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執念とこだわりで社会を変える あるプロダクトマネージャーの試行錯誤(全2記事)

プロダクトマネージャーはなぜミニCEOと呼ばれるのか 及川卓也氏が語る、事業を創る“人間力”の本質

2019年9月13〜14日の2日間、渋谷ヒカリエで「BIT VALLEY 2019」が開催されました。“モノづくりは、新たな領域へ”をテーマに、クリエイティブ・ビジネスに関わるすべての人々に向けて、テクノロジー・発想方法・働き方など多様な切り口でトークセッションが行われた本イベント。この記事では、Tably株式会社の及川卓也氏が登壇した「執念とこだわりで社会を変える あるプロダクトマネージャーの試行錯誤」のセッションの模様をお届けします。

「この国にはなんでもある、ただ希望だけがない」

及川卓也氏(以下、及川):みなさんこんにちは。

一同:こんにちは。

及川:及川といいます。裏がMicrosoft HoloLens(についてのスピーチ)ということで、こちらは閑散とした状況で寂しいのですが、いる人の中で熱くいきたいと思います。けっこうエモい話をしますので、一緒に熱量を高くできたらうれしいと思っています。よろしくお願いします。

読み上げるのはちょっとためらわれるのですが、(スライドを指して)「この国にはなんでもある、ただ希望だけがない」。

今回は学生さんが多く、若い人がほとんどだと思うので、これはご存じではない方も多いかもしれません。私が大好きな作家に村上龍さんという芥川賞をとった作家がいらっしゃいまして。約20年くらい前の2000年に『希望の国のエクソダス』という小説を出しました。この本も当時、ベストセラー的に売れた商品です。

(舞台は)2002年。書かれた2000年からすると近未来のことを描いた、一種の経済小説のようなものなのです。中学生が閉塞感のある日本という社会に対して、一種の反乱を起こし、北海道で自分たちの自治区を作る話です。地域通貨を発行したり、国際的なところにも競争力を持つことをやったりしている小説です。

先ほどのセリフは、この中学生のリーダーが国会で発言した中のセリフです。それからさらに20年経っているのですが、日本という国は残念ながら必ずしも明るい希望があるとは言えない国になっていると思います。

プロダクトマネージャーが、変化していない日本を救う

私はまさにバブル期の最後のほうに社会人になった人間です。一瞬だけバブルの楽しいところ……といっても実際はバブル期に楽しかった人はごく一部で、他の人は普通にブラックな働き方をしていただけなんですけれども。

バブル崩壊後、「いつになったら景気が回復するんだろう?」と言われ、はじめは失われた10年、その次に20年、30年と言われるようになってきています。ちょうどこの30年が平成という時代。平成の終わりということで、いろんな媒体が平成を振り返るという特集を組んでいました。 

『ダイヤモンド』という経済誌の中でも、こういった特集が組まれておりまして、みなさんももしかしたらいろんなところで聞いたことがあるかもしれないですね。平成元年の世界の時価総額ランキングを見た時に、実は50位の中に日本企業が32社入っていました。だけど、平成最後の年で見てみると、トヨタ自動車1社だけが入っているという状況です。

こういう暗いニュースは聞き飽きていると思うので、とっとと終わらせます。例えばGDPの推移を見ても、日本が低迷しているというよりも、変化をしていないのです。他が変化している。「変化=進化」になるのですが、ここに対して日本はここ20年から30年、まったく変化していないという現状があります。

では希望はどこにあるのか? というところで今日はプロダクトマネージャーの話をさせていただきたいと思います。私はプロダクトマネージャーもしくはプロダクトマネジメントという考え方が、極端に言うと日本を救うことになるのではないかと思っています。

「プロダクト≒事業」の時代

そもそもプロダクトとはなにかを考えてみたいと思います。プロダクトというと、例えば日本語だと製品や商品というかたちで考えられます。実際には製品を作る人がいる。(スライドを指して)これは作る人が中心になっているので、開発とわざわざ書いていませんけど、それ以外に売る人やマーケティング、広報など、いろんな部隊がいます。

事業の核に製品プロダクトがあったとしても、それを周りが支えるという考え方が従来のものでしたが、現在は右の図のようなかたちになっていると考えられます。

例えばふだんみなさんが使うようなプロダクト、サービスを考えてみてください。デジタルのオンラインでのマーケティング的な活動。実際にそれから使いだして、その後なにかわからないことがあった時に問い合わせますよね。

例えばWEB系のサービスやスマートフォンのアプリケーションであるならば、そこが一体化していることがわかるのではないかなと思います。そもそもその製品をどこで見つけたのか? 昔はテレビCM、雑誌の広告、新聞の広告などだったと思います。

しかし今はオンラインで友人から紹介されたり、オンラインの広告を見たというところから動線が張られ、サインアップしてユーザー登録をして使い始めます。その時、果たして広告、マーケティング的なところから製品の導入に至るまで、ここに境があるでしょうか? 実際にはないと思います。

こういったかたちで、今はプロダクトがニアリーイコール、ほぼ事業と言われているものに等しくなってきている時代になっています。

現代の企業に必要な「BTC」の考え方

このようなプロダクト、もしくは事業に等しくなってきているプロダクトを考えた時に、どういったことが現代の企業では必要かを考えますと、(スライドを指して)ここにあるビジネス・テクノロジー・クリエイティブの三軸だと言われています。

これはBTC(ビジネス・テクノロジー・クリエイティブ)モデルといって、日本でTakramというデザインファームの田川(欣哉)さんが提唱しているものです。昨年は経産省でこういったデザイン経営のプロジェクトがありまして、そこにも同じく田川さんが出ています。

検索すると出てきますので、興味のある方はぜひ見ていただきたいのですが、いずれにしろこのビジネス・テクノロジー・クリエイティブの3軸が事業ビジネスにとって大事だと言われています。

この3軸のバランスをきちっと取り、ユーザー体験を良くしつつ、しっかり収益をあげる事業を作り出していくのは非常に難しいわけです。

本当にわかりやすい例でいくと、広告によりマネタイズが成り立っているようなコンテンツのサイトがあったとします。広告を載せまくったとすれば、当然間違えてクリックする。みなさんもありますよね? スマートフォンを見ていて次のページに行こうと思った瞬間に上から広告が入ってきて、クリックして変な広告を見せられると。

こういうことをやりまくれば当然収益は上がりますが、ユーザー体験は下がります。そんなサイトは、いずれ人が訪れなくなります。この絶妙なバランスを考え、設計するのは非常に難しい。

プロダクトマネージャーの役割は、3軸のバランスをとること

では、BTCの3軸を考えるうえで、プロダクトマネージャーの役割は何なのか。これを改めて復習してみたいと思います。BTCはもちろん経営トップおよび経営陣の中で考えていくべきなのですが、個々のプロダクト、もしくはプロダクトが大きい場合は、中のいち機能を考える人も同じようにこの3軸を考えなくてはいけません。

みなさんの中にもソフトウェア開発などをやられている若い社会人の方がいらっしゃるかもしれませんし、もしかしたら学生の方でもインターンで、実際のビジネスの現場でソフトウェア開発を経験された方もいらっしゃるかもしれません。その中でもやはり日々この3軸を考える必要があります。

よくあるのが、事業再編という言い方をされるものです。「ここだけでユーザーを増やしてほしい」と言われて、ある施策を立てれば一瞬だけ上がるかもしれないけど、「絶対にこれはよくない」ということが自分でわかることがあるんです。でも、今ここで日銭を稼がなければ小さいスタートアップは潰れてしまうかもしれない。そういった絶妙なバランスをうまく取って運営していかなければならないわけです。

ですからプロダクトマネージャーには、この3軸のバランスをうまく取っていく役割が求められます。企業によってはある1軸、例えばクリエイティブ専属のデザイナーがいないといった時に、プロダクトマネージャーはその穴を埋めるような役割をしないといけません。

ビジネスサイドのドメイン知識が必要だったり、ある業界での規制や市場構造、産業構造を知らなければ成り立たないような場合には、プロダクトマネージャー自身がその部分の専門家になることが求められる時もあります。

つまり、一人でこの3軸のバランスを取ることを求められるのではなく、組織の中でどの部分が足りていないかを判断し、そこの部分を深掘りしていく必要が出てきます。

さらに言うと、先ほど挙げた広告でマネタイズするビジネスモデルの例ように、ビジネスとクリエイティブでトレードオフが発生する局面はたくさんあります。その時に「プロダクト=事業」という観点で、そこのトレードオフをきちんと的確に意思決定していくことが必要になってきます。

プロダクトマネージャーが「ミニCEO」と呼ばれる理由

よく、「プロダクトマネージャーはミニCEOだ」という言い方をします。CEOは大企業では「偉い人」と思われているかもしれません。少しでも見たことがある方はご存知だと思いますが、スタートアップのCEOの仕事は本当に泥臭いんです。

(スライドを指して)例えば立ち上げたばかりのスタートアップでは、ここに書いてあるような部署や職種が全部揃っているわけではないんです。だとしたら、例えば法務的な観点の確認が必要な場合はどうするか。

それを自分で調べるか、もしかしたらリーズナブルな価格で相談に乗ってくれるような法律専門家や弁護士に相談するかは、自分で決めなければいけないんです。なぜなら他にやってくれる人がいないから。

あと同じように担当がいたとしても、間に落ちてしまうような仕事がたくさんあります。そういう時には自分が拾うか、もしくは一番近い適切な人にアサインするかを全部決めていかなければいけない。

なのでCEOは必ずしも上の立場で一方的に指示を出すのではなく、必要と思われること全部を自分で拾うか、もしくはチームの中で誰かが拾うという意思決定をしていく存在になっていきます。

「5W1H」で考える、エンジニアリングマネージャーの仕事

こういったクロスファンクショナルなプロジェクトチームが存在した場合にプロダクトマネージャーがすることを、5W1Hで考えてみます。プロダクトマネージャーがやるべきことは、プロダクト、何を作るかを決めることです。

「何(What)」の前には当然なぜ(Why)やるのか、いつ(When)どこで(Where)やらなくてはいけないのかという本質的な部分が必要です。

では、エンジニアやエンジニアリングマネージャーが何をするのかというと、チームの合意のもと決めた「何を作るか」を、どうやって(How)作るか考える。そのための実際のソフトウェアの設計や実装を行います。

エンジニアリングマネージャーはもちろんエンジニアの一種ですが、エンジニアが気持ちよく働けるように、クリエイティブで生産的な活動ができる人や組織を作っていきます。人(Who)を考えるのがエンジニアリングマネージャーの役割です。

ですが、もちろんこんなふうに完全に分担ができているわけではなく、オーバーラップする領域もあれば グレーエリアもあります。プロダクトマネージャーが実装のことを考えることもあるだろうし、エンジニアリングマネージャーが「何を作るべきか」というプロダクトのもとになるアイデアを出すことも全然かまわないです。

ですが、最終的に誰がそこに軸足を置いて意思決定していくかという役割分担は、(スライドを指して)ここにあるような図になります。

ここのスライドは後でTwitterでシェアするので、みなさん私のTwitterを見ていただければと思います。そこでどのようなタスクがあるかは、これを話すと10分以上かかってしまうのでちょっと簡単に説明します。

なぜ我々が存在しているのか? “骨太の方針”を決める必要性

そもそもプロダクトマネージャーが何を作るかを決める時には、大本に「なぜ我々がここに存在しているのか」まで考える必要があるんです。それが企業理念、ビジョン、ミッションと言われていることです。

それに基づき、大体1年くらいのロードマップを作り、ビジョンやミッションに対してどこまで成し遂げようと思っているのか、具体的にはどういった機能をやりたいかを踏まえ、いつぐらいにはこういうものを出したい、ということを決めていくわけです。

ここで申し上げたいのはプロダクトのアイデアを決め、チームで共有したとしても、そのプロダクトが開発期間内にブレてしまうことはたくさんあるということです。おもしろいことに、もし私自身が起案者だったとしても、3ヶ月、半年経った時にどういう目的でこれをやろうとしていたのか、何を入れるのかブレていくことがあります。そうして、開発期間が延びていくことがあります。

最後のほうになると、ある機能を引かなければスケジュール的に間に合わない。でも引いていい機能と引いてはいけない機能があるわけです。逆もあります。営業が大口のお客さまを捕まえてきて、「この機能を入れてくれたら1,000万円今期の売り上げがたつ」と。でも1,000万円貰っても入れてはいけない機能もあります。

「みんなのために」と思って機能をどんどん入れていった結果、誰のためにもならないというのは、みなさんも経験があるかもしれません。それがこの業界のあるあるになっているわけです。

なので、何を足していいのか、何を引いていいのかを含めた骨太の方針を決めることが大事です。PRD(プロダクト要件仕様書)やインセプションデッキ、他の形態でも全然かまいません。自分もメンバーもブレないようにする方針は、しっかり持っておく必要があると思います。

信頼貯金がどれだけあるか プロダクトマネージャーに必要なのは「人間力」

このプロダクトマネージャーは、先ほど言った組織横断的なクロスファンクショナルなチームを率いる場合には、BTCの全部を知らなければならないんです。それを本当にやろうとすると、スーパー超人のようになります。

技術に関しては、当然エンジニアは技術音痴ではダメです。事業ドメインでは、例えば不動産業界では不動産の知識がないと、不動産のプロダクトを作れないわけです。そして最近ではユーザー体験が大事になるので、そういったクリエイティブな部分が全部必要になります。

(スライドを指して)ここに「注」と書いてあるのですが、技術や事業ドメイン知識はありすぎると、下手にそれを知ってしまったがゆえにイノベーティブな発想ができなくなることがあるので、その部分は注意しなければいけないということです。

そして一番難しいのが、この3軸を持っていたとしてもプロダクトチームを率いることはなかなかできないんです。なぜならプロダクトマネージャーは、先ほども申し上げたようにいろんな組織から成るわけです。

例えばパートタイムかもしれないけど、マーケティングの人も営業の人も、法務の人も最初からいるとします。でもこの人たちにとっては上司でもなんでもないので、いわゆる上司としてのパワーを使って言うことを聞かせることはできないわけです。

ですので、この人たちに一番(必要なの)は「人間力」です。すると、人間力の本質は何かと聞かれます。「それは生まれ持った才能です」と答えたら、「それではまったく回答になっていない」と怒られました。確かに無責任だなと思って最近「人間力」について考えています。

要は、「権威に頼らずチームを率いてプロダクトを成功に導く」ということですね。人が人に従う条件はなんだろうと考えた時、(スライドを指して)ここに挙げた6項目があるのですが、下の3つは、当然暴力を振るってはいけないし、権威・権力や報酬はピープルマネジメントの力を使うわけですけど、これを前面に出したら当然失敗するわけです。

では何が必要かとなると、パッションやロジカルできちっと相手に理解してもらうこと。もう一つは、「この人なら大丈夫!」と思える信頼です。

よく「プロダクトマネージャーは信頼貯金をいくら積んでおくかだ」と言われたりします。自分の社会人人生の中で培ってきたもの、それがすべて信頼になります。

日本には物は溢れている。しかし、“体験”はどうだろうか?

従来の企業はモノを作って売ったら終わりで、ユーザーとの接点はそれで途切れてしまう。かつ売るほうにも大きな変革がない時代が長く続きました。市場調査をして「30代男性はこういう嗜好があります」と言われたら、それを作ればそこそこ売れるという時代があったんですね。

しかしこれくらい多種多様になった世の中では、なにが正解なのかわからない。となると、やはりプロダクトの価値と言われているものがなにか、ターゲットとする人はどういう方々なのか。ユーザーを知り、彼らの課題をきちんと抽出する能力が必要になります。それこそがプロダクトマネージャーに期待されている仕事なわけです。

もう一度『希望の国のエクソダス』を見ると、「この国はなんでもある、ただ希望だけがない」。日本という国を見ると、物は溢れているけど、体験はどうだろう?

とくに今はOMO(Online Merges with Offline)とかいろんな言い方がされていますが、オンラインとオフラインの境目がなくなったかたちで、リアルな体験もすごく良くなることがある。日本は「なんでもある」ということを、果たして体験に対しても言えるでしょうか。

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