2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小早川幸一郎氏(以下、小早川):ここまで日本の魅力や良いところ、好きなところをお話しいただきました。この流れで「もっとこうしたらいいんじゃないか」「せっかく良いものを持っているのに」って思うところを、お二人にお聞きしたいです。そのままハンナさんよろしいですか?
カン・ハンナ氏(以下、ハンナ):そうですね、私自身がコンテンツを研究する人であり、コンテンツに出る人でもあり、なかなか言いづらいことがいっぱいあるんですけれども(笑)。
ただ、今の日本に対して「もっとこうすればいいのにな」と思うところは、やはりちょっと遠慮したり、失敗を恐れたりしているところだとはすごく思います。韓国で生まれて韓国で大学を出て、韓国で活動していた私としては、日本がすごく好きで今日本にずっといるんですけれども。
韓国人の特徴って、失敗を怖がらないんですね。たぶん感じていただいていると思うんですけれども、とにかく海外にいっぱい出ています。韓国人は失敗をすることに対する恐れが少ないほうだと思っているのですが、反対に日本の方々は慎重だという感覚です。やっぱりある程度結果の予測がつかないと行動を起こさないところがあります。
もちろん、それは今までの日本が作ってきたとてもすばらしいところではありますが、やはりスピード感が落ちてくる。もっとスピードが出て、とにかく失敗を重ねて、そこから形になっていくやり方のほうが、おそらく今のデジタル社会には合っている部分があります。
たくさんの方々に少し勇気を持っていただいて、いろいろな失敗や気づきを作れる社会になれたらな、とすごく思います。失敗に拍手を送れる環境があれば、日本はいろんな世界と向き合ったり「私も行ってみようかな」という勇気が出たりすると思うんですよね。
小さな成功事例が自信になってそこを真似する方々も増えてくるので、そういう社会を作るために、いろんな小さな成功事例が生まれるような環境が作られたらな、っていうのはすごく思うところですね。
小早川:偶然か必然か、どっちもだと思うんですけど、ハンナさんの本の中でもあったように、日本が成功してあぐらをかいている間に韓国がチャンスをものにしてきていますよね。
ハンナ:そうですね。私自身が韓国のエンタメで活動していた時ですけれども、そこがすごくおもしろくてですね。
例えば、K-POPのアイドルが生まれました。まだ韓国でもぜんぜん売れてないですけど、とにかく南米だったら今チャンスかもよ、と言って南米に連れ出すんですよ。誰も知り合いがいない南米の舞台に立たせるんですね。それで反響を見て「いや、意外と入ってくるじゃん」という感じの経験をさせるんです。
私自身も今ブランドをやっていまして、自分のブランドもそういう気持ちを持ちたいなってすごく思うんですね。慎重(過ぎる)よりは、とにかくいろんな経験を重ねてそこにまた気づきがあることもあるので。
すべて整えた上でやりましょうとなると、時間もかかりますし、むしろリスクも大きい。まだ売れていない時のアイドルのほうがリスクが少ないかもしれない。そこをもっと楽しく経験を増やしていくような環境作りができたらいいなと思います。
小早川:ベンジャミンさんはクールジャパン・プロデューサーとして、政府にそういう提言をされている立場です。そこで「もっとこうしたら良い」っていう話をされていることとか、みなさまに話したいことってたくさんあると思うんですけど、お話しいただいていいですか?
ベンジャミン・ボアズ氏(以下、ベンジャミン):いや、ハンナ先生がおっしゃったことに追加する言葉がないぐらい、ちょっと唖然としています。やはり失敗を恐れてはいけないですね。
コンテンツ・ボーダーレスの時代では、本当に何がどこでどういうふうに成功するか、発信する前には誰もわかりません。私はNetflix本社の最初の在日社員として長年勤めましたが、先ほど(ハンナさんが)『深夜食堂』と『孤独のグルメ』が好きだとおっしゃっていて本当にうれしかった。
自分もそのシリーズに関してちょっと仕事をしましたけれども。そのシリーズが成功して、Netflixオリジナルの『深夜食堂』の新しいシリーズも出ました。それも運が良く成功して、続いてNetflixの100パーセントオリジナルの『野武士のグルメ』も配信しました。有名な俳優さんが出ていておもしろくて、いろんなおいしそうな日本料理が扱われるドラマです。
Netflixがそのライツの100パーセントの所有者だったので、何もボーダーがなく絶対に成功するというように思われました。しかし、あまりうまくいかなかったと言われました。だからといって、そういうやり方が間違っているっていうことじゃないんです。むしろ、やり方は正しいと思います。でも、絶対な成功はありません。
ベンジャミン:よく日本国内の市場では、まるで予定調和のように「これを成功させましょう」と号令がかかるトップダウン・プロダクトアウトのやり方でやっています。結果がオーケーだったら、それはまったく問題ないんです。
でも、だからっていって国外で同じことができるとは限らないですし、むしろ失敗するんじゃないかと思います。本物の失敗とは「発信して絶対にこうなる」と思って出して、そうならないこと。良い失敗とは「うん、まぁうまくいくんじゃないかな」と思って出して、うまくいかなかったけれども、次々出すことで成功は時間の問題だけになるんです。
それはNetflixのやり方で、グローバルのコンテンツ・ボーダーレスの時代のやり方だと思いますが。何をやるべきかを1つだけに絞ると、国際人材を育て、国際的な市場をよく知っているリーダーを作って委ねることです。
私は最近知りましたが、この業界で有名な韓国人のミッキー・リーっていう方がいらっしゃいますね。そのミッキー・リーが、『パラサイト』を含めたいろんなコンテンツの成功の黒幕みたいな、強い力を持っているとのことです。
背景を調べてみると、ミッキー・リーはアメリカ生まれアメリカ育ちで、アメリカとのつながりがものすごく強いんです。先ほどのクールジャパン機構の「(日本は韓国に)ボロ負けしている」という話の裏には、おそらく『パラサイト』がアカデミー賞を獲ったのに日本は獲っていないっていう嫉妬があるんじゃないかと思うんだけれども。
そもそも同じようなコネがある日本人は少ないですし、国際的な日本人だってどっちかっていうと劣等的な立場だという話はよく耳にします。ちょっと残酷な言い方ですけれども、当たり前のことかもしれません。
ハーフや帰国子女など、国際的な家族の中で育っていた日本人だって、プレッシャーを受けて多くの日本人に染まると同じ扱いになっていて。このように国際的なバックグラウンドを持つ人々が、日本の文化に完全には馴染めないという経験を通じて、「良い失敗」をしたことで、成功に必要な視点が身についているのではないでしょうか。
このような国際市場に向ける人に対しては、むしろ成功が当たり前のような人材ですので、韓国はそういう人たちを活かしています。そして、日本のファンであり日本語がペラペラな私のような外国人材もいますので、ぜひご活用ください(笑)。
小早川:はい、ありがとうございます。最後の質問になるんですけど、ベンジャミンさん、ハンナさんの順でお話しいただきたいです。
日本のPRで「いろいろ言ったけど、これはうまくいってると思うよ」というお話と、日本のPRへのアドバイスもいただけたらと思います。ベンジャミンさん、よろしいですか?
ベンジャミン:わかりました。このトークで政府を批判しているばっかりではちょっといけないと思いますので、良い例も紹介しようと思います。
みなさま、「ようこそ」という言葉はご存じですか? みんな知っていますね。じゃあ、英語の「Endless Discovery.」はわかりますか? わかるんだけれども、ちょっとわからないということで。これはこれは日本政府観光局(JNTO)が作った国際観光のキャッチフレーズで、日本人向けではないのでわからなくても大丈夫です。
確か2004年頃の初めてのスローガンが「ようこそ! ジャパン」だったんです。日本人なら誰でも理解できる「ようこそ! ジャパン」。その数年後、確か2010年あたりで変わりまして、「Japan. Endless Discovery.」とちょっと難しい英語が出てきました。
日本人にとっては難しいかもしれませんけれども、逆に英語が母国語の方や多くのインバウンドにとっては、わかりやすいだけじゃなくて本当に日本っぽい意味です。「Endless Discovery.」とは、無限の探検。日本に行くと自分なりの何かが待っているように思わせるキャッチフレーズになっていて、すばらしいんです。
それに対してもともとの「ようこそ! ジャパン」は、「ようこそ」っていう日本語が含まれていたのであまり効果はなかったんです。日本語がわからないインバウンドの方がほとんどですので、「ようこそ! ジャパン」と言われても何を話されているかわからないんです。
このように政府は正しく外国人向けの、外の観点にあわせた日本っぽいスローガンを作ることができましたので、それに沿っていろいろな活動が見れればうれしいなと私は思います。
ベンジャミン:難しいんですけれどもね。やはり日本のいろんな要素があるので、「これは見てほしい」「せっかくの日本なのでこれも知ってほしい」と自分も思うんですが。
所詮、人間っていう動物は「これに興味を持ちなさい」と言われても、それが興味を持つ機会になっている人は誰もいません。みんな自ら旅をして、自ら何かを感じて、そして自らそういう関心が湧いていて深堀りするパターンですので。(たくさんの人が)日本に行けるようにいっぱい歓迎して、待って、行きたい所を聞いて、行かせてあげられればいいと思います。
小早川:ありがとうございます。じゃあハンナさん、お願いします。
ハンナ:日本のPRが成功しているものはたくさんありますが、時間が限られていると思いますので、簡単に日本のPRへのアドバイスまでのお話をさせていただければと思います。
私がこの『コンテンツ・ボーダーレス』の中に書かせていただいた内容でもあります。「ぜひ、日本のコンテンツは、日本の文化はHERMES(エルメス)になってください」っていう表現をしています。
私は日本の文化、日本のコンテンツにはエルメスぐらいの価値があると思っています。エルメスっていうブランドは、別にたくさんの物を出しているわけではありません。本当に極めて、本当にこれが良いって思うものを出す。だからこそ、やっぱりみんなが待つ。
だから、日本が韓国コンテンツやアメリカのコンテンツを真似する必要はないかもしれないとも思うんですね。まったく同じことをやる必要はなくって、日本の中で日本らしさを考えることからぜひスタートしたいなと思うんです。
ハンナ:私自身が日本に来て出会ったすごく好きなものが、「そうだ 京都、行こう。」っていうポスターです。最初は立ち止まってその映像を見て、私が知らない京都の景色だったんですね。「ここはどこだろう? ちょっと待って、神秘的すぎ」って思って、毎年毎年「そうだ 京都、行こう。」をずっと見ています。
それが本になっていて。今までの「そうだ 京都、行こう。」の歴史が本になった写真集みたいなものも購入して、本当に好きなんですね。祇園とか清水寺ではないシーンがすごく出ていて、一般的な日本人でも知らない場所が写っています。私は、これこそ日本の1つの道なんじゃないかってすごく思う時があるんですね。
誰もが知ることじゃなくて、世界のいろんな人たちが足を止めるぐらいの本当に美しい景色や風景とか、いろんなメッセージだっていっぱいあるんですよね。もともと今の日本にあることを世界により発信していくだけでも、私はすごく可能性があると思っています。
実は自分ができるんだったら、個人的に「そうだ 京都、行こう。」のポスターぜんぶの展示会を世界でやりたいぐらいの気持ちになっているぐらい、大ファンなんです(笑)。
「HERMES(エルメス)になってください」と書いたこの気持ちは、私が日本に期待していることなので。もちろん、いろんなやり方があるとは思いますけれども、日本の奥ゆかしさ、それから先ほどお話しさせていただいた余白の美しさ、加えて私は日本の方々の思いもすごく好きです。
とにかくすばらしい方々が多いんです。これが1秒の映像でもいい、1枚の写真でもいい、たった一瞬で世界に広げられるデジタル時代ですので、そのような一歩一歩をずっと続けられたらなと思います。なので、ぜひ自信を持っていただきたいと。日本が悪いことではぜんぜんなくて、ボロ負けもしていないんです。
本の表紙に書かせていただいた「最もあなたらしいことが最もグローバルになる」は、世界のすべての人々へのメッセージでもありますので、ぜひそうしていただきたいなと思います。
小早川:ありがとうございました。早いものでもう1時間経ったんですけど、最後にみなさまからのご質問を少し受けたいなと思います。何かお二人に聞きたいことがありましたら。
質問者1:本日はありがとうございました。海外との比較で、日本の良さなどをあらためて発見できてよかったです。お二人には、ここ2、3年で日本のコンテンツですごく好きになったものと、それをご自身だったらどうやって世界に広げていくかをおうかがいできればと思います。難しいかもしれませんが、よろしくお願いします。
小早川:じゃあ、ベンジャミンさん。
ベンジャミン:ご質問ありがとうございます。この2、3年で新しく自分なりの「Endless Discovery.」を見つけたことですね。日本の名工の、残酷な言い方で恐縮ですけれども、全滅しそうなところなのかな。
確か平成から日本の職人の人数が急減していて。あと1世代、2世代ではもう1人もいないぐらい、人材もそれに関わっている環境もなくなっていて危険です。
それは需要がなければしょうがないことかもしれませんけれども、海外のアートの愛好家から見ると、やはり日本が一番好きなんです。特に富裕層の人口では日本の評判がものすごく良くて、パンデミック中でもダボス会議で知られるWorld Economic Forum(世界経済フォーラム)の「Travel & Tourism Development Index(旅行・観光開発指数レポート)」で日本が1位になったぐらい評判が良いんです。
先ほどハンナ先生がおっしゃっていたような、エルメスのように高いところ、珍しいところを発信したほうが良いっていうことだったら、名工より高いところはないぐらいだと思います。
需要に対して供給がなくなっているのは、何よりも皮肉で残念なことだと思いまして。それを救おうとしている活動もあんまりないみたいです。あっても、それほど効果がないんです。
ベンジャミン:いろいろ調べたら、ある人がそれを助けようとしている活動を見つけました。スティーブエン・バイメルさんという在日アメリカ人が「JapanCraft21」というNPO法人を設立しまして。彼は自ら若い名工の卵を探していて、それが育つようなコンテンツも作っています。
海外のいろんな愛好家から支援金を募集していて、まるで1人会社のようにものすごくがんばっています。その活動で日本の良さなどを見直してもらえるかどうかはわからないんですけれども、パンデミックの中でもそれが見つかり、今はできるだけ国外で発信しようとしています。
小早川:ありがとうございます。ハンナさん。
ハンナ:けっこうたくさんあるんですけれども、今の自分のテーマでもある内容で、化粧品ブランドをやっている中で、最近すごく好きで自分でもやりたいのは、マインドフルネスです。
マインドフルネス、心を整える、心を鍛えることが世界で今少しずつトレンドになっていまして。現代社会での人々の生き方の見直しが世界的なトレンドになっている。
その中で、こんまり(近藤麻理恵)さんの整理整頓の物語がものすごく世界的に反響がある理由も、やはり「人生がときめく片づけの魔法」っていう言い方になっていて、発信の仕方がものすごくすばらしかったんですね。
私自身が今「mirari」っていうブランドをやっているんですけれども、やはり日本の方々の中には自分と向き合っていくような心の整え方があります。例えば、お寺に行けば瞑想ができ、ご飯を食べる時でもものすごくシンプルにスローフードの文化がある。
私自身の短歌についてお話しさせていただきますと、実は短歌もマインドフルネスだと思っているんですね。心を整えるための1つの文化として文学があるんです。
ハンナ:ある脳科学者にお会いしたことがありまして「短歌って体的にどういうところとつながりますか?」というお話をさせていただいたら、短歌って年を取っていく中で人を優しくする力がホルモンとして分泌されるらしいんですよ。それを聞いて「うわ、これおもしろすぎる。どうしよう、世界に短歌をやらせる?」みたいな気持ちになったりして。
私はとにかく、日本の方々の今の生き方、ライフスタイルにはもっとグローバルになっていけるものがたくさんあって、それにできるだけ自分も関わりたいなと思っています。
質問者1:すごく興味深かったです、ありがとうございます。
小早川:もっとご質問を受けたかったんですけど、これで最後とさせていただきます。最後に一言ずつお願いします。
ベンジャミン:長い間お付き合いいただきまして、どうもありがとうございます。特に立っている方は、大変だったかと思いますが、ありがとうございました。
やはり表現ですね。自分の人生で何か気になっていることがありましたら、それを表現すると楽になるとか、自分が有意義になるとか、自分の生きがいを感じるものだと思います。
自分が最初に日本と出会い、紀伊國屋で本を読んで刺激をいただいていた代わりに、今日発信側になってこうしてみなさまにお集まりいただけて。すごく個人的にですけれども、納得のいくような体験になりました。みなさまのおかげです、ありがとうございます。
(会場拍手)
ハンナ:お集まりいただきありがとうございました。本当にすごく素敵な時間でした。私が日本に来てちょうど12年となります。日本で本当にいろんな経験をさせていただいて、このように書籍も出させていただいています。
これからも日本のすばらしいところをぜひみなさまと一緒に考えながら、私も一緒に日本の社会の一員としてがんばっていきたいと思います。一番みなさまに大事にしていただきたいところは、今日もお話の中でたくさん出たと思うんですけれども、やっぱり自分らしく生きていくっていうこと。
帰り道に「自分らしさとはなんだろう?」「日本らしさって何があるかな?」「自分らしいことって何があるかな?」っていうことを1回考えていただく時間があればありがたいなと思います。
そして、やはり多様性、ダイバーシティの時代です。私たちのように日本で暮らしている外国の人々がたくさんいて、いろんなリソースやおもしろい話をたくさん発見できると思います。なので、ぜひ私たちともつながっていただきたいですし、こういう場面もたくさんあるといいなと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
(会場拍手)
司会者:ベンジャミンさん、ハンナさん、ありがとうございました。
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