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パネルディスカッション(全3記事)

HRに必要なのは、テクノロジーではなく「前処理」 手法論に陥りがちな採用活動のリアル

2018年8月30日、KOKUYO東京ショールーム5Fのスタジオにて「AIを活用して採用活動振り返り。テクノロジーと人の協働で変わる採用。」が開催されました。採用活動にAIを使う流れがあるなかで、どう活用すれば効果が出るのか。まだ明確な答えのないこの分野において、「働き方」「AI」「テクノロジー」といったキーワードに強みを持つ3社のトップがイベントに登壇。本記事では3名によるパネルディスカッションから、「本当にリテラシーのある人とは」について語り合った後半のパートを中心にお送りします。

テクノロジー以前に、人間の意思決定レベルの問題である可能性

藤野貴教氏(以下、藤野):なるほど、面白いですね。今聞いていて思ったんですが、自分の仕事の中でテクノロジーが代替できることは何かという問いを立てて、現場で考えてもらうワークショップをよくやるんですよ。

その時に面白かったのは、営業からは本社に提出する書類の作成を止めたいと。それを代替したいと出てきたんですが、本社側は現場から出てくる書類のチェックを止めたいって出てきたんです。それが、ワークショップで偶然違うテーブル同士で出てきていて。ホワイトボードに書いて、それを指差して、お互いから出てるんなら、もうやめちゃえばって。

そもそもテクノロジーに代替させるという前に、「その仕事、やめちゃえば」という問いがまずあるんだよねという話をしたわけですよ。そしたら、「やめれないですよね」って。「やめれないと思います」「なんで?」「だって、言ったら『誰がやめたんだ!』って後から言われそうだから」って。

そのオペレーションでうまくいくのかもしれないんだけど、やめちゃった時に、「やめたって……誰が?」ってなっちゃうから、やめるという意思決定ができないということが出てきたわけ。でも、これってテクノロジーの問題じゃなくて、人間の意思決定の問題じゃないですか。

こういうのが一つ、現場においての課題としてあるなと思うんです。じゃあ、それって話し合いで解決するんですかというところになるじゃないですか。「こういうデータが出てくるんだから、こういうのは非効率だし、やめた方がいいよね」とデータ側が出したとするじゃないですか。

そうすると、データリテラシーのある人はいいんですが、データリテラシーがない人だと感情論になったりするんですよね。

データに強い人ほど「人間らしさ」を大事にしている

藤野:最近わかったんですけど、その原因が何かという時に、「私は人のことが大事だ」「俺は愛がある人間だ」という自己証明の反面、「データって世知辛い」とか「データというのは人間らしくない」となる。それを導入することは、自分が大事にしている人間らしさを否定することだっていう感情がはびこっていることに気付いたわけですよ。

逆に考えると、データを超活用しているIT企業とかって、超効率化して、それで生まれた時間の中で、「俺たちは仕事で何やってるんだっけ」とか「君は何が大事なんだっけ」という、アナログの仕事をめちゃくちゃしているという現状を見ると、データに強い人ほど人間らしさを大事にする方にシフトしているんです。人間が大事だって言ってる人は、データに歩み寄らない問題というのがあると思っていて。

僕がITがどう進化するかというのと別に、人間らしさが失われるというこの思い込みをどう解きほぐしてあげるかが大事だと思うんですよ。これは昨日、コンビニで立ち読みしていたエッチな本に書いていた話なので、全部嘘だと思います。忘れていただいて結構なんですが(笑)。

石山洸氏(以下、石山):でも、あると思うんですね。そういう人たちにどう理解してもらって、どう説得するかという話は。仕事していてもリクエストされることがあります。ある大手のSIerさんから「カンファレンスで話してください」と言われたんですね。どうしてもAIが嫌いで導入したくない人がいますと。

例えば製造業とかだと、「5Sが重要なんだ。AIとかどうでもいい」という意思決定をする人もいたりする。「何とかしてくれ」という話だったので、もうしょうがないからカンファレンス終わりの飲み会で、いっぱいワインを飲ませるんですよね。飲みに行って、「自分は妻をTwitterでゲットしたんですけど」って話をするんですね。テクノロジーってそんなこともできるのかという話になりましてね。そうすると、話を聞いてくれるみたいな感じになります。

テクノロジー活用以前の「前処理」が重要

石山:例えば、我々は介護の世界にAIを導入したりしています。介護の世界に来た人たちは、まさに思いやりとかホスピタリティとかを大事にしていて、AIに抵抗感がある人がすごくたくさんいらっしゃるわけですね。そういった中で、どうやって浸透させていくかということなんです。

この間、フランスでケアのカンファレンスがあったんですね。世界中から介護業界の特別な人が集まるというカンファレンスで、そこでAIのプレゼンをしなきゃいけなくなった。3日あるんですが、1日目は飲み会で「PPAP」を踊りまくるわけです。そうすると「日本から来た変な奴がいるぞ」とか「めちゃくちゃ面白いやつがいる」という話になるわけです。

「I have Japan. I have France」とか言って盛り上げます。2日目は真面目に介護のワークショップをやるわけですね。そうすると「やっぱ日本人ってケアのクオリティ高いな」という話になるわけですね。

3回目で初めてAIの話をするんですが、その時にはもう超人気者なので、「イエーイ、やるぞ、イエーイ!」みたいな感じになります。ということで、これがいわゆる本当の意味での前処理ってやつなんですよね。

藤野:なるほどね。

石山:テクノロジーとかデータを使うには、前処理が非常に重要です。ということなんじゃないかなと思います。

IT用語を使わずにITの話ができる人こそ、本当のリテラシーがある人

藤野:こういうことだったら僕でもできるんじゃないかなと思ったことで言うと、「遊びもある」ということがやっぱりあって。それこそ、AIの「りんな」としゃべってくださいということをやっていると、「何か面白いね」となる。これは2年ぐらい前の話ですけど、「りんなにこんなことを聞いたらこんなこと返ってきた」みたいなことを僕に送りつけてくるんですよ、メッセージで。

ただ、遊んでると「何か面白い」というワクワクが出てくる。仕事で導入する前に、遊びで導入してももらうということが必要だなって思うんですよ。遊びってなんですかっていうときに、例えば会議の調整するにあたって「役員が自分のスケジュールを開放してくれないからできない」みたいな話をする時に、会議調整botを使って、自動でやり取りしてたら自分の日程を出さなくても調整が終わる。

こういったことを体験してみた時に、「これ、便利だなぁ」「ですよね」ってそういう前処理があって、これを社内と同じようにやっていきたいんだみたいなことって、段階的にある気がするんです。

それって、いかに歩み寄っていくかという人間らしいコミュニケーションが求められると思っていて。本当の意味でITリテラシーがある人って、ITの専門用語を使わずにITの話をする人だと思うから。データの人もそうなるといいんじゃないかなと思います。杉浦さんはどうですか?

「覚悟があるか」で採用を決める

杉浦二郎氏(以下、杉浦):この話はお二人が十分にしていただいたと思うんですけれども、僕は逆のお話をしたいなと思っていて。僕がコンサルティングに入らせていただいた会社で、職人さんが非常に多い会社があったんですね。大卒の人がほとんどいなくて、むしろ中卒の人もけっこう多いというか。僕らもセオリー通り、分析をしていきながらデータを作っていったんですけど、途中でやめたんですね。

なぜかと言うと、経営陣の方たちの温度感がそこまで上がらない状況の中で、いかに「データが素晴らしいか」という話をしたところで、ガチガチのエモーショナルな状態なわけです。とにかくみんな来てくれたら、みんな頑張るみたいな。抱きしめて、とにかく育てるみたいな人たちの集まりの中で、「データが」っていう話をしてもしょうがないと思って。全部やめて、その部分を一旦置いたんですね。

その代わり、めちゃくちゃ心情に訴えるような採用をしようということで作ったのが「即採用」という仕組みで。これは何かというと、連絡先と入社希望日の二つを入れたら内定出しますという仕組みです。その代わり辞退できないんですけど。

これは何かというと、覚悟を取っているんですね。なんで覚悟が出てきたかというと、その会社にはいわゆる職人みたいな人がたくさんいるので、非常に面倒見がいいわけですよ。とにかくもう「大卒とか超エリートですよね」みたいな人たちがいっぱいいるわけです。「そんな人たちがうちに入ってくるんですか」みたいな人がいっぱいいるわけです。「僕ら超頑張ります」みたいな人ですよね。

そしたらもう、能力だとかなんだとか関係ないわけですよ。ただ、話を聞いて「1個だけ条件ありますか?」と聞いたら、「いや、やっぱり仲間になりたいと思わない奴はちょっと厳しいよね」みたいな。

「だったら、覚悟を持った人が入ってくれたらオールオッケーですよね」「そうだね」「じゃあ覚悟だけで選考で作ります」ということでこれを作ったんです。その代わり、名前も知らない、男女もわからない、何もわからない。連絡先といつ入ってくるかしかわからない。そんな人を採用するのって、みなさんにも覚悟が必要ですけどいいですかと。

手法論に囚われず「どうしないといけのか」から考える

杉浦:「相手に求める以上、自分たちも必要ですけどいいですか」「そうだね、それはもう、俺らも覚悟を持ってやろう」ということで作って導入して、実は結構うまくいっていて。面白いかたちを取れているんです。そもそもそんなところに普通は応募しないじゃないですか。それでも応募してくるやつはやっぱりちょっと変わったやつですけど、めちゃくちゃ調べてよく理解してから応募してくるんで、結果としてはすぐ馴染めるんですね。

何が言いたいかというと、結局さっきのと一緒で、僕らは「何を使うのか」以前に「どうしなきゃいけないのか」を考えないといけない。何か使うことを前提にすると、それをどうインストールするかに考えが行きがちなんだけれども。一旦自分たちの事業フェーズがどうなのかということを考えた上で、もう一度やっぱり考えてほしいなと思いますね。

藤野:今の話を聞いていると、手法論のところだけ記憶に残っちゃうじゃないですか。つまり、辞退できないけど即採用みたいな。この手法論がやっぱり脳に残るから、それに飛びつくじゃないですか。それに二郎さんがそう話しちゃうから、「ぜひうちでもそういうのを」って、二郎さんに来ちゃうわけじゃない?

杉浦:多いですね。

藤野:だから、二郎さんも手法のことは言わずに(笑)。最後にお二方に聞きたいなと思うことがあって。HRから離れてもいいので、今自分自身が熱中していること、没頭していること、何か今後仕掛けていきたいワクワクすることってなんですか?

仕事が楽しい時って、成果とか目的とかもあるんですよね。でも、目的達成できるか、成果達成できるか以外にも、「単純に楽しいからやってます」みたいなこともあると思うわけですよ。仕事に関して全然この前フリしてなかったので、二人とも考えてなかったと思いますけど。何かありますか?

子どもたちが楽しそうに働きたいと思える世界

石山:いくつかあります。ニュースとかを見ていて「これぐらいは科学的なイノベーションで解けるんじゃないかな」って思うことが多いんですよ。

例えば最近思ったのは、認知症になったことで運用できなくなった資産が、2030年までに日本全体で200兆円くらいになるらしいんですね。一方で、2025年にかかると言われている介護費が15〜20兆円と言われています。「これ、うまくやったら解決しちゃうじゃん」みたいに気付いちゃったという話で。

でも、介護をやっていて、フィンテックもやっている会社ってないんですよね。なんか「これは俺の出番だ」みたいに、ニュースを見て思っちゃうわけですよね。それが最近ヒットの1個ですね。

藤野:石山さんは日本を代表する変態であり天才である。いつもいつもそう紹介するんですけど、これでみなさんもよくわかったと思います。どうすればそこに行けるのかっていうのは半分はわからなかったですけど、楽しそうってことはわかったので、一緒に作りたいなと思いました。二郎さんはどうでしょう? ハマってること。

杉浦:石山さんみたいな人を増やしたいですよね。

藤野:おおー、いいねー。

杉浦:頭の中とかっていう話ではなく、楽しそうに仕事をする人たちをもっと増やしたいという、人事っぽい話で申し訳ないですけど。やっぱり僕はそれがあって。みなさんももしかしたらご家庭があるかもしれないですけど、子どもたちが楽しそうに働きたいと思える世界ってやっぱり作るべきだと思っています。

企業に属することが当たり前の世の中で、幸せを感じながら生きるには

杉浦:ちょっと真面目な話になっちゃうんですけど、僕ももういい年で、けっこう子どもが大きくて。高校生とか中学生で、そろそろ一人暮らしとかするんだろうなあと思いながら、彼ら彼女らを見てるんですけど。そうなっていった時に、僕は実は子どもたちに厳しく言ったことがなくて。子どもたちを今の社会にはめるっていうことはしたくなかったんですよね。

こうあるべきだとか、しつけ的なところよりも、この子たちがこの子たちの良さを活かしながら活躍できる世界を作るために、社会側をやっぱり変えないとダメだよなっていうのは常々思っていて。

だからこそ、型にはめるとか枠にはめるとか整えるとか日本人は大好きなんですけど、それによって個性がなくなるし、楽しさもなくなる。「ちょうどいい」とか「しっくりくる」ぐらいまで行けばいいんですけど、何かある種のあきらめみたいなところがありますよね。

「みんながこうだから自分もこれでいいよね」みたいなものが生まれちゃったり、なんか楽しくないなという気がしていて、生きにくいなと思ってるんですね。なので、やっぱりなんとかそういう楽しくて、生きやすくて、やっぱり未来を感じる世界を僕らはやっぱり作っていきたい。そしてそれは、海外のHRの領域に一つある。

なぜかというと、社会人の8割ぐらいの人たちは企業に属するわけですよね。どこかの会社に属して社会的な活躍をしていくわけですが、その時に個と組織の採用ってとても大事になってくると思う。組織の中で楽しさを感じるというのは、いわゆる「今楽しいか」にかなり直結してくる話なので。

企業人事の人たちというのは、やっぱりそこに対して向き合っていかなきゃいけないと考えると、やっぱり「すべての人たちがどうやったら楽しく毎日を送れるか」ということに対してやっていきたいなというのがあります。けっこう真面目に考えていて、モザイクワークという会社を作ったのもベースとしてはそこにあります。

藤野:ありがとうございます。

(会場拍手)

楽しいからやっていることに意味をつけることの危険性

藤野:その話を聞いて、自分の子どもの話はやめておくことにしました。いい話になりすぎるんで。僕は去年働きすぎまして、本を出したんですね。ありがたいことにいろんなメディアにたくさん呼ばれて、講演が増えて。でも、働きすぎた結果、「もう働きたくない」「もうイヤだ」と心のエネルギー切れを起こしまして。2017年の12月ぐらいから今年の3月の春分ぐらいまで、久々に「働きたくないな」みたいになったんですね。

社会のために、大義のために、テクノロジーに強い人を育てて、リーダーを育てるんだみたいな目的に向かって、自分を奮い立たせてやっていたんだけど、僕の場合はそれだけだとエネルギーが途中で切れてしまった。

なんでかというと、それは嘘だから。本当の目的じゃないって、知っていたと思うんですよね。単純に楽しいからやっているのに、そこに意味をつけちゃったから。どんどん自分の心が持ってることと頭の持っていることがずれてきちゃって、それで気持ち悪くなってきちゃったっていうのがわかったわけです。

僕の地元の仲間が、「藤野さんさ、1回ちょっと落ち着いてゆっくりした方がいい」って言ってくれて。ヴィパッサナー瞑想というのに行ってきたんです。

京都に10日間こもって、全く書かない、しゃべらない、読まないという。10日間瞑想するという修行をしてきたんですけど、その時に自分の中に沸き起こってきたのは、何もやりたくない俺だったのに、沸き起こってくるのは煩悩といわれるものしかないんですよ。

ゴルフでスカーンとスイングしてるとか、乗れないサーフィンにうまく乗れてる妄想とか。あと、海の家でモヒート作ってビキニの女の子に出したいみたいな。そういうのをやりたいなと思えて、戻ってきてちょっと海の家をオープンすることになったので出してみたんですね。ちょっと今、それがいいですね。

人を“リソース”と捉えるのはもう古い

藤野:あと、瞑想状態になってるとモテるのかという実験をしていて(笑)。僕はこうやってペラペラしゃべるじゃないですか。けっこうトークで口説いているところがあった。それはキャラかもしれないけど。このトークを手放した時に、佇まいで人にモテるのか気になったんです。得意なものを手放してみて、モテるのかということに熱中しています。

あまり多くを語らないけど、超いい感じの雰囲気が出てる人っているじゃないですか。「それ、いいな」と思いますもん。そうなりたいと思ってても、すぐしゃべっちゃうから。だから、しゃべらずにどう生きるかというのに熱中しています。

(会場笑)

最近紹介されるときに「HRの人」って言われるんだけど、HRの人はもう卒業します。今日は「HR TECH」っていうイベントなんだけど(笑)。HRというよりも「ヒューマンリソース」っていう言い方がね。とくにリソースって言い方が、これからの時代にはなんか違うと思うんですよね。人は資源じゃないですから。

というわけで、どうしようもない感じでしたけど、楽しんでいただけたでしょうか? まとめますけど、たぶん伝えたかったのは、「仕事のことも人のことも、ぐちゃぐちゃになって話している時が楽しいんじゃないかな」と思うんです。

人事とかHRテックとか、枠で考えずにもう少しボヤッとしたものの中で捉えていった方が見えるんじゃないかなということを、昨日道で寝ていたおじさんに言われたので今日の話はこれで終わりたいと思います。みなさんありがとうございました。

(会場拍手)

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