2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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梅澤高明氏(以下、梅澤):メルカリの場合は、事業、新サービスの開発は、どういう感じで進むんですか?
小泉文明氏(以下、小泉):でも、僕らまだすごくベンチャーなので基本的には当然トップダウンなんですけれども、私たちの中で一番最初に考えたことが、拡大するなかで、リアルなCtoCなので「配送」が入ってくるんですよ。
エクスペリエンスの中にアンコントローラブルな配送が入ってくると、この課題を解決しないかぎり、このサービスはこれ以上伸びないというか、大きくは伸びないだろうなと、一番最初に課題と感じたんですね。
なので、ヤマトさんが一番最初のパートナーになってくれたんです。たぶんアプリがまだ100万ダウンロードいっていない頃に、ヤマトさんに5つのお願いしました。
まず、全国一律の定額、同じ金額にしてくださいと。2つ目が、それを定価より安くしましょう。あとは、送り状とか書きたくないので、僕らのDBとヤマトさんのDBを一緒にしていただければ、送り状はいらないので、送り状は書かないでいいですよね。
プラス、それはお客様同士知らなくていいので匿名でいきましょう。あと、コンビニエンスストアとかでQRコードでやれたらいいですね、というこの5つですね。
この5つを、売上はまだゼロで、100万ダウンロードぐらい、社員数15人ぐらいのベンチャーが、ヤマトさんのかなり上の方に(交渉しました)。私のミクシィ時代のツテで、かなり上の方にフルフルのご提案をさせていただいて、これを実現するまでに1年1ヶ月かかりました。結果としては早かったんですけれども(笑)。
ただ、スタートアップって、まさしくそのエクスペリエンスからデザインして解決するところに「どこまでリソースかけられますか?」「説得に時間かけられますか?」というときに、たぶん普通のベンチャーだったら、5つあったら、1個がOKになるとそれをローンチしたくなるんです。
でも、お客さんからすると、それで「ワオ!」って体験にならないですよね。「ちょっと便利になったな」と。そうすると「圧倒的にメルカリ便利だよね」ってならないので、僕はけっこう粘って、この5つを全部クリアするまで出さなかったんです。結果、1年1ヶ月かかったんですけれども。
でも、そのぐらいエクスペリエンスを、リアルが入ってくることに対して早くから危機意識を持ってデザインできたのは、僕はすごく大きかったんじゃないかなと思っていますし。そこがまず1個すごく大きかったところですね。
小泉:あとは、今言ったように、デザインをCXOで1つにするところも、デザインだけじゃなくて、裏側のテクノロジーサイドもけっこう大きなチャレンジをしていて、マイクロサービス化というのを今進めています。
すごくわかりやすく言うと、コードベースをそれぞれの機能ごとに分けて、小さいサービス化していくという感じですね。これまでのコードは、僕らの会社でいうと、けっこう複雑に絡み合っちゃってるので、「こっち変えたら、こっちの影響大きいよね」みたいなところで、けっこうスピードが出ないんですよ。もしくは、これから機能を追加していくときに非常に負荷が強いので。
マイクロサービス化していって徐々にそのチームごとに最適に動けるようにしていくところで、デザインもそうですし、エクスペリエンスから見たときにテクノロジー・デザインでどう変えていくかを、トータルでずっと議論しながら進めているという感じですね。
梅澤:でも、そのマイクロサービスで一つひとつが早く完成してローンチできるようにというふうに舵を切ってきました。過去はそうですよね。
小泉:そうですね。今は準備中という感じで徐々にという感じなんですが、これまではそれができなかったので、メルカリの中でも「メルカリ カウル」とか「メルカリ メゾンズ」という個別のアプリを出していたんですよ。
これを今、その機能を本体のほうに入れることをやろうとしているんですけれども、その前提がマイクロサービス化です。
梅澤:なるほど。カウルというのが、本とかCDとかをバーコードスキャンで取引できるやつですよね?
小泉:そうです、そうです。なので、エクスペリエンスとしてはそっちのほうが当然いいんですけれども、最初にマイクロサービス化されていない状況でそれをやっちゃうと、けっこうアプリの負荷が大きかったので、個別に出してたんですけれども、それを今、中に入れてきた感じですね。
田川欣哉氏(以下、田川):今2人のお話を聞いてて、ほぼデザインを経営に取り入れた取り組みをやっていらっしゃるのは、すごい思いましたよね。
よくあるテックベンチャーが陥りがちな罠のようなものって、さっき吉松さんもおっしゃってたけど、「結局、お客さんがやりたいことと提供者がやってることってズレてるじゃん?」「比較して選びたいんだぜ」みたいなところの気づきと、それを実際にビジネスのオペレーションで回るようなところまで組み立てきるというような話と。
今、小泉さんもおっしゃってたんですけど、意外にユーザーのことを見ている役員レベルの人がいないテックベンチャーってあるような気がしていて。
けっこうデザインコンシャスな会社というと色がきれいとか、形がどうとかって思われるかもしれないですけど、どっちかというとプロダクトオリエンテッドというか、プロダクトやサービスを磨き切ろうと思ってる会社さんは、比較的ユーザーをまっすぐ見てるというか。
「なにが今自分たちの有限リソースでできるか、できないか?」ではなくて、「本当に自分たちがなにを解決しようと思っていて、そこにいるユーザーってなにを思ってるのか?」みたいなことをけっこう役員レベルが……1人だけじゃなくて、比較的「それだよね」みたいなレベルでできている会社が成功するプロダクト・サービスを作ってるのかなと思いましたね。
梅澤:明らかに2社ともトップダウンで、一番大事な顧客体験の要件は定義をして、それに向けて事業を作り込んできた感じですよね。
梅澤:田川さん、逆に聞きますけど、スタートアップ、アメリカだと、もう創業チームにデザイン教育を受けた人が1人入るのが数年前から当たり前になっていると言われていますよね。日本はどう見えています?
田川:20代前半の人たちと話していると、けっこうデザイナー入れて起業する人がすごい増えてますよね。例えばCASHとかも、デザイナーがファウンダーの1人に入っていて、やっぱりUIがすごくよかったんですよね。しかも、感じもいいし、かわいいし、やっぱり使いたいという気持ちをブーストする役割はけっこう担ってたと思うんですけど。
たぶんアメリカでデザイン×スタートアップみたいなのがすごく言われるようになったのは、やっぱりAirbnbの成功なんだろうねって話があって。Airbnbの創業者3人のうち2人はデザイナーなんですよね。ブライアン・チェスキーとか何人かいるんですけど。
あれでデザイン×キャピタルがものすごい爆発力になる可能性があることが、いろいろトレンドはあるんですけど、今、シリコンバレーの1つのトレンドになっているという話は、よく向こうの人たちと話していると聞きますけどね。
梅澤:数年前に有名な(グラフィックデザイナーの)ジョン・マエダがクライナー・パーキンスのパートナーになり、「Chief Design Partner」みたいな呼び方をしていましたけど、デザインだけではなくて、デザイナーの目線を持ちながら事業に対して物を言うみたいなかたちで関わったのが1つのターニングポイントになりましたよね。
田川:すごくそれが大きくて。クライナーでマエダさんが試したかったのは、やっぱりデザインがいわゆる……スタートアップってテクノロジー×キャピタルみたいなところがあったじゃないですか? そこに×デザインが入ったときに、なにが効果として現れるんだろうか? みたいなことを、どっちかというと資本のサイドで見たいという話でされていたらしいんですけど。実際Airbnbが出てきたりとかで。
だから、最近アメリカのVCもデザインパートナーのポジションを持っている人がけっこう増えているんですよね。なんでデザインかというと、一番最初に話したように、やっぱり使い勝手が悪いと、グロースでそこがすごいフリクションになるんですよね。あと、さっきの@cosme storeとかでもそうなんだけど、顧客の課題をつかみ損ねてたりとか。
あとジャーニーというようなね。メルカリもそうじゃないですか。真ん中に配送というのが入っているのを見ないことにして、アプリを作ることも可能なんだけど、「だけど、ユーザーは実際こうやってるよね?」みたいなところに直接向き合うところで、グロースがなんか上がらないなみたいなところを、マーケティングとかじゃない、いわゆるデザインのアプローチで解くみたいなことがたぶん利きがいいんでしょうね。
もう1つあるのは、テックベンチャーの手がけるフィールドがけっこうリアルサイドに出てきているのは大きいと思うんですよ。
梅澤:だから、先ほど小泉さんが話したような、相当ヘビーなペインポイントがいろいろ出てきて、そこをどう解くかって話になるってことですよね。
田川:そうそう。さっきの@cosmeの話もめちゃくちゃおもしろいなと思ったんですけど、あれを全部オンラインで解決していたらちょっと違う話があったと思うんですけど。
Airbnbもやっぱり、そういう意味だといわゆるリアルにそこに泊まる場所とかオーナーがいて。そこを解決しきるところは、けっこう現場に行ってみないとね。
梅澤:鍵が壊れていたりするし、ゴミが落ちていたりするし、みたいな。
(会場笑)
田川:そうそう。だから、そういうときにやっぱりIT系のエンジニア+デザインをやっていた人たちで共同で課題解決すると、今まで解けなかったところが解けるようになって、イコール、使う人が増えて、使う人が増える。
さっき話にも出てましたけど、価格をあんまり下げずに勝負ができるというか。ブランドの価値が高いとそれだけリテンションとか取れるので。というところで、かなり利きがこの数年よくなってきたんだとは思いますけどね。
吉松徹郎氏:今の話を聞きながら、田川さんに1つ質問したいなと思ったんですけど、よくネット系というか、テック系ベンチャーでいくと、アジャイルという話があるじゃないですか。いろんなものを早く作って提供して、そのフィードバックを受けて回転していくと。
さっきの小泉さんの話は逆で、5個セットするまでは体験が揃わないから、いわゆる開発でいくとウォーターフォール型な、「ちゃんとセットしてから出しましょう」という話になるんですよね。
今、僕も@cosmeのリニューアルを2〜3年手がけてきて、ようやく来月、再来月ぐらいからまたリリースしていくんですけど、やっぱりウォーターフォール型だって言って、社内ではけっこう喧々諤々することがあるんですよね。でも、体験をつないでから出さないと、結局2~3回目の体験をしてもらうまでのコストがかかるから、それまで待つんだって。
だからここは、ありがちな方法論になると、けっこうガチャガチャになるんですね。フェーズもあるのかもしれないですけど、どういうふうにお考えですか?
田川:「ボトルネックはどこか?」議論だとも思うんですよね。さっきの話で、結局、パズルのピースで抜けているところがあると、理想の体験が成立しない状態で入っても、PDCAを回しても、たぶんあるものベースで議論になっちゃうから、結局、ストレートに課題をブレイクできない話だと思うので。
内容が比較的揃っていれば、ブラッシュアップに入っていいと思うんですけど、根本的になにかが抜けている場合は、それはたぶんデザイナーだけだと解けないと思うんですよね。やっぱり経営が意思として「そこにこのモジュールをはめるんだ」みたいな、ある程度ズバッと言いながらやらないと、たぶんそこは共同作業でしかできないですよね。
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