。
ただ、これは「14の労働価値」で調べていただくと、ホームページとかも含めてけっこう出てくると思いますので、そこで見ていただければと思います。これだけで研修をやられる方もいらっしゃいますが、それは人それぞれ価値観が違うからなんですね。
もしこれが管理職研修や全体研修だったりすると、チームでまとまって「なにを大事にして仕事をしているか」をチームでシェアしていただくケースもあるかと思います。
例えば、「この14の労働価値の中で重要視しているものを3つ挙げてください」とかですね。「重要視しているものをとりあえず挙げてみて、削って3つぐらいにしぼってください」なんてことを話します。
そして「こんな感じで優先しているな」みたいなことをみんなに発表しながら、なにを求めて働いているのかをシェアすると、ふだんこの人はなぜこういう行動をしているのかが見えてきたりします。
ということで、まずは労働価値のお話をさせていただきました。「離職の話じゃない」と思ったかもしれませんけど、だんだんお話ししていきます。
労働価値は動きます。「いきなりなんの話?」ということですが、労働価値は変わります。これは2つの変わり方をします。1つめはマクロシフト。これは社会情勢によって変わるやつですね。時代の流れなどによって起こる大きな労働価値の変化です。
もう1つは個人で起こる局所的な労働価値の変化(ミクロシフト)です。これは説明が必要なので、説明をしっかりします。まず、マクロシフト社会情勢ですね。どういったことでみなさんの労働価値が変わるのか。
1つめは、例えば社会要因としては「労働人口が減ってきた」「産業のシフト化が起こっている」「これからは外国人労働者」など。後でお話ししますけど働き方改革には表面的な意味と裏の意味がありますので、そこで大きく変わってきます。
2つめは技術革新。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などが入ってきている。
3つめは、今ではメンバーシップ型と言われている日本古来の経営スタイル。やっぱり人事の戦略がだんだん減ってきています。かといってジョブ型が正しいのかということもありますので、そこはけっこう微妙なところにきている時代になっていますね。
あとは在宅。ワークフロムホームとか、そういったことの導入があります。例えば、先ほど申し上げた育児と両立でちゃんと働きたいと思って来た方が、気がついたら在宅勤務になっていたと。
交流性を求めて働きたいと思っていた方が在宅勤務になったら、そこはちょっとまた変わってくるんです。「あれ?」となってくるので、そこで先ほど言ったマイナス感情が発生する可能性があります。
相手によかれと思ってやっても、そういったことでマイナス感情が起こったりもします。あとは例えば核家族化や少子化も十分影響します。他には世代間の価値観のギャップなどもありますね。
ちょっと文字にすると難しくて硬い感じになってしまうので、簡単に言うと、例えば今の50代~60代の方々。これがすべてではないですが、この世代は「高い給与が欲しい」「高い地位が欲しい」「社会を支えている」「尊敬・達成感」などを重要視されて走ってきた方がけっこう多かったかと思います。
ですが、今はやはり「自分の時間」「仕事の意味合い」とかです。実際にここは変わっています。「人間関係の良さ」「没頭できる」など。「没頭」という言葉は最近のホットなワードですけれども、こんなことになると。
つまり、ここで時代の違いが起こっていますね。そこにギャップが発生するのも当たり前の話で、これがマクロシフトです。いわゆる時代の流れによって労働価値の溝が発生します。
今はこれを語る本やセミナーが多いので、みなさんもすごくわかりやすくなったかと思います。感覚としてみなさん持っていらっしゃるので、もともとこの流れはなんとなくわかっていることも多いと思いますね。
一方のミクロシフトは意外と捉えづらい。ミクロシフトは個人の、一人ひとりの局所的な労働価値の変化です。
具体的に言うと、1つはキャリア志向。例えば成長を望みたい機会と、活躍・収穫したい時期。そこからマネジメントをしたい時期と、みんなを育成したい時期。それぞれキャリアの変遷によって、その時期ごとに変わってきます。求めるものも当然変わってきます。
そういったことがあるので、例えば20代と30代では同じ人でも変わってきます。もちろん40代でも変わってくる。当たり前ですね。
2つめは健康状態。例えばメンタルがしんどくなった経験がある方は「穏やかに仕事がしたい」と思われる。これもぜんぜんおかしくないと思います。これも労働価値が変わったということです。あとは「身体的にしんどい」とおっしゃる方もけっこういらっしゃいますね。看護や介護、出産、育児などよって局所的にシフトが起こることもあります。
あとは仕事とプライベートの重要比率が変わっているところですね。例えば20代はすごく仕事を重要視して、ガリガリ働きたい。でも、例えば子どもが生まれて「この時間を大切にしたい」となってくると、その比率はガタンと変わります。
そうすると求めるものが大幅に変わり、そこで転職が起こる。それはぜんぜんおかしくないですが、そういったことが起こります。
これは女性の20代から30代の部分が一番わかりやすいです。女性でキャリアをしっかり構築しようという方は、わりと結婚や出産をされる前にキャリアを作りたいと思う傾向にあると思います。
そうすると「正当な評価」「幅広い仕事」「積極的に関与をしたい」「成長したい」という言葉をおっしゃってどんどん上がるんですけれども、これがミクロシフトするんですね。
子どもが生まれると、そこが「社会とのつながりが欲しい」「家計収入を増やしたい」「労働時間が調整できるなら自分の時間が欲しい」というニーズに変わってきますので、もう根本的に異なるんですね。
ですので、マクロとミクロは両方走るんですけれども、けっこう一人ひとりでも起こるんですね。これは当たり前のことを言っているんですけれども、意外とちゃんと考えたことがなかったというケースがけっこう多いと思うんです。だけど起こるので、そこをちゃんと考えていただくと。
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