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ゲームチェンジの時代だからこそ求められる不動心(全4記事)

「自分の成功体験がすべて呪縛になる」 変化の時代、経営者の“不動心”はどうあるべきか?

日本や世界の政治・経済・文化・技術・環境などを学び、リーダーシップを発揮するための知恵やネットワーク基盤を提供する「G1経営者会議2018」が開催されました。そのなかで行われた分科会「ゲームチェンジの時代だからこそ求められる不動心~経営者の信念と軸~」に、JOLED・石橋義氏、フライシュマン・ヒラード・ジャパン・田中愼一氏、金峯山寺 長臈・田中利典氏、グロービス マネジング・ディレクターおよび知命社中 代表・鎌田英治氏が登場。さまざまな領域でゲーム・チェンジが起きている昨今だからこそ、経営者に求められる「信念」や「軸」の理想像をディスカッションしました。

「軸」「不動心」を言語化できるか?

鎌田英治氏(以下、鎌田):ようこそ。これだけたくさんお越しいただきまして、ありがとうございます。お越しいただいているみなさんは、「心の平和を求めていらっしゃる方」かなと思います(笑)。

(会場笑)

いいお話につながればと思っています。最初に問題意識についてちょっとお話ししたいと思いますが、今朝からのセッションで、「ビジネスのゲームチェンジ」という……非常に激動の話が中心でした。

その中で、「ビジネスはどうあるべきか」という論理性や合理性の話、それから「変化に対して人々がどう動くか」の心理や条理。この「合理」「条理」が1つの対極軸としてあった気がするんですね。

1日を通して、みなさんも頭の中が随分と疲れてきたと思いますが、これが最後のセッションです。まさに心の平穏、自分の在り方、自分のビーイングに対して、合理でも条理でもない、理屈ではなかなか解明しにくいところを互いに感じ取っていくことができれば、と心がけて運営したいと思っています。

先んじて、「軸」「不動心」という言葉が最近よく言われます。みなさん自身、それをどう捉えられますか? 「信念」などは、捉え方がそれぞれな言葉じゃないかなという気もします。抽象度がすごく高くなりますし、「わかるような、わからないような……」というところもあると思います。

一方で、今日1日セッションをやってきまして、この変化の時代に大事なことは、「明確な言語化」。明瞭な言葉で、自分の考え方や思いを表現することが、けっこう重要じゃないかなと思うんですね。

それはなにかというと、自分自身を鼓舞するとき、仲間たち・部下・社員たちにその気になってもらうためには、結局言葉を通じてしか伝えることはできません。

語っても伝わらなければ意味をなさないとするならば、明確な言語化が必要です。このあたりにも少しこだわりながら、みなさんと対話を深めていきたいと思っています。

お揃いいただいている方は、お手元の資料のとおりです。実は石橋さんには「知命社中」という役員向けのプログラムに、2期生としてご参加いただきました。今はJOLEDのトップとしておやりになっていらっしゃる方です。

そして田中愼一さん……今日は田中さんがお二人いらっしゃるので、「愼さん」「利典さん」と呼ばせていただきます。愼さんは、同様に知命社中の講師としてもおでましいただきました。トップとして事業もおやりになっていますが、今はコミュニケーションのプロフェッショナルとして、いろんなことのコンサルテーションをやっています。

利典さんもご案内のとおり、修験道の本家本元の、奈良の金峯山寺の長臈でいらっしゃいます。吉野大峯地域を世界遺産に登録された奈良の金峯山寺、そこでリーダーシップを発揮された方です。利典さんのところにも知命社中がお邪魔して、修験道や日本の宗教文化について、いろんなことをご指導いただいています。そんなご縁で今日の場になっております。

実務の方と信仰の世界。まさに現場の話から心の世界へと、思考の上げ下げがかなり往復運動します(笑)。みなさんもそのあたりを意識しながら聞き入っていただければと思います。

変化の時代における「不動心」

鎌田:さっそくですが、まず今日のテーマの「変化の時代における不動心の獲得、信念」という話をします。お三方には、まず自分のエピソードや、その言葉を聞いてどんなことをお感じになるかという具体的な話をお願いします。信念や軸とはなにかというwhatの話……whatやwhyの話です。

なぜそれが必要なのか。このあたりを最初に議論しまして、後半には自分の信念や不動心をどう育むのかという、howの話をお願いします。前段でwhat、whyの話、後段にはhowの話。この2本立てで話を進めていこうと思います。

最初に石橋さん。信念や軸など、ちょっと抽象的な話をしますが、これを聞いてどんなことをお感じになりますか?

石橋義氏(以下、石橋):今ご紹介いただいたように、私はグロービスさんの知命社中で、7ヶ月にも及ぶ勉強の場に参加させていただきました。それに出る前と後ではだいぶ考えも変わって、今は「後」の自分しかいないんです。

人として信じるところ、その人の本質。なにかを判断するとき、あるいは人と接するとき。すべての本質というか、その自分の中心を、グロービスさんの知命社中で散々揺さぶられて、考えさせられました。

最近社長になったことも含めて、今ではそれがなくてはならないものになっています。これは、わたしにとっては非常に大きなものですね。

鎌田:本当に、社長就任おめでとうございます(笑)。

石橋:いえいえ(笑)。

鎌田:JOLEDさんは、世界に冠たるELを有機でやっていこうとしています。トップオブトップとして、いろんな意思決定において最後の砦として全責任を負うので、これまで役員でいた時代とはぜんぜん違うという話がありました。

本当にトップになったときに、軸の必要性をどんな場面でどう感じたかのか。その具体的なイメージは、なにかありますか。

石橋:これは、前に鎌田さんと少しお話しさせていただいたときに、改めて自分で言葉にしてそう思ったんですけど……社長には上司がいないんですよね。会長はいますけど(笑)。最終的に決めるのは自分です。

どの会議においても、自分が出れば最終的に決めるのは自分。みんなに決めてもらうにしても、判断して決めるのは自分です。その後、誰かに頼って決めてもらうことがないんです。

そのときに、自分が信じる軸が必要になります。それに従って決めるという……毎回そんなに綺麗にはいきませんが、振り返ると、最後の最後はそこに行き着くものだと思っています。

鎌田:意思決定のよりどころ、責任の保証人みたいな感じですね。「保証人」と言うと変ですけれど、自分で裏書きするしかない。

「ブレる人」のデメリット

石橋:逆に言うと「ブレる人」がいますよね。「なんだかうちの上司、ブレるなぁ」「いつも言っていることが違う」ということがあると思うんです。それでは結局信頼を失うと言いますか、人がついてこないですよね。だからそういう(ブレない)自分でないとやれない、というところもあると思います。

常に軸を自分の頭の中において、「じゃあ俺はこれを信じるから、こういうふうに決めよう」。ちょっと抽象的な言い方ですが、そう考えていますね。

鎌田:そうすると、「トップはどんな仕事をしますか」となった場合、いろんな仕事がありますが、最大の仕事は「意識決定と決断」なんですね。一方で決断……個別のジャッジメントは、モノによって判断軸が違いますよね。でも(軸は)その根っこにつながる、普遍的な拠って立つもの、みたいな感じでしょうか。

石橋:そうですね。それにみなさんが気づくか気づかないか。ちょっと後で言おうと思っていたのですが、結局誰でも(軸を)お持ちだと思うんです。それを改めて自分で認識するかどうかだと思っています。

鎌田:言葉として、「軸」「信念」という言葉を使わないとすると、石橋さんは今おっしゃったものに、どう名付けますか?

石橋:「自分の本質」ですね。

鎌田:「自分の本質」。自己の本質。なるほど。じゃあ自己の本質とはなにか。また違う方面から、もうちょっと手触り感を(笑)。

石橋:(笑)。

鎌田:わかったような、わからないような……(笑)。

石橋:「自分の信念」と言うと、なんだか(思考が)ぐるぐる回っちゃいますよね。それは「自分が信じるもの」だと思います。私の場合は、具体的に言うと「信頼」です。「信頼・信用」、それがあってすべてが成り立つと思っているので、常にそこに戻る。

鎌田:なるほど。若干howの話にもなりますが、知命社中で先ほどおっしゃっていただいたように「何度も考えてください」「いろんな人の言説に触れて刺激のシャワーを浴びてください」みたいな話は、いわゆるシェイクヘッドですよね。頭を振ること。

「見えるもの」の背後に何を見るか

鎌田:例えば、まさに利典さんとの出会いも含めて、「歴史の中に自分を発見した」みたいなことを言っておられたような……。

石橋:もうその話にいきますか?(笑)。

鎌田:じゃあ軽く!

石橋:(笑)。私は奈良の吉野に行って利典先生に会ったときに、私が今まで知らなかった世界と利典先生のお言葉から学んだことが非常に多くて。ものの見方みたいなことを教えていただいたんです。コップにワインが半分注がれていて、利典先生は覚えていらっしゃるかどうかわかりませんが……。

田中利典氏(以下、田中利):宿坊でね。

石橋:はい、宿坊で。半分くらいワインが注がれているのを見て、「今日はいっぱいもらったな」と思うのか「これしかもらえなかった」と思うのか。1つのものを見るにもいろんな見方があることを教えていただきました。それは私にとって、非常に大きな機会だったんです。

鎌田:わかりました。石橋さんは社長になられたという環境変化の中でよりどころを探り、結局は自分の本質だということを(発見し)、それを自分の軸として捉えておられる感じですね。

今度は愼さん、いきましょうか。同じ問いですが、いかがでしょうか。

田中愼一氏(以下、田中愼):たぶん、「不動心や軸とは何ですか?」と聞かれたときに、今思いつくのは……基本的には「心の働き」ですね。私は21年前に今の仕事を立ち上げてから、ずっと経営という立場でやってきました。

一方でコンサルタントとして、いろいろなお客さんの悩みを見てきました。そういう中で、先ほどの「心の平和」、そういうものが重要だと思っています。

やはりこの「ゲームチェンジの時代」は、心がかき乱される時代なんですね。そういう中で、心をどうやって安定させ、心の働きを手に入れていくか。それが僕にとっては不動心なんです。

具体的に言いますと、今非常に悩んでいることがありまして(笑)。これはクライアントも私自身も悩んでいます。不動心、あるいは心の働きで僕が苦労しているのは、3つのことがあるんです。

1つは、ゲームチェンジの世界は心をかき乱す。どういうことかというと、想定外が起こる時代なんですね。僕は「有事365日」という言葉で表現していて、もう24時間365日、ピンチしかない時代なんです。

従来の「チャンスをチャンスに変える」という考え方はもはや通用しなくて、「いかにピンチをチャンスに変えるか」がすごく重要です。これを歴然と実体験できるのが、クライシスコミュニケーションです。クライシスが起きたときに、例えば2時間以内にどうやって外に発信するのか。社内に対してどう対応するのか。

トップと接してそれをやると、基本的に成功するケースは、経営者がピンチをチャンスとして発想できる場合なんです。それは先ほどの「ものの見方」に関係していて、実は人間は見えるもの・聞こえるものだけで判断すると過ちが起こる。その背後にある風景をどうイメージできるかが、勝負を決めるんですね。

先ほどのワインの話で、「たくさんいただいたのか」「少なくいただいたのか」というのは、まさにその背後にある風景をイメージできるかどうかなんですよ。クライシスのときは、そのイメージが勝負を決めてしまうんです。

見えるものの背後にどういうものを見るか。聞こえないものをどう聞くか。これが勝負を決めるんですね。これは頭で理解してもダメなんです。もう、体得する以外はできないんです。

だから「ピンチをチャンスに発想する」というのは、単に頭で理解するものではなく、心にズシッと、不動心みたいにしっかりと作り込まないと対応できない。

ライフシフト時代のリーダーシップ

田中愼:私自身もいろいろ経営をやっていますが、はっきり言って有事365日ですよ。修羅場です(笑)。もうピンチしか来ないんですよ。それをチャンスだと発想できるかどうかの心の働きが、不動心としてありますね。

それからもう1つ、このゲームチェンジの世界は、一方で「ライフシフト」と言われているように、実はリーダーがより長くリーダーシップを張らないといけない時代なんです。かつての60、65歳ぐらいで「これでもういいや」という時代から、正直に言うと100歳までリーダーシップを発揮する時代になってくるわけです。

そうするとなにが困ってくるのか。これは今私が非常に困っているんですけど……。まず健康が重要です。でももっと重要なのが、精神的なパワーをどこから作り出すか。ここがだんだん厳しくなってくる。私も還暦を過ぎましたが、非常に難しいです。

やっぱり肉体の衰え・体力の衰えと共に、精神的な部分のパワーを創出する力も減退していくわけです。そうすると、そこを何でリカバーするのか。どういう心の働き方で、より持続性のある精神的パワーをちゃんと作り出すか。

心の働きを手に入れられるのかどうかに対しては、けっこう苦労しています。これが2つ目の、ある意味心の働き方、不動心ですよね。

最後の3つ目は、なんと言えばいいんですかね……いわゆる「自分と戦える不動心」を持てるかどうか。これは還暦を過ぎてからわかったことですが、21年くらい経営のトップでずっとやっていると、自分の成功体験が全部呪縛になるんです。自己否定ができなくなるんですよ。

「今までやってきた自分のやり方は、このゲームチェンジの中で本当に良いのか?」。自分を絶えず自己否定する強さ……パワーというか、その心の働き方をどうすれば手に入れられるのか。これが今一番苦しんでいるところです。

これからは不動心が得られにくい時代、軸がブレやすい時代です。心がかき乱される時代でも、そういう1つの……「不動心」「軸」「心の働き」。そこをどう作り込んでいけるのかが、今一番大きなチャレンジです。

先ほど言ったように、まず「ピンチをチャンスに発想できるような心の働き方とはどうなのか」。それから「自分の歳と共に精神的なエネルギー、パワーをどうやって維持するのか。持続するときの心の働き方とは」。

最後は、今言ったように自己否定。「自分と戦う心の働き方をどう手に入れればいいのか」。この3つが、今一番悩んでいるところですね。

「意識をしていること」が最大の敵

鎌田:ご自身の悩みを吐露いただきつつ、聞き手のみなさんも、しみじみと「そうだなぁ」とお感じになると思います。心の働きに関する3つのシチュエーションをお話しいただいて、非常にわかりやすかったのですが、「セルフコントロール」というニュアンスとはまた違うんですか?

田中愼:「セルフコントロール」という言葉とは違います。コントロールは、そこに意思が入ります。人間は基本的に、とくに現代人は左脳に侵されているんです(笑)。なので、右脳で考えたとき、意思を意識した瞬間に……体験上ですよ? 動きが鈍くなります。

だからいわゆる「物事と一体になる」というか。そこに意思の働きが少しでもあると、やっぱり邪魔をするんです。

鎌田:でも、先ほどの「精神的なエネルギーの維持」「ピンチのときに良い方向から認識しよう」「自分の自己否定をしよう」ということは、かなりインテンショナルにいかないとできないのかな、という気がするんですよ。

田中愼:たぶんインテンショナルにしないと積み上がらないと思いますが、現場に直面したときは、インテンションが少しでも入った瞬間に動かなくなります。これはクライシスもそうです。実際に自分自身のパワーを持続させるために、どういう心の持ち方をするかもそうですし、最後の自己否定もそうですね。

もちろん意識をして積み上げていかないといけないのはわかるんです。でも、究極にはその「意識をしていること」が最大の敵になってくる。

鎌田:なるほど。かなり深いですが、いずれにしても「心の働き」を「不動心」に置き換えていただきました。愼さんなりに日々おやりになっているプラクティスもあると思うので、これは後段のhowで深めていきたいと思います。

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