2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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金野索一氏(以下、金野):日本のマスメディアの問題で古典的なテーマですけれども、いわゆる記者クラブ制度というやつですね。
下村健一氏(以下、下村):はいはい。
金野:いわゆる首相の記者会見とか、財務省の記者会見とか、警察の記者会見とか、パブリックなところの記者会見には記者クラブというのに属しているマスメディアではないと会見に出れないという、世界広しといえどもなかなか日本にしかない制度。
しかもこれは太平洋戦争の時に、日本が戦争を遂行するために、気に入っているメディアだけを呼んで、ミッドウェーで大敗してても「勝利しました」みたいなことを発表する。
要するにいい部分、都合のいいことだけを報道するために作られた記者クラブ制度というのが平成の現代にもいまだに現役であるという、古典的なテーマですけれども。
下村:記者クラブに関しては、実は2つの側面があるんですね。1つが今言われた「排他性」「閉鎖性」、これで大きな問題が生じてるんですけれども。メディアにいたからわかるんですけども、もう1つの側面に「合理性」というのがあります。いくら言われてもメディアが記者クラブをやめない大きな理由が、これなんです。
要するに、みんなが同じ情報をそこに取りに行くなら、クラブを作って代表がそこに取りに行ってみんなに配ればいいじゃないっていう、非常に日本人的に合理的な部分というか、「どうせやるんだったらみんなでまとまって無駄なく整然とやりましょうよ」っていうことが、この記者クラブを非常に強固なものにしています。これは実際のメリットです。
あまり語られていないんですけど、メリットがあるからこそ残っているわけですよね。実際私もいろんな取材をしましたけども、やっぱりいきなり地方に行ってある事件の取材をする時に、いちからそこの警察に取材しようとしても、みんながそれをやったら取材される側は大迷惑なわけですよ。「またかよ」と。
「私たち知らないから教えてください!」なんてみんながやってたら大変なんですけど、そこは記者クラブというのが非常に合理的にできていて、まず自分だったらJNN系列、TBS系列の地元の記者クラブに行きます。それで、そこまでに得ている情報を全部共有します。
その上で自分たちが聞きたいことを「ちょっとここだけわかんないから教えてくれ」って言って教えてもらう。そういう非常に合理的で優れたシステムでもあるんです。記者クラブ制度は、そういう使い方だけをしていればよかったんです。
それがいつの間にか「記者クラブに入ってないやつには情報をあげません」とか、そういう排他的なもの、いわゆるムラ社会型になっていってしまったということで、記者クラブは世界に誇れるものから世界の恥の存在に変わってしまった。そういうことが今の記者クラブの問題だと私は思っています。
なので、排他性をなくして、そこで得られるメリットを多く見せる、全部オープンリソースにすればいいんです。これはトライセクターみたいな話で、「これは俺たちだけ」っていうセクショナリズムをやめていけばいい。
実はいま、私は『OurPlanet-TV(アワープラネット・ティービー)』っていう、インターネット放送局のNPOで副代表をやってるんですけども、そこでまさに今、国会記者クラブを相手取って裁判を起こしています。
これはなにかというと、国会記者会館ってあるでしょ? 最近大規模なデモ行進がよくあるじゃないですか。原発の時もあったし、安保でもありますね。そういうのを国会記者会館の屋上から撮影しようとしたら、「記者クラブに入ってないからダメだ」って言われたんですよね。
でも、あれはもともと政府のビルなんですよ。それを記者クラブに使わせてあげているだけなんだけど。だからどういう法的根拠で立ち入りを拒否するんだって、国民の知る権利のために私たちにも屋上を使わせてくださいっていう裁判をやっています。
数日前にその裁判の報告会があって、私はみなさんへのあいさつで「OurPlanet-TVが勝てば、それはすなわちメディアのためでもあります。日本のメディアがやっとオープン性を取り戻すきっかけになるから、これはWin-Winなんです。けっしてメディアに逆風を吹かそうという裁判ではありません」というふうに言いました。
今まさにそうやって、市民運動セクターのメディアから企業セクターのメディアに対して、そういうポジティブな働きかけをやっている最中です。こういう現象はこれからどんどん起きてくると思いますよ。だから、市民メディアは非常に注目の存在ですね。
金野:なるほど。
下村:ぜひ注目してください。『OurPlanet-TV』で検索してください。そうすると裁判の経緯が詳しく出ています。
金野:この次に書いてある、マスメディア側というところからフォーカスというところからもうちょっと広い意味で、まさに多くのセクターで経験されてきたんですけど……。
下村:その前に第1問の、官僚機構と社会とのコミュニケーションシステムの話、いいですか?
要は簡単に言うと、私は官僚機構に入った時に、すごく大きな発見がひとつありました。私、メディアにいた時は「なんで日本の役人ってあんなに頭がいい人たちなのに、こんなにわかりにくい言葉使うんだろう?」っていうのが不思議で不思議でしょうがなかったんですね。
ですが、入ってみてわかりました。お役所言葉はなぜ難解なのか。まず「一般のニーズ」と「霞が関のニーズ」がどう違うかという話ですけど、まず広報の目標が違います。
一般は極力「わかりやすく」言うんですけど、霞が関は極力「責められず」に伝えようっていうのが非常に大きなニーズとしてあります。
要するに、あちこちからイチャモンがついてくる。とくに国会なんかで野党から追求されると、「国民のためのいい政策」(と彼らが信じているもの)の実現がどんどん遅れちゃう。だからさっさと話をすすめるために、なるべく責めどころのない広報をやろうと。
そのためには、霞が関の広報は、より網羅的に誰からも責められないように、「すべて」伝えようとします。一般社会の広報が、より「絞り込んで」端的に伝えようとするのと真逆です。
どうにも伝えきれない場合は、「~等」という言葉の乱発によって、すべてを漏れのないように入れようとします。だからどんどんわかりにくくなっている。だから、一般は「より具体的に」言うんだけど、霞が関は「より抽象的に」、ということに努めます。
メディア戦略とは、一般の広報では「見出しにする」ことですが、霞が関の広報では「見出しを避ける」、なるべく記事にされないようにする、ということを目指します。
その結果、先手・後手という話で言うと、先に説明して議論を起こそうとする一般の発信に対して、霞が関は結局批判されてから説明するから、それは「説明」じゃなくて「釈明」になっちゃうということで、ますますネガティブな雰囲気になっていくということがあります。
この構図からわかったんですが、つまり、彼らはわかりやすくする努力が不足してるんじゃないんです。僕はずーっとそうだと思って「なんでこんなに頭のいい人たちがこの努力ができないんだろう?」と思っていたけれど、そうではなくて、彼らはわかりにくくする努力の結実で「霞が関文法」というのを作り出している、ということがはっきりわかりました。
これはもう文化です。そういうニーズがあったから、必要によって生まれた文化です。だからいくら「お前らバカだな」って批判しても、的外れなんです。実際、ある若手官僚がすごくわかりにくい文章を書いた時に、先輩から「このボワーッとした感じがいいねぇ、つかみどころがなくて」とほめられているところを見ました。
(会場笑)
下村:要するに突っ込みどころのない、とらえどころのない文学をいい文学としている、というのが霞が関文法です。「あ、なるほどね」と目からウロコでした。
我々の感覚や、ほかのセクターから見るとありえないと思うけれども、官僚の世界から見たら、彼らは自分たちが作った法案や1つ1つの政策を早く実現したいから、なるたけ波風が立たないようにスススーッとやっちゃおうと思って、工夫に工夫を重ねて現在の霞が関文法はできている、ということがわかった。
これが官僚の世界と一般の世界のコミュニケーション不全を起こしているんですね、残念ながら。
そういうなかに新しい風を吹かそうとして「政治任用制度」というのがあります。民間から政府へ。
みなさんもこういうところにいらっしゃる方々だからきっと関心があって「これから政治任用で2年間ぐらい政府のなかへ入って、民間の血を入れてやろうか」とこれから一念発起される方もいらっしゃるかもしれません。
その時にぜひ覚えておいてほしい10か条があります。ただ入っていってもダメです。さっきの「花瓶台にまず座れ」なんてのもありますけど、そこまで入れてると100か条になっちゃうので、絞った10か条がこれです。
まず第1が「警戒心を解け」。花瓶台からじゃなくてもいいんですけど、とにかく徐々に徐々に入っていく。これは大事です。
そして2番目「文化の違いに気づけ」。さっきの、“わかりにくさの追求”みたいな話がそれ。とにかく同じ文化のモノサシで「やつらはバカなんだ」とか「やつらは悪意がある」とか思わないで、違う文化なんだと思って、異文化コミュニケーションしようとしてください。そうすると、相手との無用な対立は回避できます。
で、文化が違うんだと気がついたら、第3に「その文化ができた事情を理解する」。さっき言った話ですよ。彼らとしては自分の政策を早くスッと通したいからやっているんだな、というような事情を理解する。そうやってとにかく相手をまず肯定することですね。
さらに、彼らも彼らで自分たちの文化しかないと思ってますから。ここはトライセクターリーダーのやるべきことですけども、「『世の中には違う文化もあるんだよ』ということを、仕事以外の場でさりげなく伝えていく」。これは第4段階です。
仕事の場では無理です。だから、一緒に飲みに行ったりとかそういう時に「いやぁ~、でもねぇ、民間ではこういう時こういう発想するんだよね。信じられないことに、なるべくわかりやすく伝えようとするんだよ!」「えーっ?」みたいな会話をやるわけですね。
そして第5に、民間文化の吹き込み方ですけれども、つまり異なる文化があるっていうことまでわかってもらったら、次に吹き込むわけですよね。その時に、オルタナティブとして吹き込まないで、「プラスアルファとして吹き込む」。
つまり、お前らの官僚文化の代わりにこれだ、と打ち消さないで、既存の文化も温存しましょう。消えてもらうとしても安楽死。なるたけは消さずに残しながら、それに加えて民間の、違うセクターの発想も入れていきましょうよっていうかたちで共存させる、これが大事です。
私たちも首相官邸で震災直後にTwitterをはじめましたけども、Twitterなんて官僚文化からするととても受け入れられないものですから。「稟議に稟議を重ねて、なるべく長くわかりにくく」っていう文化のところに、「140字でわかりやすくスポーン! しかも、すぐに」。こんなの受け入れがたいですよね。
だから置き換えるんじゃなくて、「ややこしい発信と同時に、並行してTwitterでもやりましょうかね」っていうかたちを取っていました。それが5つ目です。オルタナティブではなくプラスアルファ。
そして6つ目。それでも、新提案には「それをやってはダメな理由」が瞬時に100個あがります。「下村さんがそれを始めたら、これとこれとこれとこれとこれとこれが問題です」ってワーッと言われます。その時に、いちいち反論しない。「そうですね~」「なるほどね」と言って、「反論を認めて」ください。
認めたうえで、7番目。「おっしゃる通りだけど、でもこれをやらないと、もっとまずいことになりますよね」という「やらないともっとダメな理由」を、霞が関文法で相手に説明してください。
これは菅直人さんが厚生大臣の時に、すごくうまくいきましたよね。エイズ問題で、官僚側は「国には全然責任がない」ってさんざん言ってたんだけど、菅さんが厚生大臣になった途端にあっという間に、ないと言っていた問題のファイルが「厚生省内にありました」って出てきて、「国の責任でした」と菅さんが謝ったという。
あの出来事ではなにがあったかというと、菅さんが関係する役人たちを集めて「このままずっとこの問題で厚生省がデッドロックに乗り上げ続けてると、これとこれとこれが進まないよ」っていうかたちで、要するにファイルを見つけちゃダメな理由に凝り固まっていた官僚たちに、「見つけないとダメな理由」をバンと説いたんですよ。
そしたらほんの数日で「ありました」って出てきた、というようなことがありました。だから、ダメな理由を拒否するんじゃなくて、ダメな理由を聞いたうえで、でもこれがないともっとダメな理由っていうのを示す。
つまり、同じ土俵で勝負する。官僚のみなさんをリスペクトしながら、霞が関文法のなかで、言葉を、議論を積み上げていくということをやります。
それもなかなかうまくいかない時は、8番目として、セクターは違うけれど彼らが一目置かざるをえない「最強の民間人の力を活用」する。それは、民間の人たちが投票で選んだ政治家です。
官僚のみなさんは、政治家の言うことはやっぱり相当気にしますから。時にはそのボスたる大臣の力を使う。これは私、随分やらせていただきました。
大臣の所へスッと行って、これこれこうだから、と言ってトップダウンにすると、さっきまで全然ダメだったことがヒョッと通っちゃったりするんですね。でもその時に反発を買わないようにするために、1番から7番までをその前にやっておくことが大事です。
こうやって通ったあと、9番目に大事なのが、通ったこと、その「成果を可視化する」こと。つまり、その官僚本人が「あ、これをやったおかげでこうなったんだな」と認知できるようにする。「なるほど、やってよかったな」と。そしてそれを「その官僚の手柄にする」こと。
ここまでやればみんな「あ~、なるほど」と言って下村の提案をわりと聞いてくれるようになります。しかもそれを下村の手柄だとは一切しないで、「さすが課長」「課長がこれを受け入れたからできたことですよね」ってみんなに言う。
で、最後の第10条。いよいよ任期満了したら「存在感をフェードアウトさせる」こと。突然バツンといなくならないで、そーっと周到に引き継ぎをやって、自分がいなくなったあと「結局あの変化は、あの人がいた2年間だけのことだったね」って言われないようにしていくこと。これがすごく大事です。
例えば広報に関して言えば、震災が起きたドサクサにバババーッと始めた色々な新しい発信を、徐々に日常の発信ツールに置き換えていって、今につなげるというようなことをやりました。そうすると、違うセクターの人がいなくなった後も、官僚セクターのなかだけで自律回転が始まるんですね。そうしないと、2年間はただの思い出に終わってしまいます。
だから、ちゃんとここまでの10個のプロセスを踏んでいくことで、民間任用には意味が生まれるなぁと。まさにトライセクターリーダーのやるべき、1つの方程式ではないかと思いますけれども。こんなことを私は経験しました。
金野:これはお役所だけでなく、古い保守的な企業が組織を変えるっていうのにもまったくそのまま使えますよね。
下村:たぶんそうだと思いますよ。
金野:そうですよね。だからもう企業セクターのなかだけの話としても、「うちの会社、古いよね」みたいな、社長とか経営陣が保守的でみたいなところでいかにイノベーションを起こすかという。企業に限らず、社会全体でもそのまんま使える話ですよね。
下村:でもこの10か条は、いくら机の上で考えたところで出てきません。私も本当にボロボロになって……。歳取ったでしょ?(笑)。2年間でものすごい歳取ったんです。
そのボロボロのなかで、傷めつけられて、すごいフラストレーションのなかでなんとかわかった10か条ですから、そういう意味でもトライセクターを体験することって、やっぱり大事なんだろうなと思いました。
金野:そうですね。まさに枠を超えて突破していくっていうところは、セクターっていう俯瞰した見方の話でしたけど、会社の中の営業と開発と、とかっていう世界でも同じですし、国と国の異文化交流っていうのがありましたけども、国っていう枠を越えていくこともそうかもしれないですし。
下村:もしかしたら……これ原稿に書かないでくださいね、夫婦間だってそうかもしれません(笑)。10か条ほとんど当てはまると思います、なかなか実践は難しいですが。こういうもんですよね、考え方の違う者同士がお互いを認め合うということは。
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