2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):自分が今なにをやりたいのかということは、トップクリエイターでもすごく答えるのが難しいんですよ。やっぱりなにか制限があるほうがアイデアが出やすくて。「本当に自分のやりたいことやっていいよ」と言われると、より難しい課題だなと。
嶋浩一郎氏(以下、嶋):本当にやっていいことを、クリエイターの人と佐渡島さんがコンビになって見つけて、それをどこで売り出すかも含めてやっていこうという挑戦を?
佐渡島:そうですね。
嶋:具体的に、今コルクでこんなコンテンツを作って、こういう作戦で売り出そうとしてるみたいなのは、なにかあったりするんですか?
佐渡島:具体的に言えることですよね? (考えながら)言っても大丈夫なもので、具体で……。
嶋:言ってもダメなことをしゃべってもらってもいいですけど(笑)。
佐渡島:なんだろうな? ……今はあれですね。基本的に日本のコンテンツのありかたは、「日本でヒットさせて、それが話題になって世界中からオファーが来て、売る」というようなライツの売り方なんですけど、僕らはがしがしアメリカにも中国にも営業行ってるんですよ。ハリウッドでもかなり営業していて、いくつかの作品の契約が決まってるんですね。
ハリウッドの制作会社の人たちと定期的にやり取りをしていると、僕らはもう出版の前からその人たちに企画書を見せていて。となると、その時点で先に契約しちゃって、もう映画の話が決まってるところから、「じゃあ、どこに載っけようか」とかいう考え方もできるんだなと思って。
嶋:講談社にいた時は、コンテンツの乗り物が漫画雑誌というものしかなかったけど、今はハリウッドにも直接行くし、海外のメディアの人とも会うし。だから、乗り物を自由に選べるようになっていって、その自由のなかで判断ができるようになってきてるという。
そういう作品がもう実際動かれていて、これから生まれてくるという。「みなさん期待してください!」みたいな状況で。
佐渡島:そうですね。だから2~3年すると、今契約してるものがやっぱり世に出てくるので、相当インパクト強く出せるだろうなとは思ってる。
嶋:今、まだ潜伏期間?
佐渡島:まだいくつか……。やっぱりどうしても、コルクは講談社時代に作った作品をSNS上での運用へと変えていっていて。それは僕が講談社時代にやった仕事のインパクトに比べると、新しくはあるんですけど、すごい小さいなと自分でも思ってるんですよね。
佐久間宣行氏(以下、佐久間):佐渡島さんのクリエイターの方との関わり方というのは、そのクリエイターの方々ごとに違うんですか? 提案するパターンもあるし、逆に自由かもしれないけど、佐渡島さんから制限を与えるパターンもあったり?
佐渡島:それもぜんぜんありますよ。例えば、コルクとしての制限じゃないんですけど、『宇宙兄弟』の実写の映画の最後は、漫画のラストとして考えてたんですよ。
でも、『宇宙兄弟』がもう3~4年連載していて。「3~4年まえに考えたラストを何年間もずっと取っておいてるのかっこ悪いから、映画側にあげちゃおうよ」と。それで、「あげちゃって、あれよりもぜんぜんいいラスト思いつこうよ」と言って。
佐久間:まだなにもないけど、そういう提案をしたの?
佐渡島:結局「そこまで成長できるでしょ?」と。「そんな、新人の始めた連載の初めに考えてたラストなんて、こだわらないほうがいいでしょ?」と言って。
嶋:それ、おもしろいですね。それこそ、映画という乗り物と雑誌という乗り物で違うふうに変えちゃおうという判断ができたということですもんね。
佐久間:佐渡島さんが今やっているクリエイターのエージェントというお仕事とは違うんですけど、番組を作る時に、僕はタレントのエージェントのつもりで作ります。
とくに、テレビ東京というリソースの少ない局に出ていただける方には、魅力の箱を開けるということ自体が企画になるというか。その出ていただきたい方の魅力を徹底的に考えて、「世間にまだ届いていない魅力はなんだろうな?」と考えること自体で、番組ができたりするので。
嶋:「テレ東という入れ物に入ったら変わるよ」という。例えば、どういうタレントさんが?
佐久間:そうですね。僕がよくやってる、おぎやはぎ、劇団ひとり、バカリズムだけかもしれないけど。バカリズムは、『ウレロ』という僕がやってるグループのコントがあるんですけど。
そのシリーズ、もう第4シーズンぐらいになってますけど、それまでは孤高の人と思われてたんです。バラエティ番組はそんなに……。扱いづらい人だと思われていて。
ただ、人一倍人情に熱くて、チームプレイも楽しんでやる人だというのが僕はわかっていたので。その番組に入って、「かわいげ」というものが世の中の人にわかってもらえたら、別に僕だけの力じゃないですけど、一気にバラエティの仕事が全局的に増えるというか。
佐渡島:今のお話を聞いていて、今ちょうど僕がやろうとしている新しい仕事で組めるかもと思ったのが、芸人さんの方々はコント作るじゃないですか?
佐久間:そうですね。
佐渡島:でも作るコントがある程度完成していると、(コントを)いくつか持っていて、そのいくつかをたまに繰り返しやったりするじゃないですか?
佐久間:そうですね。ネタ番組ごとに出し入れするぐらい。
佐渡島:でも、例えばギャグ漫画家は、最高のギャグ漫画を1年後にもう1回掲載するとか絶対しないじゃないですか? 延々とやっていくんですよね。
それで、長いものはドラマ化されるんだけれども、ギャグ漫画家の短い漫画とかは映像化されなくて眠っていて、もったいなと思っていて。
うちで今一緒にやっている漫画家が、実は放送作家か芸人目指してたんだけど、まったくしゃべらない子なので、「無理だと思って漫画家になった」と話してて。
それで、タレント事務所のところへ行って、おたくの芸人さんとうちの漫画家組ませて、毎日30秒YouTubeでアップしていって、お互いのフォロワー増やそうと今話していて。
とかいうので、佐久間さんのやられてる番組に、僕の漫画家のギャグマンガを原作にしてなんかやるとかね。
佐久間:同じようなことで、芸人がよく「ミュージシャンがずるい」と言うんですよ。ミュージシャンは同じ曲を何回歌っても大丈夫なのに。
これはたぶん、世の中の受け取り手の問題で。何回歌っても大丈夫なのに、芸人は同じネタやると「同じじゃねーか!」と言われるという。笑われないという。
これはもしかすると、固定概念なだけなんじゃないかと。落語は大丈夫なわけだから。だから、もしかすると、とてつもなく名作のコントがあったとしたら、それは不朽で、何回でも(繰り返しできる)。もしかしたら、その芸人さんにとって、そのコントを作ることによって、一生マネタイズできるものかもしれないという。
嶋:そういうことができる可能性もありますよね。
佐渡島:繰り返しやれるかどうかは、けっこうコンテンツにとってすごく重要な課題で。
『人狼TLPT』というの、知ってます? 『人狼TLPT』という人狼ゲームを基にした劇は、同じ題材のものを何回でも見れるじゃないですか? あれはけっこう未来のコンテンツだなと思って。
あれを勉強したいと思って、作っている桜庭(未那)さんという人のところに行って。「『宇宙兄弟』とコラボさせてください」と言って。
今年の夏に3日間だけ6公演、『宇宙兄弟』と『人狼TLPT』でやるんですよ。『宇宙兄弟』の世界観を作り込んで、そのなかで『人狼TLPT』をやると、どんな劇になるのか。それは6回見ると、6回とも違う。
佐久間:結末が変わるわけですもんね。
佐渡島:そうなんですよね。
嶋:なるほど。じゃあ、先進みましょうかね。次、佐久間さんが「こういうルールチェンジをしてきた」というようなことで、既存の番組の作り方とかをどういうふうに変えていきたいと思われてるんですか?
佐久間:僕は、既存のテレビ番組はものすごく好きなんです。冒頭に申し上げたかもしれないですけど、けっこう不便になってきたなと思っていて。
不便になってきて、見れる人、テレビの前にずっといられる人向けにどんどん作っていくテレビ番組の作り方だと、それが得意な方もいるけど、僕はそうじゃないのもあるし。テレビの寿命が縮まっていくだけだろうなと思っていて。
だったら、今おもしろい番組がたくさんあったり、自分の作りたいものだったりを、不便なフォーマットだなと思ってる人たちにも届くようなかたちで、チャレンジしていきたいなと思っていますね。
だから、もしかすると、近いうちに僕がやってる番組のスピンオフがオンエアと同時に配信で行われたりとか。両方で見ていけるようなかたちにできないかということで、今、模索しながらやっています。
嶋:『ゴッドタン』に出ているタレントの方々が、視聴率に比べて「なんでこんなにDVDが売れるんだ?」みたいなお話されてますけど。
佐久間:それは毎回びっくりしますよね。それはなんでなのか、よくわからないですね(笑)。
佐渡島:僕だったら、もう『ゴッドタン』のファンクラブ作っちゃって、それで月額有料課金にして、ファンクラブに入ってる人だけネット上で前日に見られるというふうにして、先に会話ができるようにしておいて。
(前日視聴した人の間で)話題になってて、みんながその話題を見て「おもしろそう」となって、次の日テレビで見るとかで。そっちは無料で見られるんだけど、1日早くして、話題にできる権利をファンクラブの人に売るとかしたいなって思いますね。
佐久間:それおもしろいと思いますね。僕が「ファンクラブ」という考え方を導入して作ってみたのが、バカリズムとかも出てくれている『ウレロ』という深夜番組なんですけれども、あの番組も視聴率のわりにパッケージセールスが非常によかったんです。
パッケージを作っていく上で『ほぼ日刊イトイ新聞』のやり方を参考にさせてもらったんですけど、DVDに特典映像を普通に入れるんじゃなくて、SNS上で視聴者の方や番組のファンに相談しながら作っていったんですね。
「このコントが見たい」という意見を聞いたり、逆に「こんなタイトルに決めましたけどどうですか?」みたいに尋ねたり。そうやってやりながらDVDを作っていくだけで、深夜帯のその視聴率の番組だったら、例えば普通は1,000本しか売れないところを1万本ぐらい、10倍ぐらい違う売れ行きを示した。
参加意識を持ってもらったり、番組を支えたいと思ってもらえるだけで、こんなにその人たちのパワーが違ってくるんだなと思ったら、それが確かにファンクラブに近いような感じだったのかなと思いますし、もしくは今やっているバラエティ番組でもそういう考え方があるなと思いました。
嶋:それはまさに、深夜に24時間テレビの前にいるような人じゃない人をちゃんとお客さんにできているという仕掛けですよね?
佐久間:そうですね。テレビのオンエア以上のものもあるし、「このDVDボックスにはみなさんと一緒に考えた、みなさんが見たいものも入ってるよ」というのをある程度の期間をかけてやったことで、みなさんに理解していただけたというか。
嶋:まさに、ネット的な感じがしますね。
佐渡島:僕は、テレビの価値とはダラダラとのんびりしたい時に受動的に動画が見れるということだと思ってるんですけど、それがかなりスマホに代替されてきてるじゃないですか。
でも、デジタルテレビになると、チャンネルが替わるのが遅いですよね。ボタンを押してから、1秒とか時差があるじゃないですか。スマホ上のほとんどのアプリとかサービスは、そこにすごくこだわってますよね。スマニュー(SmartNews)とかは、タグを替えるサクサク感とかにむちゃくちゃ命かけてて。
テレビの人たちは、たぶん一番初めにテレビを作った時、どういうふうにして配信するかとか時差をなくすかとか、テレビの「ガワ」のことをすごく気にしていて。その「ガワ」が完成したあとに内側のことを考えるようになったら、テレビ局の人たちが中のことしか考えない人たちになっちゃっていて……。
佐久間:それはあると思います。要は、もしかしたらコンテンツはこのままでもいいのかもしれないのに、不便だから見てない人という人がたくさんいるだけなのかもしれないのに、「もっとお年寄り向けに作らなきゃ」とか考えちゃって、コンテンツ自体が少し萎れていくという現場を何回か見ているので。
佐渡島:テレビ局の視聴率が今、(チャンネル番号の)順番になってるじゃないですか、NHKは抜いておいて。
佐久間:確かにそうですね。うちの局は別ですけれども、確かにザッピングの順に視聴率が、ちょっと元気なくなってきているというのは間違いないかもしれませんね。
佐渡島:僕はテレビのチャンネルが替わるのが遅いからずっと見なくなってたんです。Apple TVを入れてもやっぱり反応が悪かったから見なかったんですよ。そのあと、Amazon Fire TVを入れたらサクサク動くんですよね、速いんですよ。それで、映像を見るのが復活したんです。
佐久間:それはそうですね。例えば、うちの子供とかはもうAmazon Fireが先なので、既存のテレビが遅いというイメージになるんですよね。
佐渡島:動かした時のサクサク感があるかどうかというのは、けっこうテレビ局にとって致命傷になり得ると思うのに、一人ひとりのプロデューサーはそれを考えられないし、改革できないしというところで、けっこう大きいジレンマがありそうだなとは思うんですよね。
嶋:ハードとデバイスとの関係というのは、おもしろいですね。
佐渡島:それを考えないネットの会社とかアプリの会社はないですからね。
嶋:ネットニュースの人たち、スマニューさんとかGunosyとかantennaも、そういうことしか考えてないですからね。
佐渡島:そうですよね。どれだけ電波の悪いところでも見せられるかとか。
佐久間:あとは、チャンネルを替えたら、途中からでもその番組のアタマから見れるようにならないかな? 8時から10時の間だったら、いつから見ても8時のところから見られるみたいな。それだけでも違うなと思うし。
佐渡島:技術的には可能なんですけどね。今、TVerとか、テレビ局が連合してるじゃないですか。ああいうので連合しないで、総取りを狙うテレビ局が出てくるとおもしろいと思うんですけどね。
嶋:佐久間さんは、テレビの前に座っていないお客さんも取っていくみたいな考え方でやられているということですが、ここからは働き方や企画の立て方みたいなお話もうかがっていきたいと思います。重要なのは、条件がないところから企画を作っていくということで。
佐久間:これはテレビ東京ならではというか、僕はリソースがない会社でディレクターと演出をやってたんですけど、他局というかライバルに勝つには、もう予算配分から決めないと無理だなと思ったんです。
要は、なにに勝負をかけるかまで決めないと他局には勝てないなと思ったから、プロデューサーも兼ねるようにしたんですね。「これはもうスタジオいらないや」とか。
『Youは何しに日本へ?』も、バナナマンはブルーバックなんですよね。もう見せたいものは決まっているので、そこにできるだけディレクターを投入するためにプロデューサーがそう決めたんですけど。
10年前の若手のころ、番組を作る時に普通は先輩がプロデューサーになるんですけど、「予算配分から全部やらせてほしいです」と言って、初めてやらせてもらったんですね。これが結果、自分が作りたいものを少ない予算で作る(きっかけになった)。でも、少ない予算でとがったものが作れると、それがロールモデルになってまたお金が集まるので。
嶋:テレビ東京好調の1つの要因として、佐久間さんだけじゃなくてそういう発想の方が多いですよね?
佐久間:そうですね。とくに若手は増えてきたと思います。
嶋:それは今時の作り手としてはすごくいいですよね。ある条件があってそれをふくらませて作っていくんじゃなくて、もうまったくなにもないところから考えざるを得ないというのはすごくいいことだなと思うんですけどね。
もう1つ、佐久間さんが仕事のパターンとしてやっているのが、もう「とにかく1人で全部やる」みたいなところですよね?
佐久間:テレビの場合は“対出演者”というのがあって、芸人さんにしても“対クリエイター”みたいなものですけど、彼らを1人の番組の制作者と考えた時に、その人に自分がなにで信用されるんだというのがやっぱりあるんですよ。テレビ局のプロデューサーにしても、ディレクターにしても。僕の場合は編集だったんです。「編集がうまい」と。
編集を時間かけてやってくれるから、編集をちゃんとやってくれない他局の番組だとそのまま出ちゃうけど、この現場はスベってもいい、この現場は冒険してもなんとかしてくれるという評判を重ねていって、僕の現場ではみんな勝負してくれるようになったというか。
普通は分業なんですけど、その評判ができるまでは編集をできるだけ自分でやろうと思って。若手の頃、とくに30代前半ぐらいまでは突っ張って、これをやっていたという感じですね。
嶋:編集を全部自分でやられるというのはすごいですよね。今は、プロデューサーやって、ディレクターやって、編集も全部やられるということですもんね?
佐久間:はい。まあ、今はもう大事な回だけとか……。逆に言うと、「これは一生懸命編集しないと大変な回だな」という回はやりますけど(笑)。
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