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『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術(全5記事)

強欲はビジネスの原動力--小説家・真山仁氏が語るグローバルルール

グロービスの経営理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を継続的に提供することを目的として、グロービスのMBAプログラムの学生・卒業生、講師、政治家、経営者、学者、メディアなどを招待して開催されるカンファレンス「あすか会議2015」に、小説家・真山仁氏、プロノバ・岡島悦子氏が登壇。「ルールをつくるか、ルールに使われるか〜『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術〜」をテーマに、2004年の刊行以来、経済小説の金字塔として多くのファンを持つ『ハゲタカ』シリーズをケーススタディとして、ビジネスの世界で勝者になるための考え方や交渉術について語り合いました。

『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術

岡島悦子氏(以下、岡島):最初にうかがってみたいと思うんですが、『ハゲタカ』(シリーズ)ファンであるという方はどれぐらいいますか?

(会場の過半数が挙手)

岡島:いやぁ、すごいですねぇ。『グリード』を読んだという方、どれぐらいいますか?

(会場の少数が挙手)

真山仁氏(以下、真山):まだまだ商売の余地ありますね。

岡島:私、Facebookで「読んでこい」って告知しましたよね? 

真山:今日お買い上げください。

岡島:この後、他の告知もまだありますが、入口でパンフレットももらったんじゃないかと思いますので、そのこともふまえながらいきたいと思います。真山さん、よろしくお願いいたします!

真山:よろしくお願いします。

岡島:このセッションは「ルールを作るか、ルールに使われるか」という設定で、“『ハゲタカ』に学ぶ経営と交渉術”というテーマにしました。文庫本の帯のところに「強欲は善 強欲は神」と書いていただいてですね。

真山:さすがにこの文言は抵抗したんですけど、(出版元の)講談社が「これがいい」というので。グロービスにはピッタリかも知れないですけどね。

岡島:なかなかキャッチーな帯になっているわけなんですけども。このセッションでは特にリーダーシップ(について)。もちろん『グリード』や『ハゲタカ』の素材も使わせていただくんですが、あすか会議ということで、「こんなことをちょっと皆さんと話してみたいな」「真山さんにうかがっていってみたいな」と思っています。

経営の実行力を高めるために必要なこと

グロービスをはじめビジネススクールでは、縦軸を「ハード」「ソフト」、横軸を「ブライトサイド」「ダークサイド」とします。

私たちはこの「ブライトサイド」のことを学校で教えているケースが多いわけですね。

私もリーダーシップのクラスを担当していますが、この「ハード」「ソフト」、「ブライトサイト」、つまりフレームワークやコミュニケーション能力といったところをお教えしています。

一方、本業では年間200人ぐらいの経営者のリーダーシップ開発をやってるんですけれども、みなさんがよくご存知の経営者たちです。これで実績出していこうとすると左側(ブライトサイド)だけだと両輪がひとつって感じで(心もとない)。(なので)右側にある「ダークサイド」、いわゆるガバナンス取っていくとか、権力を押さえていくとか。

真山:ダークサイド、得意です!(笑)

岡島:あるいは今日一番うかがいたい「ダークサイド」のソフト部分にある欲、人の原動力とか、ドロドロっとした人間の機微みたいなところを押さえていかないと、なかなか実行できない、抵抗される、最後に落とされるみたいなことがあるので。今日、真山さんには、ぜひ「ダークサイドのリーダーシップ」を聞いていきたいなと思っています。

Greed=強欲のとらえ方

岡島:まず最初に、真山さんにはこの「ダークサイド」にある「欲」ってところから開いていければと。まさに(文庫本の)タイトルが『グリード』、強欲ってことなんですが、真山さんはこの本をお書きになっていて、人間の欲望とか原動力とかをどのように考えていらっしゃいますか?

真山:日本の道徳観は非常に厳しいので、欲望をむき出しにすることに対して否定的です。だから、学校で学ぶ場合はどうしても「ブライトサイド」、頭で考えるほう(に向かいがち)です。

しかし、仕事のパートナーを選ぶときに「嫌いな人と組むか、好きな人と組むか」「優秀な人と組むか、そこそこの人と組むか」といった感情をミックスすると、「そこそこでもいいから好きな人と組みたい」って(結論に)なりますが、(これがいわゆる)「ダークサイド」なんですね。そこを胸に秘めながら、欲望をどうコントロールするか。

アメリカの場合は多民族国家であり、(周囲に)他宗教(の人間)がいて、いろんな価値観が身近に混在しているから、毎日葛藤がある。

特にウォール街はよく「ジャングル」と比喩されてますけど、とにかく気を張って前に出ていく人しか、なかなか生き残れないところがあります。本来“グリード”つまり「強欲」は「7つの大罪」のひとつで、キリスト教ではこれを戒めています。

しかし、有名な映画『ウォール街』でマイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーは「Greed Is Good」と言っています。

『グリード』の取材でニューヨークに行ったのは、リーマンショックから3年経った2011年でしたが、ニューヨークに発って、40人くらいに「いまはやっぱり『Greed Is Bad』だと思うでしょう?」と聞いたんですけど、全員が「何を言ってるんだ?」と言わんばかりの反応でした。

岡島:回答したのはほとんどがアメリカ人ですか?

真山:日本人もいましたが、中でもアメリカナイズされた人はそう言いますね。

岡島:そうすると、グローバルルールでは、「Greed Is Good」「And God」なんですかね?

真山:「God」なのかどうかは私には答えようがないのですが。だた、よくよく聞いていると、原動力・モチベーションとしての「Greed」、なりふり構わず頑張るという意味の「Greed」が該当するようです。

修羅場でしか人は育たない

真山:簡単にいうと、「綺麗事を言わずに結果を出しましょう」と。日本の場合、ビジネスによく善悪が出てきます。相手を「悪だ」と罵るのはたいがい負けた人で、勝った人は道徳も善悪も出さない。

よくあることですけど、一度痛い目に遭って、「いつか見返してやりたい」っていう恨みの感情ほど、原動力として強いものはないんですね。

日本ではそういうことを教えませんけど、そこを忘れてビジネスをするとおそらく痛い目に遭うんじゃないかと思います。

ビジネスをしたことのない私の言うことではないのですが、俯瞰して外から見ている立場からすると、グロービスには失礼ですけど、頭で考えることより(スクリーンの表の)右に書かれた「ダークサイド」を身に染みて経験したほうがよいと思います。でなければ、ここで身につけた学が空論になるでしょうね。

岡島:よく私たちも、「修羅場でしか人は育たない」みたいなことを言っておりまして。もちろん「フェアなゲームはしないといけない」と思う一方で、「何とかして成果を出すためには必要悪みたいなものもきっとあるんだろうな」とは思うんですけど。

日米で異なる善悪の概念

真山:アメリカ人ってもうちょっと上手なんですよ。彼らに「必要悪」はいらないんです。自分たちがつくったルールのもとで動いていますから、「実はそれって反則じゃないの」というようなことも、ルールに織り込み済みだったりします。

岡島:日本人って公序良俗みたいなことを持ち出しがちですよね。

真山:そうですね。一番わかりやすくいうと、法律の概念がぜんぜん違っていて。

アメリカって殺人を犯したときに、人としてどうこうということをあまり前面に出さないんですよ。殺人としてのすべての証拠が揃っているから有罪(となる)。

日本の場合は、逮捕されたときから「ヒドいやつだから死刑になればいい」というような感情から入る。つまり、もともと何かトラブルが起きてもコミュニティのなかで解決していたことが、価値観が多様化したり、社会が複雑になってきたことによって、いろんな衝突があった末にルールを決めなきゃいけなくなったわけです。

その取り決めとして法律があるのですが、日本の場合はちょっと「掟」に近いんです。日本って法治国家なんですけど、よくよく見てると、底にあるのは(感情なんです)。

一方、アメリカはビジネスも含めて法律ルールが厳然と存在していて、それに違反しているか違反してないかこそが大事とされる。

逆にそれ以外はあんまり問題にならないという意識を、特にグローバルで仕事する人が持っているという点で、日本人にとっては違和感が強いと思います。

岡島:まさに「多民族国家」「多様性」といったなかで、「法律に書かれていなければ、それはOK」という読み替えがなされるということですかね?

真山:そうですね。『ハゲタカ』を書く時に外資系の人たちに取材しましたが「外資系の人間は、入社するとまず日本の法律を徹底的に勉強する。商習慣というのは法律じゃないから」と言われました。

岡島:暗黙知の部分を何となく掘られていってしまう感じですかね?

真山:そうですね。

日本のビジネス界の戦い方

岡島:そして、この『ハゲタカ』の(主人公の)鷲津政彦っていう人はグローバルアリーナ(を股にかけていますよね)。

ここにいらっしゃる皆さんもグローバルなビジネス界でどんどん活躍されるんだと思いますけども、そういう意味ではもう日本の内々のルール、あるいは暗黙知というか今(真山さんが)申し上げていた公序良俗で戦っていく感じじゃなくなってくると思います。この鷲津の視点を通じて、ここにいるみんなが学べることってどんなことだと思われますか?

真山:どうすれば鷲津の目になるかってことですか?

岡島:そうですね。

真山:(ここにいる人にとっては)「えっ?」っていう答えかもしれませんが、海外で暮らすのが一番いいです。ただし、日本でビジネスマンとして最低限のルールとスキルを身につけてから行ったほうがいいと思います。そうしないと、(日本との)差異がわからない。

最近多いのは、海外に飛び出していって、外国で評価された学生が、日本に帰ってくるとその経験が通用しなくて戸惑ってしまうということです。日本のルールがわかんないんですよ。

岡島:ある意味、逆に第2市民みたいになってしまう。

真山:そうです。違いを見るためには、それなりに日本で結果を出してから(海外に)行かれたほうがいいんです。

ただ、私などは海外の小説をたくさん読んで「アメリカ人ってこういうふうに考えているのか」「イギリス人は、だからアメリカ人が嫌いなんだな」(と学びました)。だから、自分で一生懸命ものを見る目を磨こうとすればいいのであって、決して留学必須というわけではないです。もうひとつ重要なことがあるんですが、自分の仕事の主舞台が本当にグローバル、海外にあるのかどうかを考えてみることです。

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