2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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秋山真氏(以下、秋山):ありがとうございます。次のテーマに移ろうと思います。ちらほら企業名も出ていましたけど、学生さんから注目される企業とか、人気企業とかは、目まぐるしく変わっていくんじゃないかなと思っています。そんな中で田中さん、学生さんから聞くとどうですか?
田中研之輔氏(以下、田中):商社の魅力を感じなくなったんだというのが不思議で。5大商社ぐらいにエントリーしたら「え? そこに行っちゃうの?」みたいな反応は多くて。どこに行っているかというと、IT系でB to Cでユーザーとして使っている企業さんにまず飛び付きますよね。
でも、みんな入れるわけじゃない。だから次のところにどういうふうに、我々がいますよという存在、勝負をしていくかが、ポイントだと思っているんですよ。先ほどのイケてるイケていないでいくと、サイバーエージェントさんはむちゃくちゃ人気なんですよ。学生の信用を見事に獲得している。社員全員で採用にコミットしているのですね。
しかも、経済報酬なしでコミットする。うちのチームを良くするために、自分たちのネットワーク、知り合い、チャネルを使って採用をしていく行為そのものが、ものすごくプライオリティが高いんだよという文化を、組織の中で作り上げた。強いていうならば、感情報酬なんです。日本ではかなり稀有なカンパニーですね。そうじゃないカンパニーが多々ある中で、今見えてきている企業は届きやすい情報発信をしているところなのかな、と思いましたね。
秋山:Panasonicさんを受ける学生さんって、前に比べて受ける企業の並びとか、けっこう変わってきたりしています?
杉山秀樹氏(以下、杉山):そういう意味でいうと、変わってはいると思います。特にどうしても特定の産業とはカニバっちゃうので、やっぱりメーカー、ハード系とはいえ、いわゆるGAFAとか日系にしても、楽天さんとかサイバーさんと被る学生は出てきていると思います。
秋山:その中で注目されるためにコミュニケーションとして大事にされていることはあるんですか?
杉山:人事の観点でいうと、やりがちなのが競合を見てしまうところだと思います。マーケティングをやる上で、それって悪手だなと思っている部分があるんですよ。だからPanasonicだと、SONYは何をやっているのか、日立は何やっているのか、それを見たところでどうしようもない。それよりも、なぜ人がその会社を好きになるかというプロセスを理解するほうが、めちゃくちゃ大事なんですよね。
最近でいうと、『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(MarkeZine BOOKS)』とかいい本だなと思うんですけど、あれに近い話です。自分が改めて好きになった会社のプロセスを、きちんと理解するということのほうが、注目を集めている企業を真似することの100倍いいんじゃないでしょうか。
秋山:なるほど。
杉山:自分の中でいうと、例えばメルカリさん。今すごく伸びていますけど、メルカリさんも創業したときから、ずっとウォッチしていて。小泉(文明)さんがどういうパブリシティの戦略を取っていくのかをずっと見ていく中で、自分も好きになっていって「いい会社だな」とずっと思っていたんですよ。
それをすると何が分かるかというと、メルカリは最初ってめっちゃバリュー押しなんですよね。あとパブリシティを全部小泉さんに集中していたんですよ。なので「メルカリといえば、小泉さん」で「小泉さんと言えばバリューの話」になるんですよ。そうすると、その会社なんだって思うんですよね。今は、それがどんどんどんどん広がって、いろんな切り口で多様な人を出して、そこのプロフェッショナルを出して、またフェーズが変わっていっているんです。
そのフェーズを追いながら、自分がどう気持ちが高まっていったかというのを見るのは、すごくおすすめできる。また同じような例でいうと、heyという会社があります。フリークアウトの創業者の佐藤(裕介)さんが代表をやられているんですけど。2年か1年半ぐらい前に創業したのかな。創業時からnoteを書いているんですよ。組織形成の悩みとか、制度作りの裏側とかを、全部書いているんですよ。それを見ていると応援したくなっちゃうんですよね。
そうやって、どうやったら人の心、気持ちが動くのかを自分で体験して、それを自分の会社に置き換えるのが一番いいんじゃないかなって思っていて。
秋山:もう1個、実践的なお話をお聞きしたいのが、実際にメルカリさんとかも、ダブルウォッチしながら、人海戦術で調べ上げているところもあると思うんですけど。さっき言っていた共感を得るためとか、コンテキストをつかむとか、いつもメディアでおっしゃっているやり方は、どのように捉えてPanasonicのイズムを発信しているんですか。
杉山:コンテキストの取り方って、話していくしかないと思うんですよ。消費財のマーケッターの立場に立ってみれば、お客さんと出会わないでマーケティングなんか絶対にできないわけなんですよね。なので、いかにその人の気持ちになれるかどうかというところで、そこをしっかりとやっていくところが1つ。とはいえ消費財と違うのは、会社って多様な側面があって、職種で見ても多様だし、なかなかまとまりとして見れない。
そういう意味で、ソーシャルリスニングをかけて、実際にマスで実データとして何が届いているのか、刺さっているのかを分析をしたことがすごく良かった。あともう1個、ソーシャルリスニングに絡めて、どういう人が情報の基点になっているのかというのを調べてもらったんですよ。
秋山:やりましたね。インフルエンサーが多かったですね。
杉山:スパイスボックスさん的な言葉でいうと、トライブオピニオンリーダー(TOL)。やっぱり田中先生もおっしゃられていましたように、どの情報を取るかは、ソーシャルになっているということで、震源地が強い発信です。例えばNewsPicksさんはすごく強いですけど、そうじゃないルートで、バーンと情報が駆け回ることってたくさんある。
そういう意味で、切り口、インサイトみたいな話と、そういうインサイトを再現しているTOLを誰なのか見つけて、その人たちを追う。言葉だけじゃないです。肌感覚、カルチャーみたいなことだと説明できないので、そこをちゃんと自分が追うというのは、すごく大事だと思います。
秋山:今、杉山さんからPanasonicさんの事例をお話ししていただいたんですけど、NewsPicksさんの情報を見ていると、世の中にめちゃくちゃ名前が知られている企業さんとか、ニッチな企業さんとか、けっこう色々な企業さんがいて、その中でも、ピッカーさんからコメントをもらったり、エンゲージメントしているコンテンツでうまくいった成功例はありますか?
西村脩平氏(以下、西村):ご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思うんですけど、メトロールという会社があります。iPhoneの角をきれいになめらかになるように削るスイッチ「位置決めスイッチ」という工業用のスイッチを作られている、超ニッチショップな企業さんで会社は立川にあります。そこの社長が、NewsPicksがすごく好きだとお問い合わせをいただいて。最初、どうやってラクスルさんとか、メルカリさんとか、ランクの中で戦おうかをすごく悩みながらいったんですけども。
組織の作り方にこだわられていて。2、3年前とかに間接部門を社内で完全に撤廃したんです。経理とかもない。テクノロジーで解決できるところは全部導入して解決するだったりとか。あとティール組織なので、社長直下に新卒の営業マンとかもいるんです。「彼らは世界でいきなり活躍できるよ」と社長が言っていて、最初は「本当かな?」と思っていたんですけど。
でも実際3年目で、ASEAN事業部長をやっている営業の女性がいたり、会社のコーポレートカードで、自由にタイに行って、マレーシアに行って、その翌月から、日本のどこかに行って、みたいな、飛行機も全部自分の決済で、社長許可なしで取っていいよって。そういうのを体現されている企業さんだと思うんですね。
「位置決めスイッチでニッチトップだから働きましょう」と、普通の企業さんはそういうマーケティングになっちゃうと思うんですけど、それだとNewsPicksの読者は興味がないから、事業のことは話さないでおきましょう(と提案しました)。逆に新卒1年目から、海外に飛び回れるとか、そういう働き方のところは絶対推しポイントだと思いました。
あと狙った人材が、日系大手に入って、グローバル市場で活躍したいと言っているけれども、結局国内のオペレーション業務を縦割りでやらされちゃっている人たち。絶対うちで活躍できると思うんだという話でした。
そこをエッジの尖らせた企画に持ち込むことで、狙ったとおりの人たちに、どんどん応募が集まってきて、採用できたというのももちろんあるんですけど、翌年の受けに来る新卒の層が変わったそうです。エントリーからの通過率が、圧倒的に上がったというので、「どこかで見たか分からないけど、NewsPicksの記事を拾って見て来てくれているんですね」という話をいただいていて。
西村:1つのコンテンツの届け方を工夫することで、回りまわって、いろんなところで効いてくるみたいなものは、よく言っていただけることですね。新卒だけじゃなく中途でも、ほとんどの企業さんに言っていただけるのが、コンテンツはけっこう武器になって、うちで採用するうんぬんとかではなく、採用全体のボトムアップに効くみたいな話を言っていただいて。
それこそ、ビズリーチとかあるじゃないですか。そういうところで作ったコンテンツだったりを、載せてもらうことで、まず興味を持ってその企業に聞きに行ってみようかなという、そのカジュアルな接点が生まれる。そういうのは言っていただけるので。そこは僕らの文脈作りだったり、企画のご提案というのをやらせていただいてるというところなんです。
それは自社のほうで発信するとか、Wantedlyとか、そこでリーチできない層に届けるというところで、僕らみたいなメディアを活用いただくと言うような、そのチャネルですよね。それは手法・手段だと思うので、そもそもどういうミッションなのか、働き方なのか、何を訴求させていくと届くのか、そこはマーケ思考なのかなと僕らは思います。
秋山:一般的に学生さんに社名を知られていなくても、すごく素晴らしいことができる企業さんっていっぱいあるわけじゃないですか。そのときに、やっぱり学生さんって、どうしたらそういう企業の情報をちゃんと取りに行けるのかということ、それから、企業側はどんな届け方をしたら届くと思いますか?
田中:今学生って箱を見ていないんですよ。つまりどんな箱をしているか、何々会社さんだから行くなんて選択をする学生は、ほとんどいなくて。やっぱり中身。ですからみなさんとも共有したいのは、みなさんが人事だとして、関わる学生に名前を覚えてもらっている数って何人ですかっていう話なんですよ。
ここがポイントだと思っていて。新卒採用にとって、非対称性と言って、結局採用側は選ぶんでしょって。選ばれる学生はそういう構造がある中で何を見ているかといったら、ゲートキーパー、入り口であるみなさんを見るわけですよ。その時に箱がきたら「箱がくるんだ」みたいな。どれだけインスタで“映え”とか、“エモい”と言って、エモーショナルな部分を見せるか。今って、ロジックじゃなくてエモーショナルな世代じゃないですか。
そういうところに「いいね!」がいくというか。行動のエンゲージにつながるような世代が入ってくる中で、やっぱり、先ほどの話にもつながると思うんですけど、バイネームで覚えてもらっているというのが、強みになる。私は他のところで、新卒採用戦略なんかで、お話の機会をいただくと言っているのが、「人事の方が黒子では勝てませんよ」と。
社会人の先輩として、しっかりとバイネームで接する。杉山さんぐらい「おもて」にでる。
秋山:そういう方いますよね。
田中:ツートップなんですよ。「おもて」の人事というのは、やっぱり届きますよね。だから先ほどの話で言えば、届かせる努力というのは、すごい大事なんですけど、そんなに難しいことじゃないのかなと思っていて。なぜならば、今は口コミのマーケットが蜘蛛の巣のように張り巡らされているので、そこに落としておけば届くんですよね。でも落とすコンテンツが箱じゃダメなんですよ。落とすコンテンツは、「人」なんですね。
1人称で働くを語る。この会社でこれから何年間はこういうふうに働いていて、こんなことを将来として描いていたいか。こんな家庭を築きたいんだ、みたいな等身大の話が響くのです。
秋山:ありがとうございます。かなり時間が押してしまっているので、最後のテーマ。それこそ今日のテーマですけど、やっぱり優秀な人たちや企業側が欲しい人たちを採用するための、最初の接点作り(が重要)だと思うんです。コミュニケーションって特に。そこについて、まず西村さんから、メディア視点として聞きたいんですけど。どんなことをしていくといいとお考えですか?
西村:まずはやっぱり、自社のミッションとか、バリューとかを一方的に伝えるんじゃなくて、届けたい人目線で届けるというところが重要です。それが自分たちが発信することで気付いてもらえないんだったら、別の方法で伝えるってことに変えるとか。例えば、新卒の方のから伝えたほうが伝わりやすいんだったら、その人経由で伝えるとか。その具体的なアクションを、どうやったら本当に伝えたい人に伝わるんだっていうこと、そこをちゃんと描くっていうのは、どの企業さんもできると思うので。
そこで必要であれば、我々みたいなメディアを通して伝えると言うかたちもあると思いますし、人経由でというのもあると思います。そこを闇雲に他の企業を真似するとかじゃなく、欲しい人たちにどう届けるかということをまず描くというところは重要なのかなと。
よくマーケでもいわれる、ペルソナみたいな話で、届けたい人はどんな人なのって、その人たちは何を悩んでいるんだっけとか、何に困っているんだっけ、みたいなところまで、ちゃんとブレイクダウンして描くということからなんじゃないかなと思います。
秋山:ありがとうございます。今のミッション目線でというところもありましたけど、実際に大企業ができること、ベンチャーができることは違うと思っていて。そういった視点でいうと、採用コミュニケーションでこれからやるべきことは何ですか?
杉山:本質的なことは、今さっき田中先生が言っていただいたこと、そのまんまです。実際にやっていることも、箱じゃなくて人を見せる。そこに尽きると思っていまして。冒頭に1、2年生と、3年、4年生とでは、全然反応が違うと言っていた話を、言葉にしていただいたなと思うんですけど。
3、4年生は、箱で話しても、刺さるんですよ。もう就活モードになっているので。1、2年生は、箱で話した瞬間に、シーンとなるんですよね。だから、いかに人を出すかというところ。あとはやっぱりそれで一番早いのは、自分を出すことなんですよ。自分もそうなんですけど、出たがりで出ているわけじゃないんですよ。前職の人に話すと、「そういうの、嫌いじゃなかった?」って言われるんです。本当に。
別に自分が前に出たくて、人事をやっているわけじゃないんですね。ただスピードと、事例を示さないと、特に大きい会社って2の矢、3の矢を作れないので。まずは自分が客寄せパンダになってもいいから、まずは事例を作る。それが一番早いんじゃないかなと思っています。誰かを説得するぐらいだったら、まず自分がやっちゃうのが一番良いんじゃないかなと思います。
あともう1個あるのは、とはいえ自分はそんな大したことないしな、という人も多いと思うんですよね。でもそっちのほうが絶対にいいです。というのは、さっき言った学生さんの「何者かにならなければいけない病」は、相当重症なので。
そういう意味でも、大きな会社の普通の社員がこんな思いを持って、仕事に前向きに取り組んでいるんだということを知れること自体が、一番最強のコンテンツです。やっぱりそこをやっていく。特に大きい会社であれば、やっていくのが大事なんじゃないかなと思いますね。
秋山:冒頭におっしゃっていただいたツールだったりとか、メディアに発信していくというのは、ますます費用面というところで課題にぶつかる企業さんもいると思うんですけど。今、おっしゃられたことって、実際すぐできることだったりするんで、軸というか、本質的なことは一緒で、手法がそれぞれあるんじゃないかということですよね。ありがとうございます。最後に田中さんに、学生目線がある中でこれから企業の採用コミュニケーションはどうでしょう?
田中:ポイントを一言でいうと、“採用の透明化と、日常の見える化”です。採用というのは、これまで透明化されてこなかった。ブラックボックスの中だったけど、もう口コミサイトも口コミネットワークも、全部それを見える化する。
秋山:おっしゃるとおり。
田中:「こんないいこと言っているけど」って先ほどの書き込みで、転職した人が「いや、あんな、そんな会社ないよ」みたいに書いちゃったら、そっちを信用しちゃう。だからより良い会社をまず大前提で作っていくっていうことだと思うんですよ。その入り口である採用というのは、noteでちゃんと全部見せる、とか。先ほど杉山さんがおっしゃったように、内情を見せるのを学生が喜んで読むというのは、1つ、そこがエビデンスであるんですよね。
だから隠さず見せる。どのように働いているのかな。どんな気持ちで働いているのかな。これからどういうふうに働こうとしている船なのかなというのは、日常の見える化も併せてやったほうがいいと思っていて。
そこをストーリーテリングしていければ、来てくれるし、来てくれなくても彼ら彼女たちは、5年後、10年後に来てくれる。というところをやっていければ、「今年の採用で、うまく採れないんだよ」とかのぼやきが減るんじゃないかなと思っている。そんなこと言っている間に、やれることがけっこうあるのです。
秋山:最後にとてもきれいにまとめていただいて、ありがとうございます。今日はお時間が限られている中、豪華なゲストの方々ですごく話を聞きたいことがたくさんあって、お時間が足りませんでした。先ほども1時間ぐらい僕ら4人で話してからここに来てますから。4人で1時間45分話したことになりますね(笑)。
田中:10秒だけいいですか。僕、新作を出しまして。今日の流れを受けて、『プロティアンー 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術ー』という著作です。よろしければ、読んでみてください。
秋山:ということで、本日のパネルディスカッションは、ちょっと、まだまだ足りないところもあるんですが、これで一旦締めさせていただきたいと思います。
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