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ビジネス書大賞2016授賞式(全3記事)

ヤフー小澤氏「ハードワークに悲壮感は必要ない」楽天球団設立・Yahoo!ショッピング再建の“ムチャぶり”を振り返る

2016年7月4日、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン主催の「ビジネス書大賞2016」授賞式が行われ、受賞3作品が発表されました。授賞式のあとに行われたトークセッションでは、日経BP社・中川ヒロミ氏とヤフー・小澤隆生氏が登壇。小澤氏は、大賞を受賞したベン・ホロウィッツ著『HARD THINGS』になぞらえて、自身の仕事におけるハードな挑戦を振り返りました。

ヤフー小澤氏のHARD THINGS

HARD THINGS

中川ヒロミ氏(以下、中川):あんまり他人のことは言えないと思うんですけれども、小澤さん自身のHARD THINGSって、なにか言えるものがあったら教えていただけないかと。

小澤隆生氏(以下、小澤):いや今、孫(正義)さんに死ぬほどこき使われてますよ(笑)。これはハードだと思いますよ。

中川:そうですか(笑)。

小澤:それはそうですよね。日本で1番か2番に厳しい優秀な経営者に、とある難しい事業……Yahoo!ショッピングですよ。ここにいるみなさん、きっと使ってないじゃないですか。だって僕は楽天にいたんですよ。Yahoo!ショッピングなんて見えてなかったわけですから。それを「なんとかせい」と言われた。これはハードですよ。

(会場笑)

中川:そうなんですか(笑)。今は大きい企業でやられてるじゃないですか。起業家として本当に死ぬか生きるか、(会社が)明日潰れるんじゃないか、借金がこれだけ……というほうが厳しいんじゃないかなと想像するんですけれど、今のほうが辛いですか?

小澤:いや、辛かったことは1回もないです。もう全部楽しいことばっかりですけど、大変なだけです。今のほうがずっと大変ですよ。やっぱり求められてる規模だったり、自分が実現しなきゃいけないゴールがでかければでかいほど大変で難易度が高い。「どうやってやろうかな?」というのは常に思ってますね。

中川:難しいというか、悩みが大きいという感じですか?

小澤:そうですね。難しいなと。興味もないのに、「プロ野球チーム作れ」と言われたときってやっぱり難しいと思うんですよ。

中川:楽天球団は興味なかったんですか?(笑)。

(会場笑)

小澤:興味はないです。ただ、「プロ野球チーム作ってみろ」って言われれば、「大変だけどおもしろそうだな」と思うじゃないですか? ただハードですよね。

中川:はい。

小澤:そういうことです。辛くもないし、つまらなくもないけど、ただただハードです。

ハードワークに悲壮感はまったく必要ない

中川:辛いと思ったことはないんですか?

小澤:なんていうんですかね。一般的な辛いというのはないと思いますね。僕は別にクビになってもいいんですもん(笑)。うまくいかなかったら残念だなとは思いますよ。ただ、辛くはないですね。

中川:辛いときはどういうときなんですか?

小澤:逆にみなさん、辛いときってどういうときなんですか?

(会場笑)

小澤:好きなことやらせていただいてというか。今だったら、日本一の経営者と思われてる方に期待をいただいて、潤沢な資金をいただいて、「さあ頑張るぞ!」と。でも内容は難しい。といったら、「これはいいぞ! 難しいけどね」という状況なわけなんですよね。

うまくいけば「やったー」だし、うまくいかなかったら「ああ失敗しちゃったな、残念だな」って思いますけど。殺されるわけじゃないですもんね。なんか手首縛られてどっかに繋がれてたら辛いと思いますよ。

中川:孫さんに?(笑)。

小澤:いやいや、誰かに(笑)。そういう肉体的な苦しみがなかったら……。あとは言葉を選ばずに言うと、食べるのには困ってないわけですよ。お給料も頂戴してるし、会社もやってますからね。そうすると、辛いというのは、自分自身の仕事においてはないです。

とある事象に対して、例えばテロが起きましたと。それを見てて胸を痛めて辛いということはあるかもしれないですけど、自分は自分の道を選択して、それをやってるだけですから。嫌なら辞めますということですね。

中川:なるほど。本の最後のほうで「苦闘を愛せ」「自分を愛せ」という言葉が出てくるんですけれども。小澤さんは、そういう辛い状況を楽しもうという感じではないんですか?

小澤:辛いという言葉尻でお話しするつもりはないんですけど、朝から晩までなにかを実現しようとすると、没頭するタイプなんですよ。もうずーっとやるんです。

僕は今でも、日本のeコマースを日本で一番考えてるなという自負があるんですね。なので去年、Amazonよりも楽天よりもYahoo!ショッピングが伸びたんですよ。成長率だけ。今までなかったことが起きたわけです。

それはやっぱり一生懸命考えて……ほとんどうまくいかなかったですけど、いくつかのことがうまくいったのでドンドンドンって伸びてるわけです。それは従業員へのコミュニケーションまで含めてものすごく一生懸命やります。

その本で書いてあったとおり辛いというか、ハードワークなのか、HARD THINGSなのかを「楽しんでやればいいじゃん」という。別に悲壮感はまったく必要ないと思うんですよね。

日本の起業家が『HARD THINGS』を読んで学ぶこと

中川:なるほど。この本を読んでくださってうれしいなと思ったのは、起業家の方たちがHARD THINGSを楽しんでいるというか。「俺のHARD THINGSはこれだ」とか。

小澤:そうですよね。

中川:「今日も朝からHARD THINGS」とかTwitterで書いたり(笑)。なんか楽しんでる感じを「HARD THINGS」という言葉に思ってもらえたのがうれしいと思うんですよね。

小澤:基本的には先ほど申し上げたように、自分が考えたこと、自分がやろうとしてることというのは、ほとんどの場合はもう多くの先輩方がチャレンジしている。それでもうまくいってないか、成功の程度がこの程度というところに対してドンといくのは、この人の努力を超えるかどうかという話なんですよ。

それはやっぱり、「あのベン・ホロウィッツでさえ、こんなに苦しいことを乗り越えてきた」「自分がこの程度のことで超えられるわけがない」と。

例えば僕だったら、これも言葉を選ばずに言いますけど、相手がAmazonさんと楽天さんなわけですよ。それと僕が対抗できるかと言ったらやっぱり、それはHARD THINGSでしょう。

「どうやったら勝負できるのかね?」というようなことが、本を読んでちょっとでも理解された方が出てきたんだと思います。だって今、日本って起業大変だとか言ってるけど、むちゃくちゃ楽なんですよ。お金余ってるし。

正直僕も、10億円でも20億円でも集められる自信があるんですよ。現在の日本の資金調達環境はかなり甘い状況下にありますから。

でもやっぱり、投資いただいた金額をお返しする。事業としてユーザーのみなさんに愛されるものを作って、株式を上場して、しかも継続していくというのは、まったく甘えた状況の方には無理だと思います。

この本を読んで少しでも理解された方は、「だよね、ちょっとおかしいと思ってた」ということだと思うんです。

若手起業家の支援は、盆栽を愛でる気持ちで

中川:小澤さんはふだんもかなりお忙しいし、Amazonと楽天さんと戦っているのに、なかには甘えてる方もいらっしゃるかもしれないですけど、そういう人たちも含めて若い起業家の方たちに丁寧にアドバイスを続けていらっしゃいますよね。起業家の方は、「自分も応援してもらったから、そのお返しだ」と言われるんですけれども。

それにしてもやっぱり、「なんでそこまでされるのかな?」というのが不思議なんですけれども。それはなんでですか? この本でベン・ホロウィッツも書いてるのは、そういう後輩を応援するという面が多いと思うんですけれど。

小澤:正直そこは、私も建前なしに、大先輩にお世話になったので。大先輩や投資をいただいた方にも金銭的にもお返ししたので、やっぱり後輩にいかに返すかというのは心がけています。できるだけ話を聞くようにしますし、アドバイスもするようにしています。

もう1つは、やっぱり自分のやりたいことがたくさんありまして、それを後輩に代わりにやってもらってるという側面も正直あります。

自分がヤフーの仕事で手一杯なものですから、「こういうアイデアあるんだけどな」というのは1日中思いつく限りメモをバーっと書いていって。それでいろんな若者が来るわけですね。「小澤さん、独立したいんですよ。お金もありません。知恵もありません」みたいな信じられないのが1日何人も、いっぱい来るんですよね(笑)。

(会場笑)

ただ、「がんばります!」「ガッツあります!」みたいな人に、「じゃあお金をあげるからこういうのやってみるかい?」と言ってやってもらってます。自分がやりたいことなので。「盆栽を買う」ってよく言うんですけど。愛でるんですね。盆栽って別にお金を生まなくたっていいじゃないですか。「こういう枝ぶりなのかー」という。趣味ですね。

(会場笑)

中川:盆栽を選ぶのにもなにかコツはあるんですか?

小澤:いや、とくにないですね(笑)。

(会場笑)

小澤:もう苗木ですから。どうなるかぜんぜんわからないんですけど。嘘つきと逃げる人とカッコつける人、この3つぐらい省けば。

事業は究極のチキンレース、感覚が麻痺している人が強い

中川:見てわかるんですか? 最初会っただけで。

小澤:いや。会話したり、宿題を出しますね。「ここまでにやってきてごらん」と、けっこうそれなりの宿題を出します。言い訳してやってこなかったりする人はその時点で……。

あと、「右側の砂山を左側に移しなさい」みたいなことをやります。ずーっとやってられる人は強いですね。結局事業というのは、人がやらない領域まで突っ込んでいけるかなんですよ。究極のチキンレースみたいなものですから。

ほとんどの人の感覚というのは、このぐらいの高さだったら高いと思うし、このぐらいのスピードが出ると怖いと思うんですよ。その先に突っ込めるかの世界なので、ちょっと感覚が麻痺してる人のほうが強いです。それはやっぱり、いろんな経営者を見ていて、明らかに感覚がぶっ壊れてるんですよ。

(会場笑)

小澤:孫さん見てたらわかるじゃないですか? 「そんなことしないでしょ!?」という。

中川:すごい借金をして新事業をやられてたりしてますよね。

小澤:はい。「うわー」と思う瞬間もあるんですけど、明らかにぶっ壊れますね。そういうぶっ壊れてるバランス感がある人を探すためには、いくつかの作業をしていただくとわかるんです。

中川:なるほど。そこって生まれ持ったものなのか、あとから身につけられるものなのかというと、どうですかね。

小澤:そこそこの成功だったら、あとからぜんぜん身につきます。つまり低いところから順番に登って行くと。ある日いきなり40メートルの高さを見るよりは10メートル、20メートルというところで暮らしていく。高地トレーニングみたいなものですよ。こうやっていけばぜんぜん大丈夫なんですね。

ただ、2,000メートルの高さと言ったら、ちょっときつい人もいます。あとは最初から高さに麻痺してる人がいます。

中川:中にはいるということですね。

小澤:それはやっぱり本物だと思います。議論してるだけで明らかにおかしいと。1割の確率でホームランを打ちますけど、9割は絶対失敗します。もう頭おかしいですから(笑)。

『HARD THINGS』の対象は、意識してバランスを崩せる人

中川:失敗したときに、こういう『HARD THINGS』みたいな本を読んで、もう1回やり直すということですか?

小澤:この本の授賞式にそぐわないですけれども。まずバランス感が悪い人は、この本関係ないですね(笑)。

(会場笑)

小澤:バランス感が悪い人で、天才肌というのは、こういうのはぜんぜん関係ないです。失敗することを考えないし、失敗した時点で取り返しがつかない、肉が残ってませんみたいな状況です。もう焼きつくしてしまいました、なんていう方なんですね(笑)。

この本の対象は、意識してバランスを崩せる人ですね。「バランスの崩し方が重要だよね」ってわかったときに、バランスを崩すとどうしても焼き過ぎたり、煮過ぎたりするんですよ。

そんなときのリカバリー方法とセットでバランスを崩せる人というのは、かなりの確率で成功をするようになります。ただ、成功の大きさというのは想像の範囲です。それでもぜんぜん上場とかできると思いますけど。

中川:それだけいければ。

小澤:もうぜんぜん上場とかできますね。

中川:ありがとうございます。そこそこの人もうまくいく本ということですね(笑)。

(会場笑)

起業家だけでなく、企業で挑戦するすべての人へ

小澤:私は完全にそこそこのレベルなんです。

中川:そうですか?(笑)。

小澤:完全なそこそこ。私は今、サラリーマンですから。経営者にはなってませんからね。

中川:サラリーマンと経営者と投資家でいったら、一番好きなのはなんですか?

小澤:肩書きはどうでもいいですね。

中川:やってることが大事なんですか?

小澤:そう。やっていることがでっかければでっかいほどいい。大きなことができるんだったら、公務員でもどんな立場でも構いません。

中川:本当ですか。じゃあ、ドラム缶でカレー作るみたいな感じですか?

小澤:それがでっかいことならば(笑)。

(会場笑)

小澤:今、Yahoo!という7,000万人ぐらいユーザーがいて、現金が5,000億円ぐらいあるなかのeコマースで、これから伸びしろが何10兆もあるところを任せていただいてるというのは、日本のインターネットビジネスのなかで、かなりでっかい部分をやらせていただいてると思っています。

正直1兆円企業を作るには、どんなに運がよくても実力があっても可能性が低いので。日本で一番でかいネット企業でここを任せていただいてるんだったらやりがいあるって感じなので。かたちとかは本当にどうでもいいですね。

中川:なるほど。

小澤:ただ、もう起業家ではないですね。だから、この本の序文を書く資格はないかもしれませんね(笑)。

(会場笑)

中川:いえいえ。そんなことないと思いますけれど。この本は起業家だけじゃなくて、やっぱり小澤さんみたいに、企業のなかでいろんなことをチャレンジしてる方にも読んでいただけたらと思って作ったところもあるので、それはいいのかなと思ってます。

小澤:そのとおりだと思います(笑)。

中川:お時間もだいぶ過ぎてしまったようなので。

小澤:どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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