2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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嶋浩一郎氏(以下、嶋):みなさん、こんにちは。よろしくお願いします。
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):よろしくお願いします。
佐久間宣行氏(以下、佐久間):よろしくお願いします。
嶋:今日モデレーターを務めさせていただきます、博報堂ケトルの嶋浩一郎と申します。よろしくお願いします。
今日は「次世代メディアパーソンに聞く熱狂のレシピ」というタイトルつけてみたんですけれども。
なにをしたいかというと、ここにいるお2人なんですけども、出版の世界を変えているルールチェンジャーの佐渡島さんと、放送の世界、番組作りみたいなので新しいチャレンジをされているルールチェンジャーの佐久間さん。
出版業界を変えている人と、テレビ業界を変えようとしている人の惑星直列みたいなことを起こして、ケミストリーでなにが起きるかというのを実験してみたいと思っております。お2人は今日、会うの初めてで?
佐渡島:そうですね。
佐久間:はい。初めてお会いしました。
嶋:初めてらしいので、ここでなにか化学変化が起きるといいなと思っているので。僕も話を振るんですけれども、お2人のなかで、ガンガン聞きたいことがあったら、クロストークしていただければと思います。
まず、簡単にお2人に自己紹介をしていただきたいと思います。佐渡島さん、お願いします。
佐渡島:コルクの佐渡島と申します。
僕はもともと講談社という出版社に勤めていて。2002年から10年間、『モーニング』編集部というところにずっといました。
その時に作ったのが、『ドラゴン桜』という1年目に立ち上げた作品で。これを初めてメインでやることで、かなり編集者として成長させてもらいました。
この時は、三田(紀房)さんという中堅作家の人と一緒にヒットを作ったんですけども、そのあと、やっぱり新人を発掘して育てたいと思って、次にやったのが『宇宙兄弟』という作品です。
それで、そのほかにもずっと『モーニング』編集部というところにいたんですけれども、昔はコンテンツがいろいろ分かれてなかったんですよね。1つの雑誌のなかに漫画もあれば小説も載ってたんですけど、だんだんと出版社が大きくなっていくなかで、漫画部署と小説部署とかが分かれるようになって。分かれると一緒に載らないようになっていきます。
でも、これ、楽しむ側は一緒に楽しんでもいいのに、別々に作ってるのは出版社側の事情だよなと思いました。
小説もやりたいと思って、次に『モダンタイムス』という小説を伊坂幸太郎さんと一緒に作ったりしました。今言ったような作品というのは、ドラマ化されたりとか、映画化されたりとか、アニメ化されたりとか、イベント化されたりとかというかたちで、かなりマルチメディア化をやっていくことができて。
そのなかで、出版社でできることから、新しいことに挑戦したいなと思いまして。だいたい2年弱まえ、2012年に作家のエージェント会社コルクというものを作りました。
世界的には作家のエージェント会社というのは一般的なんですけれども、日本ではほぼほぼコルクが初めてという状態で。作家のエージェント会社からコンテンツを作っていく、メディアが先じゃなくてコンテンツが先というありかたによって、産業構造を変えたいなと思っています。
嶋:雑誌という乗り物があるところで働くより、コンテンツを作家と一緒に作る仕事に挑戦しているということで。じゃあ、あとでそのコルクがなにをやってるのかというのを、いろいろ聞いていきたいなと思います。
佐渡島さんは本当に、講談社時代もすごいアイデアマンで。例えばさっきの『ドラゴン桜』とか、受験の話ですよね。あの漫画を本屋の受験参考書コーナーに置くみたいな。それこそ今、『重版出来!』のドラマで販売部の人とがんばるような(笑)。
佐渡島:そうですね。
嶋:鉄道漫画を旅行コーナーに置くみたいな。そういういろんなアイデアをやってきた佐渡島さんが、コルクでさらにチャレンジしていくことというのをお聞きしたいなと思います。
もう1人のルールチェンジャーとして今日お呼びしました、佐久間さん。佐久間さんの作っている番組見ると、会社のなかでむちゃくちゃ怒られてるんじゃないかなと。
佐久間:そうですね。けっこうテレビのなかで一番自由に作らせていただいてる立場だとは思うんですけど。僕はテレビ東京に17年前に入りました。
その時はもう本当にテレビ東京はリソースもなにもなくて、断トツの最下位局。
嶋:でも、今は絶好調と言われてるじゃないですか。
佐久間:逆に前例がないし、学ぶべき人もいないから、好きなものを作っていいという状況だったので。だったら、僕はほかの人がやってない時間帯で、まずブレイクスルーできるようなものを作って、そこからテレビ以外に波及していくもの、いろんなものを巻き込んでいけるものを作りたいなと思って、始めたのが『ピラメキーノ』という番組。
6時半の時間帯に枠が空いてて、「予算はこれしかない」という状態の時に「子供番組やらせてくれ」と言って。
昔からのみんなきれいごとの子供番組じゃなくて、「子供はもっと意地が悪いよね」とか、子供番組のふりをした子供向けお笑い番組を、と思って作ったのがこの『ピラメキーノ』という番組ですね。
嶋:これ、みなさん見たことあります? ぜひ見てほしいんですけど(笑)、もう相当悪ふざけしてますよね。
佐久間:これで作った曲がCDで30万枚ぐらい売れたりとか、子供たちの間である一時代を築かせていただいたかなと。
嶋:おならの歌ですよね?(笑)。
佐久間:はい、おならの歌。不謹慎なものなんですけど。
これともう1つ、真逆でド深夜にやってるのが『ゴッドタン』という番組です。これ、もう10年やってるんですけど。これの始まるころには関東芸人さんの番組がほとんどなかったんです。そのころの実力者……もちろん(関西には)ダウンタウンさん、今田(耕司)さん、東野(幸治)さんみたいなのがいたんですけど、関東芸人の場合はほぼいなくて。
若手の僕がチャレンジするんだったら、もう関東芸人、おぎやはぎ、劇団ひとり、バナナマンとか、東京03とか、有吉(弘行)さんとか、(これまでと)違う笑いを作ろうと思って。僕が好きな演劇とか音楽とかのカルチャーをかけ合わせて、番組を作ろうと思いました。これはもう逆張りして作った番組ですね。
「怒られた、終わるな」と思いながらも、毎回作ってるんですけど。「マジ歌選手権」とか、国際フォーラムでライブやらせていただいたりとか。DVDのパッケージの売り上げも堅調で、深夜帯としては異例の、10年続いている番組です。
もう1つ、今年の10月に、実験的にネットコンテンツとドラマの間ぐらいのものをやってみたいなと思っています。
これ、その先の話になるかもしれないですけど、テレビの既存のフォーマットが若い人にとってけっこう不自由だなと。内容はおもしろいんだけど、テレビのフォーマット、要はリアルタイムで見てなきゃいけないというものがちょっと窮屈だなと思っていて。
なので、細切れでも見れるし、リアルタイムで見たら、別の楽しみ方ができるというコンテンツを作れないかなと思って作ったのが、『SICKS』という番組で。始まる前までは、「おぎやはぎとオードリーのコント番組です」といって始まったんですね。
コント番組で始まって、毎回3分ぐらいずつのコンテンツを作ってたんですけど。実はその登場人物、コントだとAという登場人物が2つの役柄を演じてたりするじゃないですか? それは普通なんですけど、3話でそれが実は同一人物の昼の顔と夜の顔だったというのがわかって。
「あ、これ、同じ時間帯の同じ時間軸でつながってるんだ」となってから、急に4話で人が死んで。そこからずっと急に6話、7話からドラマになるという。
そういうコントと連ドラの間みたいなものを仕掛けてみたというか作ってみたら、これは本当に非常に若い人たちに(受けた)。リアルタイムで見ないとやばい番組。でも、短いコンテンツだからネットで見れるという。
ちょうどそこの狙いがうまくいって、今DVDのセールスが堅調だし、これでギャラクシー賞をいただけました。これが最近変わった、作った番組のなかでは、ちょっとルールを壊せたかなという番組ですね。
嶋:今日、それこそお2人にお会いした時、佐渡島さんが佐久間さんに「佐久間さんの作っているコンテンツというのはネット的だよね」というお話をされたんですけど、そのあたりはどうですか?
佐渡島:どれも本質的というか、見たいと思ってることに忠実だし、(『SICKS』副題の)「みんながみんな、何かの病気」というのはすごい腑に落ちるというか、スッときますよね。
佐久間:これは最終的なストーリーの肝にもなってくるんですけど、最初、現代病を扱うコントになってたので、そういうタイトルを付けさせていただきました。
佐渡島:きれいごと言ってないというさっきの子供番組も、それがすごい重要で。コンテンツ作る時は始めはきれいごとじゃなく作ろうとするのに、なんとなく会社の目とか上司の目とかを気にすると、自分できれいごとを入れていって、ダメなコンテンツにしていっちゃうということがあるから。
はじめの「知りたい」という気持ちをとことん追求するのは、すごく重要ですよね。
佐久間:僕は佐渡島さんの本を読ませていただいた時に、「革命的な作品というのは全部、なにかしら新しい定義を作る」というのが、すごくおもしろいなと思っていて。
『宇宙兄弟』もそうですけど、『ドラゴン桜』だったら、受験というものに対しての新しい定義だったり。僕も自分の作品を思い返した時に、確かに自分で「できたな」と思う作品に関しては、1つなにかそのジャンルに新しい定義を投げかけてはいるなと思いましたね。
嶋:確かに『ピラメキーノ』は子供番組の新しいフォーマットになったし、『ゴッドタン』もバラエティの新しいフォーマットになったり、そういうところはありますよね。
じゃあ、次に進んでいこうと思うんですけれども。「私のブレイク・ザ・ルール」というところで、お仕事のなか、今までのキャリアのなかで、なにかブレイクスルーした体験。新しい挑戦とか既存のやりかたじゃないことで、自分の仕事を作ってきたエピソードみたいなことを聞いていきたいなと思います。
まず、佐渡島さんが講談社を辞めて、作っているコルク。さっき、作家のエージェントという話があったんですけど。コルクというのはなにを目指して、出版というものをどう変えるみたいな意気込みと野望があったか。今日、その野望をみなさんにお伝えしてほしいんですけど。
佐渡島:料理を例にしたほうがコンテンツよりもわかりやすいんですけど、料理は一番初めに炒めるのか蒸すのか焼くのか、順番が変わるだけでまったく違うものになるじゃないですか。コンテンツも作る時の一番初めの考え方によって、まったくアウトプットが変わってくると思うんですよ。
例えば、僕が『モーニング』に所属していて、安野モヨコに仕事を頼むとします。「30~40代の男の人、サラリーマンが読むんだ」というところから安野モヨコの才能を伸ばそうとなると、自然と『働きマン』とかになるんです。
今、例えば、安野モヨコにあてて、 安野モヨコの才能をもっとも引き伸ばそうと思うと、『働きマン』は絵的な調整がほとんどできないんですよ。
安野モヨコはむちゃくちゃ絵がうまいのに、スーツとかだとやっぱりかっこいい絵が描けなかったりとか、オフィスとかだとかっこいい絵が描けなかったりするので、安野モヨコの才能を最大限に引き伸ばしたコンテンツじゃないんですよ。となると、安野モヨコを中心に考えると、ぜんぜん違うことが起きてきて。
それで作った作品をどこに載せようか、どこに同時に掲載していこうか、どこで課金していこうかというのを、そのコンテンツベースで全部考え直すとすると、最終的に社会で起きる現象というのが「雑誌のなかでアンケート1位」じゃなくて、ぜんぜん違う結果を引き起こせるだろうなと思って。
嶋:あえて議論のために逆のことを言うと、ターゲットが決まってると「えー、そんな人のために漫画描けない」と本当は思っていたかもしれないけど、挑戦してみるとすごいケミストリーが起きたりとか。そういうこととかもあったりはするんですか?
佐渡島:もちろん。そういうかたちで雑誌からパワーをもらえて、「制限をもらうから生まれる」ということがあります。やっぱり5・7・5だから生まれた言葉とかもあるのと同じで、制限というのはすごくいいんですけれども。
今、雑誌というものの部数が減りすぎちゃってて、それを読んでる人たちというのがビビッドにイメージできなくなってきているのに、まだそこにこだわったりすることというのにあんまり意味を感じなかったりだとか。
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