2024.12.03
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角勝氏(以下、角):ここからは、「アジアの財閥、大企業発のイノベーションスケール事例から学ぶ」ということで、蛯原さんにいろいろお聞きしていきます。せっかくシンガポールから参加されているので、アジアの財閥や大企業の新規事業の事例などをお聞きできたらと思います。
蛯原健氏(以下、蛯原):アジアの大企業はほぼいわゆる財閥、つまりはファミリービジネスです。いまだにオーナーが君臨していて、オーナーが実質トップという企業が多い。
新規事業は息子さんや娘さんなどの二代目がやっていて、だいたい30代から40代前半ぐらいです。企業年齢自体がまだ若いので、その人たち(二代目)が「デジタル」「スタートアップ」「イノベーション」と言ってやっています。大なり小なりスタートアップ投資やコーポレートベンチャーキャピタルみたいなものをファンクションとして持っていますね。
例えばリテール(小売業)でスーパーマーケットをやっていたら、Eコマースを新規で作ったり、やっている会社に出資したり、買収するみたいなことをやっていますし、いわゆるDXっぽいものはそういったかたちでほぼ全方位でやっている。
例えば食品をやっていれば、フードテックの会社に投資をしたり、フードテックに新たに取り組んだりといったことをアジアの財閥はバンバンやっていますね。
角:ちなみに、日本でもだいたい二代目が第二創業的に新しいことをやることがあると思いますが、うまくいかなかったり、社員が言うことを聞いてくれなかったりといったこともあると思うんです。アジアの財閥はそこはトップダウンでガーっとやってしまう感じですか?
蛯原:そうですね。1つは企業年齢があると思います。企業年齢が若ければ、ファミリー度合い、ファミリーカルチャーが強い。それこそ豊田伊吉さんがいて、二代目の豊田佐吉(トヨタグループの創始者)さんが思いっきりフルピボットして織物から自動車に行くわけじゃないですか。そういったことは、企業年齢が若ければできますよね。
しかし、三代目、四代目になったり、オーナーシップがだんだん薄れてくると、だんだん大企業化していくことはあると思うんです。アジアは日本の大企業に比べたら、2~3世代は若いので。下手をしたらインドなどでは、創業者自身がまだまだ現役でバリバリやっている会社も多いです。
角:なるほど。
村上臣氏(以下、村上):やはり、年齢の違いはあると思いますね。日本は60代、70代の社長が多くて、日本の上場企業の社長の平均年齢は確か60歳か61歳ぐらいだと思うので、子どもといっても40代とかじゃないですか。向こうはそこから10〜20歳若いので、30代が二代目とかで、めちゃめちゃ活きがいいというか。かつ、子ども(の数)も多かったりするので。
蛯原:そうですね。確か日本は、未上場を含めると、社長の平均年齢は70を超えていたと思いますね。
角:ええ!?
村上:そうですね。未上場のほうがファミリービジネスが多いですから。
蛯原:ええ。例えばインドネシアだとLippoというワン・オブ・ザ・最大財閥があって、そこの息子さんは中核上場会社のCEOになりましたが、三十何歳ですよ。日本で言うと、三菱なんとか、三井なんとかの中核会社の社長になるみたいな感じですよね。
村上:そうですよね。
角:おお、すごいな。それだけ若かったらけっこう怖いもの知らずで、いろんなことができますものね。
蛯原:帝王学じゃないですけど、アメリカかイギリスのアイビーリーグないし、そういう大学を出て、グローバルにオープンアイして、テクノロジーや経営についてだいぶ習熟して、最初はグループ内のどこかで修行して、トップに抜擢するのが普通ですね。
角:だから社長の年齢と企業の年齢にだいぶ左右されるんだな。
蛯原:そうですね。
蛯原:ただ僕がこの質問でより参考にすべきは、人口動態や歴史、発展度合いが(日本とは)だいぶ逆な新興国より、アジアに出てきているヨーロッパの会社から学んだほうがいいと思うんですよね。
アメリカは唯一無二なので真似ようと思ってもなかなか簡単じゃないけど、GDPがまだ曲がりなりにも日本のほうが大きいドイツやフランス、イギリスなどの大企業が、けっこうがんばっているんですね。
特にドイツはがんばっています。ボッシュとかSAPとかシーメンスなどの会社は、インドやインドネシアでオープンイノベーションをバンバンやっているんですよね。
角:へえ。
蛯原:そこのリソースの割き方はかなり大胆にやっている。重要なことは、やはり事業部門とオープンイノベーション部門が伴走しないとダメです。
現業部門がなくて、オープンイノベーションやR&D部門だけで突っ走っても、新規事業や本業になりづらいじゃないですか。はっきり言ってほとんどの場合ならないと思うんですけど、それを彼らの場合は真横でやっているんですよね。
例えばボッシュであれば、何千人もいるインドの製造拠点に、スタートアップセンターみたいなのを作って、一緒に製品の共同開発をしています。そういうきめ細かいこともやったりしているので、日本企業さんも学ぶところがあるんじゃないかと思います。
角:なるほど。オープンイノベーションの部門がいろいろ探してきて、それを実装する時に、ハンドオーバー(受け渡し)がうまくいくように有機的結合みたいなものが必要だということですよね。
蛯原:そうですね。対面で会えず、時差が3時間半ある東京にいます、みたいなのだとやはりしんどい。インドネシアで仕事をするんだったらジャカルタに本業・現業部門がいないと。
角:なるほどね。
蛯原:インドでやるならバンガロールにそれがいるのが本来あるべき姿です。例えばその人たちがスタートアップにメンタリングする時には、本業部門の技術部長がちゃんと出るとか、そういうことが望ましいと思います。そういうのをけっこうヨーロッパの大企業はちゃんとやっていたりしますね。
角:これはご覧になっている視聴者のみなさんに、めちゃくちゃ参考になるお話だったと思います。ありがとうございます。
角:日本の企業がそれをやるとすると、オープンイノベーション部門と現業部門の両方が、シンガポールや東南アジアの国などに出ていってやるようになると。
例えば今、日本からシリコンバレーに駐在に行っている方もおられるじゃないですか。そういうところだと、オープンイノベーション部門みたいなミッションを帯びた部門しか行っていないけど、現業の人たちも一緒に行くみたいな格好になるんでしょうか?
蛯原:本来であればそうあるべきだと思います。釈迦に説法ですけど、もちろん組織によってオープンイノベーションの手法は違います。必ずしも1個しかアプローチがないわけではないと思うんですけど、一般論からすると、ほとんどの大企業さんのオープンイノベーションや新規事業開発は、「飛び地はやりません。シナジーです」と100回ぐらいおっしゃるじゃないですか。
角:はいはい(笑)。
蛯原:ということは、現業の人たちを説得して、彼らのルーティンに落とし込まない限りは何も起きないんですよね。最初からそういう人たちが近いところで協業をしないとダメですね。
角:なるほど、難しいな。
蛯原:例えば会社としてある新素材が欲しいとする。そこで新規事業開発部門の方が「良さそうな素材があります」と言って、どこかのスタートアップから調達してくるんだけど、本業の人たちが「これがダメだ」「あれがダメだ」と言って見向きもしなかったら何も起きないじゃないじゃないですか。
こういうことが起きないように、最初から現業部門を巻き込むことです。
角:その人たちを評論家にしてはダメみたいなことかな?
蛯原:そうですね。最初から巻き込むことだと思いますね。
角:最初から巻き込むと自分ごとになって、自分も一緒に探すマインドになるということですかね?
蛯原:そうですし、出会った瞬間から、「いいところも悪いところもあるけど、いっちょ賭けてみようじゃないか」という気にさせることだと思うんですね。
角:なるほどなるほど。めちゃくちゃ本質だと思いました。大変おもしろい、リアルな話をいただきありがとうございます。
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