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資金調達市場の今後(全5記事)

ストックオプションの価値をどう伝えるか--メルカリ、スマニューの採用事情

2015年12月10日、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。セッション「資金調達の市場の今後」では、モデレーターを務めるWiL・松本真尚氏の進行のもと、スマートニュース・鈴木健氏、メルカリ・小泉文明氏、freee・東後澄人氏が、日本のスタートアップのストックオプション制度について意見を交わしました。

エンジェル投資家から出資を受けるメリット

松本真尚氏(以下、松本):みなさんちょっとずつ経験が違うので、ぜひ会場からもいくつか質問がございましたら、何個かは受けられると思いますので、挙手をお願いします。

質問者1:エンジェル投資についておうかがいしたいと思います。例えばメルカリさんでも、スマートニュースさんでも、まず自分たちのコストである程度走るというのと、エンジェルを入れるメリット。あと、どれぐらいのパーセントまで吐き出してもいいからやるのかとか。そのへんの戦略があれば教えていただけますか?

小泉文明氏(以下、小泉):メルカリはエンジェルはなくて、さっき言ったEast Venturesにシードを入れてもらっただけなんです。僕自身もエンジェル投資を5社とか10社ぐらいやってるんですけれども。

エンジェルは本当に「協力してくれるかどうか」という切り口がすごい大事かなと思っています。あと、その人のノウハウが本当にその会社にとって意味があるかどうか。名だけでとるとろくなことがないと思うので(笑)。

そこのメリットを明確にしたうえで、アウトプットを出してくれる人を協力者として迎え入れるのはいいかなと思います。比率とかは……僕はあまりセオリーとかはちょっと。どうなんですかね、健さん? 僕はあんまりピンと来ないんですけど。

鈴木健氏(以下、鈴木):一応世の中的にはセオリーみたいなもの、何パーセントとかいうのがあると言われるわけですけれども、かなりケースバイケースかなと思っています。

エンジェルでもハンズオンでやられてるケースというのは若干シェアが多めでもいいですし、そうでない場合というのは少なめのほうがいいですし。

まさに、エンジェルの方がどういうコミットをしていただけるのかのによると思うんですよね。

いい兆候として、今本当に日本のエンジェルの層がどんどん厚くなっています。この会場にもいらっしゃると思うんですけれども、5年前とは比べ物にならないぐらい良質なエンジェル投資家の方が増えているんですね。

なので、そこは本当に有効利用しないと損というか。本当によくなってますし、かつこれからどんどんよくなってくると思いますね。エンジェル投資に関しては。

先ほどのデータを見てびっくりしたのは、アメリカで5兆円とか6兆円のうち、2兆円がエンジェル投資。「エンジェル投資の割合そんなに多いんだ」と思ったんですが。

あれも結局GoogleとかFacebookの社員って数千人単位とかで億万長者になってるわけですよね。数千人単位で億万長者になっているお金がまた後輩や友達に流れていってというエコシステムが流れてるわけですよね。

僕はあまり上場とかを早く考えるタイプではないんですけれども、社員の人たちとか初期のメンバーが本当に気軽にエンジェル投資家になっていくというような状況になってくると、将来的にエコシステムもどんどんよくなってくるなと思ってるので、ぜひそういう未来をみんなで作れたらいいなと思ってます。

松本:ありがとうございます。

ストックオプションの行使条件

質問者2:人材採用が重要だということで、各社ストックオプションを(社員に)配布されていると思うんですけれども。ユニコーンを目指すとけっこう期間が……成長するまでをじっくりやる必要があると思うんですけれど。

ストックオプションの行使可能期間をどういう思想で、何年か刻みでべスティングをつけてらっしゃると思うんですけれど、どういう感じでつけてらっしゃるかというのをうかがたいと思います。

小泉:うちはべスティングは国内はないですね。海外はありますね。国内はないというのでいうと、税制適格の2年後かつIPO後。だから、やろうと思えばそこで全部行使して、別に辞めたかったら辞められる。

べスティングについては、やっぱり人間というのは、そうは言っても、金銭じゃないハートの部分で一緒に仕事をやってることに対してすごくプライドを持っているので。そんなにべスティングで人を縛れるかというと、僕は無理かなと思っているし、辞めたい人は辞めてほしいなと思っているので、メルカリはそういう設計でしてますね。

鈴木:これについては、日本の税法上のストックオプションのスキーム上、ご存知の方も多いと思いますけれども、2年以上10年未満というのがもう決まってしまっています。

つまり、適格なストックオプションにする以上は、それを前提にしたストックオプションの設計になります。そうすると、いわゆるクリフと呼ばれているものというのは自動的に2年になるんですね。

うちはそのあとにべスティングがあって、2年で50パーセント。3年で75パーセント。4年で100パーセントみたいな感じになっています。

これがシリコンバレーの標準的なやり方に近い。シリコンバレーはもう少しタイミングがたくさんあり、細かいんですけれども。それに近いものでやっています。

東後澄人氏(以下、東後):freeeもほぼスマートニュースさんと同じようなかたちです。期間は決まっていて、それで分割して行使していくというようなかたちですね。

さっきおっしゃったみたいに、期間がどんどん長くなっていく傾向は、ユニコーンを目指すとあると思うんですけれども。

とは言え、10年を超えるような期間を見てるかというと、そのスピード感もすごく大事だと思っていて。そういう意味で言うと、そこまで間延びする感じはないんじゃないかなと。

ストックオプションを受け取る社員が、十分現実的なメリットとして、「イメージできるな」と思えるようなスピード感と期間で、そのメリットを享受できるじゃないかなと思ってやってます。

人材採用におけるメリット・デメリット

鈴木:もう1つ追加で、ストックオプションのときに、実は小泉さんと同じ結論になってるんですけれども、大事なのは、クリフとかべスティングの話もあるんですけれども、実はそれを持ち出せるかどうかなんですよ。

2年後にストックオプションが行使可能になったとして、それを「会社を辞めたら、無効です」という会社が日本ではたいへん多いというか、基本的にそうなんですよね。なるべく長くいてほしいので。それがよくない理由の1つに「辞めなくなってしまう問題」というのがあるわけですよね。

もう1個あるのは、アントレプレニアンな人材を採用しやすくなるんですよね。僕が採用活動をしているときに「この人、入ってほしいな」という人がいるわけですけれども。

「僕はスマートニュースに入るか、起業家しようか迷ってます」みたいな人材ってやっぱりいるんですよね。そういう人材っていいじゃないですか。「自分で起業したい!」ってパッション持ってる人って素晴らしいじゃないですか。

そういうときに、「今から7年間一緒にやろうぜ」みたいな。言われたほうはけっこう辛いですよね(笑)。そうすると、「ちょっと起業のタイミングを逸しちゃうな」みたいに思うじゃないですか。

でも、「一緒にいて2年間やって、そのときに続けたいと思ったら続ければいいし、2年後に辞めて自分で会社作りたいと思ったら会社作ればいいじゃん?」というのは、本人にとってもハッピーな選択肢になると思うので。

やっぱり持ち出し可能にしていくというのは、日本でももっと文化として根付いたほうがいいかなと思います。

松本:ちなみに、僕は辞めるときストックオプション全部捨ててきましたもん。逆ざやだったのであんまり気にしなかったですけど(笑)。

ストックオプションの価値をどう伝えるか

質問者3:先ほどストックオプションの話で、それがあることでやる気が出る方もいると同時に、一定数の方はあんまり興味がないと。やっぱり近くに事例がないと……というお話があったと思うんですが。ストックオプションの価値の理解を広めていくような試みは何かされていますか?

小泉:社内ですよね?

質問者3:はい。

小泉:僕は社内では、「これが行使価格で、これが今のうちの直近のファイナンスの金額で、この差分で税金20パーセントで」みたいな説明をけっこうしてますね。

そこはしっかりしないと、それこそメッセージだと思うので。メッセージとしてその人が本当に価値があって大事だよということと、一応どういう設計で、どういうメリットがあってというメッセージがすごい大事だと思うので。

そこは丁寧にいつもホワイトボードで書いたりしてやってます。「この差分だから……」みたいな。「あなたが頑張って将来的な価値がもっと上がるようにしていければ、もっと経済的なメリットがあるよね」みたいな話も含めてやっています。

そこはちゃんとやらないと、もらったほうが白けているというか。丁寧に毎回ずっと同じ説明をしてるという感じですかね。

鈴木:同じですね。ストックオプションの価値は、周りにそれで成功した人がいないとわからないので。本当にゼロベースの知識を前提にして説明してます。

僕が1時間ぐらいかけて「ストックオプションってこういう仕組みで……」とか、そもそも「株とは何か?」とか。「議決権というのがあるんだけど、ストックオプションはないんだよ」とか。そういうのを含めてゼロベースで詳細に1時間ぐらいかけて説明するというのをやっていました。

日本のベンチャーに必要なエコシステム

東後:うちはそこまでやってないので、「なるほど、そこまでやるんだな」というのがけっこうびっくりしました。ただ、freeeでやってることの1つは、取締役会で共有しているようなKPIを、そのまま社員全体にも共有するようにしています。

なので、今、なぜ、何が取締役会で議論されていて、どこが課題になっていて、外の株主から見たときにどう見えてるか、みたいなことを同じ目線で議論できるようにしようというところを心がけています。ただ、そういった説明をもっとしていったらいいのか、というのは聞いていて思いました。

松本:ありがとうございました。「資金調達市場の……」という話だったんですが、人事の話になったり、最後はストックオプションの話で盛り上がったりと、資本施策がどうしたこうしたという話は離れちゃってたんですが(笑)。

先ほど鈴木さんもおっしゃってましたけど、ノウハウやお金を友達や後輩にちゃんと分配することが日本のエコシステムの第1歩ではないかと。これは非常にいい言葉だと思います。

我々がそれを気をつけていかないと、「日本のベンチャーって1周終わったら終わり」という話になってると、いつまで経っても大きなマーケットにはなっていかないと思いますので。お金だけではなく、知恵とノウハウもみんなで共有しながら日本のベンチャーマーケットを盛りあげていければなと思っています。3人の方に拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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