2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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柳澤大輔氏(以下、柳澤):カヤックはさまざまな事業をやっているので、せめて組織は絞ろうと思って、クリエイター中心の会社にしています。クリエイターというと実際に作る人の印象が強いかもしれませんが、カヤックの人事部なんかはけっこうクリエイター体質が強いです。
今日は、2つの施策を紹介させていただきたいと思います。先ほど話にあがっていた採用の観点では、カヤックでは「ぜんいん人事部」と言って、全社員の名刺の所属部署に人事部と入っています。
麻野耕司氏(以下、麻野):全社員に、名刺に人事部って入っているんですか?
柳澤:はい。単純に採用を全社員が自分事化して増やすために、アイデアを出し合った結果、全員の名刺に人事部と記載することになりました。僕の名刺にも人事部と入っていますよ。
実際、人事部と記載することで意識が変わり、その年の採用コストが4割も下がりました。この制度で日本の人事部「HRアワード」で優秀賞を受賞しましたが、こういったアイデア1つでいける世界もあると思うんです。そういうものがカヤックでは頻繁に人事から出てきます。
「エイプリル採用」も、エイプリルフールの日になにかやろうということでスタートした企画です。
麻野:これ、どんな趣旨なんですか?
柳澤:「エイプリルフールの1日限定で、経歴詐称の履歴書を受け付けます」という企画です。毎年1,000人近くの応募がありますが、履歴書だけで判断しています。
麻野:1,000人近くですか? すごいですね!
柳澤:2013年に開始してから、毎年の定番になっています。初年度にホグワーツ校出身というウソの履歴書が一番多かったのが印象的でしたが、そのあとも毎年のようにおもしろい応募があります。
麻野:それ、採用した人たちはどんな詐称をして応募してきたんですか?
柳澤:それがもうさまざまでして、「僕のお母さん」という方もいらっしゃいました。
麻野:(笑)。
柳澤:大胆な嘘をつく方もいれば、微妙に高学歴にするなど、どこを変えているのかわかんないような方もいます。
こういう企画を人事部が思いつくという意味では組織全体がクリエーターの組織ですので、比較的ユニークになりやすい構造がヒントとしてあります。
組織の話なので、基本的に文化の話に紐づきますが、その会社の文化がどうやって作られるかは、結論から言うとほぼ評価なんです。評価の話はふだんあまり語っていないので、意外と知られていないかと思いますが、ここではその話をしたいと思います。
冒頭で「面白法人」という言葉を会社名につけた理由をお伝えしましたが、一番重要な理念の話に繋がります。
理念の話は堅苦しく面白くないかもしれませんが、「面白法人」という言葉には、理念が込められています。そして、おもしろく働こうという言葉が込められています。ですから、自分が仕事をしている中で一番嫌だなと感じる時間がなにかを考えたんです。
ここには経営者の方が多いと思うので一度考えてみていただきたいんですが、一番嫌な時間ってなんでしょうか? ほとんどの経営者が同じ答えをされると思いますが、「評価の時間」だと思います。僕は、その人、その社員と面談をして、評価を伝える時間が一番憂鬱です。
おそらく普通のまともな神経の持ち主だったら、それが一番憂鬱なはずではないでしょうか。やはり、生殺与奪権を持っている人間が、「君はここが足りない」と言うのは非常に嘘くさいし、異常に嫌な時間です。
一方で、それが嫌でいいというか、嫌だしつらいけどやることが、経営者として正しい生き方だと思っていて、それならばいっそこの時間を楽しくできないかなというところから入ったんです。
麻野:なるほど。
柳澤:作っている仕組みは、設立時から約20年ブラッシュアップしてきましたが、カヤックの給与システムは単純です。クリエーターと経営陣やマネージャーの給与システムは少し異なります。
例えば、エンジニアが20人いた場合、20人全員に対する問いはたった1つです。「あなたが社長だったら、自分を含む20人にどういう順番で高い給料をあげるかを、順番を付けてください」と、15段階評価で行います。
一番あげたい人を15にして、その次ちょっと離れていたら12でもいいですし、一番高い人で13とやってもいいんです。そうやって20人を並べて、20人のエンジニアの合計した平均値を7段階に分けて公開したものが、ほぼ給料順になるという仕組みなんです。
これはどういう仕組みかと言うと。いろいろやってみてわかったことですが、ポイントは「職種を揃えること」。どうやっても評価は主観になってしまうので、主観の中で公平性をいかに出すか。
一番自分が公平に評価をされたいと思うのは、自分と同じ職種で、尊敬し優れている人です。その人たちの評価は比較的受け止めやすい。
例えば、営業からクリエーターが評価されても「この人になにがわかるんだろう」と思いますし、逆もそうです。エンジニアが営業を評価しても、「わかっていない」という話になるので、職種を揃えた評価が一番公平性があり、本人の納得感も得られます。
20人のエンジニアで、年次、立場関係なく評価を行い、その結果が公開されます。細かくまでは出しませんが7段階で出るので、なんとなく公平感が出るんです。
この問いにすべてが入っています。給料の高い順という問いを出したときに、やっぱり仲間を裏切るような人は、いくら能力が高くても評価は上がってきません。その会社が持っている価値観の主観が、たった1問の問いによって、みんなの主観となって集まる。
そうすると、インターネット的ですが正しいものが出る。職種を揃えてやっていくという、すごくシンプルな評価制度が報酬にまつわる評価です。
もうちょっと細かく言うと、成長にまつわる評価はまた別です。
なぜこの話をしたかというと、これをやると僕自身、評価の時間が比較的憂鬱じゃなくなるんです。自分だけが評価をつけたわけじゃなく、みんなの意見を集めてこういう結果が出ているので、「どうやってみんなを出し抜くか」「どうやったらみんなが上がると思うか」と、評価の面談から、突然、応援面談に変わるんです。
だから、おそらく複雑な評価システムというものは、評価者が評価を伝えるときに「君はこういうところがよくないと思う」と説明していく中で、自分と相手の納得感を得られやすくするために項目を作っているだけのケースも多い。
ですが、おそらくそういうことではなくて、結局は「こっちとこっちだったら、こっちが上だな」って言う、全体的には直観的なことで最後に調整して決めることも多かったりする。
それが評価の本質だとしたときに、みんなのそういった直観や主観を集めて揃えた方がきっと評価者が1人よりは精度が上がるし、上司との評価面談が「どうやったらみんながいいと言うか、上の人と比べてどこが足りないのか考えてみよう」という話に変わる。面談がそこまで憂鬱じゃなくなる仕組みですよね。
これはなにが言いたいかというと、職種を揃えることで非常にユニークな仕組みができる一例でもありますし、おもしろくない時間をおもしろくしようと突き詰めるとアイデアは出てくるという一例でもあります。それによってユニークさが生まれる。
シンプルな問いには、深い意味があります。
採用するときにも「本当にこの人と一緒に働きたいか」という問いをする。面接のすべてが詰まっていますその問いをすると、仕事ができない人とは一緒に働きたくないですし、人柄が信用できなさそうな人は採用したくないなどの答えが生まれます。たった1つの問いで充分なんです。
それを突き詰めると、みんながOKと言った人が入社してくれます。やっぱりシンプルな問いには破壊力があります。教訓としてはこの3つぐらいです。それをやっていくと、そもそもユニークな制度を作る必要があるのかという問題もありますが、作ることはできるんじゃないかなと思っています。
麻野:ちなみに、最初に柳澤さんが、事業戦略と組織戦略がリンクしていることが大事だとおっしゃいました。戦略の意味合いを考えると、やっぱり絞ること。なにを得て、なにを捨てるのかを明確にすることが大切だと思います。
例えばこの制度の中で得ているもの。なにか明確に、これはもう捨てるっていうものもあるんですか?
柳澤:例えば評価でいえば、上がらない人は上がらないです。上がる人はすぐ、新卒でもいきなり上がるケースもありますが、上がらない人はいつまでたっても上がらない難しさがあります。
その人たちには、この会社にいると、クリエーターとしてはなかなか上がれないというメッセージに自然とつながっているのかもしれないです。
麻野:ではその分、そこはもう明確に仕方がない。そういう状態になるのは仕方がないと決めているわけですね。
柳澤:それでも切り替えて楽しく働いている人もいますし、この先ある程度まで上がったときに比較的はっきりと上がる人の特長や興味を持つべきポイントなどががわかるので、「ここだと上がんないな」と言って転職することにもなる難しさかもしれません。
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