2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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須藤憲司氏(以下、須藤):武永さんのところは、IT投資とかどんなふうにやっているんですか?
武永修一氏(以下、武永):そうですね、僕は非エンジニアなんですけど、うちは今だいたい二百数十人の50パーセントぐらいがエンジニアなんです。なので最近、会話が通じないことに非常に無力感を感じているところがあって。
須藤:(笑)。また新たな経営のパワーワード。「無力感」ですね。
武永:うちの場合、まず1つは、いま100人のエンジニアを全部一括に「グループ開発室」と変えました。うちはM&Aもやっているので、以前は「○○会社のエンジニア」「このサービスのエンジニア」と10~20人でバラけてたんですけど。結局、共通のインフラなどで使われるデータの基盤は一緒なので、であれば、もう横串にしてしまおうと。逆に、各サービスの人間がそのエンジニアのリソースを取りにいく感じですね。
企画書を書いて「これを作りたい」といって取りにいくようにフラットにしたのが1点目です。もう1点は、中立的な判断権者を置いています。例えば、僕がなにかしたかったら「ちょっとエンジニアを10人貸してくれ」と言う。やっぱり社長の意見って一番偉いわけですよ。
そうすると、現場の人が「いや、絶対このサービスは違うと思うんだけど、でも、社長がうるさいからな」って物事を進めてしまうと、結局、本当にイノベーティブなものかどうかはわからないわけですよね。
そうじゃなくて、コンサル出身で、あまり各サービスに思い入れがない……思い入れがないって言うとちょっと失礼ですけど、「今のエンジニアのリソースであれば5番目になりますね。だから、あと半年間待ってください」みたいなことを本当にズバッと言えるような、非常にフラットに判断できる人間を1人入れています。そういう工夫はしていますね。
須藤:へえ。
武永:あと最後の3つ目なんですけど。今お二方もあったと思うんですけど、3つ目は、エンジニアというのは必ずしも受けるだけじゃなくて、やっぱりクオリティを上げるために自分たちで「こういうことをやったらもっとサービスがよくなると思うんですよね」というのを、一定の時間はそのために使ってもらっています。
武永:Googleの20パーセントルールのような……我々はまだ20パーセントまではいけてないんですけど、10パーセントぐらいはうちのサービスを覗いてもらったり、自分が使っているほかのサービスからうちのヒントになるものや、エンジニアが好きなものを提案してもらうためのものも今後入れていきたいなと思っていますね。
須藤:なるほど。よくよく考えれば、この登壇している4人は、みんな非エンジニア出身ということになりますかね。
寺田親弘氏(以下、寺田):残念ながら。ちなみに、みなさんの中で技術畑の方ってどのぐらいいらっしゃいますか?
(会場挙手)
須藤:おー。けっこういらっしゃる。
寺田:すばらしい。
須藤:すばらしいですね。
寺田:もっと少ないかと。
須藤:(笑)。寺田さんはあれですか? エンジニア出身?
寺田:僕、違います。
須藤:違いますよね(笑)。
寺田:ぜんぜん。商社マンでした。
須藤:そうですよね。今、想像以上に手が挙がってちょっとびっくりしてるんですけど。要は、技術的なことも経営の中に取り込まなきゃいけないわけじゃないですか。
でも、逆に言うと、非技術・非エンジニア・非テクノロジーの人も、技術を理解しにいかないといけないと思うんですけど、なにか努力していることはありますか?
寺田:努力していることは、なんだろうな。聞きまくるみたいな感じですかね。聞きまくるはしてますかね。
エンジニアというか、研究者ですね。結局、研究開発の人間とは本当によくしゃべるようにしています。機械学習でなにができて、なにができないとか、今だったらどうだとか、そういうのは普通によくしゃべってますね。
須藤:新しい技術がいっぱい出てくるじゃないですか。そういうときはどうやって勉強されているんですか? ちょっとそういうのを聞いてみたいなと。
寺田:いや、なんかごめんなさい。聞きまくる(笑)。
須藤:聞きまくる?
寺田:社内で聞きまくるみたいな感じ。
須藤:なるほど。
寺田:ロープレとかして、ちょっとテクノロジーワードを使ってしゃべって、「俺の今の合ってる? 合ってる? ちょっと違う?」みたいなことをやっていますね。「あっ、それはこういう文脈で使う意味じゃないんだ?」「ちょっとやってみて」みたいな。そういうしょうもないことをやっています。
須藤:いやいや、しょうもないというか……。
寺田:そういうロープレをすることによって、そのテクノロジーワードがどういう文脈のものかを理解しようとする。しゃべってみて、「ここでディープラーニングを使ってる。これ合ってる? 合ってる?」「ああ、合ってます」みたいな。
須藤:なるほど(笑)。
須藤:そういう新しい技術とかいっぱい出るじゃないですか。武永さんはどうやって勉強してるんですか?
武永:うーん……まぁ、聞きまくる、ですかね(笑)。
須藤:誰に聞いてます? 自分の会社のメンバーに聞いてるんですか?
武永:そうですね。あとはなんかテッキーな社長さんとかいるじゃないですか。例えばスドケンさんの友達だとけんすうとか。いつもは聞いてないですけど、そういう人になにかあったときには聞いたりとか。
「何がトレンドなんだっけ?」みたいなのは理解をするようにはしますね。あとは、自分が別にTECH::CAMPとかやってもいいとは思うんですけど、僕の場合は今さら感がちょっとあるので。今自分が掲示板書けても、実務にあまり通用しないと思っています。
そういう意味だと、技術がわかるようなボードメンバーの比率を高めているというのはあるかもしれないです。さっきの、中立的に判断するコンサル出身の人間もいるんですけど、彼も自分で書けるぐらいのスキルはあるので、だからエンジニアとよく翻訳できる。やっぱりそういう翻訳ができる人間を多めに自分の周りに置くというぐらいですね。
須藤:へえ。伊藤さんはどうしてます?
伊藤嘉盛氏(以下、伊藤):武永さんのあとに恥ずかしいんですけど、俺、「TECH::CAMP」に通ったというですね(笑)。
須藤:非常に望ましい展開ですね。ありがとうございます。
伊藤:TECH::CAMPに通った結果、「もう無理だ」と。
須藤:あっ、通った結果、無理だと悟るという。
伊藤:そうですね。もう本当に体験しまして。そこからはエンジニアの言うことにはすべて「イエス」というイエスマンになりました。
須藤:溢れんばかりのリスペクトが。
伊藤:そうですね(笑)。だから、基本エンジニアがやりたいことは、「これ、なんか儲からなさそうだな」とか思ってても、とりあえず「イエス」ということで、いったんすべて実現してもらうというか、やってもらう。
あとは、新しい技術は普通に論文とかそういう専門書を読んだりとか。
須藤:すごい。
伊藤:ブロックチェーンとかあったじゃないですか? そしたら自分のマイニングのファーム作って売るために秋葉原まで行ったりとかですね。
須藤:超ちゃんとしてますね。
伊藤:そういう感じで、自分でとにかくやってみますね。
須藤:僕はもう、やっぱり、詳しい人に聞きに行くという。
寺田:同じですね。
須藤:うん。僕の知ってる人がICOをやったって聞いたら、行って、「ICOってなに?」みたいなことをめちゃくちゃ聞いて勉強する。「これ合ってる?」「こういう感じ?」「あっ、そういう感じです」みたいな。「そもそも、そうすると、今度じゃあICOをやると財務的にはどんな影響が出るんだろう?」とか。
今、上場企業でもやろうとしている会社さんがあるじゃないですか。そういうのを研究したり、誰かがもうすでにやっているからその人に聞きに行こうみたいなことをやってますね。
経営側がそういう新しいことに取り組んでいかないと、やっぱりなかなか自分たちのサービスをアップデートしていくのがままならないので。そういう意味でいくと、みなさんすごい勉強をされていると思うんですけれども。ブロックチェーンとかも、じゃあ実際にどうやって活用していこうってなにか考えられたりとかしてますか?
寺田:けっこう考えたりしました。
須藤:そうですよね。
寺田:はい。しましたけど、なんか決めきっていないというか、「うーん、そうか」という。「テクノロジーとしてブロックチェーンを使って、こういうところで使えるかもしれないけど、うーん……」で今は止まっていますね。
須藤:武永さんのところはブロックチェーンがめちゃくちゃ関係しそうな気がしますけど。
武永:そうですね。やっぱりネットの商取引とか、あと今度はそこに与信スコアをつけてお金を貸そうかなみたいな話とかもあったりするんですけど。ちょっと悩ましいのは、ほかの先に上場した会社とか見てると、話題づくりでやってるなというのがけっこうあるんですよね。
けっこういろんな会社が「うちのサービスはブロックチェーンでいきます」「うちのサービスはビットコインで払えます」みたいなサービスを出してるんですけど、見てみると、今までの「ポイントで払えます」がビットコインに変わっただけだったりして、ちょっとこれは不用意に出せないなと思っていて。さっきの、クオリティにどれぐらいマッチするのかをきちんと検証してから出したいなというところです。
須藤:なるほど。
伊藤:実は、うちはもう試しちゃって。やっぱりぜんぜん……ブロックチェーンを使って、まさに「ビットコインで不動産買えます」ってやったんですけど、ぜんぜんトランザクションが起きなくて(笑)。
須藤:(笑)。
伊藤:というのは、やっぱり今回は無理やり技術を取り入れたパターンだったんですよ。「ブロックチェーンはでかい波だね」みたいなのが社内にあって、「でも、これって実際あんまり意味ないね」みたいな。エンジニアからすると「これはブロックチェーンである必要がまったくないね」という感じなんですよ。
「いや、でも一応やっておく?」って1回やってみたんですけど、やっぱりあんまり意味がなくて難しかった。そこから学びはあったりするんですけどね。
須藤:さっきクオリティの話があったじゃないですか。その技術を取り入れるときにどうクオリティに影響するのかがすごく大事だと思うんですけど、どうやってその評価をしてるんですか?
ビットコインのケースとかは、やってみないとそもそもわからない話かもしれませんが、取締役会でもいいし、開発会議でも構わないんですけど、マネジメントとして、事前にけっこうちゃんと説明能力高く、寺田さんとかで「これはこういう目的とか意図だよね」とかやったりしてます?
寺田:ペーパープロトは死ぬほど作っていますね。すげえ作ってますね。だいたいこういう技術があって「ここできそうだね」って言ったら「まずペーパープロト作ろう」みたいな感じのやつは、すごくやっています。だいたい、ペーパープロトをやって、ちょっとモックを作ったら成立してるかしてないかはわかります。
そのぐらいまであるとお客さんだったりポテンシャルユーザーに見せられるので、だいたい判断がつくかなと。自分もそこのレベルまでくれば、だいたいこれを使うか使わないかって普通に判断つくので。
さっきの話の中でテクノロジーとビジネスの話がありましたけど、社内にデザイナーがけっこういるわけですよね。簡単に言えば、要するに画面を作れる人ですね。
それってけっこう重要で、うちも社内でプロダクトデザイン、ポンチ絵まで描けるやつが20人ぐらいいるわけです。彼らの役割はエンジニアではないですが、すごく重要で、そんな会話をいつもしています。
「こういうテクノロジーがあったらこういうクオリティが出せそうだから、実際画面に落としたらどうなる?」という。そこで検証して、いけそうだったら実際に作って、お客さんのところに持っていってみて、そういう感じでやってますね。
須藤:へえ。でも、本当にそうですよね。
須藤:UIとかになると判断しやすいというのは、1つありますよね。武永さんのところは、開発とかテクノロジーをクオリティに活かすときに、どういう価値基準とか判断基準でやっていますか?
武永:うーん……そこはけっこう考えるところです。でも、さっき寺田さんがおっしゃったみたいな、UI/UXってやっぱりすごく大事で。技術的に優れていても、使うのはクライアントだったり、お客様だったりするじゃないですか。
すごい技術が裏側で走っていたとしても、「なんかこのサイトって使いづらくない?」「このアプリってぜんぜん導線がよくわからないね」となると、やっぱりそれがクオリティに活かされていないと思うので、UI/UXを共通して見る人間は1人置きましたね。
もう1点、最近ちょっとおもしろかったのは、うちは4月にエンジニア50人の会社が加わったんですけど、ゲームをやっている会社なんですね。ゲームってうちからするとぜんぜん関係ない分野で、今でもNintendo Switchとかに普通に出てる、先週もリリースしたのかな、ゲームを作っている会社なんですけれども。
彼らはゲームをこれからも作り続けたいというよりは、任天堂とかプレステに足りるクオリティを作れるので、それを新しいサービスに応用してみたいと。だからゲーミフィケーションとか。
須藤:はいはいはい。
武永:ものすごいわかりやすい言い方すると、萌え系のキャラクターが出てきて、「このサイトをどうやって使ったらいいか、私が説明するわ」みたいな感じの、あるじゃないですか。それをやった瞬間に、今までのうちのちょっとBtoBっぽい、業者っぽいサービスが一気にポップになって、いろいろ化学変化が起きるんじゃないかなと楽しみにはしています。
だから、なにかまったく新しいことというよりは、ほかの分野とかけ合わせるとけっこうおもしろいんじゃないかというのは最近思っているところです。
須藤:わかりました。伊藤さんのところは、マネジメントというか、技術を取り入れるときに、さっきのビットコインはちょっとわからない類のことかもしれないですけど、とはいえ、あらかじめ想定されていると思うんですよね。なにがどういうふうにとかって。
伊藤:そうですね。やっぱり、あんまりマネジメントしないマネジメントですね(笑)。
須藤:すごいですね。パワーワード出まくりですね。「マネジメントしないマネジメント」。
伊藤:やっぱり創業初期には我々も潰れそうだった時があったんですけど、その時の「経営会議ばかりでプロダクトのことが話されて、なかなかプロダクトが進まない」みたいなトラウマがあって。そのままお金がなくなっていったんです。
そういうトラウマがあるので、経営会議で「このプロダクトって、この仮説って正しいのだろうか?」みたいな議論はあまりしないことにしていますね。
協力的なクライアントがいるので、そこに持っていってどうだったかを話そうということで、仮説はもちろん立ててから行くんですけど、とにかく会議であまり話さない。脱空中戦というかですね。
須藤:なるほど。おもしろい。ちなみにうちは、開発のマネジメントというか開発投資に対しては、エンジニアが費用対効果を見積もる。だから、けっこうおもしろくて、「これ営業的にはこうしたほうがいいと思うんだけど」って出すと、すごく割り引かれて出てきていて(笑)、「なるほど。けっこうシビアな目で見てるな」とか。
あと、逆に「これはもうちょっとコストがすごい下がる」とか。結局のところ、システムとかITで実現したいことって大きく2つしかないと思ってまして。1個はコストがめちゃくちゃ下げるみたいなやつですよね。もう1個は付加価値が上がって売上が増えるというやつですね。
結局、売上が増えるって、僕のビジネスなんかはとくにBtoBなので、営業的なお客さんのマーケティングに関して係数がかかっていくので、単なる技術だけではいかないというのでけっこう割り引いて見積もってますし。
一方で、例えば時間が短縮されるとかコストが下がるのはけっこうリニアに効くので、それはわりと精度が高くすごい見積もれているなという感じ。それをエンジニアがやるというので、なかなかけっこうハラハラするというか。
「あっ、これ営業からすげえ要望上がってたやつだけど、売上の見込みみたいなやつは、けっこうシビアにちゃんと考えて割り引いてるな」みたいなのを見てますね。逆に言うと、僕も経営としてはあんまりマネジメントしていないというか、エンジニアリソースはエンジニアが決めるという考え方でやっています。
伊藤:我々もまさにやっぱりエンジニアが全部リソース配分とか、あと機能追加も基本、営業は情報を集めてきて、判断するのは必ずエンジニアにしますね。そうしないとシステムがガチャガチャしちゃうというか。
須藤:そうですよね。結局、言われて作ってると首都高みたいな開発になっちゃうから、あとですごい困るというか、メンテナンスしづらいかたちになったりするので、一応そういうのを防ぐためにも、技術側でその投資判断を基本してもらっていますね。
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