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ダイヤモンド社書籍オンライン 前田鎌利×横田伊佐男対談(全5記事)

サイバーエージェントのスローガンはなぜすごい? 意思決定の“質”が高い企業の特徴

孫正義氏から一発OKをもらい続けた伝説的プレゼンテーターで、ベストセラー『社内プレゼンの資料作成術』著者の前田鎌利氏。『最強のコピーライティングバイブル』著者で、10月から横浜国立大学のマーケティング授業でコピーライティングを教える横田伊佐男氏。伝え方のスペシャリストである2人が対談を実施。「100%一発説得」をテーマにした「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」が11月2日(水)に開催されるのに先立って、今、プレゼン力とコピー力が求められている背景について語りました(この記事は「ダイヤモンド社書籍オンライン」のサイトから転載しました)。

「売り込む」前に「相手に負担をかけない」という親切心

――ふたりはビジネスにおける「伝え方」のプロフェショナルです。多くの企業からセミナーやコンサルの依頼が殺到しているそうですね? なぜ、それほどのニーズがあるとお考えですか?

前田鎌利氏(以下、前田):理由は明白だと思っています。ビジネスのスピードがどんどん速くなっているからです。つまり、どの会社も限られた時間で、質の高い意思決定をどんどんしなければ、生き残っていけない。

会議の時間も週に1時間取るのが精一杯で、2時間、3時間の会議をやろうとしてもなかなか難しくなってきています。

そこで、「伝え方」の精度を上げることで、意思決定のスピードと質を高めようと努力されている。

だから、私の場合には、「プレゼンの仕方を社員に教えてほしい」という依頼が多いのです。これは、どの会社の経営陣も、危機感をもっているところだと実感しています。

横田伊佐男氏(以下、横田):そうですね。もちろん、大きな案件を決めるときは会議室にじっくりこもって決めることもあるかもしれませんが、毎月、毎週と、意思決定の会議に決裁者を拘束して議論を重ねる時間は割けなくなってきていますね。お客様だってそうです。みなさん忙しいから、営業マンのダラダラした話には付き合ってくれません。

だから、私のところには、「短いフレーズで相手に本質を伝えるとともに、相手の心を動かすようなキャッチコピーのつくり方を教えてほしい」といった依頼が増えているのだと思います。

前田:ビジネスとは、コミュニケーションですからね。その質が問われているということなんでしょうね。これは、本当に重要なポイントです。

社内会議でも、時間が1時間しか取れないなら、その時間内に案件をいくつ入れられるかが勝負になってきます。

決めたいことはたくさんある。決めてほしい部署もたくさんある。その中で優先順位の高いものから決めていくわけですが、仮に優先順位の高い順に意思決定をすることにしたとしても、1つしか決まらなかったら残りの議題は滞ったままです。それでは、会社のビジネスが停滞してしまいます。

短い時間の中で意思決定まで持っていけるかが勝負

横田:時間がとれなくなっているなら、意思決定する案件を減らせばいいかというと、そうもいかないんですよね。

前田:時間がない中で、ある程度の案件をさばいていきたい。1案件の意思決定に割ける時間は限られているから、その意思決定を行うために説明をする時間も当然短くなります。

提案者にとっては、その短い時間の中でいかに正確に概要を説明して、細かな議論をしてもらって、意思決定まで持っていけるかが勝負になるんです。

横田:決裁者の「意思決定」以前に、提案者の「説明」がポイントなんですね。

前田:そうなんです。限られた時間の中で、決裁者は「意思決定」というゴールを目指さなければなりません。

だから、提案者の話が要領を得ず、何を話しているのかわからなかったり、長々と話しているだけでその全体像が見えなかったりすれば、イライラするわけですよね。

「結論は何だ?」とか「言いたいことを1行でまとめろ」というフレーズが会議でよく出るのは、そのためなんです。

そこで、たとえば「結論から話す」というようなフォーマットに沿って話を進めていくと、比較的短い時間で「何をどう決めてほしいのか」が決裁者にも伝わる。お互いにとっての時間短縮になるし、使う労力も少なくてすむようになります。

横田:説明する側からすれば、「あれもこれも」説明しないとちゃんと伝わらないと思ってしまう。だから、決裁者が「要するに何だ?」と言うのを、決裁者のエゴのように感じて反発心を覚えることもある。

だけど、会社が置かれている状況を考えれば、エゴでもなんでもなく、当然のことなんですね。

逆に言えば、決裁者が意思決定するのに必要不可欠な情報を厳選して、わかりやすく伝えるのは、決裁者への親切心にほかならない。これは、社内外問わず、ビジネスにおいてきわめて重要なことですね。

「売り込む」以前に、「相手に負担をかけない」という親切心。これを持っているかどうかで、人生が180度変わると言ってもいい。このあたりのコツも、今回の「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」でも語っていきたい。そして、そういう社員が増えれば、会社も確実に変わるでしょうね。

「企業理念に則った提案」が社内プレゼンのコツ

――なるほど。それでは、相手を一発で説得するためには、何が重要なのでしょうか。

前田:うーん、『社内プレゼンの資料作成術』には、そのための具体的なポイントをいくつも書いたのですが、「そのなかでも最も重要なポイントは何か?」と聞かれたら、「企業理念に則った提案をすること」だと思いますね。

社内プレゼンの資料作成術

――「企業理念」ですか? ちょっと意外です。もっと、テクニカルなことだと思っていたので……。

前田:ええ。もちろん、テクニカルなポイントも大事ですし、ビジネス合理性も大事ですよ。だけど、それ以前に、企業理念をしっかりと踏まえた提案でなければ説得力は生まれません。

企業理念とは、「その会社がなぜ存在するか」「その会社が何をして社会の役に立とうとするか」を言語化したもの。つまり、企業としての「思い」ですよね。その「思い」がさらに強くなったのが「念(おも)い」。「理念」に「念」という字が使われているのも頷けるかと思います。

この「念い」がこもっていなければ、どんなにテクニックをもっていても、心には響きません。逆に、会社の「念い」に合致した提案であれば、経営陣も腹落ちがしやすい。

横田:確かに、企業理念に則って提案をすると、提案の意義が明確になる。つまり、すべての提案が「この提案をこの会社でやらなければいけない理由」になるわけですね。

ただ、そのためには、企業理念がどこまで社員に浸透しているかがカギになりそうですね。

前田:その通りです。一例をあげると、ソフトバンクは孫正義さんが立ち上げた創業者企業ですから、企業理念をことあるごとに口酸っぱく述べて、経営幹部にも一般社員にも浸透させています。

だから、社員からの提案にも企業理念が自然と反映されていて、その結果、意思決定も速くなるという好循環があるように思います。

一方で、たとえば雇われの社長が率いる会社だったり、創業者から跡を継いだ2代目、3代目が社長を務める会社だったりすると、どうしても「企業理念」は薄らいで、「今期の売上目標」や「今期の利益」ばかりが語られてしまう傾向にあります。

ところが、その根っこに社内で共有している「理念」のようなものがないと、経営陣の意思決定にもどこか自信がない。その結果、実行力が伴わないケースが多いように感じますね。つまり、意思決定の質が低いのです。

信念の強さこそが、意思決定の「質」

――これは、見落としがちな観点ですね。

前田:ええ。会社員ならみなさんそうだと思うんですが、誰にだって「これはやりたい!」という前向きな仕事もあれば、「これはやりたくないなぁ……」という後ろ向きな仕事もあります。では、それを分ける最大の要因は何か?

要するに、「やる意義があるかどうか」に尽きると思うんです。

一見無謀な仕事でも、「意義」を感じられれば、「よし、やってやろう!」となりますよね? 会社のなかで、その「意義」の根源は「企業理念」にあるわけです。

ところが、「企業理念」を抜きに「売上」や「利益」だけで考えると、たとえ儲かりそうな仕事であっても、「儲かりそうだけど、やりたくないなぁ……」と二律背反の状況が生まれやすい。

もちろん、儲けなければなりませんが、それ以上に「理念」が大事なんです。だから、企業理念が浸透していて「うちの会社はこれで世の中の役に立つんだ」という方針が明確な会社では、一時の感情に振り回されずに最後までやりきる強さがある。

――なるほど。

前田:結局、「売上を上げる」「利益を出す」というのは、「最後までやりきる」という信念を強く持って実行した結果としてついてくるものなんですよね。その信念の強さこそが、意思決定の「質」なんだと思います。

その「信念を強く持つ」という根幹の部分は、やはり企業理念に則って自分の提案をしているかどうかにかかっている。これはプレゼンに限らないかもしれません。社内のあらゆるコミュニケーションの根底に、常に、そういう意識が根付いている会社は、強いですね。

横田:確かに、「この提案の背景にはうちの会社の企業理念があり、これで世の中の人々を幸せにできるんだ」というところまで自己解釈ができてプレゼンをする社員と、「とりあえず午前9時から午後6時まで会社にいればお給料がもらえるけど、毎月の提案本数ノルマを稼ぐために一応提案しておこう」という社員では、その内容が違って当然ですね。

内容以前に、プレゼンのときの目の鋭さや、話し方の勢いにも大きな差が出る。説得力が全然違ってきます。

企業理念をどこまで理解して仕事に取り組めているかどうかが、社内を動かす伝え方の大きなポイントなんですね。「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」でも、お伝えしたいことの1つです。

前田:そのとおりだと思います。

なぜ、経営幹部に「コピーライティング能力」が求められるのか?

横田:ところで、そのためには、経営陣の伝え方も問われますね?

企業理念を社員の心に根付かせるためには、そもそも経営陣が上手に伝えておかなければなりません。企業理念だけじゃない。「今年は会社としてこれをやっていく」という方針やスローガンも同じですね。

前田:おっしゃるとおりです。

横田:僕は、企業研修のときによくこんなテストをします。受講された社員さんを対象に、「社長が話した今期の方針をどれだけ覚えているか?」というテストです。すると、社員のほとんどが答えられない(笑)。まぁ、企業理念は辛うじてわかっていたとしても、今期の方針は覚えていない。

前田:たしかに(笑)。

横田:これでは意味がないですよね。社長は「朝礼のたびに口を酸っぱくして伝えているのに……」「ウチの社員は……まったく」と言うかもしれないけれど、現実に社員が覚えていないわけですから、これは社長のほうに原因があります。「長い」とか「わかりにくい」とか、何かしらの原因があるのでしょう。

そこで必要なのが、コピーライティング能力です。パッと意味がわかって、記憶に粘りついて離れない。そんなワンフレーズを生み出す力があるかどうか。それが社長力を左右すると思います。

その力があって、粘り強く伝えれば、必ず企業理念やビジョン、方針は社員に浸透します。

これは社長に限りません。なんらかの方針を部下に伝える立場の人には、身につけていく必要のある能力だと思いますね。そうでなければ、部下を率いていくことはできません。

――たしかに、社長の話が長いと、途中で聞いてませんものね(笑)。

横田:まぁ、現実はそうですよね(笑)。僕がいろいろな会社を見ている中では、サイバーエージェントがコピーライティング能力に長けていると思います。半期ごとのスローガンを、経営陣が社員にしっかり浸透させているんです。社長が経営幹部と6ヵ月に1回、スローガンを考え抜いて、全社員に発表しています。

そして、そのスローガンが、とにかく短くて、わかりやすい。これをご覧ください。

2012年上期 No.1を目指さなければ、憂鬱じゃないじゃない2012年下期 勝負所、正念場、天王山2013年上期 続・正念場2013年下期 熱狂2014年上期 三倍エージェント2014年下期 爆グロ2015年上期 暗闇の中でジャンプ2015年下期 FRESH!2016年上期 NEXT LEVEL2016年下期 低姿勢

前田:おお、これはインパクトがありますね。「爆グロ」ってなんですかね(笑)。

横田:藤田社長いわく、「爆発的にグロース(成長)」という意味らしいですが、僕たち部外者にはわかりづらいものもありますね(笑)。でも、サイバーエージェントの社内ではきっと伝わる言葉なのでしょう。覚えやすいですし(笑)。実際、スローガン発表後は社員がアメブロで自分ゴトに解釈し、書き綴るのが恒例となっています。

あと注目したいのは、IT企業らしく軽妙なスローガンが並ぶ中にたびたび出てくる「勝負所、正念場、天王山」「続・正念場」「低姿勢」といった泥臭いスローガンです。

社内の雰囲気を引き締めたいときには、このような厳しいキーワードで警鐘を鳴らす。半期後の未来を予測しながら、正しい方向に社員を導くようにスローガンで誘導しているんですね。

前田:なるほど。すごいですね。

横田:先ほど前田さんもおっしゃったように、企業理念や経営方針、スローガンに沿った提案をするのは社員にとって大事なことです。でもそのためには、社長や経営幹部が、社員が受け取りやすいキーワードでそれを伝えてく努力が必要なんですよね。

企業理念や経営方針、スローガンは、いわば経営陣から一般社員への「プレゼン」なんです。その品質を高めるためにも、リーダーにはキャッチコピー力を身につけてほしいと願っています。ですから、ぜひとも今回初開催となる「プレミアム白熱講座」にきていただきたいですね!

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