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プロデュースおじさんの組織論。(全8記事)

意思決定は遅らせるほどいい? クラシコム代表が明かす「構想から手をつけるまで3年は普通」のワケ

2017年11月21日、Tokyo Work Design Week2017のトークイベントとして開催された「プロデュースおじさんの組織論」。NPO法人グリーンズ所属のプロデューサー小野氏、人気ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコム代表の青木氏、発酵デザイナーの小倉氏が、働き方と組織論について持論を展開します。今回は、3人がそれぞれに決断するときに大切にしていることを紹介。クラシコム代表の青木氏は、意思決定に時間をかけるメリットや、香港が中国に返還されたときの人々の行動と結果を語ります。

イエス・ノーを決めるときは、自分の心身を整える

小倉ヒラク氏(以下、小倉):この3人は、小野っちさんと青木さんは経営者で、僕は自分で事業をやってるんですけど。基本的に、自分で仕事をつくるとか事業をやるとか決断するって、けっこうメンタルアスリートみたいな世界に入ってくるじゃないですか。

人それぞれなんだけど、自分のなかでこう……なんだろうな。例えば、普通に上からタスクを与えられてやる仕事って、ある程度、会社のフレームのなかでどうやってパフォーマンスを出すかっていう感じで捉えるんですけれども。

自分で仕事をつくるスキームになっていくと、自分がパフォーマンスを出すというよりは、まわりの人たちがパフォーマンスを出せるような状況をつくるために、イエス・ノーを決めるみたいな感じになってくる。そのときに、イエスと言うかノーと言うかで、影響力がめっちゃでかいから。

それが今、青木さんが言ってた、喫茶店で30分(気持ちを)整えるみたいな感じだったんですけど。その負荷がすごいかかる。だいたいの人は時間換算で、ようは時給みたいな考え方で、8時間のなかでどうするかなんだけど。だから、決められたフレームの中でパフォーマンスを出せる。

何かいろんなものが動いてしまう状況に対して、自分でイエスかノーかを決めるって、究極は30秒なんです。やっぱり、その30秒の質をどう考えるか、みたいな仕事の仕方になってきたときにね、機嫌がいいとか、自分のなかでストレスが免除されたり、軽い状態をつくっていかなきゃいけないので。

そのための整え方が、すごい大事だなと思っていて。整えるときは、体温は36.5度がいいというふうに、僕は個人的には思うところですね。

小野裕之(以下、小野):うん。でもなんか、すごいわかって。僕、この質問だけでこんなに喋っていいのかどうかあれですけど。

青木耕平氏(以下、青木):次いこうよ、ちょっと。

重要な決断には時間をかけてもいい

小野:ははは(笑)。でも、途中ですごい共感して。僕も自分の意志決定の影響力をわきまえるときに、ストレスってけっこう大事だなと思ってて。最近、大事な決断をするときは。

小倉:自分の影響力をわきまえるって、どういうことですか?

小野:今言うね。大事な決断をするときに、けっこう気をつけてるのは、時間がかかることを諦めがちなところ。大事な決断なのに、上に立つ人だから早く決められるでしょ? っていうふうに、自分自身も思い込んじゃいすぎるんですよね。

だから、すごく早く決めようとか、的確に決めようってやりすぎるんですけど、やっぱり手札が揃ってないときに、1番影響力が強い人が、その組織のカルチャーを決めちゃう人がパッて決めちゃって。で、どうにか力技で間に合わせることはできるんですけど、なんかこう、機が熟してない感じっていうか。

それを待つようにしたんですよね。それで本当に、僕自身のストレスも減りました。ただ、早く決めてくださいよって必ず言われるわけですよ。「ねー。」ですからね、僕は(笑)。俺もそう思う! みたいな話ですけど。

でもやっぱり、僕らも本当に小さい組織ですけど、1個の決断の重さっていうのを知るにつけ、大事なことを決めるときには時間をかけていいんだっていう諦めがあり、その諦め感がストレスを減らすことに繋がって、逆に正しいことを決めるようになった感覚っていうのはけっこうあって。

うまく物事を決めていくって、このルーチンだったんだっていう。だから短い時間にバーッと情報を集めて、「な、な、な!」ってやって、スタッフとかと。パッと決めちゃえるじゃないですか。「言ったな? お前言ったな?」みたいな。

そう思ってなくても、まわりの人が相当そういうふうに感じとってるんだっていうことをわかったときに、もうしつこいぐらい丁寧にスタッフに聞きますね。「やっていいかな?」みたいな。「俺やりたいと思ってんだけど」って。

それが時間がかかるって諦めたので、すっごい手前から準備するようになったんですよね。だから本当に1年以上前から準備してることばっかりで、何やってんだろう? って思ってんですよ、いつも。

締め切りを自分で決められる立場になれるか

青木:それ、すっごいわかる。だからストレスをなくすとか、いろんなことで言うと、やっぱり締め切りを自分で決められる立場になれるかどうかって、すごく大きいじゃない。つまり、それだけ時間をかけられるっていう選択肢を持てる。それは、誰がケツを決めてんだっていうと、こっちが決められてる状況。

たぶん早くから手をつけられてるっていうことは、まさにその1つだよね。だから本当に僕らとかでも、何かを構想してから手をつけるまでに、平気で3年とかがけっこう普通で。

やろうって決めたときにはお金もあります。だいたい計画も立ってます。社内・社外を含めて、誰と誰をアサインしようっていうところの構想もなんとなくできてるから。はじまったら早いけど、意思決定は遅らせられるだけ遅らせてるっていう。

だから、iPhone3Gっていうのが昔出たじゃないですか。誰でも知ってると思うんですけど。あれが出て、アプリっていうのが出てからずーっと、アプリを開発したほうがいいかなってことを、もう2009年ぐらいから考えてるんですよね。まだ手をつけてないんですよ。

そしたら最近、なんかPWA(Progressive Web Apps)っていうのがね、別の仕組みで出てきて。ネイティブじゃないアプリとかのほうがいいんじゃない? っていう。それが流行ったら、ネイティブアプリをやってたほうがだめになっちゃうんじゃない? みたいな話もあって、どうなるかわかりませんけど。

ボーっとしてるうちに、1つの流れが勃興して終わっていくみたいな。何もしなくてもよかった、みたいなのが(笑)。

(一同笑)

青木:けっこうあるんですよね。

小野:いや、かなりありますよね。

何もしないという生存戦略

青木:そう。結果Webだったって。これは僕がすごい好きな話で、1999年に香港が中国に返還されたじゃないですか。あのときに、香港のエリートのかなりの人たちは、オーストラリアだとかカナダとかに移住するんですよね。

その人たちは教育もあります、と。資産も持ってますっていうんで、これはもう中国に編入されたら大変なことになっちゃうから、自分たちは移民として民主主義、資本主義の国に移住しますって言うんだけども。その人たちがどうなったかっていうと、ほとんどの人は移住して、もちろんエリートだったけれども、その移住した国では結局は移民ですから。

言ったらよそ者なわけですよね。そうなると結局、職業にもなかなか恵まれない、と。コミュニティにも恵まれないと。じゃあ、力や資産がなくて香港から移動できなかった人たちがどうなったかって言うと、中国に返還されてから経済の状況がめちゃめちゃ上向いて、資産価値がバブルみたいに上がって。そういう意味では、めちゃめちゃ恵まれた人も多かったっていう話なんですよね。

なので、ちょっと賢い人が人間の頭で考えられるレベルの未来を予測して、小賢く動いたところで、もちろんそれがたまたまうまくいくこともあるでしょうし、たまたま失敗することもあると。なので当面じっとしていられるなら、じっとしておいたほうがいいんじゃない? っていう。

だから僕は、小野くんにさえ「とにかく事業をいろいろ、ポコポコやりすぎだよ」みたいな話をするけど。まあ僕は、新規事業やらないんですよ。本当に、みなさんもぜひ機会があったら、帝国データバンクっていうところが出してる倒産速報みたいなのに触れてみてもらうとわかるんですけど。

やっていた事業が、だんだん人気がなくなって潰れましたっていう会社、1社もないですからね。ほとんどはいい時期に社長が調子に乗って、わけわかんないことで投資して、それがぽしゃったみたいな話しかないんですよ。

じっとしていれば生き残れたのにみたいな話しかないんですよ。だからもう本当に、ほとんどのことは何もしないほうがいい、っていうのはありますね。

小倉:ちょっとプロデュースおじさんっぽい話になってきましたね。

小野:なってます、なってます。

小倉:これがね、20代の起業家だったら即決めて、即いきますよ、みたいな。世界1ですよ、とかってなるけど。おじさんは、なんかね……。

(会場笑)

小倉:やんなきゃいいことはやらなくていいよね、みたいな感じになるからね(笑)。

青木:まあやらないよね。

会社は、自分にしかできない仕事を探す場所

小野:僕のなかの、自分の事業にたいする愛し方って、長く続けたいなって思えることに出会えたこと。それが、すごくうれしくて。ようは短期的に結果を出さなきゃいけない世界観って、自分がやりたいわけじゃないこともやるじゃないですか。

経済的なリターンを求めて、本当に短い期間だけ集う仲間たちがそれぞれの富を分け合うためにやるっていうのも、すごい狩猟型でおもしろいなって思うんですけど。一方で、もうちょっと農耕型のものも、ぜんぜん価値が失われてるわけではないので。この瞬間、長く続けたいって思えることに出会えたことを、本当に享受したいと思うと、遅らせても何もリスクじゃないっていう。

だってやめないもんって思ってると、けっこうマイペースでいることが怖くなくなるな、と思って。だからうちのスタッフとかにも、本当に自分のやりたい、グリーンズがという主語は、必ずしもゼロにすることはできないですよね。組織に入ってくれてるので。

でも、納得してるかたちでやろうって言って。そのかたちになるまで営業利益があんまり出なくても、その単体の事業としても、いいからって言って。僕らがやってるテーマって、すごい稼ぎづらいテーマの最たるもので。しかも稼ぎ方もニュアンス系なので、「それお前にしかできないよ」みたいな(笑)感じなんですよね。

それでも、全員が会得できたら生きていけるじゃないですか、この荒波のなかで。それを見つけてもらうために、たまたまグリーンズっていうテーマを、仮のはごろもとしてまとって。やっぱりその、自分にしかできない仕事を時間をかけて探してほしいなっていう。そのためにグリーンズを活用してほしいっていう感じ。

活用してもらってる側からすれば、ある意味経営者として、それはやっちゃだめだよっていうふうに強く言うことができるし。たぶん活用させてもらってる側で言えば、これぐらいもらって当たり前でしょ、っていう健全な関係が生まれると思っていて。

そこがいびつだと、結局お金でしか経営者とスタッフが繋がってなくて。スタッフの意思とかは一応聞くわけですけど、ゼロからは聞いてくれないですよね。いかに、そのスタッフの意見を聞いてるようなふりをして、経営者が持ってる要求を飲ませるか、っていう世界観になるわけですよね。

それって、本当うまくいかないなっていうか、僕が求めてる経営のスタイルじゃないなって思うので。グリーンズを利用してっていうので、もう丸裸だよっていう感じ。ね、そんな感じだよね、いつもね。うーんって(笑)。

小倉:モデレーター、1時間経過してる。

小野:やばいやばい、1個目だわ(笑)。

小倉:次いこう。

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