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著者と語る朝渋『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(全5記事)

Amazonはなぜリアル店舗を展開するのか? オイシックスドット大地・奥谷氏が語る、オムニチャネル戦略の潮流

2018年3月14日、会員制朝活コミュニティの朝渋で、「著者と語る朝渋『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』」が行われました。今回は「世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略」を上梓したオイシックスドット大地COCO奥谷孝司氏がゲストとして登場。著書で紹介されている「チャネルシフト戦略」について、日本屈指の戦略家がオムニチャネルなどマーケティングの現在地を語ります。

オイシックスのマーケティング戦略家が登場

井手桂司 氏(以下、井手):今日、進行する井手と申します。

みなさん、よろしくお願いします。「朝渋」なんですけど、「朝渋」とどこかの会社がやっているわけではなくて、僕もそうなんですけど、運営メンバーがみんな複業でやっているんですよ。

本業がみんな別にあって、なかには大学生のメンバーとかもいたりするんですけど、僕は普段はいろんな企業のファンづくりだとかマーケティング支援をやっている会社で働いている者なんですね。

奥谷さんに関しては、もう無印良品時代から、アドテックなどのいろんなところでお話を聞いてて、すごいマーケターの方だと思っていて、今回新しい本が出る時に、何としてもこのイベントに呼びたいというところで、ダメ元で打診してみたら、「いいですよ」という返事をいただきました。

しかも、オイシックスの西井さんまでいらっしゃって、すごいイベントにやってしまったなと思っています。今日、来ている方に、どんな方がいらっしゃるのかを、最初に聞いてみたいと思います。

事業会社でマーケティングとかデジタルみたいなところに携わっている方は、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

事業会社の方が、だいたい2、3割ぐらいですかね。エージェンシーなどの立場で関わっている方は、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

チラホラという感じですかね。わかりました。ちなみに、アドテックなどのマーケティング系のイベントで、奥谷さんのお話を聞いたことある方は、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

では、「初・奥谷さん」みたいな方が、けっこう多いかもしれないですね。そうしたら今日の流れなんですが、冒頭25分間ぐらいで、奥谷さんに今回の本に関するお話をご講演いただきます。

その後、約30分ぐらい時間をいただいて、トークライブという形式で、奥谷さんと西井さんを交えて、チャネルシフト戦略時代において求められるマーケターのマインドセットやスキルセットなどをテーマにお話をしていこうと思ってます。

最後に質疑応答コーナーも設けておりますので、奥谷さんと西井さんに、聞いてみたい話があれば、ぜひ遠慮なくご質問いただければと思っております。ということで、プログラムがてんこ盛りなので、さっそくパート1ということで、ここからは奥谷さんにマイクをお渡ししまして、ご講演をいただこうと思います。

奥谷孝司 氏(以下、奥谷):はい。今から始めさせていただきます。「初・奥谷」のみなさん、こんにちは。

(会場笑)

奥谷:おしゃべりヒゲおやじです(笑)。

(会場笑)

奥谷:ということで、おしゃべりを続けて早何年も経っています。朝が弱い2人なんですけども、お集まりいただきまして、ありがとうございます。

あらためて「チャネルシフト」を考える

奥谷:『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』という本を出しました。

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

この本に関して25分ほどお話をしたいと思います。

オンラインとオフラインが繋がることが、だいぶ当たり前になってきていますが、僕は先週シンガポールなどに行って、シンガポールで向こうのデジタルマーケターとしゃべると、いい意味で健全にオムニチャネルという言葉が語られています。

日本はぶっちゃけ少し不健全というか、オムニチャネルを、あまりみんなわからないまま使っている感じがします。ここにいらっしゃったら申し訳ないですけど、某会社さんが、あまりにも大きく「オムニ○○」などと言ってしまっているので、非常にしゃべりにくいです。

まだまだオイシックスでできていないんですけど、オムニチャネルは非常に大事だと思っています。私もオムニチャネルをオフィサーにしている理由は、それをもう1つ作った先で「チャネルシフト」を考えなきゃいけないので、こういう肩書きにしております。

非常に仰々しいタイトルにしたのは、「こうしたら売れるよ」と言われたんです。

(会場笑)

本当のタイトルは『顧客と繋がる企業のチャネルシフト戦略』です。本当は「これでいきたいっ」と言っても、売れないと聞いて「マジ?」と思ったんですけど、本当に言いたいことはもともとはこうなんですね。

(「Amazonかかってこんかい!」と銘打った表紙の本がスライドに表示される)

(会場笑)

別にAmazonが嫌いなわけではないですけど、「Amazonすごいな」という意味もあって、「Amazonに学ぼう」という意味で変更しました。

もちろん、これでは本にならないということで、あのタイトル(「顧客と繋がる企業のチャネルシフト戦略」)になりました。

Amazon Goの衝撃

奥谷:僕がこれから話すことは、「とにかく、店舗の考え方を変えていきましょう」ということです。(店舗は)人が集まる場所でもあり、買い物をする場所です。実はネットでお客さんと繋がることが、お客さんにとってもどんどん大事になってくるので、オフラインの形態の店舗は、どういう位置づけなのかを考える必要があります。

確実に言いたいのは、単なる店舗オペレーションをやって、ネットを使って来店させることは、十分といえば十分なんですけども、「その先」を見なければいけないです。「その先」を見ているのがAmazonで、実は今週の頭にAmazon Goの勉強会に僕も参加しました。

結局、Amazonは自分たちをテクノロジーカンパニーと言っても小売業とは言っていない。だけど、小売をやっていることで、彼らが考えていることはすごく勉強になる。まだ、僕は行けてないんですが、Amazon Goという店舗の形態が一般の人にも公開されて、これを多くの小売業が「無人店舗」とまだ呼んでいる。そういうアプローチもあります。

店舗のオペレーションを省力化するために、こういう仕組みを入れようという人もいますけが、実際にAmazonのお店に行くと、たくさん人がいるんですよね。もちろんオペレーションがまだマニュアルですが、実際には彼らが目指している世界は、レジやお金のやりとりをなくして、接客や体験を向上することです。

実際に去年9月、シカゴに行ってAmazon Booksを見てきましたが、これも非常におもしろい体験で「Amazonの世界へようこそ!」という感じで、本当にレコメンデーション通りのものが並んでいました。本には価格がない。価格はどうやって見るか。自分のアプリでチェックするんです。

つまり、みなさんによって、プライマか・そうじゃないかで値段が変わります。わざわざ本に投資した物流センターから配っていればいいのに、Amazonがなぜ、これをやるのか。やっぱり、オフラインの体験は非常に重要ということですね。同時にAmazonがどれだけ売上をとっても、例えばAWSの売上を実際に抜くと厳しい。

Amazonとウォールマートなら当然、ウォールマートが上なんですよね。まだまだオフラインの市場で、お客さんは買い物をする。ただただ、イケてるお店を作っても、何だかお客さんは来なくなっているわけですからね。

ホールフーズという会社をAmazonが買いましたけども、Amazonは急にネット企業を辞めて、「オフラインの企業になったんだ」と思う人はあまりいないと思います。しかし結局、彼らが何をやっているかというと、どんどんAmazonイズムみたいなものを、ホールフーズにどんどん入れてやるんです。

「チャネルシフト戦略」とは

奥谷:値段を下げていったり、これからどんどんデジタルのエッセンスが流行ってくると思うんですけども、ネットとリアルの関係をなくしていく、融合の世界になっていくんですね。なので、とくにこの本は店舗を中心に小売をやっている方々、もしくは、チャネルをそのまま持たない会社の人は、むしろ読んでもらいたいと思います。

実はお客さんとデジタルということで直接繋がれる。それを戦略とやっていくので、単なるチャネル戦略などはないという、本当の意味での顧客と繋がるための競争戦略だと思っています。

そもそも、基本的にAmazonなどのオンライン企業が一所懸命オフラインに進出してくるのか。それはAmazonだけなのか。

これからそういうプレイヤーが出てくる。他の企業さんももっとオフラインをやりたいんですよね。どうやって戦い方を変えていくのかを知っておかないと、「結局、まだ売上の9割が店舗だから」という安心感を持つのか。もう1割の売上をオンラインに取られていると考えるかで、ぜんぜん戦い方が変わるので、この疑問を常に今、持っていく必要があるんじゃないかなと思ってます。

チャネルシフト戦略で大事なことは、オンラインを起点にまずやることですね。オンラインで顧客と繋がらないと意味がない。ただ単にお店を出すのとは違う。オンラインでの顧客との繋がりを活用して、マーケティング自体を変えていく戦いだと思ってます。

「チャネルシフトマトリックス」では消費者視点で、お客様が意思決定する選択という行為をオン・オフのどちらでやるのか。買う行為をオン・オフのどちらでやるのかで、いろんな企業の事例が説明できるものを作ってみたんですね。

僕はデジタルマーケティングの事例に詳しいほうですけども、協力者がいます。持つべきものは友かなと思いますけども、MBAの同期ですね。内田和成先生のゼミで勉強された人ですけども、彼とこのフレームワークを作りました。例えば普通の会社の無印良品やユニクロなどは基本ここにいる。

もちろんオンラインでやっているんですけど、事業のメインはどちらかというとブランド力があって、店舗がきれいで「ここに買いに来い」というパターンですね。もう一方で、例えばZOZO TOWNみたいな会社は、基本的に全部選択もオンライン、買い物もオンライン。基本的にはこれが対抗軸であって、僕にとっても、オムニチャネルはこのオンとオフが社内でも対立しています。

その間にアプリなどを作って、まずこの閉じた世界でシームレスにすることが、どちらかというとオムニチャネル戦略です。チャネルシフト戦略は、さらにそれを飛び越えて、オンラインに軸を置きながら、選択をオフラインでするというやり方と、繋がりをちゃんと前提にネットで持ちながら店舗に来てもらう、この2つの戦略をやることなんですね。

オンラインの繋がりを前提とするモデル

奥谷:これをAmazonの事例で言うと、Amazon DashやEcho、Goは、これに当たるんですね。後でこのへんはディスカッションしたいと思いますけど、要するにネットで繋がっている感覚がなく、Dashをピッて押せばモノを買えるんですね。Amazon Goもお店のようですけども、あれも、ただ袋にパカパカ入れて出ていくわけなので、それは何でできるかというと、決済がオンで繋がっているからですね。

Amazon Booksとなると、どちらかというと、オンラインの繋がりを前提に、プライム会員だから値段が安くなる。だから世界観としては、オンラインで繋がっているから特別な体験ができる。後で説明しますけど、ここに出てくるお店は、あまりKPIとして店舗の売上を持っていなくて、「あなたはAmazonと素晴らしい繋がりがあるから差別してあげるよ」という待遇。もしくは特別な体験を与える店ですね。

だからこういうアプローチでオフラインに進出してきている、こういうやり方をするとマーケティング的にも、もしかしたら勝てるんじゃないかなと思っています。なのでオンラインを起点にオフラインに進出することが、すごく大事になってきている。だから何の意味もなくAmazonはホールフーズを買っているんじゃないんです。

オンラインを起点にオフラインに進出することを視野に入れてやっているんですね。Amazon以外のプレーヤーもたくさんいるので説明させてもらうと、本にもありましたけど、「ボノボス(Bonobos)」というメンズウェアのお店は、もともとはネットの企業ですけど、お店はタイムショップと呼ばれていて、サンプルしかこの店は置いてないです。

私も行きましたけど、試着をして「これをくれ」と言うと、商品に付いているQRコードをピッと読んで、会員で登録しておくと、ネットで買い物を代理でやってくれるんです。商品は棚に戻して「帰れ」と言われるので、手ぶらで帰る。そうすると2日後には商品がちゃんと届きます。

アメリカにいると、本当はそんなにアプリばかり作らなくていいのかなとすごい思うんですけど、メールのやり取りをして「この外部ショップでの体験はどうでしたか?」ということをレイティングして、ちゃんとオーダーサマリーが送られてきて、クーポンが送られてきたりする。基本的には店舗はガラガラです。

登録してネットで買うので、お客さんと積極的に対話をしないと売れないからだと思いますね。こんな感じで商品がきます。ボノボスは、つまりどういうチャネル戦略をしているのかというと、ネットで繋がりながらこっち(リアル)へ降りていくと。でもこういう企業は増えてきていると思いますね。まずネットでしっかりファンを掴んでから、どこかで小さなお店を作る。

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