2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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川原崎晋裕氏(以下、川原崎):最近、某ナショナルクライアントさん2社が同じことを言っていて、印象に残っていることがありまして。マーケティングでいう新規認知層の形成部分にあたると思うんですが、「価値を計測できない大きな母集団」を作ることに、もうあまりお金を使う気がない、ということをおっしゃっていました。
はじめから、上記の図でいうところの「コミュニケーションバリュー」を作れたほうが効率がいいし、みたいなお話だと思うんですけど。
北村俊二氏(以下、北村):まさにおっしゃるとおりで、なんでそうなってしまったかというと、インターネットが出てきたおかげで細分化が進みすぎてしまったんです。
例えばトレンドなんかもそうで。僕らが過去にトレンドだと思っていたこと、みんな共通で認識してたことが、今はすごく細分化されて、そのなかでミクロのトレンドが無数に発生していたりするわけですよね。
例えば、アニメの声優業界のなかですごく熱いミクロのトレンドもあれば、世の中全体の潮流としてのトレンドもあったり。それが今、有象無象でぶわ〜っと広がって。ネットがあるからこそ、コミュニティ同士がつながっている。そういう世界観に少しずつ変わっています。
それはやはりネットが出てきたからこその弊害であり、コミュニケーション、マーケティングとしてやっていかなきゃいけない、そういう手段なのかもしれないですよね。だから、毒をもって毒を制すじゃないですけど、ネットが出てきてマーケティングが変わったのなら、ネットを使ってマーケティングを攻略していくしかないと僕は思っています。
川原崎:PRには、広告換算値と呼ばれているものがありますよね。ちょっとふわっとした印象がありますが。
北村:そうそう。「何媒体で掲載されました」とかね。
川原崎:はい(笑)。
北村:「いくらの広告換算値」とかね。あれって、実はまったく無意味なんです。
川原崎:無意味なんですか?
北村:無意味です。本当、意味ないです。
川原崎:へえ。
北村:当然、僕らも企業から「出してくれ」というオーダーが多いので、広告換算値を算出してお出しするんですけど、PR会社によって指標も違いますしね。
川原崎:あ、そうなんですね。
北村:違いますね。ええ。
川原崎:一定の尺度みたいのもないんですか?
北村:あんまりないですね。ネットに関してはとくにないですね。
川原崎:へえ。
北村:紙とかに関してはやっぱり紙面の大きさ。例えば雑誌であれば、「中面1ページ、カラーだといくらです」と。「今回は紙面の4分の1で出たので、200万円のところ、今回は50万円分とみなしましょう」というのは、ある程度の面積で測定すると誰でも同じように出せるんですけど、ネットの場合は難しいです。やっぱり面積的な比率ではないですよね。
川原崎:そうですね。
北村:4ページものの記事が出たからいくらとか、そういう話でもないですし。
川原崎:確かに。
北村:見出しが何時間出たからいくらという話でもなかなかないし。Yahoo!トピックスに3時間載ったからいくらとは、誰も測定ができないんですよ。なので、やっぱりネットの場合は難しい。
北村:それともう1つ問題があって。記事が複製されやすいということです。
1つ記事が掲載されると、さまざまな媒体にフィードされていくので、無限にコピー&ペーストできてしまいます。そうすると、媒体としてたくさんフィードを持っているメディアのほうが価値が高いのか、ということになってしまいますが、ぜんぜん違うわけですよね。
川原崎:そうですよね。あれはあまり意味がなさそうですね。サーバにデータが載ってるだけですから。
北村:なので、結局読まれているかどうか、たくさん出たかどうか。10の読まれない記事が出るよりは、1つ2つの読まれる記事が出たほうが効果が高いですね。
川原崎:それは立証できるんですか?
北村:できます。それはいわゆるソーシャルプラグインでどれぐらい反響があるかとか、TwitterやFacebookで10万人が読んだら反響ありますから。でも、5人しか読んでなかったらほとんど反響ないわけですよね。その反響を見ていけば、その記事が本当に読まれているかどうかがわかります。
川原崎:なるほど。FacebookやTwitterって、「リーチ」という指標を使ってるじゃないですか。あれってけっこう掴みどころがないというか、それこそ交通広告みたいな。路上で看板見かけたのと同じ……。
北村:インプレッションみたいな感じですね。
川原崎:インプレッションみたいなもので。あれってPRの文脈ではけっこう意味があるものなんですか?
北村:僕らはあんまりそこを評価していなくて。やはりアクションですよね。ユーザーがアクションしたことが大事です。ユーザーの意思でアクションするというのは、例えば「いいね!」のボタンを押したとか、コメントを書いたとか。それはもうユーザーがいいと思ってアクションしていますよね。
もしくは、シェアボタンを押して自分の周りに広げようとしているとか。それもユーザーのアクションですよね。大事なのはそのアクションなんですよ。その結果としてたまたま他の人のタイムラインに流れてきているというのは、自分の意思とは関係ないところがあるので。
川原崎:新聞のニュースって、タイトルを読めば内容がわかるじゃないですか。「誰が〇〇した」とか「どこの企業が何パーセント減益した」ってわかるんですけど、Webメディアの場合は「◯◯とは?」とか「なぜ〇〇なのか?」という思わせぶりなタイトルつけて、記事をクリックさせようとしますよね。結果、コミュニケーションコストを増やしている。
北村:ありますね。
川原崎:それで、無駄な時間が増えるという(笑)。
あれって本当に意味ないなと思って。タイトルで内容がちゃんとわかるのであれば、クリックせずとも見ただけでコミュニケーションが成立しているので、リーチやインプレッションにも意味があるのかなと思っています。
北村:そうですね。タイトルで惑わせてPVを増やすとか、ひどい場合は、そんなに長くもない記事を何ページにわたって「次へ、次へ」というふうなかたちで、2,000文字の記事を5ページにしてPV稼ぐとか。
川原崎:ありますね。ちなみにログミーは1記事あたりの文字数が5,000〜7,000くらいあるため、スマホではさすがに読みづらくなるので,2000字ごとに分割してますが、PC版ではそのままでも読みやすいので分割せずに出しています。
川原崎:私が会社員時代に担当していたメディアは、それこそ全体を合わせたら億PVといった規模だったので、PVが高いことと事業としての成功ってのはあまり関係ないんだなということをすごく実感して。
ログミーではメディアガイドにUU数は載せてるんですけど、全体PVとか記事広告の想定PVとかは一切載せていません。それは一応そういうものへのアンチテーゼというか、意味のないPV作ってもしょうがないので。
北村:確かに。それは、やっぱりログミーさんのすごいところだと思っていて。生きたPVというか、本当にユーザーが興味のあるコンテンツだと数字が跳ねると思うんですよね。一方で、あまり興味のないコンテンツってあんまり跳ねないと思うんです。
川原崎:跳ねないですね(笑)。
北村:それを無理に跳ねさせようともしないと思うんです。それはメディアとしてかなり誠実というか、ユーザーオリエンテッドなメディアの作り方してるなと感じます。
逆に僕らの場合は、こんなこと言ったらクライアントさんに怒られちゃいますけど(笑)。PR会社として、跳ねないネタをつかんで、それをPRしなければいけないときのこのもどかしさが……。
川原崎:はい(笑)。
北村:すごいつらいです。まあ仕事なのでやったりするんですけど、それってやっぱりPR会社的にはきつくて。だから、僕らとしてはしっかり世の中に反響を得られるような、そういうネタを扱いたいなと思います。
川原崎:でも、もともとなにもしなくても、というかそんなに苦労せずにブームになったりするものって、PR会社さんにお金を払わなくてもいいですよね?
北村:おっしゃるとおりですよね。本当そうなんですよ。それってイベントもそうだと思うんですよ。おもしろいイベントに参加したら、仮にログミーさんが入らなくても、ユーザーの反響だけでソーシャルメディアで拡散しながら盛り上がったり、という構図が作れるはずなんです。
だから結局、僕らはあくまでも拡声器みたいなもので、「ちょっと声を大きくしますよ」ぐらいの価値でしかなくて。本当はやっぱりコンテンツがすごく大事なんですよね。
北村:これはPR論の原点の話になるかもしれないですけど、PR担当者ってけっこうつらいんですよ。
なにがつらいかというと、まずメディアのことを知らなきゃいけない。どこのメディアがどういう編集傾向で書いてるのかを知らなきゃいけない。でも、ネットの到来によって、メディアの数が数千に増えてしまいました。
15年ぐらい前に、僕らがPRをやっていた駆け出しの頃は、ビジネス誌だったら『日経』『ダイヤモンド』『東洋経済』を押さえておいて、あとは一般紙『読売』『朝日』『毎日』『産経』と、そしてファッション誌を覚えておけば、ある程度のPRは通じました。でも今はもうそれだけじゃ通用しなくて。あらゆるネットメディアに精通していなきゃいけない。おそらく無理ですよね。
川原崎:無理ですねえ。
北村:もう1つはやっぱりトレンドです。トレンドってつかむのが厳しいんですよ。今は、マクロ的なトレンドとミクロ的なトレンドが同時並行でバーっと走っているので。
それを1人の人間が、自分が生きてきたなかで聞いてきたものを咀嚼して、「今のトレンド感こうだよな」と思っているものと、実際に巻き起こっているトレンドを正しく把握するのって絶対ズレがあるんですよ。把握しきれないんですよね。それもまた限界があるわけです。
川原崎:そういう能力って、複製も難しそうなイメージがあります。変な話、北村さんがいくらすごくても、コンサルにやっぱり近いというか、自分のコピー作れないから事業としてスケールしづらいとか(笑)。
北村:そうなんですよ。おっしゃるとおりで。本当に痛いところ突かれますよね。
川原崎:(笑)。
北村:だから、今のトレンドとか、クライアント、メディアのことを理解した上で、「こうしたほうがいいですよ」という最適なご提案をしていかないといけません。なので、トレンドを完全に理解するということは、時代的に無理になってしまいました。
川原崎:うーん、なるほど。
北村:だからそこはITを頼って、最近流行りのBusiness Intelligenceツールを活用して、意思決定をする際のサポートしてもらう。これは今のPRシーンの中では欠かすことができない状況になっています。
川原崎:なるほど。そこちょっと気になってるんですけど。昔、ハフィントンポストで編集長やってた松浦さんと一緒にイベントをやって。その時のテーマが、Webメディアで個人が生き残っていくために必要なスキルやキャリアの話だったんですけど。
例えばSEOとかSEMって一番自動化されやすそうな領域じゃないですか。「じゃあなにが残るの?」という話をした時に、やはりコンテンツ。「人が今なにを求めているか」にあたりをつけて具現化する力、メディアの領域でいうと編集力ってなかなか置き換えづらそうだよね、みたいな話をしました。
PRの場合は、広告換算値がもっとちゃんとした指標になったら、それはその時点でおそらく自動計算されるだろうと想像できますよね。そういったものがだんだん増えていったとき、PR人として最後になにが残るのか。これってどういうものがあると思います?
北村:結局、人間の頭の中で考えられない、感じ取れない部分をシステム的に人間に対してレコメンドするというところは、最後は大事になってくるんじゃないかと思います。
結局、今トレンドになってることを発したのでは、すでに飽きられてしまっているというか。トレンドになる前の芽を見つけなきゃいけないわけです。それはPRコミュニケーターとして大事な業務で。「それをどうやって見つけるの?」という話だと思うんですが、やはりそのためには、自分が見聞きするだけでは限界があるわけです。
世の中のビッグデータを解析・分析した上で、例えば「急上昇でこういうキーワードがわーって上がってきてますよ」とか、そういったことを自分の頭にインプットするためのサポートとして活用しないと、たぶんダメだと思います。
ですがそれは、あくまで意思決定を補完してくれるものであって、意思決定自体は自動化しえないというか、たぶん最後まで残り続けると思います。
米国のCNNかNew York Timesで、自動的に記事を書くAIができるという話もありましたけれども。やっぱりそこの「トレンドをつかむ」というところ、もしくは「トレンドの芽を発見する」という話になると、まだまだ機械だけでは追いつかないところがあります。
川原崎:なるほど。トレンドみたいなものは機械的に分解しやすそうなのかな、と感覚的に思ったんですけど、そうでもないんですね。
北村:そうですね、今トレンドになっていることがなにか、というのはある程度把握できると思います。ただ、それが今後トレンドになるのか、目利きの部分はわからないですよね。
北村:実はファクトブックというものがありまして。
川原崎:ファクトブック?
北村:プレスリリースってコア情報ですよね。いわゆる基本情報。それを補足して周辺情報を埋めるためにファクトブックというものを作ります。
そこには業界・産業の発展のことに関しても書いてあるし、ITビジネスだったとしても、これをライフスタイルに応用するとこんな世界観ができる、みたいなことが書いてあったり、いろいろ書いてあります。
それは単純に書けばいいだけじゃなくて、そのトレンドが憶測段階にあるのか、後追い段階にあるのか、普及段階にあるのかによって書き方が変わってきます。段階によって、世の中に必要な情報が違ってくるので。
そのフェーズを理解することや「今はこうだよね」とやるのも、PRコミュニケーターの手腕にかかってきてます。そこを失敗すると、もうぜんぜん記事になりません。
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