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ビアトーク ~”バリュー”が誰にも真似できない会社をつくる〜(全5記事)

「経営理念が、ただの集まりをチームに変える」メルカリ×ヤッホーが語る、勝ち続けるためのバリュー

「メルカリ」を運営するメルカリと、「よなよなエール」などのクラフトビールを次々と生み出すヤッホーブルーイングによるイベント「メルカリ×ヤッホーブルーイング ビアトーク ~“バリュー”が誰にも真似できない会社をつくる〜」を開催。バリューにこだわる理由、紆余曲折を経て辿り着いた「強い組織を作る方法」などをビール片手に語り合いました。本パートでは、なぜ経営理念が必要なのか。浸透しにくい理由はどこにあるのか。両社がバリューにこだわる背景が語られています。

社長にとって心地いいバリューは浸透しない

麻野耕司氏(以下、麻野):なるほど。目に見えて、口に出す機会をたくさん設けると。先ほど、トップのコミットメントの話がありました。

今日、人事や広報のみなさんも非常に多いですけど、「事業に目がいきがちな経営陣にどうしたらバリューにこだわってもらえるか」という質問があります。「うちの社長はそんなにコミットメントしてくれないんです」と言う経営者に、どんなことを伝えたり、なにをすればいいかを聞かせてもらえますか。

小泉文明氏(以下、小泉):まさしく麻野さんが言っていた、事業に紐付いたバリューが作れているかどうかだと思います。

その会社は、たぶん事業とバリューが離れているんです。勝とうと思ってバリューを作れば、絶対にそれを押し込もうと思います。「押し込もう」は悪いですね(笑)。みんなに浸透させようと思うんです。

それはたぶん社長の価値観であったりするので、そこでぜんぜんリンクしていない。バリューは、別に事業で勝つためじゃない。その社長にとって心地いいバリューを置いただけなので、それでは浸透しないです。

麻野:事業や業績と、そのバリュー、いわゆる行動指針が、社長の中で違うものになっている。なので、「こっちが大事、そっちは大事じゃないでしょ」となってしまっている。きちんとコミットする社長は、行動指針やバリューを浸透させることが業績につながると考えているんですか?

小泉:僕らでいうと、当然、採用の基準にも、このバリューの3つに対して、さらに3つブレイクダウンした9つのポイントで評価をしています。四半期も当然こういうバリューに基づいた評価をしているので、基本的にバリューをすべての判断基準に入れます。それを入れないと、「結局、小泉さんの好き嫌いでしょ?」という話になるので、個人の感情で組織を作っていると思われるんです。

経営陣がどう変わるかわからないのに、評価の基準に継続性がなくなるのはまずいです。やはり事業とバリューを、どこまで紐付けるかが、すごく大事だと思います。

何十年と勝ち続けられる企業はほとんどない

麻野:なるほど。事業とバリューが紐付いていて、さらに、そのバリューが採用、評価とも紐付いている。井手さんはいかがですか?

井手直行氏(以下、井手):今の意見も納得なんですが、先ほど話していて、共通しているのは、1回ダメな経験をしていることです。ダメなときに、経営理念がなかったことが問題だと思っています。

私がまだ一営業マンのときは、会社が崩壊していく姿を見て悲しかった。涙を毎日流して生活していたときは、経営理念がなかった。

だんだん数人の力で成長してきたときに、僕の中で過去と同じようなトラウマがあった。「こんな会社にしてはいけない」と。そのためには、ここに踏み込むしかないと思って、経営理念を作った。それで急成長しているわけです。

結局、ダメな経験があったから経営を同じ方向に向かせた。それはすごく力になり、すごい結果が出ているわけです。いろんなことがありますけど、一番基本は、経営理念の浸透させるための背骨がキチッとできて、そこに徹底することが、業績に表れているんです。

私が言うのも本当におこがましいと思いますが、たまたま業績の良い会社もあると思うんです。けど、日本の企業の歴史で、何十年と勝ち続けられる企業は、ほとんどないんです。

去年、経済団体の中で講演する機会があって、東京電力の会長の数土(文夫)さんとお話したら、「井手さんの話は、本当にうち(東京電力)の社員に聞かせたい!」と。社交辞令と思っていたら、「井手さん、今、上場企業で、10年以上増収増益してる会社が何社あるか知ってるかい?」と聞かれました。

「いや、私は上場していないので、わからないです」と答えたら、「10年以上、上場している中でも数社しかないんです。それくらい難しいことを、井手さんたちはどん底からやっていてるんです。先ほどお話した経営理念、その徹底が、すごく大事に思っていらっしゃる」と、経済界の大御所の方からそう言っていただいて。「あぁ、やっぱり大事なんだなぁ」と思ったので、どん底にならないとわからないかもしれないですね。

ただ、そこができていないと、たぶん長く勝ち続けられないと思います。なにかの市場の波、いろんな流行り廃りで、たぶんコロッといっちゃう。私が言うと、本当に失礼なんですけど(笑)。ずっと勝っていくには、一人ひとりの経営陣の能力ではなく、経営理念を浸透したチームで勝っていくしかないと思います。

麻野:なるほど。短期的な勝利は、もしかしたら、事業や個人から生まれるかもしれないけど、中・長期的、継続的に勝つには、やっぱり理念とか組織が大事だと。

井手:それを受け継いでいく。

言葉の浸透でリスクテイクする文化を造成

麻野:ありがとうございます。それにちょっと付随して、バリューを起点とした経営の本質的な強さ、価値を、 2人の言葉で聞きたいです。今かなり語ってもらいましたが、バリューが浸透して良かったと思うような、具体的な場面があれば教えてください。

小泉:僕らの会社はたぶん「Go Bold」という言葉が大好きです! 全社員が超好きです。

麻野:メルカリを担当している弊社のコンサルタントも、最近、「Go Bold」と言うようになりました。

(会場笑)

小泉:たぶんネイティブのアメリカンでは、「Be Bold」のほうが一般的に使われるんですけど。Boldは、太く、ぶっとくやっていこうと付けたんですけど。なんで Goと付けたかというと、さらに踏み込んでいきたい、という気持ちがあったので、Beじゃなく、Goにしようと決めたんですね。

Goという言葉が持つ、言葉の魔力があります。「Bold」は日本人にとって人それぞれイメージが違う思いますけど、「Go」には「行くぞ!」みたいなイメージがみんなにあるんです。この言葉の魔力があるから、いろんなことをリスクテイクすることがみんな怖くないんです。

最近、ちょっと乱発しすぎて、もうちょっと検討してほしいと思うときもあるんですけど(笑)。

(会場笑)

でも一方で、「迷うんだったらやろう、Go Boldでやろうぜ」って、みんなが好きに言っているので、どんどんリスクテイクする文化が造成されているんです。

僕らの会社なんて創業して4年で、ほとんどの大手、LINE、ヤフー、サイバーエージェントもみんなやっていたけど、僕らが勝った理由は、常にリスクをテイクする。博打に勝ってきたことが大きいと思っています。

経営理念は、ただの集まりをチームに変える

麻野:ありがとうございます。井手さんいかがですか?

井手:すみません、僕、ビールが空になったので「よりみち」を持ってきてもらってもいいですか?(笑)。「僕ビール、君ビール。続よりみち」で、今ローソンで限定販売なんです。今しか売ってませんのでね!

(会場笑)

最初に経営理念が大事な理由です。僕が最近、社員全体にしょっちゅう言っている、「経営理念がなんで大事なのか?」をスライドに、パワーポイントにしてもらっていい?

経営理念が大事だと言うけど、「なんで大事なんですか?」と聞かれるんです。いいこと、悪いこと、なにがあるか私も考えると、業務上の判断、ものの考え方の道具として、経営理念を使って、習慣化してもらいたいんです。経営理念はオーソドックスな考え方、やり方を定めているからです。

そうすると、私との判断のブレが減ってくるんです。私が言っていること、方向が同じように合ってきます。合わないなら、あとはスキルの問題です。私も大した人間じゃないですけど、だんだん合ってくるんです。ベクトルが合ってくる。

生産性が高まるんですよ。今までは、会議を5回やらないと決まらなかったことが、 1回で決まるんです。

そうすると、当たり前ですけど、業績が良くなるんです。簡単に言うと、こういう構図です。違う方向を向いていたり、登ろうとする山が違ったら、いつまでたっても会議が終わらないんです。会議が終わるときは、賛成多数か、議長がこれって決めるときです。

そうすると、俺は違うなと思った人や、納得感がない人が絶対います。納得いかないことはやらないじゃないですか。

全員納得したら、10人いれば、1+1+1+……ずっといって、10にいくかというと、ならないんです。僕らの会社は、足し算すると、10が20とか30になっている。だから急成長するんです。

大きくなって、スタッフの多様性が進んだときは、さらに強みになると思います。我々、まだまだ小さな会社ですけど、いろんな人間を入れて、海外の人間も今後は入れていく。そうすると、本当はプラスに働く。でも、ベクトルが合っていないと、いろんな人が入ってきて余計に収集つかなくなる。そこがキチッとできてないと弱みになる。

経営理念は、ただの集まりであるグループをチームに変える。

経営理念が徹底されていなくて、理解や納得感が少ないと、やらされてる感が出ちゃう。やらされてる感が出ると、本当は10の力が発揮できるのに、3とか4になる。ふてくされて辞めちゃったりする。経営理念が徹底されていないと、最後、目標達成のために、不正を犯すとか、手段を選ばなくなる(笑)。だって、日本の名だたる大企業が不正を犯すわけです。

経営理念がないかというと、あるんです。あるけど、お飾りになっていて、「お前の売り上げはどうだ」と、トップから言われると、いろんな悪いことをしちゃう。だから経営理念が大事だと思っています。簡単に言うと、経営理念の浸透によって一番効果が出ているのは、僕らの業績だと思います。

バリューは採用時の「踏み絵」

麻野:なるほど。2人の話、本当に力強いですね。ありがとうございます。すごく勉強になりました。

今日は、採用担当の方もいらっしゃいますが、次はその観点からの質問です。「バリューの合わない人でも、必要なスキルがあり、採用したい場合があると思うんです。バリューに合わなさそうだけど、今この仕事が回ってなくて、この能力が必要だというとき、どうしますか?」。では、小泉さんから。

小泉:当たり前の答えになりますけど、採らないです。今、これだけ言っておいて採るわけがない(笑)。

(会場笑)

ある意味、踏み絵なんです。「僕らが言えば言うほど、あなたたちは同意しますか?」という踏み絵だと思うんです。メルカンや、いろんなところに、この3つをすごく書いている。なので共感できないんだったら、そもそも来ないでほしいと思っています。

僕が人事に言うのは、日本の人事は、基本的に母集団のパーセンテージを考えているんです。確率論。10人採りたいんだったら、1,000人集めたい。1,000人集めれば、確率論で、最後は10人にいくだろうという考え方なんです。これは、僕からすると、ぜんぜん意味がわからない。10人採りたいんだったら、本当に欲しい人が10人来てくれればいいんです。

そのために、バリューや会社の戦略を、どこまで自分たちでブランディングをして、その踏み絵に対して、本当に来たい人が集まるかどうかだと思っています。確率論的な採用は、人事の手抜きだと思っています。

なので、バリューが採用にとっては極めて大事だし、先ほど申し上げたように、僕らの会社は、バリュー3つに対して、さらに、3×3で9個の項目を、採用の評価ではスコアリングしなきゃいけない。

それ以外の定性情報もあるんですが。定量的には、その9個をすごく大事にしているので、必ずそのバリューが重要です。入ったあとの人事評価も、バリューに基づいたものなので。ずっとバリューに紐付いて評価されている。そういう設計をしています。

中途半端な人は入れない

麻野:なるほど。井手さんはいかがですか?

井手:ここで「採ります」って言ったら、非難を浴びそう(笑)

(会場笑)

井手:うちはやっぱり背に腹……、そんなことはなくて、絶対に採らないです! 絶対に採らない。おかげさまで今年、12人の新卒が4月に入ってきたんです。10人くらい採用しようと小さな広告を出すと、1,000人くらい応募があるんです。こんな長野の田舎の小さな会社で、競争率がすごいわけです。

最近、本当に優秀な人が入って来たんですけど、2つ軸があるんです。僕らは面接を3回やるんですが、僕らの基準は優秀であること。もう1個は経営理念。要は、経営理念が、ちゃんと合っているか。この2軸で見るんですけど、どちらも合格しないと入れないです。

どちらも合格しないといけませんが、どちらを取るかは、経営理念です。ちょっとでも、そこに不安があれば採らない。幸い、今は採らなくてもいい人がいっぱいいます。1,000人の応募も来ます。

ほんの数年前は募集の広告を出しても1人も来なかった。2007年、ちょうど10年前は、まだ採用を星野リゾートにお願いしていました。私が通販サイト運営を1人でやっていたときは、もう1人(人事が)欲しいから、親会社の星野リゾートに「採用を手伝って」とお願いしました。

星野リゾートは採用、人事関係がすごいんです。僕よりぜんぜん年下の福沢さんという女性の人事担当と一緒にやりました。

僕が1次面接すると、みんないい感じがして、全員オッケーするんです。オッケー、オッケー、オッケー。でも、人事担当の評価を見てみると、全部ダメなんです。ため息つかれて、「はぁ~、井手さん、よっぽど大変なんですねぇ」って。「え!? どこがダメですか、これ!?」みたいな(笑)。

(会場笑)

面接をいっぱいやっていくと、僕もわかっていく。結果的には、中途半端な人は入れないです。ただ、僕らに見る目がなくて、そのへんが弱くて入って来た人もいました。でも、やっぱりすぐ辞めていっちゃいますね。

経営理念をものすごく大事にしているから、入った後で「しまった、この会社。入社のときには口裏合わせをしたけど違った」みたいにね。経営理念を徹底するから居づらくなって、おもしろくないから、全員辞めていったんです。

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