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ITトップが考えるモノづくり対談(全3記事)

プレッシャー下でも失敗を許容できるか 時代を席巻するIT企業の「経営マインド」には共通点があった

2019年9月13〜14日の2日間、渋谷ヒカリエで「BIT VALLEY 2019」が開催されました。“モノづくりは、新たな領域へ”をテーマに、クリエイティブ・ビジネスに関わるすべての人々に向けて、テクノロジー・発想方法・働き方など多様な切り口でトークセッションが行われた本イベント。このパートでは、日本を代表するIT企業のトップ3名が登壇し、『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』の著者・山口周さんによるモデレーションで「今のIT業界」「経営者としてのモノづくりの考え方」「ITの力×クリエイティビティがつくる未来」などについて語りました。失敗に対する恐怖心への打ち勝ち方や、ネット事業者の未来を担う若者へ向けて送られたメッセージをお届けします。

ネット屋は失敗しても“敗者復活戦”に参加させてもらえる向きがある

山口周氏(以下、山口):あともう1つ、先ほどの“ほにゃらら屋の人がネット事業をやる”というのと、“ネット屋の人がほにゃらら事業に出ていく”というところで思ったのが、ほにゃらら屋の人たちが新規事業をやる時って、基本的に絶対成功させるという前提。もちろんネット屋の人たちもそう思っていると思うんですけど、失敗が許容される度合いが全然違う気がするんです。

ほにゃらら屋の人たちって、基本的に新規事業の担当をやって失敗すると2度と浮上できないという世界で生きています。そこも、ものすごく足を引っ張っている気がするんです。

一方のネット屋、例えばアメリカのAmazonも、上場を数えたら、彼らのニューエンタープライズ、新しいビジネス、新規事業の数は、だいたい80ぐらいアナウンスしてます。でも今続いているのはだいたい3分の1なので、3分の2は失敗してるんですよね。

スマートフォンも一時作っていました。たくさん出してたくさん失敗して。たとえ失敗したとしても、その担当者の人たちがちゃんと敗者復活戦で生き残っていけるのを横から見ていて、これがいわゆるほにゃらら屋とネット屋の大きな違いだなと思っています。

そこって、一方で新しいものをやるとなると、リアルも絡むんだと。どんどんインベストメントもデカくなってくるじゃないですか。ここから先、そこらへんってけっこう難しさが出てくるんじゃないかと思ってるんです。お考えとかありますか?

失敗への恐怖心に打ち勝つには「組織文化をどう作るか」がカギ

守安功氏(以下、守安):さっきのAmazonさんの話を聞いて、やっぱりすごいなと思ったのが、みなさん3割バッターなんです。

山口:なるほど。

守安:3割成功というのは相当打率が高いんですが、昔は3割ぐらいいっていたのが、今は全然いかない。(現場で)やっている人には「絶対成功する」と思ってもらわないと困るんですけれども、経営的には出したものの中で3割がちゃんとうまくいけばいいな、ぐらいの感覚ではあります。

あとは、産業のさっきのほにゃらら屋というところで言うと、会社によっても違うんでしょうけれども、人事制度がほぼ終身雇用みたいなのも大きい気がしますね。

山口:基本的には大きな差が付きにくいので、逆に大バツの付いた人を降ろすというシステムになっていることが多いです。今は若干変わってきていますけどね。

川邊健太郎氏(以下、川邊):組織文化に対してのところが大きいので、ネット屋であろうがほにゃらら屋であろうが、「組織文化をどう作るか」でこの問題は解決できるんじゃないかなと。大赤字の事業をUSENから買って、GYAO!の社長に僕が就任した時に「大赤字なのでこれ以上失敗はできない」という中、社内で失敗を恐れるということがありましたね。

僕が始めたのは「今週のフルスイング賞」といって、豪快に三振をした人を表彰したんです。長嶋茂雄のフルスイング銅像、三振でフルスイングして転んでヘルメットが落ちている長嶋茂雄の銅像をあげました。

山口:いいですね。

川邊:ネット屋でも状況によっては失敗を恐れるようになるので、「変える」と。

(会場笑)

「外せない」というプレッシャー下でどこまで失敗を許容できるか

舛田淳氏(以下、舛田):当社で言うと、プロジェクトをたくさんやるんです。ネット界の中でも、ものすごい手数を打っている会社なんですよね。それってまさに、「成功するかどうか」はやってみなきゃわからないんです。経営側も正解は持っていないので、とくに新しい領域に関しては、まず出してみないとわからないんじゃないかということにあります。

そこにチャレンジをする人たちに対して、失敗もするじゃないですか。それで閉じるという判断は経営側で当然するべきだし、その責任も負うべきです。つまりちゃんとしているプロジェクトチームに対しては、罰というかペナルティみたいなものはないです。

考え方としては、チャンレンジをして失敗をするのは仕方がない。それは当たり前のプロセスで、その中で成功した人は評価する。以上です。

山口:プラスの加点をする。

舛田:加点でしかないと思うので。ただ、さっきおっしゃっていた、リアルも巻き込んでいくとなると、たしかにインベストが増えてくる。だからこそ、「インターネットが変わり始めているな」と思うのは、それこそ昨日のやつじゃないですけど、もっと大きな仲間たちを作ってやっていこう、リアルな人たちともパートナーを組んでやっていこう、みたいなことが今後どんどん増えていくんだと思うんですね。

それで言うと、みんなでインターネットというか、社会構造をよくしましょう、チャレンジしましょうみたいなかたちにはなっている。でも、みなさんも社会も世論も、失敗したことなんか覚えてないんです。

ちなみに言うと、私はものすごい失敗をしたんです。だけど、たぶんみなさんの目線から言うと“LINEの人”みたいになってると思うので、覚えてないじゃないですか。そういうもんなんです。だからいいんです。

(会場笑)

山口:それはもうたくさん試して、失敗の数も成功の数も同じだけあるけれども、失敗はもう全部水で流れちゃう。

川邊:どの事業もどの会社も、停滞する時は「外しちゃいけない」というプレッシャーが当然かかるんですけどね。経営の問題、キャッシュの問題とかがある中で打つ一手に、変に保険をかけたりするので、なかなかうまくいかないことも多いと思います。どこまで失敗を許容するか、それをプロセスの中に入れられるかどうかだな、と思います。

舛田氏「今の若者には“これまでどうだったか”を気にせずチャレンジしてほしい」

山口:お時間もそろそろなくなってきたので、(スライドが)残り数枚あるんですけども、ちょっとスキップして。本当に若い時からネットの世界で、業界の成長と一緒に会社も自分も成長させてきた方たちから、(この会場には)とくに若い方が多く集まっていると思うので、ぜひメッセージをお願いします。

ご自分が若い時、こんなことがあって、これが今の自分にとってはすごく重要な機会とか経験になったよ、とか。なんでもいいです。若い人たちにメッセージがあれば、思いついた方から順にお願いしたいと思います。

舛田:じゃあ若輩者から。当然、先ほど話したことに繋がります。みなさんが何か今後チャレンジをする時に、「今までどうだったか」とかはあまり気にしない。無視する。「どうやって一歩を踏み出すか」にピュアであってほしいから。それがまた次に繋がりますし、それが許される社会になってきていると思います。

20年前に同じアドバイスをしたかというと、していないかもしれないです。今このタイミング、ここからの時代に関しては、個人というものが強くなるでしょうし、そこに集まる仲間というのもより強くなると思います。それはいろんな目的に応じて、その都度その都度、組んでいけばいいんです。

ですので、「どこか大きなフレームの中だけで何かを過ごさなきゃいけない、判断しなきゃいけない」ということがあるからこそ、リスクだとみなさん思うんでしょうけど、そうじゃない時代に入ろうとしてます。ぜひそこは、今までのことにあまりとらわれずに勇気を持って……と言うとプレッシャーがかかると思います。ある種そこは遊びというか、実験というか、分からないですがね。

私は人生なんかいつでもやり直せると思っているんです。実際いろんなショートカットが存在しますし、いろんな山の登り方も存在します。そこはみなさんの中でも、会社でもそうかもしれません。これからの時代、一歩を踏み出すことに対して軽やかなほうが、絶対に最終的に幸せになると思います。ぜひそこら辺を意識してチャレンジしていただけたらなと思います。

山口:はい、ありがとうございます。

守安氏「学生のうちは社会・仕事のことをあまり考えすぎず、とことん遊んでおこう」

山口:じゃあ次どうしましょう? 守安さん、川邊さん。

守安:若い方向けにという話ですと、自分が学生の時を振り返っても、社会とか仕事ってわからないんですよね。あんまり考えすぎないほうがいいんじゃないでしょうか。逆に今の学生って、昼間に今日のようなイベントに参加するだけで、すごく意識が高いと思います。

今、インターンされている方もけっこういる。僕が学生の時は、“インターン”という言葉はあんまり使われていなかったんじゃないかなという時代でした。そういう意味では、僕は学生さんには「とことん遊べ」と言いたいですかね。

山口:中途半端に遊ぶな、と。

守安:とことん遊ぶからこそ、仕事を始めた時にメリハリがついてきます。今の大学生の方はどうかわからないですけど、「遊び飽きた」というぐらい遊んでもいいんじゃないかなという気がします。

あと自分を振り返って言うと、遊んだ中でも理系の研究室にいて実験とかに行かなきゃいけなかったので……イヤイヤ行っていたんですけども、やったことは後々繋がってくるんですよね。

実験して数値のシミュレーションをして、ということをやってきて。それがたぶん、インターネットのサービスを作る時にも経営する時にも、自分で仮説を立ててシミュレーションを組んで実際どうだったのかみたいな、PDCAを回していくことの基礎になっているので。

ちょっとだけ勉強を真面目にやりつつ、あとは時間があるので遊べばいいんじゃないかな、と。

山口:ありがとうございます。

川邊氏「自分が経営を辞めたら、世界最先端の“開放された個人”になりたい」

川邊:ITというよりコンピュータは軍事用途として生まれて、その後の冷戦の中で、月に人を送り込むためにいろいろ複雑な計算をしないといけないから、と。インターネットも、戦争になった時に遮断されないネットワークを作るということで出てきて。ものすごく国家的な大きな力のために、こういう技術が作られてきたんですけど、ある時からこれが変わったわけですよね。

インターネットは、研究者のためとか個人のためになり、例えばPGP暗号というのが出てきて、国家から個人の情報を見られないための強力な暗号を作ったりとか。ITというものは、ある時から“POWER TO THE PEOPLE”のほうに向かっていったんです。

LINEにしたって、DeNAにしたって、ヤフーにしたって、あるいはGAFAにしたって、みんな文脈に沿ったかたちで個人をエンパワーメントするためにサービスを作っている。横同士では個人をエンパワーメントするために、個を開放するために、ものすごくしのぎを削ってサービス開発をしています。だからこれを使わない手はないんですね。凄まじいクオリティでこういうものが作られているわけです。

ひるがえって、昨日前澤さんの涙の退任を、たぶんみなさんの中で一番近い距離で私は見ていたんだと思います。ここで泣いてました。

(会場笑)

じっと見ていて、僕はまだまだこういう大きな会社の経営者をずっとやるつもりではありますけれども、「自分がもし退任するとなったら、その後何をしたいと思うんだろうな」、と。月に行きたいかどうかはわからないですけども、何をしたいんだろうな、と昨日けっこう考えたんです。前澤さんのことを思い出して、寝る前も考えていました。

その時に、この20数年間、個人を開放するために辛い競争をしてきたので、もし自分が辞めた場合は徹底的に使う側に回ってやろうと。個人側に回って、GAFAと日本勢が激突して個人に開放してくれる力を個人として使って、世界最先端の解放された個人に。ホリエモンだってそうなりつつあると思います。そういう道だろうな、と。

(一同笑)

辞めてからは、そうやろうと思っているわけです。前澤さんを見て、ちょっと思っただけです。

強力な個人になるためには“何がしたいか”の意志・方針が重要

川邊:今日、「組織の文化を見ていい組織に属しようね」みたいなことをずっと言ってきました。本当は、ここからの人類は底だと思うので、何のリスクもない若い人は一気にホリエモン化するという手もある、と(笑)。

彼はいろんな経験を経てホリエモンになっているから、ホリエモンの価値があるわけです。だけど、みなさんはエンパワーメントされたITのツールがあって何か自分が意志を持てば、その場で世界中の人と繋がれて未来を作ることができちゃうような、ITによって一気にエンパワーメントされたコスモポリタン、つまり強力な個人になれる気がします。

そのうえでは、そういう方向で何かやったらいいかなと思うし。その時に結局重要なのは“何がしたいか”ですよ。それさえあれば、なんでもできちゃう世の中になりつつある。ぜひ何をしたいのか名乗りを上げて、われわれがしのぎを削っていろんないいサービスを作ってますから、それを活用して世界最先端の人類になってもらえばな、と僕は思います。

山口:はい、ありがとうございます。みなさんを見ていて……僕は組織のコンサルティングは10年以上やっていますが、今の世の中で活躍する人って、ただひとつ共通項を持ってるんです。それは“好きな仕事をやっている”ということです。

頑張ってやっている人とか、優秀な人がいくら努力していても、好きでやっていて楽しんでやっている人には最後に勝てないんです。

みなさん、「勝つ」ってすごく大事だと思います。「結果を出したい」と思っていると思うんです。勝ちたい、結果を出したいと思っているんだったら、絶対に好きで楽しいと思うことをやったほうがいいと思います。ここにいる人たちはまさにその例かなと、お話をうかがっていて思いました。

まだまだお話をおうかがいしたいんですけども、残念ながら時間ということになりましたので、今日はこれでお開きにさせていただきたいと思います。みなさん、どうもご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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