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対談「未来型組織・リーダーをどう作るべきか」(全1記事)

優しさ×厳しさ×遊び心のバランスで、Google型組織は作れる

Googleやモルガン・スタンレーで人材開発に携わってきたピョートル・フェリクス・グジバチ氏と、最先端デザイン手法を取プログラム「みらいブレンディピティ」をWASEDA NEOにてコーディネートしている各務氏それぞれの講演に続き、「未来型の組織やリーダーを作るにはどうすればいいか」をテーマに対談が繰り広げられました。各務氏が始めたカプセル旅館ビジネスのエピソードをきっかけに、ビジョナリーワードの重要性や長く残る建築というメディアの強さなど、話は幅広く展開していきます。

マネジメントのコストを下げる言葉の力

各務太郎氏(以下、各務):本日はありがとうございました。私から先ほどの話(グジバチ氏の講演)に続いてお話しさせていただきます。僕は会社に3年半いたんですけど、チームの中でどこに一番コストがかかっていたかと考えると、言葉の伝達が一番大きかったかなと思ったんですね。

私自身コピーライターだったので、その3年半はとくに言葉についていろいろ研究することがありました。先ほどNIKEやadidasなどのビジョナリーワードが出てきました。今僕がわざとビジョナリーワードと言ったのは、同じ絵を想像できるような部下やチーム、同じ青写真を描けるような言葉を語るリーダーの方が極端に少ないと認識したからです。

とくにアメリカでは、キャッチコピーではなくビジョナリーワードと言われるんですけれど、例えばケネディが昔、ソ連がいっぱいスペースシャトルを飛ばしているときに、選挙に当選するために「10年以内に月に人を送り込む」と言ったんですね。この言葉には10年という数字が入ってるし、月という固有名詞も入っているので、どんなエンジニアや国籍が違う人でも同じ青写真が描ける。

そうすると、10年以内に月に人を送り込むためにどこに投資をして、どの分野のエンジニアがどのように頑張るかということが、ケネディがいないところでも、みんな同じように動けるようになる。極端に言ってしまうと、10年後にケネディが来ても、みんながその通りに動いてくれていたということがありえるんですね。

このぐらい同じビジョンが描けるような言葉を、上司なりリーダーが語れることがマネジメントのコストをめちゃくちゃ下げるのに有効だなと思っていて、僕はキャッチコピーであるところの言葉の力を、もう1回人材開発に取り込むべきじゃないかなとよく思うことがあります。

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、グジバチ) そうですよね。

各務:はい。

幸せの土台はギブとテイクのバランス

グジバチ:まさにこの話なんですけれど、スライド見せます? ちょっと飛んでしまいますが、幸せの1つの大きなポイントというのはこれですよね。ぜひ見ていただければ。

ギブとテイクのバランスだと思うんですね。何を世界にもたらしたいのかをしっかりと分かった上で、仕事を経て何を得たいかというのは幸せの土台じゃないのかと思います。

大きなビジョンを持って、自己実現のチャンスをそのビジョンに向かってくれてる人たちに提供していくというのは、大きなポイントじゃないのかなと思ってるんですね。

ここで自己実現の話をしたって、まず圧倒的に……変な外人なので愛の鞭なんですけれども、日本人は圧倒的に自己認識が足りないと思うんですね。どこに一番問題があるかというと、教育制度ですね。中学校に入ってからもう潰されてるんですね。自分はどういう人かということが。

例えば、さっき僕もすごく共感したのは、アメリカの教育の話です。全部がそうだとは思わないんですけれど、問いに答えるんじゃなくて、問いを作るという教育ですね。

20歳の慶應大学の学生で仁禮彩香さんという方がいるんですけれど、僕はちょうど彼女に少しメンタリングしたりサポートしたりしているんです。彼女は14歳で自分が勉強したい学校を作りました。14歳です。自分が勉強したいと思えて、自分で問いを作れる中学校を作って、今また新しい類の中学校を作ろうとしているんですね。

なぜ新しいことをやらなきゃならないかというと、彼女が作ったのは実際は株式会社で、その理念というのは「Company of children for the children」です。社長と経営者、どちらも子どもしかいないんですね。20歳になると辞めなきゃいけないという会社です。

MBAからイーロン・マスクは生まれない

グジバチ:自己認識というのはなんだろうという問いを少し考えていただきたいんですね。まず「何がやりたい」「何を得たい」という2つの問いに、しっかり自分の答えを持つ。何が大切で、何が大切ではないか。どんな価値観を持って、どんな価値をもたらすか。どんな理念、信念を持ってそれをもたらすかなど、自己認識が今の世界には必須だと思うんですね。

「自分はこういう人だ」と周りの人たちにガンガン伝えながら、自分のストーリー性を磨いていく。さっきのケネディの話にもストーリー性があったように、ストーリー性がしっかりあれば共感や共鳴を感じてくださるサポーターが周りに現れるんですね。

そうすると、ガンガン自己表現していくことが世界に価値をもたらすことになるので、自己表現で自己実現ができるんですね。自分の仕事が自分の表現になって、その仕事が評価されることで感謝されると、自己実現ができるんですね。自己実現ができると自己効力感、要は自信がつくんですね。どうですか?

各務:まさにこういうことだなと思うのは、日本でいまだに創業数、アントレプレナーシップが少ないことが問題視されるときに「やりたいことがない」というのが圧倒的に多いなということです。

留学中にビジネススクールの方などとよく食事をすることがあったんですけど、今日本で行われているビジネススクールの状況って、基本的にはインベスターやコンサルティング養成学校のイメージになっているというか。要するに企業派遣で向こうに行って、キャリアアップして、転職のためにMBAへ行くということです。

海外の人は本当に会社を辞めて、本気で起業をしようと思っている方がMBAへいらっしゃっているので、日本人と温度差があって友達ができなかったりするんですね。日本人はけっこう社費で来ていて、同士でつるんだりしているので。

そのときに、もうMBAからイーロン・マスクは絶対生まれないと思いました。ただ、アメリカなど海外の方は、先ほどの話にあったように小さな頃から自分で問いを作ったり、「これを解決したいんだ」とやりたいことを公言していく文化があり、自分の中にあるアントレプレナーの事業アイデアを他者にアウトソースしたりはしない。

グジバチ:そうですね。

各務:MBAで起業することが目的になっている日本の方は、「今あるサービスをちょっと変えようかな」「今これが必要とされてるから、あのサービスと合わせてこういうのと一緒にしようかな」と、パッションが全部アウトソーシングされていて長続きしないという例をよく見ましたね。

カプセル旅館で都会生活を豊かにしたい

グジバチ:そうですね。みなさんにもぜひ考えていただきたいし、お聞きしたい質問を今スライドに映しました。ぜひ後でしっかりと振り返っていただきたいです。まずはギブの質問ですね。「あなたの情熱はなんですか」という質問ですけれども、どうですか。今夢中になっているのはなんですか?

各務:僕は今起業したタイミングで、それにけっこう夢中になっているんです。僕がやっていることを1分半ぐらいで話しますね。都市計画をアメリカで学んでいるんですが、今一番問題とされているのは通勤時間です。通勤時間が都市計画の最大の問題です。

香港もニューヨークもサンフランシスコも真ん中に集中し過ぎて、小さいところでも家賃が40万ぐらいする。それでは住めないからちょっと離れたところから電車や車で通うんですけど、1時間半とか2時間とかかかっちゃって、結果、会社に着いたときにはプロダクティビィが下がっているんですね。

グジバチ:うん。

各務:僕の結論は、それだともう無理なので、しかたなく都会の中に住むしかないと思っているんですね。

グジバチ:なるほど。

各務:ただ家賃が高いので、極限状態まで空間を仕切った状態の部屋にする。それで僕が起業したのがカプセル旅館なんですよ。

家賃が高くても都会に住むしかないんですけど、それでもお茶室みたいな考えを適用すれば、狭いんだけれども豊かな空間ができるかもしれないと僕は思っていて。お茶室の考えを適用させたカプセル旅館や、ひいては賃貸住宅とかに持っていけたらいいなと夢中になっています。

漫画喫茶に住むのは最も未来的な暮らし方かもしれない

グジバチ:なるほど。その次の質問にも繋がっていると思うんですけれども、実際に見たいのはどんな世界ですか? ビジョンの話なんですけれども。

各務:先ほど話したソイレントに近いですね。ソイレントは生きるための粉みたいな食事と、味を楽しむためのレジャーの食事に分かれていくと言っていたんですけれども、僕も日々を暮らすための家と、レジャーでみんなと一緒に楽しむだけの家に分かれていくだろうと思っているんですね。

グジバチ:なるほど。

各務:実際僕たち、家に帰って寝るだけの時ってけっこう多いじゃないですか。赤坂見附に寝るだけの小さい家と、みんなが集まってパーティーする家へと分かれていくんじゃないかな、という未来を僕は作っていきたいと思っています。

グジバチ:なるほど。その未来に向かって、どんなミッションを持っているんですか? 具体的に何がしたいんですか?

各務:いま持っているバイアスを壊したいなというのがあります。例えば運が悪くリストラになっちゃって、就職活動期間中に漫画喫茶に住んでいる方ってたまにいるんですよね。あれを見て「狭いし物も置けなくてかわいそう」と感じるかもしれないんですが、僕は一番未来的な暮らし方じゃないのかなと思ったんですね。

最近の女性や若い子たちは、日々の着る服さえも1週間で借りちゃって返しちゃうことがあるじゃないですか。所有物ほぼゼロの状態になると僕は思っていて、そうすると漫画喫茶のような小さな空間でみんなが笑いながら暮らすことができるんじゃないかと。そういう空間を本当に実現していくことが、僕はミッションじゃないかと思っています。

脱専門的なプラットフォームの必要性

グジバチ:なるほど。さっき各務さんの名刺をいただいたんですけれど、印象的な言葉が3つ書いてあります。アーキテクト、デザイナー、コピーライターですね。おそらくCross-disciplinaryじゃなくて、Antidisciplinaryな考え方をしているんじゃないですか。

各務:まさにそうなんです。実はアメリカのメディアラボとかって他学部と意識的に合わせることをやっているんですが、日本の大学って例えば、政治経済学部にいたら建築学科の人と一度も話さずに卒業できちゃうと思うんですよ。

サークルとかはありますけど、学業という意味では、みなさん他学部の人とほぼコラボレーションすることなく卒業されたと思うんですね。ハーバードやMITの特徴って、あそこには研究機関が一気に集まっているから、建築家の中だけで問題を探しても見つからないなら医学部の人と話したりできる。

それで、医学部の人と話すとどんどん空間的な問題が出てくるんですね。そうすると「新しい病院ってなにかな」とか考えられるようになりますし、コピーライティング的にホスピタルという語源を探っていくとホステルとかホテルになっていくので、じゃあホテルを設計するみたいにホスピタルを設計しようかなとか。どんどんAntidisciplinaryな建築が出てくる。

グジバチ:なるほど。

各務:なので、意識的にAntidisciplinaryなプラットフォームを作ることが重要かなと思います。

経営難の中小ビルをリノベーションして宿泊施設にする

グジバチ:具体的に4番目の質問なんですけれども、どんな野望で動いているんですか? どんなビジョンがあるんですか?

各務:もうこれ、ピッチみたいになってませんか?

グジバチ:そうですね。

(会場笑)

各務:ビジネスコンテストみたいになってますけど(笑)。

グジバチ:でもね、しっかり現実にもたらさないと、実現できないと思ってるんですね。

各務:今、東京っておもしろくて、ビルの延床面積はすごく増えていっているんですけど、ビルの数は減っているというグラフがあるんです。それはどういう意味かというと、大きいビルが増えていっているけど、中小ビルはどんどん減っているという問題があるんですね。それで、経営難に陥っている。

僕がやっているのは、その中小ビルの中をリノベーションしていってどんどんカプセルをぶちこんでいくことです。

グジバチ:なるほど。例えば、僕や他のみなさんはどうやって支援をしていけばいいか。もし依頼するなら、何を依頼したいですか?

各務:依頼をするとしたら、日本に来る外国の友人の方がいらっしゃる時に、必ず泊まっていただけたらなと(笑)。

(会場笑)

グジバチ:ぜひ、みなさんどうぞ。

各務:気長にお待ちください。

グジバチ:僕も泊まりたい。

各務:ありがとうございます。

長く残る空間というメディアの強さ

グジバチ:即興ですみません。変な話をすると、ギブしたいことはさっき教えていただいたんですけど、テイクしたいことはなんでしょう。各務さんは自分の仕事を経て何を得たいのですか?

各務:難しいですね。これはもうなんかエグい話になっていくんですけど。

グジバチ:どうぞ。

各務:建築家のみなさんって、自分の仕事についてある程度承認欲求が大きいじゃないですか。「大きい建物を建てて、都市に影響を与えたい」とか。かっこいいピラミッドみたいなものを作って、ずっと残るようなものにしたいのは承認欲求だと思うんです。

グジバチ:うん。

各務:CMを作っていた時、作るのはめちゃくちゃ楽しいんですけれど、流した後3ヶ月とか半年経つとみんな忘れちゃったりすんですよね。

その点では、サグラダファミリアとかピラミッドとか何百年と残るものを作れると、やっぱりメディアとして強いというか。空間の強さをあらためて認識したんです。僕がやるのは小さい建築だけど、みんながずっと使っていくもので承認欲求を満たしたいというのがある。

グジバチ:なるほど。その承認欲求はなんで大切なんですか?

各務:これは難しいですね。「いいね!」がなんで欲しいかっていうことですよね。

グジバチ:そうですね。なんで欲しいんですか?

各務:やりたい事業や作りたい建築観を持っていなかった時は、他人に褒められないと自分の人生を認められない感があったので、とくに「いいね!」を欲していました。やりたい事業が見つかってからは、自分で納得できるデザインができれば承認欲求というか自己承認ができるなと。(承認欲求が)少し弱くなってきたのはありますね。

グジバチ:なるほど。

ロールモデルがあるから行動に移せる

各務:逆に言うと、自分のデザインのハードルを上げていくということなんですけど。

グジバチ:デザインのハードルを上げていくというのは、なんで大切なんですか?

各務:個人的なロールモデルがいて、自分で勉強していくなかでああいう建築家になりたいとか……例えば、建築家に限らず、スターバックスの彼も建築家と思っているんです。

グジバチ:うん。

各務:無印良品とかレゴもそうですけど、彼らのようにプラットフォームを作れるぐらい大きくしたデザインの会社とかは、やっぱりかっこいいなというのが自分の中にあります。彼らがこの事業をやっていたら、このぐらいでは終わらないだろうなと。

意識的にロールプレイするというか、彼らが生きていてこの事業を渡されたらこのクオリティでは出さないだろうな、ということを1つの基準にしています。

グジバチ:なるほど。そのロールモデルを作るのはなんで大切ですか?

各務:ゴールがないとディレクションが見えないというか、進むべき方向性が見えない。たまにやりたいことが見つかっていない人と話をすると、「この人みたいになりたい」という憧れがなかったりするな、というのがあって。

人とか会社みたいなわかりやすい1つのビジョンというか、みんなが共有できるものがあると僕自身が動きやすいということですね。

グジバチ:なるほど。素晴らしいですね。褒めていいですか?(笑)。ありがとうございます。

各務:就活みたいになってましたね(笑)。

「建築がワークしている空間」とは何か

グジバチ:各務さんは何をもっていい仕事をしたと思っているんですか?

各務:無人島で建築を建てても結局誰も喜ばないので、使った人が楽しんでくれるかだけですね。

グジバチ:なるほど。

各務:よく建築家の人とかが、模型やCGを作るときに誰も人がいないものを作ったりするんです。確かにかっこいいんですけど。

ニューヨークには、昔線路だったところの上を公園にしたハイラインというプロジェクトがあります。建築学生とかがよくヨーロッパの建築を見に、誰も行かないような教会に一眼レフを持って写真を撮りに行くんですけれど、誰もいないんですよ。かっこいいんですけど、「かっこよかったね」で帰ってくるんです。

ハイラインに行ったとき、みんながめちゃくちゃ楽しそうにそこにいて、これはちゃんと建築がワークしていると初めて僕は思ったんです。その瞬間からちゃんと人が来て、ちゃんと楽しめるような空間にデザインにしない限りは意味がないんじゃないかっていう説を持ってますね。

グジバチ:なるほど。ちなみになんで今の仕事を選んでいるんですか?

各務:今の仕事。建築家ということですか?

グジバチ:そうそう。

各務:高3の時に、図書館に『宇宙船地球号操縦マニュアル』という本がありました。バックミンスター・フラーという建築家が書いたものなんですけど。

グジバチ:ああ。

各務:僕らには国籍とかがあるけど、そもそも1つの宇宙船なんだから、みんなで同じ操縦の仕方をやろうという本なんです。これってけっこうスペキュラティブで、100年先までの操縦の仕方が書いてある。

60年ぐらい前の本だったと思うんですけれど、100年先までどうやって見据えていくかという本で。それをやったのが建築家だったので、その頃から建築に興味を持つようになりました。

グジバチ:なるほど。

各務:建築って頼まれてからでき上がるまで、バッファが5年とか、都市計画だと30年ぐらいかかっちゃいます。実はみんな、設計する時に30年後を考えながら図面を引いているんです。なので、建築家の方はけっこうSF好きが多いというか。僕はそういう点で夢中になりました。

未来は言葉から先に生まれる

グジバチ:ちなみに去年と今年の仕事はどのように繋がっているのですか?

各務:去年ですか?

グジバチ:去年。

各務:去年僕は留学中でした。その1つ前の広告の仕事になってくると、コピーライティングって僕が就職して配属されてから初めて勉強したんですけど、さっきお話ししたビジョナリーワードということに気づいたんです。建築家あるいはデザイナーって、必ずみんな言葉を作るところから始めていたんですね。

結局、どういう未来にしたいかというのを先に言葉で作って、それを形にしたものがたまたまデザインで。例えば、それを映像にすると映画になる。必ず人を動かすためのミッションというのが言葉であって、そこからどう動いてくかはメディアによって変えていくだけだった。

グジバチ:素晴らしいですね。僕はほとんどの人間関係って、価値観と価値で決まってると思うんですね。価値観というのは、本当に一生大切にしていること。向かっていることは一緒なら、どんな価値をもたらしたいかが一緒かどうかは別として、同じ価値観があれば違う価値を生み出す人達を一緒に集めて何かをやっていくことは楽しいんですよ。

だから僕は、建築か人材育成か、テクノロジーかをまったく気にしない。ほとんど手法にしかなっていない気がする。

各務:はい。

自分のアイデアなんて、歴史上で誰かが一度は思いついていること

グジバチ:ちなみに各務さんの一番の大きい強みってなんですか?

各務:うわ、むず。就活以来なんですけど。

(会場笑)

グジバチ:そうですね。

各務:強みは難しいですね。でも、強みかどうかはわからないけど、趣味で歴史が好きなんですよ。

グジバチ:なるほど。

各務:歴史が好きといっても織田信長とかの話ではなくて。例えば今自分が悩んでいることやアイデアって、だいたいこの何十億年の中で誰かが1回は思いついているんですよ。

その人がその後10年、20年どう辿ったかを見ると、僕がこの後ミスろうとする20年先が見えるから、ネタはだいたい歴史にあるだろうって。ロールモデルというか、自分の対象になるような人を歴史の中に探すのが好きです。

グジバチ:なるほど。ありがとうございます。どうでした? ギブアンドテイクの質問は。

各務:本当にシステマチックに就活をするというような感じだったんですけど。

グジバチ:(笑)。

各務:これは今たまたま起業するときに、たまたまですが、起業するときに投資家の方たちに向けて自分でピッチ資料というか、プレゼン資料を作っていたんですよ。無意識的に「なんで僕はこれをやりたいのか」ということを今のストラクチャで作っていたかもしれないですね。

ファクトベースの質問は時間を無駄にする

グジバチ:ちょっと即興でやっちゃったんですけど、要はコミュニケーションが必要だとおっしゃったので、こういうコミュニケーションをするんだとみなさんにお見せしたかったんですね。まず自分とのコミュニケーション、自己認識というのが大切なんです。おそらく、一番自己認識ができる手法は会話です。対話です。

僕はちょっと変な外人で、質問って2つの類しかないと思っているんですね。時間を無駄にする質問と人生を変える質問。ファクトベースの質問は時間を無駄にするんです。どこで生まれ、何をしてきたのかは聞かなくてもいいじゃないですか。こういう質問を聞けば、リーダー育成ができるかなと勝手に思ったんですが、どう思いますか?

各務:メディアラボの石井裕さんが、研究室で部下に「why」を5回聞いて、答えられなかったらもうそのプロジェクトは終わりっていうことをやってるんです。なんでそれをやってるのかと言うと、5回聞いてどこかでつっかえたら、そのプロジェクトは破綻というルールになっていて。ある種の研ぎ澄ませるためのメソッドだとは思うんですけど、なるべく僕も意識してやるようにしています。

グジバチ:なるほど。ここでぜひみなさんに質問していただきたいんですけど、ただ日本人にそのまま投げかけると誰も質問しないから、まず1分ぐらい隣の方と「ここがおもしろかった」「ここをもっと聞きたい」というのを話し合っていただいていいですか。自己紹介なし、名刺交換すると20分かかるので、隣の方と「ここを聞きたいな」という話を。

(参加者が意見交換を行う)

グジバチ:海外の影響かもしれないんですけれども、今日いろいろ話してきてすごく思ったのは、日本人はしっかり大きいビジョンを持っているのに、それを言葉にすることができる人がすごく少ないですね。なぜだか。

各務:あれなんですかね、同調圧力というか。さっき僕は就職と絡めて言ったんですけど、みんなと違うことを言うといじめに遭うというような構造が、子どもの時にけっこうあったという感じがします。極端に言うと、手を挙げるといじめられると。

グジバチ:いじめられたことありますか?

各務:僕はないですけど、そういう恐怖感を持っているのを感じていました。

グジバチ:なるほど。おもしろいですね。どうですか、みなさんOK?

リーダーの役割は、自ら行動しフォロワーをつくること

司会者:誰か質問されたい方いますか?

質問者1:はい、質問というか、最後(グジバチ氏が各務氏に)質問をずっとされていたことに関連してなんですけど、最初「就活よりも難しい」とおっしゃっていたみたいに、大事な質問でもそれを答えやすくする工夫みたいなものは何かありますか?

グジバチ:たぶん、いろんな視点から答えられるんですけど、似たような質問をがんがん聞き続けることが1つですね。要は、質問に慣れてもらうのが大切ですね。

例えばリーダーシップというのはほとんど質問と行動でしか表れないんですね。リーダーの大切な役割は、自分が先に行くということと、自分のフォロワーを作っていくこと。その作り方は質問を投げかけて育成するというより、「育む」ことが大切だと思うんですね。

だから、大変だと思うんですけど、何回も何回も聞いていくと、慣れてくるんですね。僕の知っている方は非常に慣れている。例えば、初めて入った立ち飲み屋で隣の方に僕は2分以内に「人生の意味はなんですか」と聞くんですね。

(会場笑)

グジバチ:後ろのキシモトさんはよくご存知だと思うんですよね。慣れていらっしゃるんですよね。

キシモト:おれ聞かれたことないよ(笑)。

グジバチ:(笑)。もう1つの工夫点は、この質問はちょっと複雑でもあるんですけれど、単純にする。「どうしたいの」「いつまでにしたいの」「なんでそれをしたいの」という単純な質問にすると答えやすくなると思うんですね。

各務:今のお話に関連するんですけど、コピーライターの勉強をしているときに糸井重里さんの勉強をしたんです。彼はインタビューのなかで、「1回も自分でコピーを書いたことがない」って言ってるんですよ。

どういうことかというと、彼はクライアントさんと話すとき4時間ほど話をするんです。4時間ぐらいインタビューをすると、4時間後くらいにクライアントさんがコピーを言ってくるんですよ、勝手に。「なんか“おいしい生活”とかにしたいんだよね」と言ってくれたりするんですよ。それで「おいしい生活」と書くだけなんです。

聞く時間の長さと給料の高さは比例する

各務:そのときに僕は気付いたんですけど、実は世の中の給料の高い順って、聞いている時間の長さに比例しているんじゃないかなとたまに思うことがあるんです。

例えば、売れているキャバクラ嬢の方は自分から話をどんどんするんじゃなくて、1時間ずっと話を聞いて、たまに頭のいいことを返すだけで売れるとか。コンサルティングの人もケーススタディが多いんじゃなくて、ずっとクライアントさんの問題を聞いて、最後に3つぐらいケーススタディを言うと、「はい200万」みたいな話じゃないですか。

グジバチ:そうですね。

各務:売れる広告営業とかクリエイターの方も、インタビューの時間が極めて長いんですよ。聞く時間が長ければ長いほど、相手からの情報が多くなる上にこっちの労力は減るし、相手は聞いてくれただけで満足する可能性があるので、リーダーシップを取るときも、もしかしたらこっちから何も言わずに聞く時間を長く持つだけで僕はいいんじゃないかと思っています。

グジバチ:そうです。Googleの社内コーチング統括をなさっているデイビッドさんという方がいるんです。すごく良い方で、彼は30年間コーチングしていて世界で初めてコーチングについての博士論文を書いた方なんです。すごく素晴らしいエグゼティブコーチで、Googleにスカウトされて入ったんですね。

彼がいつも1つの事例を言ってるんですけれど、一番長く続けて一番成功したお客さんは、ミルウォーキーの会社の社長だと。その社長に、1ヶ月に1回わざわざ飛行機に乗って会いに行ってたんですね。それで社長に会うときに、デイビットさんが「ハロー」と言って座って、黙って、社長は1時間話をして、帰って行ったんです。何にも質問することもなくて、ただ聞いてたんですね。その人の目を見て聞いてたんですね。まさに。

ありがとうございます。それでは次。

社員の独立をサポートしてあげられる会社をつくりたい

質問者2:ありがとうございました。タイトルにあった「エンプロイーエクスペリエンス」は直訳すると「従業員提供価値」になると思うんですけど、ピョートルさんの中でエンプロイーエクスペリエンスとはどういうようなものか、どのように捉えられていますか?

グジバチ:昨日ちょうどスタッフと話をして、我々はやっぱり器が小さい、考え方が狭い、と言ってたんですね。もっと大胆にやらなきゃならないと。何を言ったかというと、「信じられない会社を作りたい」と。

会社の従業員が、自分でこういう人になれるとは考えられなかった人になれるような会社にしたいです。要はプロデュースです。社員のプロデュースというのが僕の定義ですね。社員を育んで、その社員が、例えば気付いていなかった能力を見つけて、それを使っていく、大胆な価値を生み出す。そのあと、例えば独立したいんなら「いいです」とサポートしていくような会社が作りたいんですね。

Google、今はAlphabet社の社長のラリー・ペイジはすごく天才だと思うんです。彼は未来に住んでいる人で、ほとんど現状のことを言わないんです。現状のことを言うのは、他の役員なんですけど、彼は未来の話だけをしているんですよね。

それで、彼が1回言ったことで、Googleの人事がたぶん1年ぐらい全部のやり方を変えたんですね。彼が言ったのは、「Let’s develop leaders for the world」。世界のためにリーダーを育成しましょう、作りましょう、と。

要は、Googleの社員がGoogleで働いてもいいんですけど、辞めてNPOを作りたいとか独立したいというときに、それができるような育成をしないと駄目ですね。だから、Googleの心理的安全性という話もあるんですけど、自分らしくそのままの自分を会社にもたらして、その会社でギブをしてテイクを出来るような場作りがあれば、エンプロイーエクスペリエンスになるかなと思うんです。

優しさ・厳しさ・遊び心のバランスが取れた組織づくり

グジバチ:ただ誤解してほしくないのは、優しさだけ、親切さだけということだけではなく、厳しさも必要だと思うんですね。伸びしろを作るというのは厳しさのみだから。それから、親切さ優しさに厳しさにプラス、楽しさや遊び心がなければ仕事は苦痛になってしまう。その3つのバランスがある組織作りに力を入れれば、Googleのような会社が作れるはずなんですね。

それは日本人でもできる。「Googleだからこそ」という話を聞くと、僕は腹が立つんですね。みなさんなんかすごくいろんな誤解をされてるんですけど、Googleのオフィスもめっちゃかわいいですね。めっちゃかっこいいオフィスもあるんですけど、例えば設計にすごくお金をかけるんです。

家具は例えばIKEAの家具。安い家具とか、いかに低コストで大きいインパクトを作るか。日系企業は真逆ですね。まず部長らのために200万ででかい椅子を買う。外に出ると黒い車が並んでいるんじゃないですか。Googleの社長は車なんか持っていないんですよね。Googleのアジアパシフィックのトップは、今シンガポールに移ったんですが、東京に住んでいたときはタクシーを使って動いていたんですね。

なんで日本の企業の社長が黒い車が必要なのか、わけがわからないですね。環境にすごく悪いじゃないですか。ずっとエンジンを点けっぱなしですよね。すみません、脱線してしまって。

空間に関わるすべてのことからマージンがなくなっていく

司会:一応お時間なんですが、もう1人だけ。

グジバチ:すみません、僕だけ。(各務氏に)何か言いたことがあれば。

各務:大丈夫です、全然。とんでもないです。

質問者3:すみません。じゃあ最後の質問をさせていただきます。自分はアパレルファッションの仕事をしています。私はたくさん服を持っているんですけれど、各務さんが言った「所有物ゼロ」というところで、10年後や20年後の服のあり方についてお聞きしたいです。

また私は個人向けのスタイリストで、服で人を感動させていくことをやっているので、そのあたりについてどう考えていられるかもお聞きしたいです。

グジバチ:答えたいことがあるんですけど、まずはどうぞ。

各務:これは未来の話ということですよね。建築って、地面に杭を打って動かなくなっているので「不動産」と言うんですよ。下に車輪が付いていると「動産」と言うんです。キャンピングカーとか路上にある建築とかちょっとした屋台って全部動産と言われているんですけど、それがもうちょっと小さくなっていって「床だけある」みたいな、例えば草鞋みたいなことになったときに、草鞋と建築の違いってあまり言えなくなってくるんですよ。

僕は空間に関わる全てのことのマージンがなくなってくるのかなという気がしていて、服業界の人と建築業界の人とか、インテリアと靴とかがあまり分かれなくなってくるかなという気がします。

このジャケットもあと2、3倍大きくなると建築になるんです。そのあたりの区別が無くなってきて、フィジカルな場所の生まれてくるインダストリーが全部一緒になってくるのかなという気がしています。

そうすると、建築家が作る服とかファッションデザイナーが作る建築とかが、単なる企画ではなく普通に生まれてくる気がする。あるいはその延長でいうと、ビジネスモデルもマージンがなくなってくるので、服に対して家賃が発生したり、あるいは服みたいにすぐ売ってしまえる建築とかが出てくるかなと思っています。

権威のビジュアライゼーションとしてのファッション

グジバチ:そうですね。もやもやしていることを言っちゃうと、よく日系の大手企業に行くと、最近ちょいワル親父が出てくるんですね。みんなかっこよくしてるんです。それになんの意味があるかを行動経済学的にみると、仕事をしないんですね。時間の余裕があるんです。かっこよくする服選びの時間がある。

ただ今の世界で何が起きているというと、ガンガン自動化が進むと、人間にしかできない仕事しかできなくなるじゃないですか。さっきの質問ですが、そうするとすごく大切な仕事をする人たちはガンガン忙しくなってくるんですね。それで、その人たちが服を選ぶ時間がないんですね。

僕を知っている人はここに数名いると思うんですけど、僕はほとんど同じ格好で動いているんです。ZARAのシャツが好きなんですけど、最近、渋谷駅からZARAまで行くのは遠くて、ZARAじゃなくてユニクロのほうが近いからユニクロへ行ってます。

(自分の服を指して)これはユニクロのシャツなんですけど。1枚だけ買うんじゃなくて、同じシャツを6枚買ったんです。そのシャツをずっと毎日交換して、このジーンズは日本のブランドなんですけど、僕は10年間1つのブランドのジーンズしか使わないんですね。すごくもつんです。今、5着ぐらい持っていて、それを回しています。

要は、どこで自分の表現をするかというと、例えば服装で表現するか、知的好奇心で表現するか、人を繋げることで表現するかということで、人それぞれ価値観が違ってきます。これからはすごくかっこよくしたい人たちが少なくなってくるという気がするんですが、どう思いますか。

各務:建築の中でロバート・ベンチューリという方が『ラスベガス』という本を書いたことがあって。どんな本かというと、例えばラスベガスの建築って、パリとかいろいろテーマがあるじゃないですか。要するに僕らのiPhoneのアイコンみたいな状況になっているんです。形というのはシンボルとか、何かしらの権力を表すことなんです。

変な話になっちゃうんですけど、前にキャビンアテンダントの人と合コンしたときに、スカーフのデザインで年次がわかるという話になったんです。見た目というのは、ある種の権威などのシンボルを表していたりするというのがあって、ある程度年次とかヒエラルキーが発生する。たてがみがすごいライオンほど上に行く、みたいな。

これって自分の権威のビジュアライゼーションなのかなと思うと、Googleみたいにいろんなエンジニアやクリエイターの人がフラットなところは権威を見せる意味がないので、ファッションは関係がなくなるかなと思いました。

グジバチ:うん、がんばってください。

司会者:はい、お話は尽きないですが、交流の時間に移りたいと思います。

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