2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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石原龍太郎氏(以下、石原):答えが出てしまったんですが、次の質問にまいりたいと思います。
僕の話をさせていただきたいなと思います。僕が学生時代にフリーライターをしていた時の経験なんですけども。どうしてもファッション誌の仕事がしたいです、と。なんかカッコいいし、ライターとしてハク付くしみたいな、すごい軽率な理由なんですけども。
ファッション誌の取材に行って、紹介の紹介で、とあるファッション誌の編集者さんにつないでもらって、1回飲んだんですね。
その時に、「俺はとにかく酒が飲めるヤツじゃないと、一緒に仕事したくない」と言われて(笑)。なんかベロンベロンになりながら、オッサンと酒飲んで(笑)。ベロベロになった甲斐があって、そこからお仕事をもらえるようになったんですけど。
これは特殊な例なのかなとは思うんですが、編集長をされているなかで、どんなライターさんや編集者と仕事がしたいですか?
戸川貴詞氏(以下、戸川):答えとしてはあんまりおもしろくないかもしれないですけど、今おっしゃった例えもそうなのかもしれませんが、結局コミュニケーションが取れない人とは仕事ができない。やっぱり普通にコミュニケーションがきちんと取れて、こちらが求めているものに対してロジカルに返してくれる人。
感覚的なものとかセンスみたいなものというのは、当然必要な要素ではあると思うんですけど、ただそれは人それぞれ違いますし、計算が立たないので。人それぞれのよさがあって当然だと思っているし。
そういう仕事をしているということは(相手も)プロですから。であれば、ロジカルなことが構築されてない人とは、僕は仕事は基本的にしたくない。言い方は少し違うかもしれないんですけど、本当にちゃんとExcel使える人とか(笑)。
書くこととは別かもしれないですけど、要はプロとして仕事をするということになってくると、結局お金のことであったりとか、時間であったりとか、そういったいろんな要素も当然必要になってきます。
文章がどんなにうまくても、例えば期限守らない人とは仕事しないです。当たり前なんですけど。やっぱり、そういうのがベースにきちんとないと成り立たないし、一緒にものを作れない。
だから、本当にそういう当たり前のことが当たり前にできる人で、性格がよくて……。言い方は変ですけど、そういうふうに広く理解できる人が、やっぱり理想的です。
石原:やはり理系というか、文系・理系の話で展開するんですが。理系チックな思考を持った方というのが、1つの要素でしょうか。
戸川:そうですね。そこは最低限あってほしいなと。
石原:朽木さん、いかがですか? (編集者とライター)両方やられてると思うんですけど。
朽木誠一郎氏(以下、朽木):そうですね。個人的に思っているのは、どんな仕事相手であれ、学ばせてもらえることというのはあるので。
この仕事は、それまでどんな生き方をしてきたかとか、どんなこと感じてどんなこと思ってるかというのが、すごく反映されやすいじゃないですか。そういうものが結集した原稿を見せてもらえるので、基本的にどんなお相手であれ、この仕事を真剣にやっているのであれば、学べるところがあると思っているんですよね。
本当に繰り返しになっちゃいますが、まだまだ編集者として3年目ですし、もっとちゃんと仕事ができるようになるためにも、とにかく勉強しなきゃいけないなと思ってるんですけど、逆に裏返せば、まじめにやらない人もいるじゃないですか。
石原:そういう人が多いという話はよく聞きます。
朽木:多いかどうかは、ちょっとね、わからないですけどね(笑)。
石原:すみません(笑)。
朽木:いえいえ(笑)。そこでちゃんとやってもらえないと、誰もハッピーにならないんで。さっき戸川さんがおっしゃっていた、納期を守るとか。今、「納期守る」とか自分で言った瞬間、自分が「ウッ」となったんですけど(笑)。
それも当然ですけど、コミュニケーションちゃんと取れる人ですね(笑)。
戸川さんはほかに思いつくものはありますか?
戸川:言葉の使い方にオリジナリティがあってほしいというのは、すごく当たり前のようにあります。
ただ、編集者の立場としてライターさんにお仕事をお願いしたとして、そのライターさんがすべての責任を負ってるわけじゃないですよね。さっきおっしゃったみたいに、当然自分も含めて一緒に1つのものを作っていこうとするんで、自分も含めてどういうリスクを取るかということだと思います。
だから例えば、比較する話じゃないかもしれないけど、文章的なオリジナリティがあっても納期を守らない人と、納期を守るけどオリジナリティが薄い人と、どっちを選ぶと聞かれたら、僕だったら絶対、納期を守る人を選びます、100パーセント。
朽木:なるほど。それは分かれるかもしれないですね。
戸川:かもしれないです。それはたぶん、僕の性格と僕の考え方だと、そっちのほうが合うので。一緒に1つのものを作ると考えた場合、そっちのほうがいい仕事ができると確信してるので。朽木さんはどっち派ですか、ちなみに?
朽木:僕は下っ端なんで、納期守らないと怒られるんですけど。なんかマイナスがあるんだったら、それを補うプラスで返してもらえれば、心のなかでトントンにしていますけどね。
戸川:なんか「みんなで作っている」という感覚になってほしいなと、いつも思うんです。自分1人で完結できるようものじゃないし、1人ではなにも作れないので。
僕だって1人ではなにも作れないですし。みんなでやっていることなので、やっぱり足並み揃えていかないと、1つのものになった時に、いいものには絶対ならないので。意味としてはそういう感じですね。
朽木:そこの責任感というか、一緒にやっているという感覚は共有したいですね。
石原:僕の経験で申しわけないんですけども、ある雑誌と雑誌で、AとBというのがありまして。Aという雑誌はこういうカラーで、Bという雑誌は(また別の)こういうカラーなんです。それぞれ、人格を使い分けなければいけないというか。
それで、その媒体のテイストに自分の文体を寄せるみたいなことというのはライターには必要だし、編集者もそういう人がお仕事しやすいのかなと。まぁ、僕の失敗談なんですけど。それは、必要不可欠なものですか?
戸川:作っているものに合わせるというのは当然だと思います。作っているものは結局、書いている側とか作っている側のものではなくて、ユーザーのものなので。
だから、そのユーザーの好むものを作らなければ意味がないと思うんです。そこを超越するのがやっぱり、作家なんです。そこは線引きがあるんじゃないですかね。責任もすべて自分で背負える仕事を選ぶとか。
石原:ありがとうございます。では、次の質問にいきたいと思います。
「雑誌とWebメディアになにが起きているんだ?」ということで、先ほどのお話で、Webから雑誌になったのが『MERY』だと。そういう事例はあまり多くなくて、僕が知っているかぎりだと『MarkeZine』が確かWebから雑誌だという気がしていて。あと、男性ファッション誌の『HOUYHNHNM(フイナム)』がWebから雑誌。
僕の記憶ではそれだけなんですが、そういう意味でなかなか事例が少ないと思います。冒頭、チラッと戸川さんがふれてらっしゃったんですが、『MERY』という雑誌の作り方について、どういう手順で作られたんですか?
戸川:『MERY magazine』の作り方としては、これはほかでも同じように答えていたんですけど、Webが雑誌になったとか、Webから雑誌を作ったとか、周りからはそう言われてはいますが、感覚的にはそういうのはまったくありません。
あくまで『MERY』というキュレーション・プラットフォームがあって、それをよりユーザーのためにリッチにしていくというか、ユーザーのためになにを提供できるかと考えた結果の選択肢の1つなので。そのコミュニティの1つとして、「雑誌もやったほうがいいよね」、「イベントもやったほうがいいよね」という発想です。
『MERY magazine』は、すべてにおいてデジタルと連動した記事構成になっていて、1号目はトライアル的な意味も含めていろいろやってみました。
完売もしましたし、「成功だね」と言ってたんですけど、やっている僕らはやり切れなかったことがやってる最中にどんどん見えてきて、「これが100だったとすると、もっともっと、500ぐらいできたね」みたいな。
2号目は8月1日、(続く号も)10月1日、12月1日と出るんですけど、それにおいては当然ながら内容や仕掛けをアップデートしていこうと。もっとできることがたくさんあるということがわかったので。ユーザーに対して提供できることがもっともっと増えてくると思います。答えになってますか?
朽木:やり切れなかったことというのを聞いてみてもいいですか?
戸川:すごくシンプルに、Webメディアではできない、もっと優良なコンテンツ。優良というとWebが悪いように聞こえちゃうんですけど、そういうのではなくて、リッチなコンテンツを作っていきましょうと。
二次転載的な発想が最初のスタートだったんですけど、二次転載したとしてもおもしろくもない。雑誌に載ったものをデジタルに落とし込んでも、別になにもおもしろくないよねという話になって。じゃあ、デジタルでやることを紙に持ってくるのかといったら、そういうことでもないし。
さっき言った言葉だとわかりづらいかもしれないんですけど、(Webも紙も)一緒のプロジェクトだと考えた時に「もっとやれることがあったよね?」という発想ですよね。
具体的に言うと、今後取り組んでいるところの1つが動画だったり、さっき言ったようにイベントであったり。中身の作り方においても、もっともっと刺激を得る、Webに落とし込む、Webとつなげるとおもしろいことになるようなこと、具体的に言いづらいんですけど、そういうことがすごくいっぱいあって。
撮影の現場1つとっても、「こういうこともできたね」ということがいっぱい出てくるので、ある意味もっと欲ばりになっているというか。
例え話で言ったら、アンコウは皮も内臓も全部食べられるのに、「けっこう残っちゃってたね、内臓」みたいな感じです(笑)。
朽木:『MERY』というWebのプラットフォームで考えた場合、もっとコンテンツ化できることはあると?
戸川:あると思います。別媒体でいうと、『NYLON JAPAN』はもともとそういう発想でやっていたんですよ。
雑誌だけという発想は最初からなくて、SNSもWebもイベントも。スタート当時はSNSがなかったんで、イベントをやたら打っていたんですけど、そういうのもひっくるめてユーザーとのコミュニティを作っていこうと。コミュニティを作ることが一番大事だと思っているので。
『MERY』の今いるユーザー層とはぜんぜん違うんですけど、そこで培ったもの生かしているものはあります。テイストという意味ではなくて。
石原:先ほどおっしゃっていた、Webの未来を雑誌で読むという話で、『NYLON JAPAN』だけではなく、ほかのファッション誌でもなんでもいいですけど、雑誌の部数が減っていて、WebのユーザーがDeNA パレットはじめ、だんだん増えています。
雑誌が淘汰されてWebが生き残るという構図がなんとなくあるのですが、それに関しては?
戸川:社会構造上、雑誌は減っていくに決まっているし、当たり前のことだと思うんですよ。読む必要がなくなってきているし、人口も減少しているし。ただ、「だから雑誌がダメ」という発想は、あまりにも安直だなと思うんですよね。
やっぱり、コンテンツの質が違うというか、ユーザーの体験が別物です。例えばWebは、1つの記事に対しては基本的に切り売りじゃないですか。全部じゃないですけど。みんな切り売りのものをたくさん見ていく。2分間ぐらいでパッと、朝の電車の中なんかで。そういったものを含めた多くのユーザーがそこにいます。
それに対して雑誌は1冊の、ある意味商品なので、そうやって考えると同じような内容でもぜんぜん違う体験になってくるんですよね。
もっと簡単に言ったら、スマホのサイズと雑誌のサイズはぜんぜん違うし、触った質感もページをめくる感覚もまったく違うので、そういった特性を活かしたコンテンツの作り方をしていけばいいと思います。
そして、そこにきちんとした価値、『MERY magazine』の場合は500円だったんですけど、その500円の価値をどうやって作るかというのを考えていく。500円って、カスタマイズしたスタバより安いんで、そこに負けてる場合じゃないよな、という発想で考えてます(笑)。
世の中のニーズがなくて、雑誌を読まなくなったから売れない、ということではないんですよ。ユーザーが買いたいものを作ればいいだけ。売れたから偉そうに言ってますけど(笑)。
でも、本当にそれに尽きると思うんです。雑誌に限らず、すべてのビジネスにおいて、僕はそうだと思うので。結局、斜陽の産業であろうが、右肩上がりの成長産業であろうが、やっぱり価値のないものはユーザーに必要とされないですし、価値のあるものはどっちにしても必要とされます。本当にそれだけの話であって、Webのニーズが増えて、雑誌のニーズが減ってるからどうこうという発想自体をまず止めないと、雑誌のビジネスはできないと思います。
本当に10年以上前から言ってるんですよ、この話。いまだにまだ言ってるくらいだから、いくらでも稼げると思います。まわりがみんな辞めていくんで、雑誌を。だから僕、これからどんどん出そうかなと思ってます(笑)。
石原:いいものを作る。雑誌対Webみたいな構図が、そもそもイケてないと。
戸川:そう考えちゃうと、どっちもうまくいかない気がするんですよね。結局、本当に違うものだと思うんで、それをどう使うかだと思います。
朽木:スタバの値段と一緒というのは、確かに考えさせられます。それは、どの体験を買うか選ぶか、みたいなことですかね?
戸川:そうだと思います。たぶん買われない雑誌は、スタバで1杯買って友達と2時間おしゃべりしてるほどの価値があると思われていない。比較の対象じゃないかもしれないんだけど(笑)。でも、そういうことだと思うんですよね、結局は。
朽木:可処分時間の話ですもんね。
戸川:それを1杯我慢してでも、「買おうかな」と思ってもらえるものを、やっぱり作るしかないし世の中に必要ないということなんですよね。
石原:ありがとうございます。
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