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「日本初の遺品整理屋が見た、急増する事故物件」 超高齢化社会における賃貸経営のリスク対策(全2記事)

不動産は“負動産”に… 単身世帯や未婚者が増加する時代の賃貸経営事情

賃貸物件をはじめとする不動産のオーナーを対象に、賃貸経営に関する情報提供をテーマとしたエイブル主催のイベント「全国賃貸オーナーズフェスタ 」。キーパーズ有限会社の吉田太一氏が登壇したセッション「『日本初の遺品整理屋が見た、急増する事故物件』 超高齢化社会における賃貸経営のリスク対策」では、吉田氏の実体験やデータに基づいて、賃貸経営における大きなリスクとなる“事故物件”について、大家が知っておくべき準備や対処法について語りました。

不動産神話の崩壊と負動産の増加

吉田太一氏:うちは不動産会社も別にやっているのでよくわかるんですけど、全然売れない物件というのが、どんどん増えています。人口減少により空き家問題が何の対策も立てられないままこれから激増ししてしまう事は間違いなく、需要と供給のバランスが逆転した今から不動産の価値は劇的に値下がりしていくことになるのです。今や、不動産は「負動産」になってしまったのです。

負動産を所有すると、建物だけでなく土地の資産価値が年々減少し最後にはただのお荷物になってしまう不動産が大部分を占めることになります。

例でいうと、相続人が財産を相続するっていうことは、マイナスもプラスもすべての財産を相続するということですね。ということは、相続で200万円の預金があって、“住まない、使わない、売れない、貸せないマンションや使用できない山林や農地、別荘”などがあった場合、不動産(負動産)は要らないので放棄して現金だけ相続しますという都合のいいことはできないのです。

つまり、現金を放棄してでも不動産を相続放棄しないと、固定資産税や管理費、積立金などを永遠に支払わなければならないという借金を背負うことになるのです。それを相続放棄せずに受け継いでしまうと、10年で300万や400万も支払わなければならなくなるというわけですので、200万円の現金があっても焼け石に水です。

しかし、親が、30年間ローンや40年間ローンを完済して残してくれた家ですので、放棄するのは申しわけないですよね。でも、それがゴミ(負動産)になっているというのが現状なのです。

しかし、まだ不動産神話崩壊の現実を知らず、いつか売れるだろう、貸せるだろうと思ってなかなか相続放棄を選択する方は少なく固定資産税地獄にはまって苦しんでいる人は増えてきました。

ここは知っておいたほうがいいと思うんですけど、相続放棄するのは、家庭裁判所に行って何百円かの紙に書けばそれで簡単にできるんです。借金なんて何千万、何億でも、はいそれで終わりです。

もちろん不動産を相続放棄するときにも、相続放棄申請の受理書をもらえば、固定資産税は止まりますので一応相続放棄は完了です。

しかし、実際に次の所有者が決まるまでずっと“管理義務”というのが残ってしまうのです。それを回避するためには、相続財産管理人というのを裁判所に決めてもらって、その人に管理してもらうと同時に管理義務が無くなるという方法もありますが、そのときの裁判所に支払う費用が100万円前後かかるのです。恐ろしいでしょ……。

収益物件でも同じです、20年~30年先まで考えたときに、価値が残りそうな場所であるかどうかを今のうちから想定しておかなければなりません。これから30年先のことを考えると、私がいま52歳ですから82歳になります、生きているかわかりませんけれどもね。

ますます増加する、未婚社会、単身世帯

これから未婚者がどんどん増えます。今年20歳を迎えた男女の50パーセントは、20歳まで恋人がいませんでしたと答えています。そして20歳から30何歳の適齢期の8割の男性は、今彼女がいません。6割の女の子も、今彼氏がいませんというアンケート結果が出ているようです。

この方々のほとんどが、だいたい一人っ子なんです。この一人っ子の子が、今までそんなに恋愛経験もないのに、10年後何パーセント結婚すると思いますか? 10パーセント結婚したらいい方だと思いますよね。ということは、30年後くらい先まで考えると、結婚している人のほうが少数派で変わっているという時代になる可能性が非常に高いと思いませんか?

「俺、結婚するんや」って友達に言ったら、「お前変わってるな」って言われるわけですよ。「なんでやねん」っていうと、「8人結婚せえへんのに、お前ら2人だけ結婚するなんて、変わってるやろ」と。そう言われると「たしかに俺は変わってる」って言わなしゃあない。

ここにいらっしゃる方は多くの方が結婚されてますが、若い人たちに対して、結婚することの説得力のある説明をしてくださいって言われたときに、結婚の説明ができる人いますかっていうと、いないですよね。なぜ結婚しないといけないんですかって言われたときに、ちゃんと説明をするのは難しい。

本当にこれから結婚する人がいないというのはどういうことかというと、自分の葬儀も遺品整理も、なにもやってくれる人がはじめからいないような人たちが、世の中にいっぱいになるということです。

そういう人たちは所有権というものに興味がなくて、不動産を求めないので、とくに賃貸に入居するということになります。はじめから、保証人がないのは当然、保証人がなくても、入れないといけない。

そして身内がいないんで、身内という歯止めがかかってない。親に迷惑かけたらいけないとか、子供がいないからとか、そういう存在がいない人たちが入ってくるわけで。家賃の滞納なんて、平気なるかもしれない。そういうふうなこともあり得ると、思っておかないといけないわけです。これからもっと人口が減っていきますから。

生活スタイルの変化、家族の在り方の変化、価値観の変化はどんどん進むでしょう。今、空き家が増加したため、東京都心から電車で30~40分の地域にも、100万や200万台で中古マンションが売っているんですよ。都内に通うのに1時間少しの距離にある一戸建てだって、100万で買ってくれたらありがたいと感謝される物件もたくさんあるのです。

相続人がいなくて自分が住むだけだったら、それで十分価値がありますよね。そんな中古の物件がこれから続出するわけです。

そんな負動産の所有者の方々は、もう「タダでもいいから使ってほしい」「月に1万円でもくれたらありがたい」「固定資産税だけでも払ってくれたらありがたい」と。そういうことになっていきます。

そんな物件が激増する中で、自分の商売道具である収益物件に入居者をコンスタントに入れるためには、ちょっと家賃を下げるなどという方法では通用しなくなりますので、物件に魅力的な要素っていうのがなければならないのは当然です。

それから、最近私たちが仕事をしていて気付いたことがあります。保証人がすでに亡くなっていてすでにいないというケースが意外に多いということです。もちろん保証人が契約当初はいらっしゃってたはずですが、その方が何年か後に亡くなっていたとしても、そんなこといちいちチェックしていますか? しませんよね。

そして事が起こった時に保証人に電話したら、「数年前にすでに亡くなっていますよ」と……。もちろん保証人の子供を探してそこに債務請求することは可能ですけど、基本的にそこまではなかなかしない。なぜかというと、あまり時間をかけてそのままにしていると、次の家賃が入ってこないわけですよ。早く片付けて整理して貸し出ししないと、ずっと長引かしたら、毎月毎月損していくわけです。

こういう1人住まいの高齢者の方に関しては、振込だけじゃなく月に1回できるだけ顔見て、集金してあげる。毎月見て話しかけてあげて健康状態をみてあげる。それくらいのことをしないといけなくなるかもしれない。

「ひとつ屋根の下に住む」ということ

フランスで隣人祭りというのがありまして、1999年にフランスのあるアパートに、ペリファンさんという方がいまして。アパートの隣の部屋のおばあさんが、死後1ヵ月で発見された事があり、その人はすごく落ち込まれました。隣の部屋で死んで1ヵ月気づかなかったことよりも、そのおばあさんと4年以上同じマンションの隣同士で住んでいたのに、自分がそのおばあさんとしゃべったことがなかったということに自分自身ショックを受けたそうです。

そして「これはマズイ」っていうことになって、その人が、毎月第3木曜日かな、そのアパートの住人みんなに声を掛け、食材を持ち合って、みんなでコミュニティとしてご飯を食べましょうと呼びかけた。

そこで知り合った人は、僕が使ってないときはみなさん、自転車使ってくださいとか。お母さんが忙しいときは、ずっと家に居てるおばあちゃんが、お子さんを幼稚園まで迎えに行きますと。その代わりおばあさんがお迎え行ってくれたので、買い物のついでにおばあさんの希望する物や、お重いものは買ってきてあげるっていうことで。

住民同士のコミュニティができたんですが、なんと10年弱でヨーロッパ29か国800万人が参加する市民運動となり、2008年には日本でも初めての「隣人祭り」が東京・新宿で開催されています。

「ひとつ屋根の下に住む」という言葉が昔はよく使われていたと思いますが、最近そういう言葉ってないでしょ。家族はひとつ屋根の下で住まなくなっちゃったんですよ。今ひとつ屋根の下で住んでいるケースはなにかといったら、集合住宅です。

実は、ひとつ屋根の下に住んでいると、いろいろなことに対応が利くんですね。隣の家だったらまだいいけれども、やっぱり隣の駅や5キロとか離れていたら、ちょっと雨が降っているだけで躊躇するでしょ。やっぱりひとつ屋根の下にいるということは、ある意味では煩わしさはあるかもしれないけれども、いろいろな意味で協力し合えるという状況だと思います。

その意味では、オーナーであるみなさんが親となって、入居者を家族のような存在として、安心安全に住める環境つくりを行い、物件の商品価値にしていかないといけない時代です。

海外の例ですけれども、ものすごく大家さんや入居者同士が干渉しあっていて、煩わしさもあるが、安心・安全だっていう評判が立つようになったマンションがあります。はじめは煩わしいと感じる人たちは出ていくんですけれども、ずっと継続していると、それが噂になって、「あそこにいると安心で安全やから」ということになる。

その結果、築40年くらいのマンションなのに付加価値が付き、新築のマンションよりも家賃が高いという相乗効果を生んでいるケースもあるようです。さらに、満室になっても順番待ちになったんです。順番待ちになるということは、値段が上がるということです。値段が上がるから、いろんな設備をどんどん替えていけるということです。

だから不動産の価値は安心・安全。これから人付き合いの少ない人たちが「あそこに入っとけば大丈夫だよ」と思うような、安心安全であることを武器にできるような住宅を作っていく必要があるのじゃないかなと思いますね。

死後事務委任契約や少額短期保険などによる対策

あとは、少額短期保険会社が販売している原状回復や家賃保証の保険に入るということ。1部屋、月数百円で300万円までの保証が付いてくるような掛け捨て保険がたくさんあります。入居者の室内での死が条件であったり、さまざまなタイプがあるので一度調べてみて下さい。

(スライドの)一番下に書いているのは、一定の条件に満たない場合の、契約時における、死後事務委任契約の導入です。

先ほど、私の(会場に)ブースに、いらっしゃった方が入居者に誰も相続人がいないという場合にはどうするかと聞いてこられたのですが。原則的に、相続人がいても相続人がいなくても、家主の立場では勝手に家財の処分はできません。裁判所に申し立てて、財産管理人を指定してもらって、その人の費用(100万前後)を払って、財産管理人の判断によって片付けてもらわないといけないんです。

そのためには、入居時に死後事務委任契約を結んでもらうことが有効になってくると思います。遺族がいる、いないに関わらず、生きているうちに死後の事務について契約するので有効です。死後事務委任契約というのは、極端な話、口約束でもいいんですが、それじゃあ証拠が残らないので、紙に書いたほうがいい。公正証書にせずとも有効なんですけれども、できれば公正証書にしたほうがいいと思います。

もしくは、公正証書遺言で、「私が死んだときに全部家財道具を大家さんに遺贈します」と書いていた場合は、これは遺族がおられても、ほぼ大きな問題にはならない。それを書くのは入居者さんですが、その費用がかかりますので、公正証書遺言については、本人が負担する気がなければ書いてはくれない。でも、そういうふうにして入居者が亡くなったあとのことも、これからは考えていかないとだめです。

遺品整理サービスの内容

遺品整理サービスはなにをするかというのをちょっと書きましたが、主に室内に残された遺品の捜索、整理、清掃、運搬、供養、買取をワンストップでお受けするサービスです。

要するに貴重品の漏れがないかとか、「これは持っていたほうがいいんじゃないか」というものは、遺族に「処分せずに持っていってください。もしかしたら売れるかもしれませんよ」ということを、全部こちらで見て決めて、それを助言したり、形見を押し付けていくようなサービスです。

そして、不要なものについては、地域の回収業者を手配します。そこに搬出して、持っていってもらう。そうすると部屋が空っぽになるので、部屋の中の掃除までする。部屋で亡くなっていた場合は、清掃だけでなく消毒や、死臭の除去をします。そして、あまりにも酷い場合にはリフォームも行います。

また、地主さんに建物を借りて借地で建物を持っていた場合、解体をして返す場合の、解体の手続き。部屋で亡くなっていたので供養してほしいということであれば、お坊さんをこちらで手配して、そこで花を添えて供養する。

さらに、各支店には祭壇があります。宗教的にどうこうじゃないんですけど、おじいちゃんが好きだったもの、お父さんが大切にしていたもの、そういった遺品を形見として持っていかない場合には、うちのほうでお預かりして、その祭壇に供えて無料で供養するというようなサービスもやっています。

あと、形見分けを全国へ持っていってあげるということ。それから、不動産の売却。家の片付けが終わり、不動産も全部売却してくださいという人もいらっしゃるので、そういったこともします。それに伴って、相続などにまつわる専門家の紹介も行っています。

これ(写真)が、実際の供養の様子です。

この後ろに、最近は遺族の方がよく来ます。日本初の遺品の供養専用ホールも東京支店にはあります。まあ、遺族に対する精神的な付加価値ですね。

激増するゴミマンション

それからこれ(スライド)は、「ゴミマンションから孤立死」と書いています。

テレビでニュースになっていましたが、このあいだゴミ屋敷のおじさんが火事で亡くなりましたね。3件くらい所有している方が亡くなりましたけれども、ゴミ屋敷というのはこれからどんどん減っていきます。見た目でだいたいわかりますから、行政減らすために取り組みも行っています。

しかし、今から増えるのは、ドアを開けないと分からない、ゴミマンションです。コンビニが1軒できると、ゴミマンションがダーっと増えます。

ゴミマンションの中身はコンビニのものばっかりなんですよ。私が行った最高記録がこれ(身長)くらいですから、天井までの隙間が30センチ。玄関に入るときに、上に手をかけて、足でこうやって登って行った。そこから若い女の子が「どうも」って顔を出す。こんなところの奥で亡くなっている方も、けっこういます。

本当にこれは外から見えない。だから、なにかの理由をつけて入居者の家に行って、ちょっと覗く。一番はじめに入居するときに、「年に1回は必ずこのチェックをしますよ」というのを、はじめに伝えて書いておいたうえで、やらないといけない。やはり貸しっぱなしで年に1回も覗かないというのは、これから非常に危ないです。

社会から孤立していくおひとりさまも激増し、部屋で一日中過ごす人たちも多くなるので、部屋の中がゴミ箱になりやすいので、特に注意してもらいたい。

これで今日のお話は終わりますが。自分の物件(商品)で、商売をされているみなさんが、今まではそんなに気にしなくてよかったことだけど、これからは、単に物件(商品)の価値を高めるだけでなく、安心・安全な、事故の起こらないためのリスクヘッジを日々考えていかないといけない時代なのです。まだ、今はいいですけど10年20年経ったときには、もっと大変な経営状況になるかもしれません。

また、長年住んでいただいた方がたまたま部屋で亡くなって、遺族が悲しんでいるのに、その人に向かって「弁償しろ」とか「訴えるぞ」って言わなくていいような状況を作れるように、紳士的な経営をしていただければなと思います。

これで時間が来ましたので、終わらせていただきます、ありがとうございました。

(会場拍手)

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