2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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孫泰蔵氏(以下、孫): 「AIとC2Cと動画」って、「どんな括りやねん」と(笑)。恐らく、今最もホットで、かつ急成長している領域で事業に取り組まれていらっしゃる方々を集めたいということで今回のテーマになったのだと思う。
ただ、壇上にいらっしゃるのはそれぞれ1時間以上お話をうかがいたい方々ばかりだ。正直、1人20分ほど割り当ててもあまりたくさんお話もできないと思う。
従って、今回はディティールというよりもむしろ経営のなかでどういったことを意識していらっしゃるかという本質的なお話を聞いていきたい。
また、私自身、実はモデレーターをやったことがあまりないので(笑)、今日は会場のみなさんにいろいろ質問をしていただきながら、インタラクティブなセッションにしたい。
まずはパネリスト御三方に今最も注力していらっしゃる取り組みをうかがったのち、そのあとフロアからご質問を募っていこう。
そこで私自身はルータのような役割を果たしたい。なので、みなさまから良い質問が出るかどうかが本セッション出来不出来を決めるということで、私は完全に責任放棄してみなさまに託したい。
(会場笑)
孫:ぜひ良い質問をいただけるようお願いいたします。では早速、西川さんから順に、ご自身が今最も熱い思いで取り組んでいるチャレンジについてうかがいたい。また、それを追求することでどういった世界をつくりだしたいとお考えなのだろうか。
西川徹氏(以下、西川): 私たちの会社設立は2014年。2006年に創業した、主に自然言語処理の検索エンジンをつくるPreferred Infrastructureという会社から、Preferred Networksという社名でスピンオフしたかたちだ。
私たちが目指しているのはコンピュータ・ネットワークの進化になる。社名末尾には‘s’が付いていて、これにはコンピュータ・ネットワークとニューラル・ネットワーク……現在人工知能で最も重要な技術となっているニューラル・ネットワークの融合を目指す意味がある。
それによって新しいコンピュータ・ネットワークをつくろうということで、2014年に会社を設立した。
そこで今取り組んでいるのは、主に自動運転分野における人工知能の高度化。また、産業用ロボットを賢くするということにも取り組んでいる。
最近だと、昨年12月にはトヨタさんと資本提携をさせていただき、自動運転の研究開発に一層力を入れている。さらに、産業用ロボットメーカーとして世界トップシェア企業の一角を占めるファナックさんとも、産業用ロボット・産業用工作機械の高度化に取り組んでいる。
我々としては、機械同士を賢くつなげていくということに中長期で取り組んでいる。まずは機械を賢くして、その次に賢くなった機械同士を賢くつなげていきたい。今は人工知能の技術を用れば単体の機械を賢くすることは可能になりつつある。
ただ、私たちはそれに加えて、例えば人間同士がコミュニケーションを取ることで一層複雑なタスクをこなせるようになるのと同様に、機械も単体で賢くするだけでなく複数の機械を協調させたい。
その協調の仕方すら学習できるようにして、機械が集まったシステム全体での最適化を、機械が自ら行うようにしていきたい。
そのためには機械をつなげるネットワークが重要になる。従って、機械をつなげるネットワークの部分にも人工知能の技術を埋め込んで、機械同士がリアルタイムに賢く協調できるようにしたい。そういう世界を目指している。
その第1歩が機械を賢くするということになる。それで私たちが今最も力を入れているのはロボットの分野だ。なかでも産業用ロボット。今、自動車の生産はほとんどロボットで行われている。ただ、最後の組立工程は今でも人間がやらなければならず、まだまだロボット化できていない。
その大きな理由は何か。自動車製造工程の大部分はプログラムにしやすい。ルールが決めやすく、形も決まっているので。でも、組立工程では数多くの部品を扱わなければいけないし、例えば部品の掴み方にもいろいろある。しかも、そうした部品は適当に積まれていたりするわけだ。
組立工程はそういう大変複雑な状況で行わなければいけないけれども、その状況に対応したプログラムを人間が書くのはほぼ不可能と言える。
「どういう角度で部品を掴めばいいのか」「どれほどの力で掴めばいいのか」といった指示を、すべての部品や状況に対応して細かく出すのはほぼ不可能になりつつある。
そこで出てくるのが人工知能になる。人工知能が大量のデータを通して、例えば、掴み方を自動的に学習していく。今はそうした自動的な組立方法の学習を実現させていこうと考えている。それが可能になると、ロボットを導入するうえで最大のボトルネックになっているティーチング、つまり機械へ教えこむ部分を自動化できる。
そうなってくると、今まで活用できなかった領域でもロボットがどんどん活用できるようになる。例えば食品製造や医療、あるいは科学実験といった領域では、今は多様な薬品や細胞を扱わなければいけないので人が作業するしかない。
しかし、人工知能は昨今の進化によって、人にしか認識できなかったようなそれらの複雑な状況を認識できるようになりつつある。
そこでロボットのティーチングに適用することによってさまざまな産業でロボット活用が可能になれば、生産性の大幅な向上が目指せるのではないかと思う。
まずはそういうところに力を入れている。それで、そうして機械が賢くなると、今まで人がやらなければいけなかったことも機械でできるようになる。
機械が持つもう1つの重要な性質は、能力を簡単にコピーできることだ。人が能力を伝えるためには、例えば本を書く必要があるし、その本を読む人にもそれなりの能力が必要になる。
だから能力の共有には大変な時間がかかる。でも、機械の能力コピーは簡単だ。モデルのデータがバイト列で表されているから、それをコピーするだけ。それで複雑な学習をした機械の能力を簡単にコピーできる。
だからこそ、ネットワークでつなげたうえで情報を自由に、リアルタイムでやりとりできるようにすることが重要になる。
従って、我々は機械を賢くした次に機械同士をつなげて、それらが協調して賢くなるようにしたい。それによって人間が想像できないほどのスピードで生産性を向上させる仕組みを実現したい。
今は産業用ロボット分野での活用が最も進んでいるけれども、製造業の世界ではまだまだ多くの場面でレガシーな手法が採用されている。だからこそ、他にも多くの部分で生産性の大きな向上をもたらすことができると思う。
そのようにして、まずは製造業で人工知能活用の取り組みを進めているけれども、その先には製造業以外の世界もある。今はそこでもいろいろな取り組みをスタートさせていて、その1つが交通になる。
今は自動車メーカー各社やグーグルのような人工知能のプレイヤーが自動運転技術の開発に大きな力を注いでいる。従って、自動運転の技術自体は確実に実現できると思う。
ただ、例えばグーグルが目指しているのは、単に車を自動で運転できるようにすることだけではなく、システム全体の最適化だと思う。
そのなかで自動車は1つのコマであって、それらを扱う社会システム全体を最適化・自動化していきたいと考えているのではないか。
グーグルの広告システムが非常に大きな収益を挙げることができたのも、やはり学習や最適化の部分を自動化できたからだ。
広告を出すところからそのデータを収集・分析してフィードバックレポを回すという一連の流れをすべて自動化した。それによって大規模な最適化が可能になったわけで、今後はそういったことがあらゆる産業で起きるようになるのではないかと思う。
そのとき、IoTと呼ばれる世界で重要になるのは、サイバーな空間に閉じたものとせずリアルの世界と結びつけていくこと。
そうなると、主にサイバーな空間を扱うことに最適化された今のインターネットの仕組みも変化していくと思う。実世界と仮想世界のオブジェクトがインタラクションしながら、多様性に合わせて最適化していけるような新しいインターネットが必要になるのではないか。
我々は今、もちろん人工知能に力を入れているけれども、恐らく人工知能の技術は2~3年で誰でも使えるようなものになると考えている。
すでにオープンソースで高度な人工知能を実現するような動きも数多く出ているし、その世界はコモディティ化するのではないか。
そしてその次に出てくるのは、人工知能で高度になった世界をさらに高度なものとするための、新しいインターネット技術だと考えている。それをつくるのが我々の目標になる。
孫: 素晴らしい。今のお話に重要なテーマがすべて詰まっていた。私も最近はシリコンバレーで最先端を走るスタートアップにいろいろ話を聞いているけれども、みんな、同じこと言っている。また、実際の取り組みも私たちが想像する以上のスピードで進んでいる。
夢物語の未来でなく、本当に今年の末や来年に実現しそうな話が数多く出てきた。今伺った通り、スマートなロボット同士が協調することによってロボットの高度化もさらに加速すると思う。
だからみなさんもその辺を具体的に勉強なさって、どのような応用が効くのかということを今からお考えになっていただきたい。今から進めても早過ぎるということはまったくないと思うので。では、続いて藤田さん。
藤田晋氏(以下、藤田): 私が今、最も力を入れているのは「AbemaTV(アベマTV)」になる。テレビ朝日と一緒につくった新しい事業で、今は開局して半月ほど経った。今、頭の中はもう100パーセントこちらの事業にコミットしている。
サイバーエージェントは多岐にわたる事業を手掛けているけれども、僕の時間の95パーセントは「AbemaTV」に使っている状態だ。
どういうサービスかというと、もう出ているからアプリをダウンロードして実際に見ていただくのが一番早いけれども、まずアプリをダウンロードして立ち上げると、すぐさま生放送のニュースが表示される。
それで、それをスワイプすると今度はだいたい生放送のバラエティになる。そしてそこから……今は24チャンネルだったかな、そこから「MTV」や「VICE」や「Documentaryチャンネル」、あるいは麻雀や釣りのチャンネルを視聴できるようになっている。
この話がスタートしたのは1年半ほど前で、そこから1年と2~3ヶ月ほどかけてサービスを開発していった。何度も何度もモックをつくり、とにかく快適で再訪率が高く、視聴習慣がつくようなサービスにしようと考えて開発に時間をかけた。
そうして3ヶ月ほど前からはコンテンツも準備していて、今はもう毎日生放送しているから番組をつくるのが大変、というフェーズに突入している。
基本的にはすべて無料で視聴できる。テレビと同じCMモデルだ。それでスタートして半月が経った今はどうかというと、先週の決算発表でも申しあげた通り、たしかな手応えを得ている。
毎朝あがってくる報告を見ても、日々視聴数やDAUはけっこう伸びてきた。そう遠くないうちにDAU100万は達成すると思うけれども、そこからさらに伸ばして同1000万ぐらいのサービスになればマスメディアになれるだろうと思う。
とにかく広告モデルでもあるし、多くの人に観てもらえるマスメディアをつくるつもりで最初から取り組んでいる。そのゴールを考えると順調な滑り出しかなという手応えだ。
これで何がやりたいかというと、インターネットの黎明期から僕自身がずっと感じていた「インターネットのマイナーな空気感」を、どこかで変えたいと思っている。
これまでも我々はメディア事業ということはよく掲げていたけれども、「今までのサービスが本当にメディアって言えるのかな」と。
そう感じるようなマイナー感が漂っていた。それをメジャーな世界にしたいという思いもある。そういう意味では、例えば熊本地震が起きた日も「AbemaTV」では発生直後から「報道ステーション」を放送していたし、もともとANNニュース素材も流れている。「ドラえもん」だって「K-1」だって放送されているし、今までのネットになかったメジャー感も醸成もできていると思う。
あと、これは完全に「受け身視聴」だ。テレビと同じで、アプリを立ちあげた時点からNOW ON AIRになっている。最初にニュースとバラエティの生放送を流しているのには理由がある。だから、それまで慣れ親しんできたネットのオンデマンドではなく、「AbemaTV」の視聴スタイルに慣れてもらいたいというつもりでやっている。
それで、これは目論見通りだと僕は思っているけれども、オンデマンドでなく流れてきたものを自然に観るような形にしている。「この番組を見よう」という1時間の空き時間がなかったとしても自然と視聴できるようなものをつくろう、と。
双方向であるネットのオンデマンドというのは、自分が好きなものや興味があるものをクリックするかたちなわけで、その意味では横に広がりづらい構造だった。とにかく、それを変えたいという思いがずっとあったわけだ。
実際、僕自身も「AbemaTV」でスタートした番組を観たことで、今まで興味がなかったお笑い芸人さんのファンになったりもしている。たまたま視聴した「でんぱ組.inc」のライブを見て「けっこういいじゃん」なんて思ったり、久しぶりに「K-1」を観て「やっぱりおもしろいな」なんて感じたり。新しい出会いがあるというか、今まで興味がなかったものを観るようになっている。
これまでの動画コンテンツは観たい人が観たいものを観るかたちだった。でも、流れていたものをたまたま観ることで興味を持ってもらえることはある。
たまたまこのセッションが「AbemaTV」で流れていたら、それまでG1ベンチャーに目もくれてなかった人が、なんとなく食い入るように議論を観ているうち、興味や関心を持つことだってあるわけだ。そういう、新しい出会いによるコンテンツの広がりをつくりたいという思いもあって、今の事業に取り組んでいる。
孫: 僕は以前から「オンデマンドと生放送のどちらがいいか」という議論はナンセンスだと思っていた。いい番組ならどっちも観るに決まってる。片方の放送スタイルだけで観るなんていうことは絶対にないわけで、その意味ではすべてオンデマンドだと大変だと思っていた。
「AbemaTV」は、実はそのあたりに初めてチャレンジしている。コロンブスの卵的な発想というか。「うわあ、やっぱり藤田さんってセンスいいわ」と。売り込んでいるわけじゃなくて。
(会場笑)
孫:それともう1つ。これは本来ならテレビ局だってできたはずなんだ。10年ぐらい前から。でも自分たちではできなかった。藤田さんみたいな人がいないとブレイクスルーが生まれなかった。
例えば20代前半の若い子が「AbemaTV」のようなことをやりたいと言ってみても、テレビ局として組むことはできなかったと思う。ネット側と組みたくないという意味じゃない。
たぶん、テレビが持っているいろいろな責任の部分をきちんと担保できるのかなという思いもあって、慎重にならざるを得なかったんだと思う。でも、藤田さんのように実績や経験を積んでいる方とであればできる、と。その意味で、この事業は今しかできなかったのかなとも感じる。
また、「AbemaTV」について考えてみると、西川さんが取り組まれているような先端技術のイノベーションだけではなく、実はすごくこなれていると思われているような領域でもイノベーションを起こすことはできるんだなと、改めて思う。
「ようわからん」という人も今はたぶん多いと思うけれど、この事業は本当にうまくいくと僕は思っている。では、続いて進太郎さん。
山田進太郎氏(以下、山田): メルカリは3年ほど前に設立した会社で、サービスは2年半と少しやっている。いわゆるフリマアプリ。個人がCtoCでモノを売り買いできるプラットフォームを日本とアメリカで運営している。
それで、アメリカでは1年半ほどやっていて、これが最大のチャレンジかなと僕個人は思っている。アメリカでどれだけ成功できるか。
日本では黒字化しているし、月間流通も100億を超えている。それに、販売手数料は10パーセントで連結でも黒字化しているけれど、今後、アメリカでも日本と同じぐらい、あるいは日本以上のものにしていくというのが一番のチャレンジだと思う。
一番難しいのは、事業を拡大するなかで落とし穴にはまらないこと。開発やマーケティング、あるいはカスタマーサポートに関しても今は多拠点になってきた。
実は今UKにも会社をつくっていて採用も進めているけれど、今後はさらに拠点が増えていくし、日本のスタッフも今は200人以上になっていると思う。
そんなふうに日本もUSもヨーロッパも拡大していくなかで、なにかこう、「落とし穴に落ちてしまわないかな」と。そこが一番怖いところだと思う。
そのあたりも踏まえつつ、今は猛スピードで走りながら制御していく必要がある。物理的にその場へ行くこともなかなかできないなか、時間も有効に使いつつ、注意しながらやっていくかというのが一番のチャレンジだと思う。
あと、なぜ海外でやっているのかというお話もしておきたい。最終的には世界のどの国にいる人も、世界のどの国の人に対しても、モノを売ったりとか買ったりできるようなプラットフォームをつくりたいと、もともと思っていた。
それで、それを実現するのなら、当然、日本のなかだけでやっていてはダメ。だから無理をして今は海外でやっているというところになる。
孫: 1つうかがってみたいことがある。今は「eBay」や「ヤフオク!」のようなオークションもモバイルアプリ化していて、今後さらに進化していくと思う。
メルカリの進化系はそうしたサービスと同じようなところに行き着くんだろうか。それとも少し違うイメージをお持ちだろうか。
山田: どうだろう……初めて受ける感じの質問で(笑)、ちょっとわからない面もある。ただ、見ている限りだと「eBay」も「ヤフオク!」も、個人よりスモールビジネスやパワーセラーと言われるような、主に業者の方々が個人と取引するようなかたちに少しずつなってきているのかな、と。「タオバオ」もそうだ。
その点、我々はどちらかというと個人対個人にこだわっていきたい。とくにモバイルデバイスは個人の誰もが持つものだし、その意味では少し違う方向に進むのかもしれない。
孫: 個人にこだわりたい理由って何かあるんだろうか。
山田: やっぱりインターネットって個人をエンパワーメントするツールだし、その点が最も画期的だと思うので。だから、モノでもお金でも情報でもいいけれども、我々としては個人間のやりとりをもっと進化させることができると思うし、そこを突き詰めたい願望というか、欲求がある。
孫: なるほど。その辺のお話はもっと発信していったほうがいいかなと思う。共感する人はすごく多いと思うので。僕らがインターネットに触れてもう20年になるけれども、やっぱり個人をエンパワーメントできるから好きなんだなと、僕も思う。
今後はAIもネットワークにつながるし、いろいろなものがコミュニケーションしていくと思うけれども、今のお話こそインターネットの本質だと思う。
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