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“Soup Stock Tokyoを創るヒト”トークセッション(全2記事)

現場の“体温”を上げるために人材開発部ができること Soup Stock Tokyo 全店舗で行った「68のご挨拶」プロジェクト

2018年8月28日、株式会社スマイルズにて「クリエイティブの密談 vol.6 ~"Soup Stock Tokyoらしさ"を創るデザイン~」が開催されました。「Soup Stock Tokyo」「giraffe」「PASS THE BATON」「100本のスプーン」といった幅広い業態を運営する株式会社スマイルズで、クリエイティブおよびブランディングを担うクリエイティブ本部。そこではどんな人たちが働いているのか、またどうやって仕事を進めているか。それを解剖して見えてきた、クリエイティブのあるべき姿を参加者の方とともに探るのがこのイベント「クリエイティブの密談」です。第6回目の開催となる今回登場したのは、同社のデザインチーム。本記事では、“Soup Stock Tokyoを創るヒト”をテーマに行われたトークセッション前半の模様をお送りします。

人材開発部誕生に関する密談

中神美佳氏(以下、中神):これまで4つの「Soup Stock Tokyoらしさ」についてお話をしていただいたんですけれども、5つ目の「らしさ」今まさに取り組んでいる「ヒトづくり」の話を聞きたいなと思っていまして、ここからは(1人加わって)3人のトークセッション形式でやりたいと思います。

Soup Stock Tokyoは「世の中の体温をあげる会社」なんですけれども、全員で「世の中の体温をあげる」という独自の「ヒトづくり」や「働き方」の話を聞いていきたいと思います。

スープストックトーキョー取締役の江澤から、まず自己紹介をお願いします。

江澤身和氏(以下、江澤):初めまして。株式会社スープストックトーキョーの江澤と申します。

ここまで上村さんからデザインやクリエイティブのお話をさせていただきました。ここからはSoup Stock Tokyoの、そういったものを作るときの人の巻き込み方や、どのようににそれを今ある店舗全体でお客様に届けているのかを、お話したいと思っております。

(スライドを指しながら)簡単に私の自己紹介がここに年表みたいに書かれているんですが、2005年の2月にアルバイトとしてSoup Stock Tokyoに入ったのがスタートですね。そこから社員になり、店長をやり、エリアマネージャーをやりました。2016年の2月に、スマイルズから1事業であったSoup Stock Tokyoが分社しまして、1つの会社になりました。その半年ほど前の2015年の10月に、今まではなかった「人材開発部」という部署が会社内にできました。

Soup Stock Tokyoって、たとえばデザインとか商品はけっこう、お客様に向けてメッセージとして届けられているけれども、「人の魅力」っていうのは、なかなかお客様や、働いている自分たちも自信を持って言えないというところがありました。でも、私は2005年からアルバイトとしてずっと働いている中で、この会社の魅力は「人」だと思っていたんですね。

「なんでその魅力が外に発信できてないんだろう」、「外の人に伝わってないっていうのがすごくもどかしい」と感じていまして、2015年10月に「人材開発部」という「人の魅力をどう引き出し、伝えていくか」を考え実行していく部署ができた時に、そこの責任者を任せていただきました。その(Soup Stock Tokyoの)分社のタイミングで取締役を兼任しておりまして、今に至るっていうところです。

取締役が語る「Soup Stock Tokyo」

江澤:最初に話をしていないというのもあれなんですけれども、会社の話をこのタイミングでいたします。一応、株式会社スープストックトーキョーがどういう会社かってことですが、ヴィーナスフォートのお店が1号店だったんですね。そこのお店がオープンしたのが、1999年ですね。

そこからずっと、スマイルズっていう会社の中の1事業としてやっていたのですが、株式会社スープストックトーキョーっていう会社として設立したのは2016年の2月です。今は社員が184名、アルバイト(以下、パートナー)が1529名という所帯になっております。

店舗は(一部は)今リニューアルでクローズしているところもあるのですが、全部で68店舗(2018年8月時点)ありまして、ほとんどが外食のイートインです。みなさんが知っているSoup Stock Tokyoはそちらのタイプかなと思います。ほとんどのお店(がそのタイプ)です。

さらに、冷凍のスープを専門で売っている「家で食べるスープストックトーキョー」という、百貨店のデパ地下とかに入っているものが10店舗あります。

自由が丘に1店舗だけ、「also Soup Stock Tokyo」という路面のお店もあります。ここはお酒も販売していて、一人で食べるというよりはむしろ、みんなでシェアして食べるようなスープの鍋の料理も出しております。

あとは、「おだし東京」という、こちらも1店舗だけなんですが、品川のエキュートの駅中にお店がありまして、「和のSoup Stock Tokyo」として展開している店になります。

売上で言うと約80億円なんですが、(スライドを指しながら)ここには出ていない店舗以外の卸しとかギフトとかで今、冷凍スープの分野がかなり売上が伸びています。通販もそうですね。なので、80億のうちの1/4ぐらいは冷凍スープ、実店舗を持たずに販売しているところの売上があります。

人材開発部の施策は現在進行形

江澤:私も2015年10月から人材開発部で働かせていただいている中で、「人の魅力」というのはどういうふうに磨いていくのかとか、世の中にどうやって出していくのかをいろいろとやっているんですね。

たださっき、最初の自己紹介で(スライドに)書かせていただいている年表を見てわかる通り、本当にぜんぜん人事の専門の人でもないですし、そういう勉強をしてきたわけでもなく、学歴でいうならば短大しか出てないんですね。それで、短大を出た後も5年ぐらいフリーターとかニートをしていた時期もあったりして……。そういう「学び」をすごくちゃんとしていたかっていうと、あまりそういうわけでもありません。

たぶん私自身の強みは自分自身がパートナーだったことと、そこから社員を経て、会社内でいろんな働き方をしてきているので、その時々に抱いていた「なんでこうなるんだろうな」とか「もっとこうだったらいいのにな」という思いが、けっこうたくさんあることですね。

せっかく人材開発部(の部長)という役割をもらったからには、実際に働いているみんなのためにそういうのを制度にしたり、いろんな取り組みをしていくことで、「人の魅力」をどう磨いていけるのかなっていうのをやっております。

もちろん自分一人でやっているわけではないので、上村もそうですし、経営会議のメンバーとかで、みんなで話しながら進めています。働き方だったり、人材開発という人の教育の部分だったり。パートナーさんに向けたものもありますし、社員に向けたものもありますね。

この2年ぐらいで一気に進めていてまだまだやり切れていないものがたくさんあるのですが、とにかくなにかをやり始めるというか、ただ今までのものを「まずはこれをやろう」って地固めばっかりしていると、結局なにもできないなと思いました。なので、現状を見るというよりは、とにかく「『こうなりたい』って思うものに近づくためになにをすればいいんだろう」っていうので、(手探りで)始めているものがたくさんあります。

閉店から移転へ 顧客との関係性を維持するミッション

中神:ありがとうございます。(スライドに)けっこういろいろな施策が並んでおりますけども、今日はちょっとこの中から3つくらい特徴的なものを紹介していきます。

まず1つ目は「68のご挨拶」。こちらを企画したのが上村さんですよね?

上村貴之氏(以下、上村):はい。

中神:「68のご挨拶」の詳細を説明してもらってもいいですか?

上村:はい。今年(2018年)の年始にやった企画です。全店の店長が自分の言葉でお客様に向けての年始のご挨拶を書きまして、それを各店のポスターやリーフレットとして掲げました。(スライドに)映っているのはリーフレットですね。あとWebでは全店舗のご挨拶の内容が見られます。

(スライドを指しながら)この右側が今年やった「68のご挨拶」のうちの1つです。アトレ川崎店というところのポスターです。左側のものが、有楽町店っていうお店があったんですけれども、そこが閉店する時のポスターですね。

2016年に(有楽町店は)閉店することが決まっていたんですけども、なにかできないかっていう思いがありました。

(スライドの写真は)ちょっと見えにくいんですけれども、奥が工事中のビルになっています。そこが今ある東急プラザ銀座です。その東急プラザにお店ができることになって、(有楽町店は)閉店して移転するようなかたちだったんですね。

なので「やらなきゃいけないこと」というか「ミッション」としては、ここの有楽町店にいたお客様との関係はそのままに、東急プラザ銀座のお店に来てもらうということ。それが、1つ目的としてあったんです。どうやってお客様に移転後もついて来てもらうか、ということですね。

デザイナー・上村氏が目指した顧客との関係性とは

上村:Soup Stock Tokyoに行ったことがある方はわかると思うんですけれども、スタッフとお客さんとのコミュニケーションって、あまりないんですよね。オーダーする時に「これください」って言うぐらいです。「今日はいい天気ですね」みたいなそういう会話って、ほとんどない。それはしょうがないと思うんですけれども、ただこの閉店するというタイミング、次に移転しますよっていうタイミングなので、ぜひスタッフからお客様に声をかけてほしいと思いました。

僕は、「店員さん」「お客様」じゃなくて「店員の◯◯さん」「お客様の◯◯さん」っていう関係が作れたらいいなと思いまして、勝手に「beyond the counter」っていう、(日本語に訳すと)「カウンターを越えて」っていうプロジェクトを一人で考えました。(スライドの「ご挨拶」の例を指しながら)これは店長ですけれども、それをするために、まずはスタッフが「スタッフさん」じゃなくて「スタッフの中山さん」なんだっていうことを認識してもらう。そのために、「自分の言葉で閉店の挨拶を書いたらいいんじゃないか」っていうことで、やったのが2016年。実際に、お客様とスタッフの距離も近づき、移転後も足を運んでくれるお客様が生まれました。

今年(2018年)の年始になにをやろうかってなった時に、68店舗あるんだったら全員でそれをやろうとなりました。発想までは単純でしたね。やるのは大変でした。というのが、(「68のご挨拶」までの)流れですね。

作り手の顔や思いが見えることで実現したこと

中神:これを実際やってみて、どういう効果があったのか、働いている人やお客様の反応のお話をいただけますか?

江澤:うちはユニフォームも全員一緒ですから、誰が店長なのかっていうのはお客様もわかるようでわからないじゃないですか。しかも、どういうことを考えて働いている店長なのかっていうのも、当たり前なんですけども知らないですよね。

店長たちに言ったのは、日頃来てくれるお客様への年始のご挨拶として、自分たちの思い、お店としての思いでもいいし、個人の思いでもいいから、とにかくそういうことを書いてほしい、このポスターで伝えようということでした。

本当にお店1店舗1店舗ですごくバラバラな内容だったんですけれども、お客様からは「こんな思いを持った人が店長をしているのは、素晴らしいですね」ということで「自分の娘を働かせたい」と直接お客様からお店にお電話が入ったりしましたね。

店長としては(この施策は)すごく恥ずかしいわけですよね。全面に自分の顔が載ったポスターを店の前に置かれ、リーフレットにも全部自分の顔が出ていて、(お客様からの目線では)「その人が働いている!」みたいなことですから。

お客様からは「(店長さん)これからもよろしくお願いします」とか「握手を求められる」とかいうのは、反応としてすごくありました。でもさっき上村が言っていた「◯◯さん」っていうところが見えて、お客様からもすごく近づいてくれたので、こちらからも近づく良いきっかけになったっていうのがありますね。

中神:すごくやり切っている感じがしますね。

上村:そうですね。「今年どうしよう」みたいな問題はありますね(笑)。これをどうやって越えるかという。

顔を見せることで実感した「責任」と「やりがい」

江澤:上村もこの時、まさかこの年齢で3日徹夜するとは思わなかった。

上村:僕だけじゃないですけど、68店舗分のものを作ったのでね。

江澤:そうですね。添削して、誤字脱字を直して。さっきも見たのにまたなんか誤字がある、というのを何回も繰り返しました。

上村:もちろん内容は店長が書いたもののままですけど、誤字脱字を直したりとか、「いや、もうちょっとこういうほうが良い」というのがありました。今回の企画は「Soup Stock Tokyoから」ではなく「店長個人から」なので、誰でも書けるものはやめようと言ったんです。「ここのこの手紙は、あなたじゃなくて、僕でも書ける」というやつは全部書き直してもらいました。まずはそのやり取りでした。

江澤:そうですね。

上村:しかも急に決まったので……。

江澤:わりと、急に決まりましたよね。

上村:1ヶ月くらいでぱっと。それで写真も全部(店舗まで)撮りに行っています。2週間ぐらいかけて仙台から福岡まで全店舗に撮りに行ったんです。

江澤:店長たちも、自分の文章がリーフレットになったりポスターになったりするので、「責任感」とか「この仕事をやっていることのやりがい」みたいなものをすごく感じてくれていました。自分の親とか親戚に送ったり配ってくれていた人もいます。

恐らく(一部の人は)たぶん恥ずかしくてしないだろうなと思ってもいたので、会社からのサプライズとしてこれ(「68のご挨拶」の写真)を年賀状にして全部、店長の実家に送らせていただきました。親からは本人が送ったんだと思われていて、本人に話して、「年賀状届いたわよ」「え? なんの?」みたいな(笑)。

それで、(本人が)見たらこの写真があって、「まさか会社からそんなのを送ってくれているとも思っていなかった」ということで「社員一人ひとりの体温」もあがって、家族もとても喜んでくれましたね。

盛況の社内報「Smash」リニューアル版

中神:ありがとうございます。次、2つ目。社内報の「Smash」。これは江澤さんから。

江澤:Webの社内報の「Smash」というのをやっています。2017年の3月にリニューアルをしたんですね。そのリニューアルの時のこだわりとして、一方的にこちらからなにかものを伝えるという社内報ではなくて、相互に意見が言えるというか、発信ができるものにしたいということでSNS機能を付けたものにしました。

これは先ほど言っていた184名の社員と1,500人のパートナーさんがみんなログインできるものになっています。退職した方もログインできるようになっていて、見続けることができます。ここにはもちろん会社として伝えたいこと、たとえばメニューとか商品のこだわりの話もそうですし、社長のメッセージを入れたりもします。

そういうコンテンツとしての読み物もあるんですけれども、SNS機能がついているので、そこでけっこう「日頃働いていて感じていること」とか、「お客様とこんな温かいエピソードがありました」っていうのをパートナーさんも社員も関係なく、みんなが上げてくれていますね。

上村:そのパートナーさんが書いたことに対して、(取締役の)江澤もそうですけども、社長の松尾とかも、だいたいほとんどコメントをしているので、社長や取締役と1パートナーさんとが直接繋がれるようなツールになっている。そういうのが、リニューアルで1番こだわったことですね。

江澤:そうですね。ダイレクトに言葉が伝えられて、ダイレクトに言葉がもらえて、そこで行き交う。なので今はSoup Stock Tokyoも北は仙台、南は福岡までお店がありますが、福岡と仙台のパートナーさんがこの「Smash」上で繋がっていたりします。そういう店舗を超えた繋がりとかも今、すごく活性化してきつつあるということですね。

上村:だから地方の子が東京に来た時に、「なんとか店に行ってみました!」とか書き込みがあったり。逆に「来てくれました!」とか、そこでまた会話が生まれたりもしますよね。

社内SNSの活性化のための施策とは

中神:パートナーさん同士や、社員とパートナーさんの会話がとても活発なんですよ。どういうプロセスでその状況までもっていったのでしょうか。こういうSNS機能がついたものって、「活性化させるのがなかなか難しい」とよく聞くんですけど、その辺りはどうされているんですか?

江澤:最初は半ば強制的というか、とりあえず「社員は必ずログインする」っていうところと、「自分のお店のパートナーさんを必ずログインさせましょう」というのを、けっこう口うるさく、何度もしつこくやっていったっていうのがあります。

また、アンバサダーみたいなかたちで、エリア毎にこういうツールを楽しんでくれる社員がいるので、そういうかたを完全に独断と偏見でアンバサダーとして選ばせていただいて、巻き込みました。

あとは、「自分の知っている人が出ていると見るだろう」と思ったんですね。なので、この「Smash」(のリニューアル)をやる時の1番の目玉として、日めくりでパートナーさんがカレンダーになるようにしました。日めくりで、日にちとともに「何々店の、何々パートナー」と出て、その方のコメントとか自己紹介とかみたいなのが載っているんです。自分の店の子が出ていたら、まずそのお店の人はみんな見ますよね。

見るきっかけを作るために「必ず誰かが表紙になる」というのを、社員ではなく、あえてパートナーさんでさせてもらいました。そういうところで、入るきっかけっていうのは、試行錯誤しながらですけどもかなりいろいろ作りました。今も、まだまだ試行錯誤中です。

やっぱり「投稿するのはハードルが高い」っていう声をすごく聞くので、どうにかしてもっとフランクにできるものにならないかな、っていうのを考え中です。

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