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ダイヤモンド社書籍オンライン 前田鎌利×横田伊佐男対談(全5記事)

孫正義氏の意思決定力の秘密 人を動かす言葉はどう生まれるのか

「100%一発説得」をテーマにした「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」が11月2日(水)に開催されるのに先立って、『社内プレゼンの資料作成術』著者の前田鎌利氏、『最強のコピーライティングバイブル』著者の横田伊佐男氏が対談を実施。孫正義氏のもとで働いてきた前田氏が直に見てきた、彼の言葉の力強さはどこから生まれるのか? ビジネスマンなら知っておきたいプレゼン術とコピー術を紹介します(この記事は「ダイヤモンド社書籍オンライン」のサイトから転載しました)。

「紙ゼロ」で億単位のコストを削減

――前田さんは孫正義さんのもとで働かれてきましたよね。孫さんはどのようなメッセージを発してきたのですか?

前田鎌利氏(以下、前田):孫さんはひと言でいうと、「意思決定をする人」ですね。そして、常にシンプルで潔い。「やる」のひと言で、なんでも実行してしまう。

一番印象に残っているのが、2012年の「社内業務ペーパーゼロ宣言」です。文字どおり「社内業務では紙を一切印刷するな」という指令ですね。

当時はiPadが出始めた頃で、「それを全社員に支給しているのだから、すべてiPadを使いなさい。そしてプレゼンはすべてスライドで写しなさい」ということを、スパッとやったんですね。

横田伊佐男氏(以下、横田):おお、一気にやったわけですね? でも、ペーパーレスって、いざやるとなると、なかなか難しいものですよね。

前田:ええ、でも、そこを孫さんは徹底したんです。強烈なメッセージを発していましたね。「社内業務でペーパー、コピーは一切許さん。社内で紙を使う者はもう社員ではない」と。すごくないですか?(笑)。

そして、各部署に対して例えば「この部署は、今月は5枚まで」と厳しい割り当てをしました。結果として数億円の経費削減につながりました。

横田:へー! すごい!

前田:さらにすごいのは、そのコスト削減の成果を、取引している関連会社にもっていって、「ソフトバンクはここまでできたから、おたくもご協力をお願いします」と巻き込んだところなんです。

取引先は紙ベースのところが残っていても、「うちは紙ゼロなので協力をお願いします」「印刷してペーパーを出せませんので、データでお渡します」と、巻き込んでいったのですね。

そして、その企業のコスト削減にもつながった。もちろん、反発もありましよ。だけど、どんなに反発があっても、「やる」って言ったらやる。それが孫さんです。そして、そのために、短くて強烈な言葉を武器にされてましたね。

横田:そう言えば、2012年は僕もiPadを買ったばかりの頃でした。当時、孫さんのツイッターを見ていたら、「これでノートというものがいらなくなるという確信を得た。ふふふ」というようなツイートがあった記憶があります。社内ではペーパーレスがそこまで徹底されていたのですね。

前田:ツイッターといえば、もうひとつ記憶に残っているのが、当時話題になった「やりましょう」ですね。これはツイッターのフォロワーから孫さんに寄せられた要望に対し、孫さんがその場で「やりましょう」と返事をして、会社として応えることを約束するというものです。

――社員としては、孫さんのツイートに戦々恐々ですね(笑)。

前田:まさに(笑)。だけど、孫さんが「やる」と言った以上は、会社として応えるということ。そこには、社員としても意地がある。だから「どう実現するか」「いつまでに実現するか」をすぐに考えるのです。

要望を投げかけたフォロワーにも、「やりましょうって言ったのに、いつまで放っておくんですか?」と思われてはいけないので、スピーディに提案して案件化して、動かしていかないといけない。このスピード感を乗り越えていくのが毎日、大変でしたが、やりがいもありましたよ。

「社外プレゼン」と「社内プレゼン」をどう使い分けるか?

横田:私も、孫さんのプレゼンで忘れられないことがあります。

2015年3月期第2四半期決算説明会で、孫さんは冒頭、「ソフトバンクは金の卵を産むガチョウである」というスライドをバンと見せてプレゼンをしましたよね。あれが鮮明に記憶に残っているんです。

要は「ソフトバンクはいろいろな事業を生む母体である」という意味で、投資している事業への正当性をプレゼンするようなものだったのですが、プレゼンがそのまま謎解きのような、不思議な語り口だったんですよね。

――「不思議な語り口」とは?

横田:決算説明会ですから、聞きに来ている人は、「今期の業績、どうだったの? ここがちょっと悪かったんじゃないの?」と、なかば追及するような気持ちでいる。そこへ「今日みなさんに覚えて帰ってほしいのは、ソフトバンクは金の卵を産むガチョウだということです」とくる。

これは、不思議なことですよ。でも、こっちは、なんだか拍子抜けして、そのまま最後までその説明を聞いてしまいますよね。そして「なるほどな……」などと納得してしまう。見事だなと感じました。

前田:その感じ、わかります。ただ、孫さんは、はぐらかそうというような意図はないですね。

自分が本当に大切だと思っていることを、相手に伝わるようにプレゼンする。そこには、本当の「念(おも)い」があるから、プレゼンにも熱がこもる。「金の卵を産むガチョウ」などという記憶に残るフレーズも生まれる。そして、聞く人を納得させてしまうんでしょうね。

その「念い」の強さは、孫さんの卓越した「伝え方」の根源だと思います。

――前田さんのプレゼンも、きっと孫さんの影響を受けていらっしゃるんでしょうね。孫さんにプレゼンするときに、意識したことは何でしょうか?

前田:特段、凝ったことや奇をてらうようなことは意識しませんでした。社内のプレゼンで妙に凝っても、「そんなことはいいから、早く結論を」と言われてしまうのがオチですから(笑)。

社内の決裁をとるのに「金の卵を産むガチョウ」といった面白いフレーズは必要ないと思うんです。孫さんだって、投資家という「社外の人」を相手にするからこそ、「金の卵を産むガチョウ」などというフレーズを編み出すわけで、社内ではもっと単刀直入というか……。

横田:たしかにそうですよね(笑)。

前田:そこに「社外プレゼン」と「社内プレゼン」の違いがあるんです。孫さんが金の卵を産むガチョウの話をしたのも、「外部の方向けに、2時間ほどのお話しをする」という前提があり、「それならば、興味をもち続けて長い話を聞いていただけるように、キャッチーなキーワードを最初に持ってこよう」と組み立てたと思うんです。

社内で、通常の業務の話をするときには、孫さんもそのような込み入ったことはやりませんでした。

孫氏にプレゼンするときに一番気をつけていたこと

――では、孫さんにプレゼンするときに、前田さんが一番気をつけていたことは何ですか?

前田:とにかく「短い時間で終わらせる」ことですね。

――孫さんはせっかちな方なのですか?

前田:いえいえ、そういうわけではなく、孫さんに限らず、経営者のみなさんはとにかく忙しいですからね。限られた会議のなかで、どれだけたくさん意思決定できるかが重要なわけです。だから、プレゼンは長いというだけでアウトです。

「こうです。こうです。だからこうです。なのでこうします。よろしいでしょうか」このようなテンポの速い話し方で進めて、何もなければそのまま走り抜けられるし、何か引っかかることがあれば質問が出てくる。質問が出てきそうなことは事前にちゃんと打ち返せるようにアペンディックス(付属資料)を準備しておく。

そして、しっかりと議論をして、経営陣の疑問を解消することができれば、承認されるわけです。ここで「いい議論」をしておくことが、その後の事業実施段階での経営陣のコミットメントにも影響しますから、重要なプロセスです。

つまり、効率よく、スムーズに短時間で、かつ「質」の高い意思決定を実現するためにには、準備にある程度の労力と時間をかける必要があるということです。

――なるほど、短くて説得力のあるプレゼンにするためには、しっかり準備しておく必要があるんですね?

前田:そうですね。もちろん、できるだけ手早く、効率的につくるように工夫するのですが、「上司が決裁するために必要な情報は何か?」「どんな疑問をもつだろうか?」などあらゆる観点で考え抜く必要があります。

それから、忘れてはならないのが、関係部署に対する事前のネゴシエーションですね。「ネゴシエーション」というと、どうしても「やらしいヤツ」みたいなイメージを持たれますけど、これはとても大事なことなんです。

もっとも効果的なのは、事業提案をするときに、関係部署のアイデアをもらいにいくこと。30分でもブレストをすれば、提案内容もよくなるうえに、相手のコミットメントも得られる。時間がないときには、「会議でこういう話をするよ」と知らせておくだけでもいい。それだけで、会議で決裁を得やすくなります。

それに、決裁後、事業を実施する際にも関係部署の協力を得やすい。だから、ネゴをしない理由なんてないんですよ。下手に「ネゴシエーションなんてやらしい」と我を張って会議の場で突っ張るよりも、よっぽど効率よく話が進みますし、いい結果が得られる。

横田:ネゴも説得力を得る方法ですよね。すごく大切なことだと思います。今、とくに大企業はM&Aの連続で、「同じ会社」のなかに「違う会社」がたくさんあるような状況が多く生まれています。だからこそ、前田さんのようなネゴシエーションの手法はとても大事だと思います。

プレゼンは「左目」を、相談事は「右側」から

横田:ところで、まったく話は変わるんですが、前田さんの『社内プレゼンの資料作成術』 の中で、「決裁者の『左目』を見て話す」という項目がとても印象的でした。この法則も、孫さんへのプレゼンに使っていたんですか?

社内プレゼンの資料作成術

前田:はい、使っていましたね。本の中でも述べているように、左目から入る情報は、直感やひらめき、ビジュアルを司る右脳に通じていくんです。だから左目を見て説得すると、その説得したい気持ちが決裁者にすごく伝わるんですね。

それに僕の場合は、相手が孫さんでしたから、両方の目を見るとどうしても緊張してしまいます。片方の目だけならば、なんとか直視できたという事情もあります(笑)。

――たしかに、片目だけならば緊張がやわらぎますね(笑)。

前田:ええ。一方で、相手を説得するのではなく、相談事のような内輪の話をする場合は、相手の「右側」から話しかけたほうがうまくコミュニケーションをとりやすいという心理学的な技術もあります。

人間の心臓は左側にありますから、どうしても左側から近づかれると警戒してしまう。だけど、右側から近づくと、相手の心臓から遠い分、相手は安心するし、こちらの心臓に近い「左側」をさらけ出していますから信頼してもらいやすい。

「会議」という公な場で話すときと、「ちょっとご相談が……」というときとでは、目線や立つ位置を使い分けるというのも1つのテクニックですね。

横田:おお、なるほど。これは、参考になりますね。

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