2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
成長期のPRに求められる社会との向き合い方(全1記事)
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原隆氏(以下、原):みなさん、こんにちは。ここからはパネルディスカッションで、成長期のPRに求められる社会との向き合い方というテーマで、お話をしていきたいと思います。まず私、モデレーターを務めさせていただきます原です。日経BPの『日経FinTech』という媒体で編集をしています。
FinTechについては今日は関係ないので、あくまでもメディアとしての立ち位置で、みなさんにお話をおうかがいできればなと思っております。最初に、尾上さんから自己紹介をお願いしてもよろしいですか。
尾上玲円奈氏(以下、尾上):こんにちは。井之上パブリックリレーションズの尾上玲円奈と申します。井之上パブリックリレーションズでは執行役員を仰せつかっているんですけれども、会社の事業や仕組みを考えたりするとともに、クライアントのサポートをさせていただいています。
もともとNHKにいまして、あと、国会議員の秘書をやっていたこともありました。そういう経験を活かして、メディア・リレーションズやガバメント・リレーションズ、総合的なパブリック・リレーションズをお手伝いするというのが、今のミッションとなっております。
あと今、パブリック・リレーションズは、特に大学やアカデミアの世界で教える人が少ないということもあって、早稲田大学で、パブリック・リレーションズの授業をやっています。ここにいらっしゃる原さんにもゲスト講師で来ていただいたり、矢嶋さんにも前の会社の時ですけれども、ゲスト講師で来ていただいたりしております。
パブリック・リレーションズについて研究している人もすごく少ないということなので、大学院で研究したいなと思ってパブリック・リレーションズの研究をするために東京大学の大学院にも通っています。今日はよろしくお願いします。
原:はい、ありがとうございます。じゃあ次は高木新平さんお願いします。
高木新平氏(以下、高木):はい。高木新平です。よろしくお願いします。僕は今、NEWPEACEという会社をやっております。
これはビジョニングカンパニーといって、ビジョンをつくることを仕事にしています。僕自身はPRの専門家ではなくて、その証拠に尾上さんにゲストスピーカーで呼ばれていないんですよ(笑)。
僕は2010年に博報堂に入りました。そこですごく気合を入れてがんばっていた仕事が原発のPRだったのですが、3.11が起きてしまいました。そこで、自分のいる社会をもうちょっと良くできると信じられることを広げていきたいというか、自分なりの信念で社会を仕掛けていきたいなと思い、(会社を)1年で辞めてしまいました。
その後、コンセプト型シェアハウスを全国で立ち上げたり、ネット選挙の解禁ムーブメントを仕掛けたり、また東京都知事選で家入一真氏の選挙キャンペーンをやりました。最近で言うと、小泉進次郎さんの委員会のコミュニケーションなどをやったりしています。広告というよりも、社会にメッセージングをつくっていく、新しい日本を仕掛けていくというのを生業にしています。それは、企業にとっても社会に対して何か新しいことを、ビジョンを示していくことがすごく重要な時代だと思っているからです。
例えば、DeNAの自動車参入のタイミングで、自動運転を高齢化した過疎地域を救うツールとしてプレゼンテーションしたり、シェアリングエコノミー協会の立ち上げや永田町のど真ん中に「GRID」というシェアビルをつくったりもしています。
また最近ではエシカルなジュエリーを扱うHASUNAさんと一緒に、結婚制度の外側にいるすべての関係性を祝福するリングをつくったり、ゲイツ財団さんと一緒にSDGsという世界の格差是正キャンペーンを行ったりしています。
そうやっていろんなアイデアを通じて、20世紀的な価値観を問いなおすことを生業にしています。よろしくお願いします。
原:はい、ありがとうございます。それでは矢嶋さんお願いします。
矢嶋聡氏(以下、矢嶋):はい、こんにちは。メルカリの矢嶋と申します。私は昨年の10月にメルカリに入社しました。それまではLINEという会社で、8年半くらいマーケティングや広報、コミュニケーションの仕事をやっていました。
LINEではサービス立ち上げ時の広報から、グローバルPR、リスク対応、日米同時IPOの広報対応などさまざまな仕事を経験させていただき、一定の成果というか、達成感を得ることができました。
その後、LINEで学ばせていただいた経験をもとに、ネクストベンチャーというか、世界に向けて挑戦していく会社で改めて自分の力を試したいなと思い、メルカリに入社し、今やらせていただいております。よろしくお願いします。
原:はい、ありがとうございます。今日のテーマは「成長期のPRに求められる社会との向き合い方」となっていますが、我々もメディアで仕事をしていて、対峙する役割の方がPRの方ということは多いです。ですが、PRとは何かという問いに答えると、人によってぜんぜん違うというケースが多々あるんです。
例えば、「PRについてちょっと教えてください」という話で呼ばれて行くと、「プレスリリースはどうやって書けばいいんですか?」という人もいらっしゃれば、「もっとメディアに載るにはどうしたらいいんですか?」「もっとソーシャルメディアを使って、どういうふうにコミュニケーションをとっていけばいいんでしょうか?」という人もいらっしゃいます。
人によってPRの定義であったり、どういうふうに捉えているのかが、かなり違うなというのがメディア側から見た時の個人的な印象です。まず矢嶋さんにお伺いしたいのですが、まずLINEで経験をして、今メルカリでやっていますが、「PRとは何ぞや」と言われたらどう答えますか?
矢嶋:教科書的に答えると「ステークホルダーとの関係構築」ですね。これは「リレーションシップマネジメント」とも呼び、会社やサービスの価値をメディアを介して情報発信し、共感者を増やすことを意味します。その一方で、メディアを「世の中を映す鏡」とするならば、メディアの論調や記者のダイレクトな意見から透けて見える社会からの要請や声に耳を傾け、それを社内に対してフィードバックしていく意味や役割もある。PRとは、そういった双方向のコミュニケーション活動だと思っています。
私のバックグラウンドというか、立ち位置というところで言うと、私自身、LINEとメルカリの2社でPRを経験して思うのは、ベンチャー企業の存在意義は「新しい価値やイノベーションを創造し、社会に問うていく」ということです。当然ながら、世の中に新しいものが登場するときは、社会に摩擦が起こります。
原:心がこもってますね。
矢嶋:そうですね(笑)。それでも自分たちが目指している世界を実現するために、PR活動を通じて、社会としっかり対話し、適切に合意形成を図ることが大切です。単に知ってもらうだけでなく、ステークホルダーと中長期的な関係を築き、ファンになってもらうことがPRの本質だと考えています。
原:ありがとうございます。高木さんいかがですか。この前ちょっとお話した時に、PRをかなり広義に捉えていらっしゃるなという印象がありました。
高木:ぼくはPRをこのスライドのように捉えているんです。これまでの企業のコミュニケーションというのは左の図のように、顧客に対しては広告などのマーケティング、社員などに対してはHR、株主などに対してはIR、といった具合にはっきりと分かれており、個別に最適化されていた。でもいまは、企業を取り巻く関係者間のコミュニケーションが透明化しているから、境界線がなくなりつつあると思うんです。それをビジョンベースで広げていくのがPRだと捉えています。
例えば、広告でユーザーに対してものすごく良いことを言っても、もしそれが嘘だった場合に、社員からすると「嘘じゃん」みたいなことがSNSで出てたりするんですね。
原:表面に対してはすごく良いメッセージを出しているけれど、中はちょっと違う。
高木:そう。そのほかに、すごく(境界線が)溶けているなと思うのは、例えば僕もそうなんですけれど、これまで株価をぜんぜん気にしなかったのに、ネットとかで株価をすごく見るようになったりしていて、気が付くと、クラウドファンディングもそうですが、顧客と株主の間みたいな存在が出てきて、そこにコミュニケーションが発生している。
あと、顧客と社員の間もそうですね。ツイッターで応援することも含めて、社員的な活動だったりするじゃないですか。あと、株主と社員の間もある種、いろんな業務提携があったり、大きい会社がベンチャーを、株を買ったりする時には、株交換もあったりしますよね。
そういうことを考えると、その境目が溶けてきている中で、その1個1個に個別のコミュニケーションをするというのでは、ぜんぜんダメだと思うんです。企業の真ん中のもの、それを僕はビジョンと言っているんですが、そこから同心円状に広がる必要があると思っています。どこから見ても、「この会社はこうだよね」というものが伝わっていて、それが良いサイクルに回り始めると強いですよね。
今ZOZOとか、まさにそういう無双状態に入っていると思いますが、だからこそこのタイミングで「Be unique, Be equal.」というビジョンをちゃんと打ち出していく。それは新規事業のzozo suitも体現しているし、以前より取り組んできた6時間労働、ボーナス均一にも通じている。さらにアートやスポーツなんかもまさにこのビジョンを体現したPRになっている。
高木:(スライドを指して)事例で、一番最後のページ出せますか? これはみなさんもちょっと知っていると思いますが、1つだけ。REIというアウトドアメーカーがあります。これはアメリカのアウトドアメーカーで、アメリカではブラックフライデーという、みんなが大好きな超安売りセールがあります。
これは2年前くらいの事例ですが、70%、80%オフという看板やポスターが街を埋め尽くすタイミングで、「#OPT OUTSIDE」(アウトサイド)、私たちはセールしません、むしろ休みます。という宣伝をした。
これは要は「休みましょう」という話なので、社員に対してのコミュニケーションなんだけれど、もちろん顧客にも向いていて、アウトドア好きな人たちが、「アウトドアに出ようぜ」という動きになっていくんですね。
それで、この呼びかけをすると、100以上のアウトドア系の施設が無料開放をして、どんどんその流れに乗っていって、ブラックフライデーはみんなでアウトドア行こうよ、みたいな流れになっていったんです。それがどんどんニュースになっていって、市場も反応していくという循環が起きていった。これこそが、本質的なPublic Relationsですよね。
つまり、(PRは)今までは広告の下だったり、または広報と呼ばれるものだったけれど、実はもうちょっと企業の真ん中に立って、社会全体をどう循環させていくかをデザインする人なんじゃないかなと思っています。そういうものが今、どんどん出てきているなという印象はありますね。
原:ありがとうございます。先ほど矢嶋さんがおっしゃっていたステークホルダーが、今のお話だと、溶けていくというか、いわゆる社員と株主といった境目がなくなっていく。そういう捉え方をされていらっしゃるということですよね。
高木:そういうことです。
原:そうですね。ありがとうございます。尾上さんいかがですか? 例えば、大学で学生に向けてPRについて話す時は、最初から話さなければならないし、もちろん学生には「PRとは何ぞや」ということを、何も知らないところから伝えなくてはいけないと思うんです。
尾上:そうですね。おっしゃる通りで、実は僕も井之上の講義を大学で初めて受けて”PR”のことを知ったんです。パブリック・リレーションズ概論と書いてあったんですが、なんのことかさっぱりわからなくて。シラバスの真ん中の方を見ると、メディアとか、広告との違いとか、リレーションシップ・マネジメントとか、いろいろ書いてあるんですけれど、なんとなく今後、自分が進む道に関係があるかもしれないなと思って授業を取ったんですよ。
そうすると、「PRというのは、本当はパブリック・リレーションズのことなのに、みんなプロモーションかなにかのことだと勘違いしていて、だから日本はダメなんです」みたいな話を井之上先生はしていたんですよね。最初はPR=パブリック・リレーションズだということもぜんぜんわからなくて、でもそう考えると何かうまくいくような気もして、最初はうまいことを言う先生だと思って話を聞いていたんです。
2回目の授業でも3回目の授業でも「PRはパブリック・リレーションズの略なんです」という話をされていたので、その時に持っていた電子辞書の略語辞典でPRを引いてみたら、=パブリック・リレーションズと出てきて、「ああ、だから日本は世界中で負けるんだ」と思ったんです。その時の衝撃は今自分が教鞭をとっている授業でも冒頭で伝えるようにしています。
僕が卒業したのは15、16年前くらいなんですけれど、今の学生は僕の頃と違って、その時から比べるとPRのことを知っている人が多い。「PRはなんのことだか知ってる?」と最初に聞くようにしているんですけれど、「この人、何言ってるんだろう」くらいの感じで、むしろ当たり前に「パブリック・リレーションズですよね」と言うんです。
「なにかの引っ掛け問題かと思った」みたいな感じで反応されるんですけれど、今の30代、40代の人が「PRは何か」と聞かれて答えられない人が多い中で、10代20代の子たちは、「高校の先生が言ってました」とか「本で読みました」とか「ドラマによくPRの人が出てきます」とかで知っているんです。アメリカのドラマだと、PRの職業の人がけっこう出てくるんですよね。
原:じゃあ昔と比べると、PRの浸透が進んでいるということですね。
尾上:そうですね。何をどこまでやるのか、みたいなことを知っているかどうかは別として、パブリック・リレーションズですよね。僕らの世代が捉えているような、「プロモーションとか、宣伝活動とか、広告ですよね」みたいな、残念なことは少なくともないですね。
原:例えば、井之上パブリックリレーションズでは、いわゆる企業からのPRを受けることがあると思うんですが、何をしていいかわからない会社からご相談がきたりしますよね。「そもそもなにから始めればいいですか」みたいな感じなのでしょうか。
尾上:そうですね。いろんなパターンがあります。最近は「いろいろできると聞いたんですけれど、こんなこともできますか?」「例えば法律の改正を目指しているんですけれど、そのためのコミュニケーション戦略を立ててもらえるんですか?」というところからご相談いただいたりします。「これを顧客にもっと買ってほしい」というところもあるし、「危機管理で、今こんなことで世間から非難されていてまずい」とか、いろんな入り方がありますね。
原:ありがとうございます。今回のテーマは、「成長期における」というところが肝かな、と思っています。我々もメディアとして、スタートアップと話をすることもあれば、上場してもう何十年も経つような大企業と接触することもあります。
その会社のフェーズによって、かなりPRの位置づけが変わるなと思っているんですが、矢嶋さん、以前はLINEにいて、今はメルカリにいるということですが、メルカリに入社した時は、だいぶ少ない人数の時ですよね。メルカリではどうでしたか?
矢嶋:私が去年の10月にメルカリに入った時は、PRのメンバーが2人しかいなかったんです。去年の4月に発生した現金出品問題や不正出品問題報道というのがちょうど顕在化していた時期で、私が入社した時にも、まだ火種が残っている状態でした。週に1、2件くらいはそういう問題に対して新聞の社会部から問い合わせが来るという状況でした。
原:LINEもメルカリも、そういった意味では、成長のスピードが非常に早いタイミングで、どんどん変わっていくような時期に身を置いていると思うんですけれども、PRの位置づけは、その過程で変わっていきましたか?
矢嶋:そうですね。どちらかというと、私が入ったタイミングで大人の対応というか、世の中とどう適切に関係性をつくっていくか、対話をしていくか、まさに合意形成というフェーズに変わったなと思っています。それまではどちらかというと、「ネット業界のイケてる企業」だったんです。
ネット業界の中では「ユニコーン企業」と呼ばれ、優秀な社員がたくさん入ってきて、上場観測報道もあって注目されていた状況で、広報対応も様々なメディアからの問い合わせに対してリアクティブに対応していくというのが主だったと思います。
そのネット業界の中での見え方と、世間の見え方に乖離が出てきたというところは、まさに大人の階段を上っていくフェーズだったのかなと思っています。そのタイミングで、ちょうど私が入ったんです。そこから、じゃあどういうコミュニケーションの仕方に変えていったらいいか、というのを考え、徐々に変えていったという感じです。
原:メルカリに入って今、1年くらいでしたっけ?
矢嶋:9ヶ月くらいですね。
原:PRの立場として、この9ヶ月で一番つらかったことはなんですか?
矢嶋:そうですね。つらかったこと。あんまりないです。
原:つらいことがない人なんですね(笑)。
矢嶋:私が入った段階で、まず最初にやったことは、「ネット業界ではイケていると言われているかもしれないけれど、世間的にはそうでもない」という現状を社内に知ってもらうことからはじめました。
今の現状をちゃんと知ってもらって、そこをスタート地点として、そこからメルカリとして目指すべきパーセプション(=認識)イメージを規定し、どういった広報活動を行うべきかというロードマップを逆算的に作成したんです。当然ながら、当初はメルカリという企業に対して良くない印象を持たれている記者も少なからずいたので、個別のレクチャーや勉強会、懇親会などを通じて少しずつ関係を築いていきました。
原:外から見ていると、LINEやメルカリ、その経営陣も含めてPRの重要性をかなり理解している会社だなと感じるんですね。多くのPRの人たちと話をしてよく出てくるのが、「経営陣がそもそもPRの重要性を理解してくれない」という社内の壁なんです。
例えばそこをフィードバックしたい、外に出していきたいけれど、なかなか社内が協力的ではない。かなりそういうケースがあると思うんですよね。それこそ、高木さんがおっしゃっていたメッセージ、ビジョンというところで、これは経営と一緒にかなりしっかりと考えていかなければいけないことだと思います。
原:その一方で、PRが「ビジョン、メッセージが大事だ」と言っても、なかなか経営者が理解してくれない。これはどうすればいいでしょうか。
高木:そうですね。大前提として、PRは経営と連動するので、どのステークホルダーにコミュニケーションの穴があるかを認識するのは重要だと思うんです。
たとえば、今回のセッションテーマである「成長期」ってことだと、メルカリの場合はユーザーから圧倒的な支持を得ていながら、一部のメディアや行政とはぶつかり合うというか、同じ視点を共有できていない状況がありますよね。
アメリカ的な比喩でたとえるなら、東西の対立です。西海岸(SF)と東海岸(NY)には、西のリベラル、東の保守という構造があります。そして東側に、既存のルールを担っている金融や政治の機能がある。
これは東京でも同じで、メルカリはベンチャーが多く集まる西を代表する企業でしたが、いまはマザーズという境界を飛び超えて、東証一部企業が集まる東へと移動していくイメージです。そこは財閥的な世界ですから、変革だけでは足りず、むしろ社会的大義をどのように身にまとうかが鍵になるんです。
高木:(東側には)中央官庁もありますよね。DeNAで自動運転を仕掛けていくときに、法案の壁があるじゃないですか。経済合理性だけで突破しようとしても、いろんなものを敵に回すだけだと思ったんです。
基本的に既得権益のある人たちは、それを守ることが仕事だったりします。そういう中で、彼らを巻き込まなくてはいけない。だけど、自動運転で都市部をバーッと走らせて事故が起きたら一瞬で終わりじゃないですか。自動運転の産業自体が終わってしまうかもしれない。
だからそれを、これ最初はロボットタクシーという名前だったんですけれど、「人のいないタクシーで、人のいるまちをつくる。」というものを掲げて、過疎地域を走らせるというプロジェクトになったんです。自動運転でテイクオフだから、移動弱者と言われるような人たちの生活を救える。でもそれは最初、理解されなかったんです。
「そんなことやっても、ニッチなマーケットでしょ」と言われる。でも、それで巻き込めるゾーンは大きい。顧客と直でコミュニケーションできるのは、集落に行っても60人くらいしかいなかったりするじゃないですか。
だけど、それを仕掛けることで、巻き込める東側や、中央官庁の人たちがたくさんいる。そうすることによって、すごく応援してもらえるかたちになる。
その後、「Anything, Anywhere」というビジョンになって、そういうものを掲げてやっていたら、いろんな自治体から「一緒にやろう」となって、クロネコヤマトや日産と提携が進みました。
そうすると、ソフトウェアやサービスオペレーションはちゃんと入れなくちゃいけない。じゃあ、そこの部分はDeNAの得意な領域だから、いわゆる巨大な産業と手を組むという話になっていきました。すごく上手くいったなと思っているのですが、そういうことだと思うんですよ。
高木:メルカリさんのカンファレンスなので、メルカリさんの話をすると、ちょっとどこまで言っていいかわからないですが、もっと大人の人たちを巻き込もうとしているわけですよね。
そういう人たちは何が好きかというと、歴史と権威なんですよ。だからスポーツは最高なんですよね。だから今スポーツのスポンサーをされていると思うんですが、これは正しいんですよ。
原:正しい選択なんですね。
高木:正しい。経済合理性で、顧客や社員は、ある種の市場は突破できるんですが、実はそうじゃない世界のほうが広いというか、株主はそうかもしれないけれど、ざくっとしたこのいろんなところにいる人たちはけっこう難問で、その対策として美術館をつくるとか、そういうものを仕掛けていく。
そういうのをPRで考えると、どういうところに穴が空いていて、どう埋めていかなくてはいけないかを考えるのが大事だと思います。PRというものは、さっきも出ましたが、いかにニュースに掲載してもらうとか……。
原:そういうことではないと。
高木:日経に出たらいいという話じゃないんですよ(笑)
原:そういうことですね。なるほどね。尾上さんは、いろんな会社を外から見ていらっしゃる中で、メルカリという会社をどう見ているんですか?
尾上:いや、経営陣が素晴らしいですよね。PRに対して、日本語で言うところのPR、すごく表面的な宣伝とか、都合の良いことだけを伝えるという感じではなくて、本質的なパブリックリレーションズ、社会とどう関係していくのかというところを、しっかり見ていらっしゃるなと思っています。そこに矢嶋さんも加入されたので、ますます大丈夫なんじゃないかと思っています(笑)。
別にヨイショの意味ではなくて、本当にそう思っています。でもベンチャーはそういう会社が増えているんじゃないかなと思いますし、一方で、大企業はすごく心配ですね。
原:大企業のPRのほうが心配ということですか?
尾上:そうですね。パブリックリレーションズという全体の包括的なイメージからすると、広報というすごく矮小化されたメディア対応オンリーみたいな感じですよね。まさに日経に載せておけばいいみたいな。
原:まさか壇上で、こんなに日経が責められるとは思いませんでした。でも、ハートが強いので大丈夫です。
(会場笑)
尾上:いやいや、それだけレガシーな会社の人たちからの信用性が高いということですよね。それはすごいことだなと思いつつ、「でも本来の目的ってなんでしたっけ?」と考えてしまうんです。例えば主婦ターゲットの商材を売る会社の人が日経新聞に載せたら、それで主婦は買うんでしたっけ? という話なんです。
高木:そうなんですよね。先ほどの「西から東へ」という話と同じで、経営戦略として「誰の共感を集めていくのか」という地図を持ってないと、PRという手段が目的化してしまう。SNSも同じように、目的なくはじめてしまう企業が多いですよね。でもSNSはもっと複雑でリアルなコミュニケーションなので、「どういった人に使ってもらうべきか」「どういった人を巻き込でいくべきか」がわかっていないと効果的な運用なんてできないですよ。
尾上:だいたい「リスクがあるでしょう」という話からくるんですよね(笑)。
原:リスク?
尾上:ソーシャルメディアです。使うと炎上するんじゃないかとか、確かに使い方を間違ったら炎上しますけれど、(ソーシャルメディアを使わなくても)サービスのコンセプトを間違ったら炎上するかもしれないし、顧客対応を間違ったら炎上するかもしれない。
企業として社会に関係している以上、既になんらかのリスクは取っているわけです。なのになぜ、コミュニケーションということになると、炎上をそこまで恐れるのかなと思うんです。
心配があるんだったら、何をしていくべきなのか、本質的なことを考えていけば炎上から遠ざかれると思うんですけれど、本質的じゃないことでごちゃごちゃやろうとすると、炎上につながります。
原:最近見ていると、メディアも確かにそうかもしれないけれど、ソーシャルメディアのほうがアンコントロールというか、なんでこんなことで炎上してインスタ消さないといけないんだろうとか、そんなケースが多いじゃないですか。ああいうのは高木さんはどう見ていますか? ソーシャルメディアは、前はそこまで過激な反応はなかったような気がするんです。
高木:僕は、まず発信する側がスタンスをとってないのが問題だと思うんですよね。自分たちにとって誰がターゲットなのか。それ以外からはどんな意見があってもいちいち気にしないというか。テレビに対して数人のクレーマーがくると番組が終わってしまう、みたいなことと同じだと思っています。でも、テレ東みたいなスタンスをとっていると……。
原:また日経グループが……。
高木:(笑)。良い意味で、ですよ。良い意味でスタンスがはっきりしている。
高木:企業としては、「こういうスタンスで、こういうものを伝えるためのアカウントだ」というものがあれば走り続けることができると思うんです。でもそれがないから、いかに「いいね!」を集めるか、ユーザーから気持ちいいリアクションを集めるかになってしまう。そしてネガティブがあった瞬間に全部がダメになってしまう。そんなことのような気がしますよね。結局メッセージがないんだと思います。
尾上:高木さんがやっていらっしゃるように、コンセプトづくりがしっかりしていると、きっと何か言われても「いや、こうなんで」とはっきり言えるはずなんですけれど、取り下げるということは、「やっぱりそうだったの?」みたいな感じになりますよね。
大きな企業の中で、何を議論してこのCMをつくったんだろう。そんな、ちょっと言われただけですぐに取り下げるようなものに大金をかけて何をしているんだろう、というのは端から見ていてすごい思いますね。
原:メルカリは、高木さんの図でいくと、メッセージとビジョンがあって、ソーシャルメディアとかいろんなところで統一のものをつくっているんですか?
矢嶋:つくっているわけではないんですが、会社のミッションやバリューは浸透しています。例えばmercan(メルカン)と呼ばれる、社内でやっているオウンドメディアがあるんですけれど、基本的には社員がバリューをしっかり体現しているので、(会社のビジョンが)その中にちゃんと折り込まれているんです。
なので、さっきのSNSの話じゃないですが、ビジョンがない会社とスタンスがはっきりしない会社は、正直SNSはつらいと思うんですよ。スタンスがよくわからないとファンも増えませんし。
でも、そこさえ明確になればお客さまと深いコミュニケーションを図ることができるはずだと思っています。
原:そこを経営者がちゃんと理解してくれているところが大きいですよね。
矢嶋:特に広報のコミュニケーションは一番重要で、広告などの一方通行のコミュニケーションは基本的に足し算でしか関係性が積みあがっていきませんが、SNSも含めたPR活動を通じて、きちんと顧客やステークホルダーと「対話」し、企業としてのビジョンやスタンスを発信することで、その関係性は掛け算され「共感の輪」となって広がっていくものだと思います。
高木:創業者だったら絶対わかると思うんですよ。なぜかというと、会社を立ち上げる時ってリソースが本当に何もないじゃないですか。強いて言うなら夢しかなくて、「ここをやりたいんだ!」とか「こうやろうよ!」とか言って巻き込んでいく。めっちゃ原始的にVISIONINGしているというかPRしているんです。
でも、大企業には人たちは、ビジョンで勝ち上がってきたというよりは、HowとかHow atとかを持っている人たちが多いので「そんな根っこのモチベーションって重要なんだっけ?」みたいになってしまう。だから、僕はいつも言ってるんですけれど、ビジョンをつくる時は、もうトップに当てるしかないと思っています。
原:なるほど。
高木:そうじゃないと難しいと思うんです。そして、それを受け継いでいくしかないんじゃないかなと思っています。
原:逆に言うと、成長期の会社というのは、創業社長ということが多い。
高木:だからやりやすいはずなんですね、本当は。
原:そうなんですね。
高木:だからPRとしては、社長をゴリッと握って、もう右腕になるしかないと思います。
原:そうですね、わかりました。みなさんいかがでしたでしょうか。ちょっと時間が短いというところもあるのですが、成長期におけるPRはもちろんですが、PRそのものの捉え方によって、ぜんぜん会社の未来が全く違ってくる。
業績が伸びている時は、広告宣伝費を統括すれば、いくらでも露出を増やすことができるかもしれません。ですが、何かが起きた時、もしも問題が起きた時に、本当に対外的に対峙ができるのはPRの人しかいないんですよね。なので、会社の中でいかにPRの位置づけを高めていくかということが大切だと思います。
そして先ほど、高木さんも矢嶋さんもおっしゃいましたが、あらゆるステークホルダーに対してビジョンをどのように設計していくのか、そして浸透させていくのか。これが重要だと思います。これでこのパネルディスカッションを終わらせていただきたいと思います。みなさん、どうもご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
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