2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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キャサリン・アイゼンハート氏(以下、キャサリン):バウンダリールールとハウツールールは簡単でしたが、今度はちょっと難しいルールを説明しましょう。
タイミングルール。これの習得はちょっと難しいですが、デッドライン、リズム、シークエンスで、物事を始めたり止めたりするのに役立ちます。不眠症に関するタイミングルールとしては、特にお年寄りに有効ですが、疲れたら寝て、同じ時間に起きるというものです。
ビジネス関連でPixarからの例をお話しします。「トイストーリー」についてです。これは4年かかって制作された作品です。これが成功した後に幹部達はこう考えました。「4年かかるこの作業をどうビジネス化するのか。長すぎるし、トップレベルの才能はどうやって見つけるのか」
そこで考えた結果、毎年映画を発表するという答えにたどり着きました。そこで毎年、休日シーズンを狙いサンクスギビングにリリースすることにしました。つまり、毎年休暇シーズンにリリースというルール設定です。
でもそれは簡単なことではありません。なぜなら、4年かかることを1年区切りで処理していかなければいけないからです。1年目から4年目で何をしたかという把握もしないといけない。つまり映画工場ともいえるパイプラインを作ったわけです。クオリティによってはちょっと時期がずれることもありますが、ほとんど毎年サンクスギビングにリリースしています。
次の例はPrimekssという会社からです。知らない人もいると思いますが、これはコンクリートの会社です。最近あんまりコンクリートについて聞かないですが、実はコンクリーとセメントは世界の二酸化炭素汚染第3位の原因です。地球温暖化の主な発生原因でもあります。
そこで彼らは新しいコンクリートを作ることにしました。古代エジプトまで遡り、古代エジプトやローマ人もまた、コンクリートを大量消費していたことが判明しました。ただ、当時のコンクリートは血液と馬の毛を加えて作られていました。それを現代に置き換えて血液と馬の毛に代わるものを加え、新たなコンクリートが完成しました。
コンクリート製造にかかるCO2消費を半分に抑え、コンクリートそのものの消費、つまり割れにくいコンクリートという、すばらしい商品を作りました。
問題は売り方なのです。まずラスベガスのトレードショーに行き、多くの人がそのコンクリートに興味を持ちました。でも誰をビジネスパートナーにするかを選ばなければいけなかった。そこでいくつかのシンプルルールにたどり着いたのです。
1つは、1つの土地に1つのパートナーというものでした。とてもシンプルです。2つめはちょっと違い、レーザースクリーンマシーンをもっている会社を選ぶというものでした。ちょっとなじみが無い言葉ですが、コンクリート界ではそれ持っているということは革新的でクオリティが高い証のようなものです。
3つめは、タイミングルールで、3ヶ月毎に新しいパートナーを作るというものでした。小さい会社なのでそれがベストだったのです。そうやることによって、エンジニアリングや営業といった内部活動を同期できたのです。
タイミングルールのなかでも、ストッピングルールは特に難しいといえます。これはいつ止めるかについてのルールです。始めることはできてもなかなか止められない。
Primekssには、ストッピングルールもありました。それは、3ヶ月で商品を売れない場合はパートナーをやめるというものでした。遅いしあんまり興味がない、間違えたから次へ進む、という具合に。
彼はスティーブ・ブランクです。Lean LaunchPadで知られています。事業を始めるにあたってのシンプルルールが彼にはあります。いくつかは顧客探しに関するものです。外に出て100人と直接話すのが最初のステップだという彼の理論は有名です。しかし止め時についても彼はルールがあります。
100人と話した後に、彼らは何か問題を抱えているか? これがまず1つめ。2つめは、彼らがその問題を解決したがっているか? 3つめは、それに彼らはお金を払えるか? 4つめは、我々はその問題を解決できるか? というものです。
1つでもノーといえるなら、それはうまくいかないという考えです。「問題があるか」「お金を払って解決するのか」「我々に支払うのか」「我々は解決できるか」というものですね。
最後に、ストッピングルールについて。この写真はエベレストです。「Into Thin Air」という本は読んだことあるかと思います。1996年に事故死した8人の登山家の話です。
登山グループのリーダーのスコット・フィッシャーにはストッピングルールがありました。午後2時までに登頂出来なかったら下山するというものでした。雪崩で死んだ彼らが登頂した時は午後4時でした。ルールに従っていれば、彼らはまだ生きていたかもしれません。しかし彼らはそうならず、悲劇が起きてしまった。
これらがシンプルルールですが、ストッピングルールは難しいのです。
次に、どうやってルールを作るかということについてお話ししたいと思います。
3つあります。「目的は何か?」「より多く、より少なく求めるものは何か?」「ハッキリする」
まず障害を発見しましょう。何が目的達成を拒んでいるかということです。そしてルールを構築する。障害の発見が、恐らく1番難しいことだと思います。
目的を決定する。またもやフットボールチームですが(笑)。
(会場笑)
スタンフォードのフットボールチームに関しては、賢いけれど賢くプレーできないという問題があります。そこまで優れたチームではありません。
シャノン・ターリーという、肉体トレーニング担当がいるのですが、フットボールチームというのは肉体トレーニングに力を入れます。何100ポンドのベンチプレスだったり、自己最高記録を書いたシャツを着ることだったり、とにかく強くあるということにフォーカスされがちです。
そこでシャノンは、強くあることから、けがをしないということに対象を変えたのです。モラル面だけでなく、戦略としても重要なことでした。彼のもと、最初の数年で、スタンフォードの大けがは90パーセントまで下がりました。目的は彼らの健康を保つということだったのです。どんなに優れた選手でも、不調だと試合に出られません。
つまり最初の例は、本当の目的(対象)は何かということでした。スタンフォードのフットボール選手だとケガをしないということですし、グーグルならトップコンピューターサイエンティストを雇うということになります。
次のステップは障害を見つけるということですが、Netflixの場合だと、それは高騰するコンテンツ料金でした。ハリウッドはストリーミングの仕組みを理解し、Netflixに高額を請求してたので、彼らの予算は縮小していました。Netflixはオリジナル番組の制作を決定し、「House of Cards」は最初の作品となりました。HBOなどに対抗するためにも、話題になるというのが彼らの目的でした。
「Mad Men」や「Sopranos」が有名になったのは脚本が優れていたからでした。でも脚本では勝てない、そこで話題になり勝利するために彼らが考えたのが、どの世界のテレビもやっていないことでした。
彼らはAリストのディレクターを準備するということでケビン・フィッチャーを起用しました。彼は「Social Network」「Dragon Tattoo」「ベンジャミンバトン」を制作した人です。そうすることによって、「House of Cards」はユニークなものになり、単純に、いままでと違ったものが生まれたのです。それが話題になり、小さな画面での新たな体験となりました。
次に彼らが取り組んだ障害はプログラミングです。エンタメ業界では、1つがパイロットを買い取り、2〜3つまた買って、1年分のショーを買い、週に1回放送という感じが定例です。しかしNetflixは2年分のエピソードを買いました。そして最初の年に全てリリースしたのです。2年分を買い取り、一気見するというのは相当な打開策となり、かなり話題になりました。
彼らが実行した2つのルールというのは、Aリストのディレクターを起用し、一気買いして一気見させるということでした。ハリウッドのような会社にとってはリスキーに見えても、Netflixにとってはそうではありませんでした。なぜなら彼らは「House of Cards」は人気だと既にわかっていたからです。
過去のデータから、利用者が「Kevin Spacey」「David Fincher 」「イギリス版のHouse of Cards」を好きだということがわかっていたのです。そこで一気買いをして、結果支払いは少なめですみました。また、彼らは利用者が一気見するということも知っていました。つまり彼らは、独自の障害を発見し、それに沿ったルールを決定したのです。
最後にルールを作ることについて。これに関してはあまり多く説明はしません、後でお話もできますので。ルールを作るというのは簡潔なことです。これはチェコのレストランですが、彼らはカフェテリアで提供するメニューに関してのルールを作りました。
彼らのマーケットは、プラハに来る西洋とアメリカの企業で、従業員によりよい食を体験してもらおうということでした。Ciscoやフェイスブックといった会社です。しかしシェフも食事もよかったのに、利益をあげられませんでした。
目的は利益を生むことで、障害はメニュープラン。なので彼らはメニュープランについて考えなければなりませんでした。それまでは何のルールもありませんでした。
そこで彼らがまずやったのは、ルール作りにシェフを参加させることでした。人気のメニューは何か、どんなメニューは利益が出やすいかという事実を確認することから始め、ルールをシェフに実践させました。
そのルールは、前の週の水曜までにメニューを決め、カフェテリアのメニューは5食、そのうち3食はベストセラーで、2食は全店共通というものでした。地元のものや季節のものを使用することにもなりました。そのルールに沿えば何でもOKで、6ヶ月で利益が出るようになり、1年でビジネスは50パーセント拡大しました。事実を確認し、外部の意見も取り入れ、従業員の意見も聞くということですね。
レオナルド・ダビンチの言葉で締めくくろうと思います。「シンプルこそ洗練の極み」シンプルにいきましょう。
あとは質問を受け付けます。
(会場拍手)
キャサリン:質問はありますでしょうか。近くのマイクをお使い下さい。
質問者:シンプルルールの簡潔なご説明、ありがとうございます。できれば「複雑」という言葉の定義、そしてその「複雑」とシンプルルールの関係について説明していただけないでしょうか?
キャサリン:もちろん。「複雑」とは、物事が多すぎる状態を言います。やることが多すぎるといった状態です。層のようになっていて、多すぎるだけではなく因果関係の抽出が難しく不明瞭な状態でもあります。
多すぎるアナリシスや情報によって解決にとりくむことには2つの問題があります。まずはスピードが遅くなること。次に、過去をオーバーフィットしすぎてしまいます。この不明瞭な世の中では、過去をなぞることが正解とは限りません。
専門的なことを言うつもりはありませんが、ビッグデータに適合する法則を発見したときに、最もシンプルなデータこそが予想可能なものなのです。
質問者:なるほど。つまり、システム内のレジリエンスの理由がまさにそれということでしょうか?
キャサリン:そうですね。レジリエンスは関係しています。
質問者:不確定要素に反応する能力?
キャサリン:そうです。サンタフェインスティチュートの「Complexity Theory」を知っている人がどれだけいるかはわかりませんが、確かにそれは関連しています。興味ある方がいれば後ほどお話しします。他に質問は?
質問者:お話ありがとうございます。シンプルな質問をしたいと思います(笑)。
キャサリン:複雑な答えを用意しておきます(笑)。
(会場笑)
質問者:ここスタンフォードの入試科が実践しているシンプルルールを教えて下さい。
(会場笑)
キャサリン:あるとは思いますが言えないですね(笑)。
(笑)
キャサリン:残念なことに、我々は多くの優れた若者達を断らなくてはいけない状況います。ですから、とても難しいことだとは思います。ただ、たまに「どうやってここに入れたの?」みたいな子もいますけどね(笑)。
(会場笑)
キャサリン:まあでも自分が19歳の時を思い出すとそんなもんでしたけどね(笑)。次の方。
質問者:継続的な進歩と標準化に関する質問なのです。組織において、すでに確立されたルールがある中でも進展しつつ変化しなければいけない。これにはどう取り組むのでしょうか?
キャサリン:より世界が変化するのなら、より少ないルールで対処することですね。遅い変化の中では、ルールが多くても大丈夫ですが、早ければシンプルさを保たなければいけません。そしてルールは状況に応じて変化しなければいけません。
「Money Ball」をご存知でしょうか。あのルールは、ホームベースに戻る確率の高い選手を雇うということです。他のチームがそれをまねするまでは優れたルールでしたが、今はもう通じません。ルールの数と、環境には敏感でないといけません。
質問者:毎年考え直すというような……。
キャサリン:そうですね、ルールが意味をなしているかね。子育てもそうですが、シンプルルールは子供の成長にあわせて変えていく必要があります。
キャサリン:では次は逆のサイドから。
質問者:シンプルルールはトップダウンじゃないといけないのでしょうか?
キャサリン:ボトムアップもかなり有効です。5億程度の比較的小さな企業だと、ルールを熟知した個人を使ったボトムアップも有効です。
では次。
質問者:まさに複雑な企業の法律顧問をやっております。ビジネスユニットが、破滅の危機を見逃してしまっているということがよくあります。そのような状況についてどのように統合すべきでしょうか?
キャサリン:その状況になったことがあまりないのですが、例えば、ある企業はジョイントベンチャーをたくさんやっていて、予算に制限をかけていましたね……。自分ではどう考えてます?
質問者:ありますとも(笑)。最近26の店舗をオープンしたのですが、法務部はリースに制限をかけることを提言しました。しかしMBAはそれは無理という意見で、結果、いくつかの店舗は芳しくない状況です。これが毎日起こっています(笑)。
キャサリン:でもまだクビにはなってないですよね?(笑)
(会場笑)
キャサリン:次の方。
質問者:タイミングルールがあれば詰まらないといっていましたが、何か具体例はありますでしょうか?
キャサリン:たいていの行動には意味がありますね。たとえばエクササイズ。5時にエクササイズする。週2回エクササイズする。こうやると思い出せますし簡単です。シンプルルールが有効な理由としては、早くできて思い出しやすいというところにあります。
質問者:ありがとうございました。
キャサリン:いいえ。
質問者:Steve Blaneの止めるにあたってのルールに関してなのですが、企業だと、一度始めてしまうと止めるのは難しいと思います。ダメな決断をタイミングよく反転させるにはどうすればいいのでしょうか?
キャサリン:新事業開拓に成功したある企業のストッピングルールで、「2年で目標達成しなければ撤退」というものがありました。それによって社員皆がターゲットを理解していたのです。なので、もし失敗しても後腐れがなかったみたいですね。
質問者:外に出る前に社内で失敗するほうがましというのがありますよね。
キャサリン:Genentechという会社には臨床実験のストッピングルールがありますね。FDAルールもありますが。事前にルールができていれば皆、納得できますし、政治的な発展にもなりにくいですね。
他に何かありませんか?
質問者:人類の、制限されることなき、未だ続いている、化石燃料の燃焼についてはどんなシンプルルールが適応できるでしょうか?(笑)
キャサリン:うーん(笑)。それは複雑ですね。シンプルルールは特定の活動に適したものなので。かつて「the Glass-Steagall Act」という34ページに渡る法律がありましたね。3万4千ページにも及ぶこの法律は誰も理解できないので、つまりそれがポイントであり、法律家やロビイストを潤すためのものでした。
ルールの数は少ない方が役に立ちます。誰もが理解できるシンプルさだと、皆に有益です。
質問者:つまり85パーセントの化石燃料から100パーセントの再利用可能なものにかえるという賢明で有益な変化をするというくらいシンプルなものでしょうか?
(会場笑)
キャサリン:全員はそれに加担できませんし、私はそこまで大げさじゃないですけどね(笑)。とにかくご意見ありがとうございます。
キャサリン:そろそろ時間でしょうか? あと1人。
質問者:シンプルルールはすごいと思います。でも現実的なことを聞きたいのですが、例外とか、第2案とかも考えちゃいますし…
キャサリン:じゃあそれはシンプルルールを実践できていないですね。人が実践できてないということは、それはルール改正の時だということです。
質問者:実際にありますか?
キャサリン:はい。ルールが効かず、人が例外を多用しだすということは、そのルールはもう時代遅れなので新しいものを作りましょう。いいでしょうか? 皆さんありがとうございました。
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