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大前研一氏講演(全5記事)

大前研一氏「競争相手が誰かわからない時代だ」 スティーブ・ジョブズらが変えた、ビジネスの新ルールとは?

インターネットの出現に続き、社会にインパクトを与えると注目されるクラウド。世界最先端のビジネスに携わる大前研一氏がクラウドサービスを展開する企業の実例を挙げながら、クラウドの活用法を紹介する。本パートでは、スティーブ・ジョブズ亡き後で最も注目される起業家、イーロン・マスクの事業を大前氏が紹介しました。

自動車のエレクトロニクス化・ソフトウェア化

大前研一氏:一方自動車ですけれども、だんだんとエレクトロニクスの比率が増えてきていまして、基本的には、全付加価値の率が増えてきています。

50%くらいがエレクトロニクスになってくると。来年の車なんかは、典型的にはそうなんですね。

そうなってくると開発拠点を愛知県でやってみても、ちょっとそっち側のところが手薄になっているということで、今次第に、シリコンバレーに車の会社の開発拠点というのが集まってきています。

そこで、変わった毛色の人たちに変わったことをやってもらうということで、ここに書いてあるように、フォードとかトヨタとかそういうのがみんな集まっている。

ドイツ勢もそうです。ということで自動車メーカーというのは、ソフト化すると同時に、エレクトロニクス化していると、この後自動操縦とか、事故防止のいろいろな機能をつけるとなるとソフトそのものです。

車がソフトウェア化すればリコールはなくなる

そこに目をつけた人が、イーロン・マスク。南アフリカ共和国のマスクさんで、PayPalの創業者の1人です。

この人は宇宙に安い値段で行くと言って「スペースX」というものを作っていることでも知られていますが、同時に、最近はテスラモーターズの創業者でもあります。

電気自動車をつくっています。電気自動車というのは充電して200kmぐらいしか行かないと、ちょっとだめなのですけれども、彼の車は設計がロータスで、非常にイタリアのホットカーみたいで人気があります。

同時に、5、600キロは行くと相当消耗しますが、だいたい1回充電すると十分です。ただ、バッテリーをいっぱい積んでますので、石かなんかが、バーっとあたったりすると……。一度アメリカで火を吹いちゃいました。

そういう時に分析をいたします。これは、ソフトウェアそのもので、しかもクラウドです。従って、1台ずつの履歴とかそういうのも全部こちら側が管理していて、あとは、GPSで追跡をして、そして、車の状況というのを常時把握していく。

事故を起こした時に調べてみたら、高速走行の時に車を低くするという機能があって、その低い間に石が当たって、バッテリーが漏れて、傷んだということがわかったので、高速走行しても低くならないように、プログラムをダイナミックダウンロードして、とりあえずは、同じような事故が起こらないように、外からやってしまう。

すなわち、リコールがないんです。この場合は、ダイナミックにダウンロードすることによって新しいプログラムにして、低くならないようにすると。そのうち販売店の方に行っていただいたら直しますからと、とりあえずこれで大丈夫ですというやり方ですね。

だからリコールのないシステム。ソフトウェアも走っている間に直してしまう。リコールが極端に少ないとそういうシステムをすべて直販で、代理店を通さずにやっています。

車も受託生産が可能に?

この人はスティーブ・ジョブズ亡き後の最もアグレッシブに世の中を変える人だと言われています。ですからGoogleの創業者ラリー・ペイジものすごい金持ちですけれどもね、―彼は今GoogleのCEOですから―、彼曰く、「私の財産は息子にはやらない、イーロンマスクに与える」と。

理由は彼こそが世の中を変えてくれるからと、私の金はそういう人に遺産として残したいと言っています。そのくらい変わった野郎なんですね、Googleもセルゲイ・ブリンというロシア系の人と一緒に創業しております。

車というのはコネクテッドカー、つながるクルマ、こういうことになっております。今ではエンジンというハードウェアの塊みたいな車というイメージからだいぶ変わってきてると。それと同時に、業界の競争の構造が抜本的に変わってくるということですね。

それからもしかするとパソコンと同じように受託生産も可能かな? EMSですよ。有名なカナダのマグナとかそういうところがご注文いただいたらその車を届けます。こういうようなパソコン型のものもいくつかでてきております。

アメリカにはアンドロイドインダストリーズというところもありますし、1台だけというとちょっと難しいですけれどもね、しかしながらいくつか台数が固まれば、お作り申し上げます、とこういうふうなところも出てきていると。ですから車の業界も大きく変わってきているということですね。

スティーブ・ジョブズがもたらした革新的な変化

これは放送業界ですけれども、コンテンツとプラットフォームと伝送インフラとテレビと、最後にそれを見るためのハードウェアというのが水平方向に分かれていたのですけれども、今はほとんどストレートに垂直方向にケーブルテレビとかネットによってつながってしまっています。

コンテンツも素人のようなYouTubeのようなものもありますし、そういったものは直接皆さんのハードウェアも自由自在に切り替えられる時代になっております。

ここでスティーブ・ジョブズが苦労して作ったiPodについて。これはCDの中で、ミックジャガーの好きな曲を1個だけ売ると99セント、ということで革新的な変化が起こったのですけれども、ダウンロード型ですね。

最近はダウンロードではなくて、ストリーミング配信です。ですからクラウドの方に全部音楽を入れておいて、聞きたい曲があったらあなたの方にだけその曲だけ流してあげますと。

そして、いろいろ聞いている間にどうもあなたはこの曲が好きですねと―Pandoraというのが典型的なものなのですけれども―、だったらこういう曲を聴いている人は他にもこんな曲を聴いてますよというレコメンド機能ですね。

それを任していると自分の好きな系統の曲がずっと流れていると、そうこうしている間に、自分のラジオ局みたいなものをつくっちゃってですね。

読み放題・見放題が新しい潮流に

こういうようなですね、これは音楽では今言ったようなPandoraとかそういうのがありますけれども、SpotifyとかそれからBeats、ダウンロードのチャンピオンのアップルがストリーミングで遅れてしまって、最近Beatsを買収せざるを得なかった。

こういうことがざらにあります。それから今もですね、アマゾンのキンドル、これはですね、何10万冊というものをですね、月々9ドル99セントで読み放題というようになってきておりますので、我々著者はえらい頭にきているのですけれども、そういう時代です。

読む方も読み放題、それから映画なんかもネットフリックス、かつてのTSUTAYAのような会社ですねCDのレンタル会社ですけれども、今となってはネット上の最も強力な映画館になっちゃって、見放題で好きなだけ見てくださいと。

いまやDVDを返しに行くとそういう時代ではなくなっております。クオリティの点ではHuluなども評判がいいというふうに言われております。全部ストリーミング配信。一発ずついくらという時代ではない、好きなだけやってください、こういう時代になってしまいました。

自身が提唱した3C分析の限界

となると大前さんの古い戦略のフレームワークというのは、3つのCですよね。「カスタマー」と「コンペティター」と自分の「カンパニー」。

戦略とは自分の会社の相対的な優位性というものが競争相手との中で1番でかくなればいいと、お客様の求めてるものを提供し続けると、これが戦略だよと言っていたのですけれども、ちょっと待ったと。

競争相手って誰なんだろうと。こういうことが定義できなくなってきたと。お客さんもよくわからなくなってきたと。

クラウドソーシングなんていうところになってくると、自分の会社以外の人をいっぱい使うと、こういうことになってきておりますのでこれはまたわからないと。

それから、例えばXbox、マイクロソフトのですね。ソニーのプレステとかと戦っておりますけれども、作ってるのは皆、鴻海(ホンハイ)じゃないですか。

アップルもそうですけれどもね。ほとんど中国、いわゆる、チャイワンと言われている台湾勢が中国で作っている。ほとんど同じところがつくっておりますから、だから誰と誰が何を競争しているというのがにわかにはわからない、そういう時代になってきております。

ですから皆さんの方も時々自分は誰のために商売をしているのか、誰と戦っているのか、そもそも自分の会社というのは何をもって強みと思っているのか、この辺を時として1年に1回ぐらいは、じっくり考えていただきたいというふうに思います。

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