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新しい社会のインフラを創造する~起業から現在までの軌跡~(全3記事)

「経営者がカリスマであってはいけない」CA藤田晋氏が大切にしている経営哲学

三木谷さん、藤田さん、お互いに尊敬しているところはありますか? 9月6日、新経済連盟が関西初の大型イベント「Hello, Future! 新経済連盟 KANSAI SUMMIT 2016」を大阪・梅田にて開催しました。新経済連盟代表理事の楽天・三木谷氏、副代表理事のサイバーエージェントの藤田氏、クラウドワークスの吉田氏が登壇し行われた豪華セッション「新しい社会のインフラを創造する~起業から現在までの軌跡~」。日本を代表する経営者たちが、それぞれに尊敬しあっているところとは?

三木谷氏が今、買収したい分野は?

吉田浩一郎氏(以下、吉田):そういう感じで、逆にトレンドがないのであれば、スタートアップを作って買収してもらうというやり方もシリコンバレーではけっこうメジャーじゃないですか。

そういう意味で、三木谷さんがこれから買いそうな分野を教えていただきたいんですけれど。そこで起業すればいいという(笑)。

三木谷浩史氏(以下、三木谷):いやいや。やはりこれからシェアリングエコノミー系、さっき言ったIoTとかになると、なかなかグローバルスタンダードに勝てないと思うんですよね。

うちはちょっと変わった会社で、「社会に意味があることをやろう」と、なんとなく社会に貢献しているとか、社会に意味があることをやろうということがメインなんです。

そういう意味でいうと、日本のコンテンツを海外に持っていくといった分野は、(藤田さんは)「AbemaTV」をやってらっしゃいますけれど、どうやってもこれから日本は厳しそうじゃないですか。人口が減っていくし、だからそういう社会の問題を解決できるようなモデルは、やはり興味がありますよね。

吉田:なるほど、社会課題解決。私、実は先月「Y Combinator」のデモデイに行ってきて、そのなかでおもしろいなと思ったのは、ガソリンのオンデマンドサービスが今、シリコンバレーでめちゃくちゃ流行っているんです。

アプリで「明日までにガソリン入れておいて」というと、IoTを使ってガソリンを開けて、車でガソリンを届けて翌日までに入れてくれたり洗車してくれたりというような。

これが10憶20億という資金調達をしていたりするんですけど、確かにそういうシェアリングエコノミーのような新しいリソースのあり方みたいなものはけっこうあるんじゃないかと思いますね。

お互いの尊敬できるところを教えてください

リアルな話ばかりだとつまらないということなので、もう少し突っ込んで、お二人はもう15年以上のお付き合いですね。ということで、お二人それぞれからお互いについて尊敬してる点とその逆の……、コメントがあれば両方、一言ずついただきたいなと(笑)。長いお付き合いのなかで。

藤田晋氏(以下、藤田):俺は言えるけど、三木谷さんは俺の尊敬してるところないと思いますよ。

三木谷:いっぱいありますよ(笑)。

吉田:尊敬してるところと、好きなんだけども……、みたいな。

(会場笑)

吉田:まず、尊敬してるところ、どうですか? お互い。

藤田:前に僕、なにかのコラムにも書いたんですけど、なんだかんだやはり、周りにいる人に刺激を受けて「自分もまだまだだ」と思うんですよね。

2兆円と聞いてまだまだだし、やっている事業内容とかもそうだし。グローバルに事業展開することとか、この新経済連盟という団体を立ち上げるとか、常に背中を見せてくれる人というのがだんだん減ってきていると僕も思う。やはりいない、少ない。

三木谷さんは唯一と言っていいほど、すでに1歩2歩、もっといっぱい先に行っていて、「自分はこんなんじゃダメだな」と思わせてくれる、僕にとってはそういう存在なんですけど。

例えば、経営的なスタイルは、ぜんぜん僕は違うなと感じました。今の話で「これというものが見つかるまでやらない」と。やるために緻密な事業戦略を練って、そのために人を集めてという感じだと思うんですけど。

うちの会社って、思えば最初からそうだったんですけど、一生懸命人材を採用して、できるだけ優秀な人材を採用して、「そいつがいるからこの事業を始めた」みたいな。

その人たちをとにかくやる気にさせるような事業内容を選んだり、がんばらせるためにそれを選んでいくので、ベースとなるやり方がすごく違うんです。そういった面でもすごく勉強になりますよね。やり方が違うということ。

吉田:なるほど、三木谷さんはいかがでしょう。

三木谷:勝負強い。麻雀チャンピオンですからね。なんせすごい。いや、まじめな話。

やはり、見ていて若手の使い方がうまいですよね。とくにクリエイティブな人たちの使い方が非常に。集めるのもうまいし、先ほど言った「やる気が出せる」というようなことも。お互いあまり型にはまっていないと思うんですけれど、とくに先を読む力もあるし、今やってらっしゃるAbemaTVもそうですけど、張るときは張るというね。

勝負するときは勝負するし、それから若い人をうまく使うということについては、まじめな話、見習うとこはいっぱいあるなと思っています。

年代も違うし、事業内容も違うので、それはなかなか難しいことはあるなと思いつつも、やはり若手の集め方がうまいなと思います。

「趣味でも持てよ」三木谷氏から藤田氏へのアドバイス

吉田:私、新経済連盟の理事にならしていただいて、お二人とも接点が増えてまして。

今まではすごく調整型で経営をしていたんですけれど、やはり(社員が)200人300人になってくると、リーダーシップを持って、ある信念に基づいて引っ張っていかないといけないというシチュエーションが増えてくるときに、お二人の後ろ姿からは私自身も非常に刺激を受けております。

ぜひ末永く一緒に歩かせていただければと思っております。まったく丸くなりましたね(笑)。

藤田:そういえば、吉田さんの事業は社会のインフラを作っているような。職安の代わりというとあれですけど、そういった職業のマッチングサービスを作っているので。インフラ投資みたいなことが長く続くので、上場してからも「赤字が続いていて苦しい、つらい」みたいなことを、さっきも言っていたじゃないですか?

吉田:はい、少々。

藤田:僕も上場してから2000年から2003年の決算まで、ずっと赤字だったんです。4期。4年赤字で本当にボロクソ言われつくして、「もう無視」みたいなところまでいっていた時代があったんですけど、その頃に三木谷さんに相談をしていました。

もうげっそり痩せた顔をして「つらいです」みたいな感じで。そのときに、三木谷さんは覚えてるかわからないけど、「趣味でも持てよ」みたいなこと言われて。

吉田:(笑)。

藤田:「ワインかゴルフか乗馬」って言ってたんですよ。三木谷さんと三木谷さんの奥様と、僕が3人のときに。乗馬は無理じゃないですか? だからとりあえずゴルフでもして、時間を稼ぐことってけっこう大事というか。

長い仕事生活なので、勝負かけてる時もあるし、ものすごくテンション上がって情熱を傾けてる時期もあれば、それを落ち着かせるために長い時間やり過ごさなければいけない時期もあるので、それは本当に三木谷さんに教えてもらったことですね。もともと、なぜか身についていたふてぶてしさみたいな。

企業にとっては買収される幸せもある

三木谷:うちはアメリカでけっこう企業を買っているんですけど、Slice(スライス)って会社を買収してから1年半くらい経つんです。

そうすると、この前Sliceの人たちから、買収される前のSliceと、楽天に買収されたあとのSliceと、このくらい事業規模が大きくなって「We are very happy」みたいなコメントが来たんですよね。

日本のなかにはなんとなく、ずーっとやり続けなきゃいけないみたいなコンセプトがあるじゃないですか。日本人のなかには。でも本来であれば、もしかしらた企業は吸収されちゃったほうがいい場合もやはりあるわけであって。

なんとなく日本はそうすると敗北感みたいなものがあるんですけど、アメリカはまったくそういうのがないですよね。

売って、ちゃんと継続するように3~4年そこで働いて、そしてまた次に新しい企業をつくっていくという、そういうシリアルアントレプレナーというのがいて。中国もそうですよね。

日本もやはりちょっとそういうふうになっていかないといけないなと僕は思っているんですよね。

吉田:今、クラウドワークスを買収しようと……? そういうわけじゃないですね(笑)。

三木谷:興味ないです(笑)。

吉田:失礼しました、厳しいですね。ぜひ、横で見させていただければと思います(笑)。

三木谷:分野的にですよ(笑)。

「経営者がカリスマであってはいけない」

吉田:ということで、そろそろ質問タイムに入りたいと思います。このお二人に直接質問できる機会はまずないと思いますのでぜひ。

ざっくばらんな質問でも今日はOKということで事前にご確認いただいていますので、ぜひ、どなたかご質問ありますでしょうか? はい、じゃあ、大きな声で。

質問者1:藤田さんに質問があるんですけれど、『ビジョナリー・カンパニー』を非常によく読まれているとお聞きしております。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

今、『ビジョナリー・カンパニー』は1から4があると思うんですが、会社経営してきたこのなかで、「コリンズさんこれは違うよ」「これはまさにやっててよかったよ」という2つを教えていただきたいと思います。

藤田:待ってくださいね。よく読んでるというか……、しばらく読んでなかったので忘れちゃって(笑)。

『ビジョナリーカンパニー』、1から4までもちろん全部読んだし、1はかなり繰り返し読んだし、全部いい本だと思います。

ただ、本を読んで聖書みたいにそれに従ってるわけではなくて、言葉は悪いですけど養分にしているだけなので。取り入れられるものは取り入れるし、そうじゃないものは自然と捨てていくというか、経営者ってそうあるべきだと思うんですよね。

「この経営者を尊敬してます」と言って、その人の真似をしてたってダメじゃないですか? やはり取り入れられるところを取り入れて、真似できることを真似し、関係ないものはその脇に捨てるという、本の読み方もそのように読んでいるので、なにが違うとかというのもぜんぜん覚えてないですね。

ただベースとなる考え方で、やはり経営者として会社が芸術作品。みんなで作る芸術作品のようなものであり、経営者がカリスマであってはいけないという考え方は、僕はけっこう大事にしてるつもりです。

団体競技というか、サイバーエージェントが業績がよくても、なにかの事業が出ても、「AbemaTVは自分が作りました」と言っちゃダメだと思ってます。

その満たされない気持ちを満たすために麻雀の試合に出て、麻雀は勝ったら自分が勝ってるし、負けたら自分が負けていると。ぜんぜん質問に答えてないんですけど、そんな感じです。

質問者1:ありがとうございます。

撤退ルールを決めて、あとは任せる

吉田:続きましてどなたか。どうぞ手前から。はい。

質問者2:藤田さんにお聞ききしたいんですけれど、組織の作り方についてです。サイバーエージェントでは、若い方がどんどん新規事業を作っていくという文化があると思うんですけど、今日もおそらく大企業の新規事業の方々が多数お越しになっていて、そこの作り方に苦悩されてると思うんです。

組織のなかで新しい事業を作るというところの、組織文化の作り方について教えていただければと思っています。

藤田:週末に8社作ったと言いましたけど、よくそんなに簡単に決めるねというくらい簡単に決めているんです。

なぜ簡単に決められるかというと、うちの会社のなかであらかじめ撤退ルールみたいなものが決まっていまして、出していい赤字額の上限と「ここを下回ったら撤退」ということが決まっているので、1個やって最大損失でもこのくらいである、というのがもう決まっているんです。

だから会社を作って、「社長、あとはもうお前の責任だからね」ということで。チャンスを得た人も当然結果を出したいので、死にもの狂いで基準をクリアしたり、会社を立ち上げようとしていくので、死にもの狂いでやってくれるんだったら非常に簡単なので、あとは放っとこうと。もし仮に失敗してもマイナスの幅は知れているということで、そういうふうにやって新しい事業を立ち上げています。

吉田:うちも今、新規事業をいろいろ仕掛けようとするときに、そもそも新規事業立ち上げることを前提にして採用していなかったり、やっぱり「人の質」の確保が難しい。そのあたり採用のときに気を付けている、あるいは文化作り、1番最初の新規事業作るときに気をつけたことってあったんですか?

藤田:グループ会社、昨日売却を発表したネットプライス、ビーノスとかもそうですし、シーエー・モバイルって会社とか、最近はCyberZとか、とにかくグループで会社を作って、そのような感じで作って大成功を収めてるケースが今までもたくさんあるので、やることはそもそも是としているんです。

あと、我々、買収がヘタクソだというのもあって、そのぶん自分たちでやらなきゃいけないね、と。

やはり日本社会の肩書の重みというのは逆に……逆手に取れるなと思っていまして、大企業だと社長はすごい偉いし、部長でも相当偉いみたいな。そこで若くして社長だという肩書を与えると、それだけでももう死に物狂いでがんばり始める。それをうまく使っているという感じですね。

吉田:なるほど。

藤田:とにかくやらせちゃえば、やりますよ。

楽天のビジョンを支える「トリプルS戦略」

吉田:(笑)。ちなみに三木谷さん、私から質問なんですけれど、M&Aという話があって、藤田さんはM&Aがそんなに得意じゃないって言葉があったんですが。

逆にいうと楽天さんは、けっこう積極的にM&Aされると思うんですけど、だからこそ最短で、設立から19年で時価総額1兆円を突破したという部分もあると思うんです。そこで心がけていることとか、どういう目線で買いにいってるとかありますか?

三木谷:これはすごく簡単で、方程式があって、顧客価値。顧客が「ライフタイムバリュー」というんですけど、そのお客さんがいれば生涯価値がいくらか。顧客獲得コストが生涯価値よりも著しく低ければいいと。

楽天のモデルというのは基本的に会員モデルなので、その会員にそのサービスをひっつければ、価値がさらに増大しますよねという方程式が成り立てばいい。日本ではこのモデルなんですよね。

最近、「Vision2020」というものを作ったんです。うちは3つのビジネスしかやりません。1つはストロングビジネス、もう1つはスマートビジネス、3つ目はスピードビジネスだと。

スピードビジネスについては、これはいくら損してもいいと。100億だろうが、200億だろうが、300億だろうが損してもいいと。でもグロースするぞと。世界レベルでいうと、例えばViberとかですね。損が出ていても、9億人のユーザーがいる。

スマートビジネスというのは基本的にアービトラージ。例えば、うちでいうと海外のEbates(イーベイツ)というキャッシュバックサイト、これはたとえば年間7,000億円くらいの取り扱いがあるんですけど、アメリカではAmazonとかEbayにヘッドトゥヘッドでコンピートするんじゃなくて、スマートにビジネスしようということやっていて。

日本はストロングビジネスだと。日本は会員がいっぱいいますので、そこに会員価値が上がるようなビジネスをひっつけていく。作るときもあれば、買収してくることもある。トリプルS戦略って呼んでるんですけど、やってます。

吉田:非常に明確なポリシーで。

三木谷:必ずしも明確じゃないときもあるんだけれども、やっぱりフレームワークを作るというのはけっこう重要だと思うんですよね。そのフレームワークのなかで進めていかないと。

例えば、海外で最初から黒字にしようと思っても無理なので、やはりある程度のところまではグロースが必要だ、とかって、(国内と海外で)違うじゃないですか。

パラメーターを変えていかないと、難しいかなと思っているんですよね。

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