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スポーツ界から学ぶ、今求められるリーダーシップのあり方(全5記事)

若者は「縦の関係には弱みを見せたがらない」 リスクを未然に防ぐコミュニケーションデザインの勘所

2019年3月9日、「第6回 サーバントリーダーシップ フォーラム」が青山学院大学で開催されました。特別対談「スポーツ界から学ぶ、今求められるリーダーシップのあり方」には、日本サッカー協会理事・JASRAC理事の鈴木寛氏と、ハンドボール協会監事の東海林祐子氏が登壇。今回は鈴木氏がスポーツ界の事例をもとに、リーダーシップの理想像の変遷をさかのぼります。

青学大に根付くベンチャースピリット

真田茂人氏(以下、真田):今回、青山学院様と一緒に開催させていただいております。学生に限定しているわけじゃないのですが、今後、若い方がリーダーシップを身につけていく必要があると思うんです。

今の若者のリーダーシップっていろんな見方があると思うんですが、いずれにしても、会社の中でも若い社員の方も当然いらっしゃると思いますし、リーダーシップを身につけていくにはどういったことを気を付けていったらいいんだろうか、という観点でですね。少しお話を頂戴できますでしょうか。鈴木先生、いかがでしょうか。

鈴木寛氏(以下、鈴木):はい。今日の午後はサイバーエージェントの藤田(晋)さんがお話されますけども、青学って本当にベンチャーで成功した人が多いんですよね。学生の母数からすると実に多い。これってなんでかなと思うと、やっぱり今の東海林さんのお話にもあったように、ベンチャーって本当に先行きが見えないわけですよね(笑)。

(会場笑)

もう不確実性、不透明性の塊なわけです。その時に、ふつうの日本人というのは先が見えないと足がすくむと言いますね。なにもできなくなっちゃうんです。そういう時に、同じ船に乗ってる仲間をとっても大切にするんですね。

私がよく知っている、私のゼミも手伝ってくれていたヤフーの川邊(健太郎)社長も青学なんですね。彼も本当に仲間を大事にします。まぁベンチャーですから、良い時もあれば悪い時もある。というか、悪い時がほとんどですかね(笑)。

(会場笑)

ほとんど希望を失うことのほうが多いわけですけど、でも大丈夫だと。それから「がんばろう」という感じでもなくて、「楽しもう」というかね。そういう少し先が見えない時に、ものすごく良い雰囲気になる。

藤田さんもそうで、光明というかね。暗闇に光明を作るというのが、持って生まれた感性と、青学で小学校から培ってきたものであって。人間性って、まさにこういうことなんだろうと思うんです。

若者は「縦の関係には弱みを見せたがらない」

鈴木:若者がリーダーシップを身につけるということで、私はこの2020年からの学習指導要領の改訂に携わらせていただいてたんです。結局、そこではプロジェクトをやりまくることしかないということです。じゃあ、なぜプロジェクトをやりまくるのかというと「板挟み」と「想定外」、さらに言えば「修羅場」。この体験をどれだけ若いうちからするか、ということだと思います。

今も東海林さんからお話があったように、スポーツだけじゃなくて、音楽でも芸術でもなんでもいいんですけど、友人たちと一緒になにかを始めれば、必ず板挟みになるんですね。

勉強と部活、あるいは経営をやっておられる方はみなさんわかる。どんなプロジェクトでも、常にお金と時間と人が足らないんですよね(笑)。

(会場笑)

むしろそれが足りてるというのは、自分の力に比べてぜんぜん楽勝なプロジェクトをやっているわけで。自分の力を最大限に発揮して、自分が成長できるプロジェクトじゃないんです。人間は、板挟みと想定外と修羅場を通じて初めて成長する。

ただ、その時の支えというのがすごく重要で。まさにコーチとか、あるいは指導者というのは若い人たちに、板挟みだったり、修羅場だったり、あるいは想定外だったりというのを経験させるわけですけど。それが例えば100キロのバーベルを上げられる人に、120キロまでだったら挑戦させていいんだけど、200キロ持たせたら壊れちゃうので。

しかも若い人にとって、同じ100キロ上げられる人でも、120キロまでがんばれる子と、110キロまでの子と、150キロまでの子といるわけで。

私は1995年以来、1,000人以上のゼミ生と一緒に勉強を学んできました。それで私が一番思っているのは、まずこの子の能力が100キロなのか、80キロなのか、120キロなのかと。それとその負荷がどこまでいけるのか、ということをいつも見てます。

まさにそこで傾聴が重要で、「つらいです」とか「しんどいです」という表情だったり、あるいはいろんな態度や発言や、あるいはその子の周りの友人ですね。

だいたい指導者や親とか、縦の関係には弱みを見せたがらないので。だから、我々に対しては一番最後なんですよね。親とか指導者というのはね。だけど横の関係や斜めの関係にはポロッと吐露しますから、そこにいろいろ手を回しておいて(笑)。なにか変わったことはないか、みたいな。

これもコミュニケーションデザインですし。それから自分1人では絶対にキャッチできないシグナルというのがあるので。そういう意味での学びのコミュニティというのがすごく重要で、そこでキャッチしながら「ちょっとしんどいな」って思ったら休ませる、ってことですね。「休んでいいんだ」と。また始めればいいから。

それからもう1つは、結局、教育の場というのは安心して失敗できる場所なんですけど、会社でも20代の時というのは教育期間ですよね。しかし、最近、失敗できなくなっている。

PDCAは卒業して「デバッグ主義」へ

鈴木:それともう一つ、私が最近PBL(問題解決学習)をやる時にすごく重要だと思っているのは、やっぱり「PDCAから卒業する」ということです。何を言っているかというと、慶応SFCの井庭(崇)さんなどとも言っているのですが、これからは「デバッグ主義」と言っているんですね。

デバッグというのは、コンピュータのプログラムを作る時の言葉でありまして、プログラミングってとりあえず書いてみるんですね。で、とにかく動かしてみるんです。そうすると何行目かで止まるんですね。そこで「ああ、ここにバグがある」と。デバッグというのは、バグを取るっていうことですね。

ですから、とりあえずやってみて行けるとこまで行って、止まったらそこを修正する。そしてまた動かしてみる。そこは突破するから、今度は40行目まで行きました。また40行目で止まります。で、またデバッグします。

PBLはこれしかないんですよね。要するに、なにか始める前に、あらかじめすべてのことを予想してプランニングするのは不可能です。これは日本全体のリーダーシップが陥っているPDCAシンドロームの問題なんですけどね。これだけ不確実に世の中が変わってきて、「VUCAの時代」なんて言葉もあります。VUCAの時代にパーフェクトプランは無理です。だからそこをデバッグに変えるってことです。

だから結局、正解がない、必勝法がない中で、このデバッグがあると。そしてデバッグをやらせるってことは、必ずバグがあるってことですから、バグが出た時は絶対に怒っちゃダメですね。「予定通りバグが出ましたね」っていう(笑)。

(会場笑)

そこでコーチ・指導者の介入によって、じゃあバグってどういうふうに取るんだよとか、なんでバグになったのか考えてみよう、ということをやる。

要するに学びというのは、板挟みとか、本当に困難にぶち当たらないと真剣に学ばないわけです。調子のよいときなんて、若いやつは僕らのアドバイスなんか聞かないですよ。それでいいんです。若者ってのは、そういうものであって(笑)。

調子の良い時はどんどんやらせて、ただ失敗した時、落ち込んだ時、その時が我々の出番です。「大丈夫だ。みんな失敗してきたんだ」と。だけど、そこでちゃんと学びを活かせるかどうかが大事だから、一緒にまさに伴走しながら、そのバグを取る。バグがなぜ起こったかを見抜く力を育てていくことが、リーダーシップにつながると思います。

日常における「奉仕」の重要性

真田:非常に深い話をありがとうございました。東海林さん、ひと言いただけますか。

東海林祐子氏(以下、東海林):はい。せっかくなので、青山学院の原(晋)監督さんの著書の中から。「技術のことはあんまり強くは指導しない」と。ただ、「例えば食堂とかにあるお醤油差しの中身がなくなってそのままだったら、すごく叱る」という記事があったんですね。

私もそういうことはすごく重要だと思っていまして。要するにスポーツの場面だけではない。人に対する思いやりとか、気の遣い方とか、奉仕をするというのは、実はスポーツの場だけじゃなくて、いろんなところに転がっていて、いろんな奉仕の仕方があるということなんですね。

ですので、私は原監督のような非常にリスペクトできる監督さんが、そういうことを指導理念としてお持ちだってことは、一人の研究者としてうれしかったです。

真田:ありがとうございました。

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