2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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為末大氏(以下、為末):この本(『仕事に効く 教養としての世界史』)の中で僕が一番おもしろいなと思ったところが、活字が生まれて、活版印刷ですかね、歴史に残せるようになった時代から、英雄の行動が変わるというところがあるんですね。
つまり、自分たちの振る舞いが後世に伝えられるってわかってから、リーダーの振る舞いがちょっと倫理的になるという話が出てくるんですけど。
僕は今、インターネットの時代に、なんでも行動が(ネット上に)出ちゃうってなってから少し人の行動が変わってるんじゃないかという気がしてるんですね。つまり、全部パブリックになっちゃって、全部ポリティカルコレクトみたいな行動を取るような人が増えてるなという印象があるんですけど。
このあと残っていくんだということを意識しながら取る行動と、それがないところで取る行動の二面性がすごくある気がするんですけど。あの辺りの章の話がすごくおもしろかったので、それも伺ってもよろしいですか?
出口治明氏(以下、出口):これは簡単な話なんです、古代文明の中で四大文明とか言ってますが、インドは記録は残らないんですよ。何で残らないかと言えば、文字はあるんですよね。ところが、筆写材料の紙や粘土板がないので、貝葉と呼ばれるヤシの葉に書いていたんですよ。そのときはいいんですが、すぐに腐っちゃう。残らないんですよね。
誰もメモも録音もしなければ、みんなオフレコで好き勝手言うじゃないですか。でもテープに録られているとしたら、みんな気にしますよね。アホなことは言えないと。それと同じ現象だと思うんですけど。
中国のように文字が発達して、しかも紙も世界に先駆けて発達すると、必ずどこの世界でも記録魔や書きたい人がいますから、みんなが書き始めますよね。
そうすると、誰も書かない世界に比べて、いっぱい人が何かを書いているということを見たら、人間は普通はかっこよく書かれたいという気持ちがありますよね。同じ書かれるんだったら。それで行動が変わってくるというところは中国のものすごくおもしろいところですが、同じような現象が実はイスラム世界にもあるんですよね。アラブにも。
これはなぜかと言えば、中国から紙が入って、紙がイスラム世界でたくさん生産されたからです。そうするとみんな書きたくなりますよね。
書きたくなると、みんなだいたいお殿様のことを書いたり、男だったら綺麗なスターのことを書いたりするのが古今東西変わらないので。書かれる人が「いっぱい書いてる奴がいるな」と思えば、立ち居振る舞いを考えるようになりますよね。
為末:最初におっしゃったテープの話、気候変動の話はさっき控室で聞いたんですけど、花粉から想定するみたいですね。花粉がいつ花が開いたかで、この時期はだいたい何月ぐらいに開いてるから、寒冷期だったんじゃないか。そうすると、実はこの時期は飢饉だったから人が移動したんじゃないかというふうに想定するみたいなんですけれども。そっちのほうはある種動かない証拠ですよね。
もう一方で、書くという行為は必ず主観が入ると思うんですね。時代の権力者が書かせるというところもあると思うんですけど。角度をちゃんとつけて見るということをしないと(と思っていて)。
インターネットの世界って、書ける人が強い時代になっちゃってるなという気がしていて。ほとんどの情報が活字なんですね。まあ最近は動画と静止画も上がってますけど。
そういう意味で書く人が多いと思うんですけど、あまりにも書いてる人の情報そのままだと思うと、何か間違えるような気がしていて。歴史にちゃんとした事実はあるという一方で、人が書いた以上、必ず偏見が混じるというのもあるような気がするんです。
時代の文献を見ていて、てっきりこの情報しか残っていなかったからこうだと思っていたけどいろいろ調べてみたら、「何だこいつ、すごい偏って書いてたな」みたいなこともあったりしますか?
出口:もう、山ほどありますよね。その一番典型的な例がモンゴルだと思います。中国人にとってモンゴルというのは自分たちの国を取られたので、めちゃくちゃ書いてあるわけですよね。野蛮で、人をいっぱい殺して、文化には全く理解がない、と。
ところが、幸か不幸か、モンゴル帝国はユーラシア全部を仕切りましたよね。そうすると、ペルシャ語やトルコ語の文献が実は山ほど残っていて。今まで日本の学者は漢文の文献しか読んでなかったんですよ。ところが、トルコ語やペルシャ語を読んでいると、違った姿が見えてくるわけです。
今わかっていることは、例えば孔子の子孫はどんなメモを残しているかと言えば、モンゴルのときは良かったと書いてるんですよ。自分たちはいっぱいお金をもらえて、尊敬されて、ものすごい大事にされたと。
ところが明の時代になってから、給料は減らされて大事にされないので生活するのも苦しいとか書いてるんですね。
これはどういうことかと言えば、クビライという人はすごく賢かったので、最後に南宋を接収しますよね。中国の南半分をモンゴル帝国に併合しますと。そうすると、膨大な官僚が向こうにはいるわけです。
官僚って平均的に考えれば普通の人よりちょっと賢い人ですよね。文字も書けますから。賢い人を放っておいたらどうなるかと言えば、悪口を書くに決まってますよね。
それでクビライは財政を投じて大出版事業を始めるんですよ。中華文明はすばらしいから過去の遺産をどんどん残そう、と。そうすると官僚は、宋の国は滅んだわけですが仕事があれば飯は食えます。
しかも忙しいので、いっぱい本を作り始めるわけですよ。大字本、小字本とか言ってるんですが。要するに、そのときに初めて新書を作り始めるんです。新書と本と。
その新書はポケットに入るのでそれを日本の五山の僧などが持ち込んで来たので、日本の五山文化と言われている室町時代の文化のほとんどはモンゴルの出版事業のおかげなんですよね。
だから、事実はいろいろチェックしてみると、「野蛮な人々で文化を無視した」のではないという姿がわかってくると。
為末:どちらか片方だけの文献が残っている。だから、そんなふうになったと。
出口:両方読むようになって初めていろんなことがわかってくるという例ですよね。
為末:そうなってくると、今起きている出来事も、いろんな国の角度の新聞を読むとか、当たり前のことかもしれないですど、そういうのも大事かなと思います。
為末:もう1つ、聞くのを忘れてたんですけど、引っ張るリーダーシップと神輿に乗るリーダーシップみたいなのもある気がするんですね。
僕らの世代からすると、出口会長を初めて見たのって、マーク・ザッカーバーグの格好をして写真に載ってあったときがあったじゃないですか。あれが最初だったんですけど、すごいインパクトがあって(笑)。
若い方が企画してやられた話だと思うんですが、ああいうのは最初から乗っかるって決めてたんですか? それともどこかのタイミングで舵を切って乗っかったんですか?
出口:まず2つ質問があって。引っ張るリーダーシップか上に乗ったほうがいいかというのはよく議論になるんですけど、個人的にはあまり意味がない議論だと思っていて。
それはなぜかと言えば、例えば国や組織を作るときに、優秀な部下がいなければ引っ張るしかないですよね。でも、優秀な部下がいっぱいいたら乗ってたほうが楽ですよね。だから、どちらがいいというのではなくて、状況による気がします。
歴史上の人物を見ていたら、この使い分けがよくできている人はすごい大帝国を作りますよね。自分が引っ張るときは引っ張るけれど、どんどん優秀な部下ができてきて、これは乗っておいたほうが楽だと思うとひたすら乗るようになる。
為末:そのときに優秀かどうかを見分けるのは難しいなと思うんですけど……。
出口:成果でしょうね。例えば中国なら、戦争をやらせてみたらものすごい強いとか、小さい国を治めたらものすごい立派に治めると。そういう部下がいたら、これは任せたほうが楽だなと思うというところがすごい大事で。
だから、ある意味ではダーウィンの進化論と同じで、賢い人や強い人が生き残るのではないよね、と。状況は常に変わっていくんだから、適応が全てだと。僕はこれ、真理だと思うんですけど。
だからリーダーシップも、例えば会社を立ち上げるときで頼りになる人がいないとか、自分が一番よく知っているときは突っ走るしかないけれど、あとから優秀な人が入ってきたら「これは任せたほうが楽だ」と、その切り替えができること、変化に対応できることがやっぱり一番大事だと思います。
出口:ザッカーバーグの真似は、一番最初はハトなんですよね。多摩川の河原に行って、お皿に僕が1千万、2千万、3千万と書いて、ハトが豆を食べたらその場で保険に入るという企画を20代の社員が僕のところに持ってきたので、僕は激怒したんですよね。「ライフネットのマニフェストもう1回読んでこい」と。
(会場笑)
「保険会社がこんなふざけたことを言ってお客さん喜ぶと思うか、アホ」とか言ったら、その20代の部下は「アホは出口さんですよ」と。「そんな頭が固いことをしてるからあかんのです」と。
「お客さんは全部20代30代で、ハトに豆をやってる出口さんを見たらこの会社はおもしろいと思って好感度が増えます。だいたい60代の人間に20代の感覚がわかると思うほうが間違ってる」と反駁されたので……。一応ロジック通ってるじゃないですか。
(会場笑)
「じゃあ、やってみよう」と。やってみてあかんなら激怒しようと思ったんですが、結果的には彼の言った通りなんですよね。ものすごくネットでバズったんですが、悪口がほとんどなかったんですよ。それ以降は部下には厳命していて、事前の説明厳禁にしてるんですよ。
(会場笑)
言った通り僕はやる。あとは成果だけで評価する、と。なぜかと言えば、事前に聞けば僕は60代なので必ず激怒するわけですよね。同じ問答を繰り返すのは無駄なので、事前説明は厳禁する。僕は部下に言われた通りやる。あとは成果が悪かったら怒る、と。その単純なルールだけですね。
為末:でもそこの判断って結構難しい気がするんですよね。拘っちゃいそうな気が。でもそれは成果が出たっていうので。
出口:最初にやってみて成果が出て、部下の言うことが正しかったので、まあ、仕方ないなと。それと、60代がやっぱり20代30代の感覚がわからないというのはよくわかるじゃないですか。
為末:スポーツの現場だと、それでも踏み込んでくる70代くらいの人は多いんですけど(笑)。その辺の違いって何なんでしょうかね? 歴史を知っているかどうか?
出口:70代の人間に20代30代のことがわかると考えるのがやっぱり傲慢でしょうね。
為末:そういうことを思ってないんですかね、あの人たちは、って言ったらあれだけど(笑)。
出口:ちょっと本を読んだり、いろんな勉強をしたら、やっぱり世代間でわからないことはあるというのは多数派ですよね。ほとんどの学者もそう言ってます。そうすると、例外はあると思いますが、普通の60代の人に普通の20代30代のことはわからないというのはたぶんファクトだと思うので。それを認識するかどうかだけの問題でしょうね。
為末:もう1つ。宗教が何で生まれたかというのを説明されていたところがあったと思うんですけど。僕はスポーツを引退して、今ちょっとだけ会社をやって。数人くらいの社員なんですけどね。それでもやっていていつも迷うのが、どこまで押し付けていいのか。さっきの話にも近いかもしれないですけど。
すごいベンチャーでグーッといく会社というのは外から見てるとちょっとカルト的というか、「そんなにみんな1つの価値観で染まっていいの?」と思えるのもあるんですけど、でも「そんな組織って強いな」というのも一方であって。ある種の全体主義的な空気がそこにはあって。
「絶対みんなこれを信じてるよね」という何かフラッグが立っていて、それにみんな猛進している組織って強いなって思う一方で、そうじゃないことを言うような経営者の方もいて。「いや、個々人が考えるのが大事だ」と言う人もいたりして。
こういうのって歴史上どちらが強い……短期的にはどちらが強くて、長期的にはどちらが強いというのもある気がするんですけど。
出口:おっしゃる通りでしょうね。戦後の日本はやっぱり開発独裁というかキャッチアップで、アメリカに追いつけ追い越せでみんながやってきたので。スパンの取り方にもよりますけど、何かをゼロから立ち上げるときには黙って同じことをやるほうが効果が高いというのはたぶんファクトでしょうね。
ただ、それ以降は、いろんな人を使ったほうが得なので、いろんなことを言う人がいたほうが安全で強い。これ動物の世界でもそうですよね。
2・6・2の原則ってありますよね。2割は一生懸命やり、6割はまあまあで、2割は適当にサボっていると。これ、動物学の世界では今、サボっている2割は何か変なことが起こったときに、遊んでいる人がいないと群れが死んでしまうという説が結構強いんですよね。
だから、あえて生存のために遊軍というか、違う価値観を持った人を残しておくんですよね。みんなが宗教みたいになってしまって、「あっちへ行くんだよね?」「はい、みんなそうです」と言って黙ってついていくときは、想像できない変化が起こったときにはみんなが死んじゃうかもしれませんよね。
さっき例のモンゴル帝国や大唐世界帝国のように、長続きして、ものすごく高度な文明を作った大帝国というのはだいたい寛容でダイバーシティを大事にしていますね。
為末:国が興って大きくなるタイミングでダイバーシティを大事にすることが、意地悪に言うと、理念重視型の会社だったりするとダイバーシティと理念に外れているということが非常に危うい所にあるんじゃないかという気がするんですけど。それってどう思われます?
立ち上がるときは、ある種狂信的に。でもそこからバトンタッチもなかなか難しいなと思うんですけど。
出口:最低限、何がやりたいかとかどこへ行きたいかというのは一致していないと無理ですよね。「北極へ行こうぜ」と言ってる中で、実はそのメンバーが「俺は南極や」とか言ってたら、これはしんどいですよね。だから、北極へ行こうということについては……。
為末:合意しておくと。
出口:はい。それが理念とか。そこは大事でしょうね。でも、行き方は本当に行ってみないとわかりませんよね。雪崩が起きるかもしれないし。そうすると、いろんな人がメンバーの中にいたほうが北極へみなで無事に到達できる可能性は高いかもしれませんね。
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