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6,000人の成長を支えるヤフーの1on1(全3記事)

人は「渇望感」がないと物事を体得しようとしない ヤフー人事が語る、成長のきっかけのつくり方

2018年9月28日に、一般社団法人21世紀学び研究所が主催する「ヤフー人事に学ぶ『1on1』〜対話とリフレクションで自律的な人を育てる〜」が開催されました。ヤフーで新体制が発足した2012年から始まり、組織を活性化させた「1on1ミーティング(以下、1on1)」。本パートには、ヤフーの人事部門で、全社向けの人材育成のチームマネージャーを務める小金氏が登壇し、参加者から寄せられたたくさんの質問に答えました。

縦割りの会社組織に悩む参加者の思い

小金蔵人氏(以下、小金):冒頭にご案内のあった、UMUというツールを立ち上げていただいて、2つ問いを投げかけさせていただきました。「人財開発・組織開発におけるみなさん自身の課題はなんですか?」と、「今日の内容のどの点がその課題に対して活かせそうですか?」ということです。

1on1にとらわれる必要はなくて、後半に話したような人財開発関係のキーワードでもいいですし、組織開発的なキーワードも出させてもらったので、そういうものも含めてまずは5分間入力していただいて、そのあとで近しい方と対話して話を広げていただいて、それを全体で共有していただくという流れで進めていければと思います。

(5分間の共有タイムが経過)

小金:お話を聞いてみたいので、質問に入らせていただきます。すみません、こちらのグループではどういったお話で盛り上がっていらっしゃいましたか? どんなお話をされたかを共有いただけることがあれば(よろしくお願いします)。

参加者1:日々の悩み、つらみをですね……。

(会場笑)

僕の会社は組織が縦割りすぎて、横の連携がないんですよ。それぞれがグループごとに好き勝手に動いている状況です。横連携を強めたら、会社としてはもっとパワーアップするんじゃないかなと思っています。

小金:ありがとうございます。拍手をお願いします。

(会場拍手)

どちらかというと組織的な話ですね。組織課題のお話だと思うんですけど、逆にお聞きしたいのが、縦割りであることでどんな問題が起こっているんですか?

縦割り組織はどのように情報共有をすべきか?

参加者1:AチームとBチームがあるとすると、AチームのノウハウがBチームにはシェアされない。なので、Aチームはここに詳しい人がいるのに、Bチームはそれを知らないので、早く言ってよ、ということが起こります。

小金:なるほど。

参加者1:非常に機会ロスなことがあります。

小金:ありがとうございます。今日のテーマとは直接関係ないかもしれないですけど、組織開発的な話をすると、情報がきちんとテーブルに載った状態で、同じ景色が見える当事者が増えることが重要かなと思いました。

参加者1:そうですね。

小金:無理やり今日のテーマにつなげるとすると、上司・部下がちゃんと1on1をできていたら、たぶんAチーム・Bチームのなかでの情報共有はある程度できると思います。もしかしたら、チームの責任者同士が、横の1on1で情報を共有し合うという、そういう糸をつなげることはできるかなと思いました。ありがとうございます。

では、 お話しされたことを共有いただければ……。今話されたことで、なにか共有いただけることがあれば(よろしくお願いします)。

参加者2:もうすでに1on1を導入しているんですが、今の説明をお聞きしていて、1on1を浸透させるために、1on1だけが独立するのではなく、サイクルやいろいろな目標評価を連携させながら進めていくことの大切さ……だったかな。

小金:ありがとうございます。今はわりと単体で導入されてしまっている、という話があったということですね。

参加者2:私は4月から始めていますが、本格的に社内に学習会や説明会を行ったのはつい最近のことなので、これからどんどんブラッシュアップしていきます。

小金:なるほど。現在はどんな状況なんですか? みなさん「やっていこうかな」といった感じになってる?

参加者2:そういったところもまだ、という段階です(笑)。

小金:なるほど、ありがとうございます。拍手をお願いします。

(会場拍手)

1on1で部下が上司に意識してほしいこと

小金:本当に五月雨に当てていってしまいますが、じゃあ……こちらのグループではどんな話を(されましたか)?

参加者3:こちらではいろいろな話が出たんですけど、私の意見としては、1on1を人財開発的なアプローチでしか見ていないということがあって。せっかく1on1をやっているので、その連携をうまくするともっと(良い)。その効果を活かしきれてないな、というのがありました。

あと非常におもしろいと思ったのが、たしかに1on1をやるんだけど、上司・部下の関係性が悪いなかで、いきなり「1on1でいろいろ話してみて」と言われても、「この人に話すことはないでしょ」というところがある(笑)。やっぱりちゃんとはいかないな、というのがあります。

あとはなんて言うんですかね……。上司がすごく意識しなきゃいけないなと思うのは、まず「上司」であるという意識。上司・部下のランクができてしまうと、どんどん今のようなことが起こってしまう。本質的な深い会話につながらないんだろうなと(思います)。この上司が、いかに自分が、どう人に悪い影響を与えているかと自己理解しないと、たぶんうまくいかないんだろうなということなんですよ。

小金:ありがとうございます。拍手をお願いします。

(会場拍手)

小金:大きく3つ、お話がありましたね。人財開発の仕組みなんだけど、組織開発のお話という側面もあります、ということですね。ヤフーのなかでは、実はリーダーが最初のマネージャーなので、リーダーになると「1on1してね」と言われるんですよね。それで、部下との1on1をします。

部長になったときには、もちろんリーダーと1on1をするんですけども、「1on1だけしていたらダメですよ」となって、そこからコミュニケーションが変わりますね。部長になったら、「組織の関係性をちゃんと見ていってください」ということで、組織開発系の研修を受けてもらいます。

なぜかと言うと、1on1はどこまで行っても、1対1の関係性の糸が強くなっていきます。そこの糸は強くなっていくんですが、いきなりチームワークにつながるわけじゃないんですね。なので、ヤフーのなかでは、そこの関係性に働きかけるのは部長の仕事、というように役割分担をしています。

1on1は、それ自体が活きる部分もあるんですが、冒頭からずっとお話しているように組織開発的な要素も一部あるので、構造的には意外とそんなことをしています。

忘れられない1on1は「あなたに困ってます」

小金:2点目は、関係性の話でしたよね。関係性が悪いなかでの1on1はけっこう難しい、ということはありますよね。自分もあったんですけれども、それまでずっとただの同僚としてがんばってきたら、僕がポッとその人を含めたチームのリーダーになりましたというときは、当然関係性はよくないですよね。

どちらかというと、その部署に来たのは僕のほうがあとだったので、「なんであいつなんだ」ということになったなかで、「新任なので1on1してくださいね」と言われても……。自分のなかで、けっこう恐怖でした。「どうしようか」と思いました。

でも、リーダーだから1on1しないと(いけない)、という感じでやりました。これは研修でも話すお話なんです(笑)。さっきの「テーマを決める」ところで、「今、なににお困りですか」と僕が聞いたら、「あなたに困ってます」と……。

(会場笑)

言われました(笑)。今思い出しても、あの1on1は、開始1分くらいの出来事なんです。もう残り29分、僕はどう過ごそうか、と。

(会場笑)

考えながら過ごしましたね(笑)。「僕に問題があるとして、それを棚上げするようですけど、どうしたら一緒に解決できますか?」という感じだったんですが、「なに言ってんだ」という感じになってしまって(笑)。

(会場笑)

小金:3点目のお話が……自分の話をしていたら忘れちゃいました、ごめんなさい。

参加者3:上司との関係性ですね。

小金:あっ、上司がちゃんとしないとダメですよ、という話でしたね。上司がちゃんと育っていないと厳しいということでしたね。

1on1に臨むときの上司の姿勢としてけっこう重要なのが、「部下と競争しない」というキーワードが、ヤフー語にあるんですよね。(上司は)どこかでマウンティングをしちゃうんですよね。それを絶対にしちゃいけない。部下はそれに絶対気づきます。

おもねるのもまずいんですけど、部下にマウンティングをすると、それはただの上下関係になってしまって、内省支援や、自分の思っていることを話せる相手にはならない。それは気をつけることですね。

電話での1on1は「深い話ができる良さ」がある

小金:(会場のみなさんがツールを使って共有したキーワードを投影したスライドを見ながら)いろいろなキーワードが出ていますね。「目的」が出ていたので、「目的が大事だ」という話があったんですかね。あとはなんでしたっけ。「リモートワーク」と、どこかが書いていましたね。「ちょっと遠い」とか、「あまり顔が合わせられない組織で、1on1をどうするの」といった話がありましたね。

ヤフーも、フリーアドレスなので、どこにいるかわからないことも実はあるんですよね。あとけっこう出張もあるので、いないということもあります。それにリモートワーク・テレワークも推進しているので(いないことがあります)。

今日は対面でやることを前提で話しちゃいましたけど、1on1は電話でもできますし、もちろんチャットみたいなものでも、オンラインの画面でもできる。そういう方法でやることもあります。

最近気づいたんですけど、電話での1on1はけっこう深い話ができていいんですよね。お互いの顔が見えないので、なんて言うか、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」みたいな(笑)。暗闇のなかで話すのと近い感覚で、実はけっこう内省支援ができる、ということがあります。

観察や対話は、面と向かってでしかできないわけじゃないので、そんなやり方もあります、というお話でした。ありがとうございます。

最後に、まとめのお話をさせていただいて私のパートを終えたいと思います。

会社・仕事・働きかたは、そもそも矛盾やジレンマだらけ

小金:いろいろなお話をうかがえたんですが、最後に、こんな絵を見ながらまとめたいと思います。これは遊園地にある、回転ブランコと呼ばれる遊具ですね。ブランコが付いていてぐるぐる回るやつです。としまえんなどにもありますよね。

この絵を出してきた理由は、「遠心力」と「求心力」という話をして終わりたいと思ったからです。今は、職場の遠心力みたいなものが、めちゃめちゃ高まっている時代だと思うんですよね。冒頭の挨拶にあったようにVUCAで、正解がない時代のなかで、政府も主導しながら「キャリアは自立しなさい」と言われていて、働き方も本当にどんどん変わっていく。

ヤフーでも、会社のなかには正社員だけじゃなくて、契約社員や派遣さん、業務委託さんとかいろいろな雇用形態の方がいます。最近のフリーエージェントの方なども恐らくそうなんですが、プロジェクトベースで仕事をしながら、それが組織化していく。大企業もその変化のなかで、やっぱり安穏とはしていられないですよね。

そういった働き方をしている人たちと、どうパートナーシップを結んでいくか(という課題)もあります。ヤフーにも、副業をしている社員がいます。例えば、正社員だったけど、ヤフーを辞めて、業務委託としてヤフーと付き合う人も出てきています。いろいろな働き方があります。

そもそも正社員だっていろいろいますよね。本当に「この会社の社長になってやる」という勢いでコミットメントしている人もいれば、「なんとかして今日サボって1日終えよう」という人もいるでしょうし、やっているフリをして、実はこっそり副業のほうをすごくがんばっている人もいます。

いろいろな人がいるなかで、会社という1つの組織として仕事をしていかなきゃいけない。そのなかで今、社員一人ひとりの幸せは、絶対にやらなきゃいけない。「ウェルビーイング」と最近言いますが、これは会社の使命としてやらなきゃいけない。一方で、会社の成長は、そこにいる人で成し遂げなきゃいけない。遠心力と求心力ですね。

社員のキャリアを発達支援していかなきゃいけないですが、同時に会社の戦略を実行していかなきゃいけないときに、場面場面でいうと、必ずしも優先できない場面があります。

あとは一人ひとりの価値観は、バラバラですよね。さっき言ったような働き方とか、仕事への想いもバラバラななかで、組織の方向性は合わせなきゃいけない。会社のなかや仕事や働くことって、そもそも矛盾・ジレンマだらけなんですね。

理想的な1on1は、才能と情熱を解き放つもの

小金:最近ヤフー人事のなかでも、この2つのキーワード「遠心力と求心力だね」という話をしています。これは、別に戦うものではなくて、両方実現していくものですし、高度に両立させていく、統合していくものです。どう実現していくかな、というときに、1on1がこれらをきちんとつなげていくものになると良いでしょうし。

「どうせ求心できるから、職場の遠心力をぐんぐん働かせていこう」ということができるのが、1on1が1番理想的に回っている状態かなと思います。「どんどん副業してください」、「どんどん自分のキャリアのことを考えて勉強してください」としながらも、ちゃんと会社組織のなかで、ミッション・ビジョンを一緒に成し遂げるチームワークができている、というのが良いのかなと(思います)。

ヤフーも、これが必ずしも100点満点でできてます、とは言えないですが、1on1があることで、こういったことに近しい組織やマネジメントが行われている場面が増えてきました。

今日もいろいろなキーワードを話してきたんですが、ヤフーは1on1でなにをしたいのかを、ひと言で言うと「才能と情熱を解き放つ」ことです。イコールパートナーもこの先にしかないですし、会社のミッション・ビジョン、戦略の実現もこの先にしかありません。

一人ひとりの持ち味とやる気を、どれだけ引き出せるか。これはカッコいいし、あたたかい響きがあるんですけど、逆に怖い響きでもあります。「才能と情熱を是が非でも解き放ってもらうぞ」ということをヤフーは求めているし(笑)、そういう良い緊張感のなかで仕事していく限りは、ことを成し遂げられるのかなと(思います)。

ヤフーはこれを通して、最終的にはビジョンである「日本という国をアップデートする」を達成する、最新の状態に更新していく会社でいたいです。よく「特定の業界で世界一になろうという会社じゃなくて、日本という国を世界一の国にしたい会社だ」ということをカッコよく言うんですけど(笑)。

それを目指している会社ですし、自分自身もそんな想いで日々仕事しています。すみません。実は時間延長して長くやっちゃったんですが……(笑)、以上とさせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

「1on1文化」が醸成されたヤフーの変化

司会者:10分ほどの短い時間にはなるんですが、ヤフー小金様への質疑応答の時間に移りたいと思います。

(会場挙手)

参加者4:コンサル系をやっています。よろしくお願いします。

小金:よろしくお願いします。

参加者4:大変参考になるお話、ありがとうございます。1on1を導入する前の話は、先ほどのご説明にあったんですけど、導入したあと、どんなふうに人財開発企業になっていったのかについて、会社の雰囲気や具体的な施策、予算も含めてうかがいたいです。

もう少し違うお話をするなら、離職率がどうなったか、といった具体的な変化をもう少しご説明いただけるといいかなと思うんですが、いかがでしょうか。

小金:ありがとうございます。1on1を導入後、2年くらいはけっこう苦しい時期が続きました。さっきお話ししたような反発のほうが、どちらかというと声が大きくて。さっき「いろいろな施策を通してやり続ける」という話をしましたが、3~4年くらい経った頃から、徐々に理解・浸透が広まっていきました。

アンケートを取ったんですが、そのときには全社員の90パーセントくらいが、おおむね1on1をちゃんとやっているし、「なにがしか効果的である」ということを理解してくれて浸透してきました。

1on1の話をすると、そのあとちょっとずつ自走し始めるということが起こりました。単純に上司・部下の1on1だけじゃなくて、眺めていた隣りの上長に1on1してもらうとか、横同士でするとかですね。あとは、自分でコーチングを学んだ人が、全社員が見える掲示板に、「私、どなたとでも1on1しますよ」といった感じで(書いて)、1on1をするということがありました。

1on1文化がその場で徐々に醸成されるというのが、変化の1個でした。それ以外の変化についてはなんとも言えないです。ヤフーの離職率は基本的にずっと低いままなんですよね。なので離職率が低いことに、必ずしも1on1だけが影響したのかはわからないです。

一部の社員から聞こえてきた話にはなりますが、「1on1を通して腹を割って話ができる人がいて、その人がメンター的に働きかけてくれたから、一番大変な時期を越えられた」ということは起こりました。なにかしら影響はあったかもしれないと思います。

最大の学習効果は「変化への耐性」が身につくこと

小金:あと言えることは、年に1回、「ジョブチェン」という、手を挙げて社内の異動ができる仕組みがあるんですけど、恒常的に一定数の手が挙がるようになりました。今いる部署に不満がある方もいるかもしれませんが、自分がやりたいことに手を挙げる人が増えて、ずっと減らないで一定数いる。

実際はそのあとにセレクションがあるので、必ずしも全員が異動できるわけじゃないんですが、その仕組みで異動したあとに、「才能と情熱を解き放って」仕事をしている人がいっぱいいます。自分も実はその一人です。

そういった人が一定数ずっとい続けているというのは、1on1の効果もある程度はあるだろう、と思います。すみません、あまりお答えになっていないですね。

参加者4:いえいえ、ありがとうございます。導入前に売上がすごくサチュレートしてきた、成長率がちょっと伸び悩んでいたと先ほどおっしゃってたじゃないですか。

小金:はい。

参加者4:「結果が出るにも2年かかってけっこう苦労された」という今の話もそうなんだろうなと思います。2011年から7年も経過しているので、売上の変遷が見られるとすごくおもしろいかなと思ったんですが、それはデータを取っていらっしゃらないのでしょうか。

小金:IR情報で公開してるものは、どなたでも見ていただけます。概況でお話すると、その後も連続で増収を続けてます。利益は今も大きな成長曲線を描けているわけではありませんが、今は戦略的に挑戦をしているので、増収とその先への投資をしているというフェーズですね。

個人も組織も、振り返りや学習することが癖になってくると、「変化への耐性」が一番変わるんですよね。挑戦をしなきゃいけないときにちゃんとできるとか。この春もそうですけど経営者が変わったときに、大きな組織であっても、方向性の舵を変えられる。その変化への耐性がつくことが、実は1番の学習効果なのかなと思います。

ヤフーは6,000人の規模の会社にしては、変化への耐性や速度のスピードが保てている会社なんじゃないかなと思います。

参加者4:わかりました、ありがとうございます。

小金:ありがとうございます。

(会場拍手)

司会者:ほかに(質問がある方いらっしゃいますか)……。

(会場挙手)

1on1に累計10数万時間をかけてきた、ヤフーの経営判断

参加者5:ありがとうございました。1on1を導入した当初と現在で、KPIとしてなにをベンチマークとされていらっしゃるのかをうかがいたいです。

それと「才能と情熱が解き放たれている」ゴールを、どのように判断されているのか……。要は、「去年より素質が増えたね」とか、「相対的に上がったね」とか。なにをもって、それが達成できていると判断されていらっしゃるのかを教えていただければ(と思います)。

小金:1on1を語る上で必ず出るご質問ですし、1番答えが難しい質問の1つですね。「どんな指標が上がったら効果があったと言えるんでしょうね」という質問に対する答えは、1つじゃないです。

端的に言うと、さっきの話の繰り返しになっちゃうんですけど、辞める人が増えてはいないとか、手を挙げて仕事を変える人が増えたと、数字で言うことはできます。当然ですけど、人財開発というのは変数が多いなかで、それが必ずそこに起因したとは言い切れないので、なにをKPIとするかは難しい。

1番のKPIは、1on1に社員自身が効果を感じて、自律的に取り組み続けていること、1on1そのものが続いているということ。数字でいうと7年間、この取り組み自体が続いているということは、1つあるでしょうし、社員数で数えると、会社のなかで単純に累計で10数万時間くらいを、コストとしてかけてるんじゃないかと思います。

すごいコストだと思うんですけど、それを会社が意志を持ってかけ続けるという経営判断ができているのは、今の効果と言えば効果です。直接的に言えることは少ないので、ここではこういう回答をさせてください。

参加者5:実施率と満足度。

小金:そうですね。

参加者5:それぞれの定性的なフィードバックとか(あるのでしょうか)。

小金:そうですね……やっていることはシンプルに「対話をしている」というだけなんですよね。例えばご結婚されてる人だったら、「奥様や旦那様と頻繁に対話をすることになったことのKPIは、なにが良かったんですか」といったときに、答えることはきっと難しいと思うんですよね(笑)。

会社のなかだと、どうやってもビジネスドリブンで、なんの数字が上がったのかはあるんですが、1on1も「なんの効果でやっているんですか」ということを問い詰めていくと、「やらない」という選択肢が容易に浮かんでくる施策ですよね。

なので甚だ定性的にはなりますけど、経営者が意志を持ってやらないと、たぶん成立しない施策だと思います。

参加者5:ありがとうございます。

(会場挙手)

「会社が成長するためになにを変えるべきか」という選択

参加者6:ありがとうございました。2点、ご質問させていただければと思います。先ほどのお話にも関連するんですが、1on1をやるとか、人財開発自体が経営的な成果にどれだけ直接的に結びつくかが見えにくいなかでも、「脱皮しない蛇は死ぬ」という大枠の構成のなかで「人財開発企業になる」ことを決められた背景には、どういったものがあったのでしょうか。これが1点目の質問です。

2点目としては、1on1の質を弊社も改善していきたいなと思っているなかで、御社はアセスメントで具体的にどういった項目を取っていらっしゃるのか。そして、それを上司の方にどういった形式でフィードバックされていらっしゃるか。例えば実名で、「誰が」「どういったような値を付けている」といったことまでしているのか。匿名化してマクロなデータとして渡しているのか。判定についてお教えください。

小金:ありがとうございます。1点目は、なにをもって「人財開発企業になる」ということをぶち上げたのかについてですね。端的に言うと、会社自体がさっきの「変わらないといけない」という状態に追い込まれていたというのがありますね。

それまでも人を大事にしていなかったわけではないんですが、ヤフーのサービスがどんどん成長していって、新しい人をどんどん入れないと回せない、といった感じでした。

サービスはリリースして終わりではなくて、そのあとも改善をしていかなきゃいけないので、エンジニアやビジネス系の職種の人たちが、どんどん入社してきてた時期でした。なにが起こったかと言うと、私が入社したのが2006年なんですけど、中途入社した初日は、みんな忙しくて、ほとんど誰にも相手されないんですよね(笑)。

「パソコンの設定をしたのと……私はなにをしたんでしょう」といった感じで1日が終わって(笑)。(初日が)終わったときに、中途で入社した同期と一緒に「この会社、ぜんぜん僕らのことを相手にしてくれないよね」と言っていました。放置プレイと言われたんですけど、そういう時期がありました。

余裕もなかったですし、とにかく人がいて、一人ひとりががんばってくれれば数字が伸びていたので、あまり「才能と情熱が~」といったことは言ってなかったんです。

さっき言ったことですが、会社が変わらないと大きな成長を描けない、とわかってきたところで、なにを変えるのかということになりました。「新しい事業に投資するのか?」「それとも事業会社を買ってくるのか?」「今一緒に働いている仲間の力を解き放つのか?」それで、3つ目の選択肢を重視したのが、そのときの状況だったかと思います。

「遮らずに聞いているか」「ちゃんと質問できているか」

小金:2点目はアセスメントの項目に関してだったんですが、実は大きく分けて、たぶん3フェーズくらい、設問の内容を変えているんですよね。それもさっきの変化の話ですね。1on1の導入時は、管理職にもまだ慣れていない人が多かったので、「週1回ペースでちゃんとやってくれてますか」とか(笑)、「ちゃんと話を遮らずに聞いてますか」といった具体的なことを聞きました。

あまり格調高いことと言うよりは、「遮らずに聞いてるか」「ちゃんと質問できてるか」といったことですね。「ときどきキャリアの話を織り交ぜることができてるか」「コーチングをちゃんと使ってるか」といったことも、いろいろと聞いていました。

徐々に慣れてきて、言語も整ってきたら、「内省支援をちゃんとしてますか」とか「フィードバックを織り交ぜていますか」といったことへ、だんだん変化していきました。それで、あまり回答がしづらくないように、4~5問で聞く。そして、バイネームじゃないんですけど、チームに5人いたら、「5人のうち3人は4点、1人は2点、1人は1点を付けてます」ということが可視化されるように書いて、あとは平均スコアが書いてある。そんな内容でした。

なので「1点を付けているなら、きっと関係性悪いあの人だな」といった感じでわかるくらいには、解像度がある状態で返されていました。(こういった回答で)大丈夫ですか。

参加者6:はい。

小金:ありがとうございます。

司会者:すみません、ちょっとお時間の関係で……。

小金:ごめんなさい。僕が喋り過ぎているんですよね。

司会者:いえいえ! ラスト1名。後ろで先ほど手を挙げていただいた方……はい、ありがとうございます。最後の質問にさせていただいて、まだ聞きたいことがある方は、懇親会でぜひ聞いてみてください。すみません。

人は「渇望感」がないと、物事を体得しようとしない

参加者7:今のお話につながることかなと思うんですけども、人の話を聞くのはかなり難しいと思うんですね。「こういうことを聞いたらいいよ」ということで終わったのか、導入研修や検証の研修といったことをされたのかうかがいたいです。

あと、自分に足りないものがあったら研修する、というサイクルを回す話があったんですけれど、今ヤフーさんはどういうサイクルを(回しているのか)……。とどまっている人もいるのか、すごく回って継続していってるのか。そこらへんの状態がどうなのかというお話を聞きたいです。

小金:そうですね……。1点目が、傾聴が難しいですけど、どう支援したかということですね。これは難しいんですが、傾聴をちゃんとするためのコーチングの研修はしています。何回も出てきますけど、「渇き」みたいなものが必要なんです。

要するに、「新任になりました、1on1してください、コーチング受けてください」というときの研修は、どうしても(聞く側が)「ハイハイ傾聴ですね」という感じになっちゃうんですよ(笑)。

大事なのが、結局半年間1on1をして、期末に……ついこの間終わったんですけど、評価フィードバック研修というのをやっているんですよね。いよいよ新任のマネージャーが、初めて評価のフィードバックをしなきゃいけない。

メンバーのなかの誰かには、ネガティブなことを含めて言わなきゃいけない、といったときに窮地に立たされる。そうした渇望を感じているときに言う話ですかね。そういうことで支援してますね。

「この半年間、どれくらい部下の方の観察をして、話を聞いて、本人の想いなどを聞き出しながら支援してきましたか」とか、「コンディションを見ながらどれくらい厳しいことを言ってこれましたか」といったことを聞いたときに、傾聴できていないと相手の状況がわかってないんです。

期末になっていきなり厳しいことを言わなきゃいけない。「なんで半年間も週1回話しているのに、言ってくれなかったんだ」ということになっちゃうこともあります。

答えになっているかわからないですが、傾聴自体は大事だとわかっていても、渇望感がないと、人はそれを体得しようとはしません。個別の話になりますが、そういう瞬間を掴まえて伝播していくしかないのかなと思ってます。

あともう1個は、良い1on1をする上司がいると、良い1on1をする部下が育つ。高いレイヤーの人ほど、良い1on1をしてるかな、ということはちゃんと見るようにしてますね。そこはサポートするようにはしています。

司会者:ありがとうございました。みなさま、改めて小金様に大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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