2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小早川幸一郎氏(以下、小早川):お二人とお話ししていて、自分の知らない日本のこととかをとてもたくさん学ばせていただいたと思っています。今回のベンジャミンさんの『⽇本はクール!?』の中で、私もそうですし読者の方からも大きな反響があったのが「Your Japan」と「My Japan」っていう表現ですよね。これについてちょっとお話しいただけますか?
ベンジャミン・ボアズ氏(以下、ベンジャミン):「クールジャパン」という言葉はみなさまご存知だと思いますけれども、定義してみるとそれは「外国人が案外魅了される日本の文化」じゃないかなと思います。そういう魅了される部分は、日本人から見ても当の外国人から見ても違います。
私みたいなマンガが好きな欧米系の人たちは多く、自分たちの世代的なものだと思いますが、幼い頃にゲームやマンガ・アニメを好きになって、それが入り口で日本全体を好きになるという系統です。
逆に日本人から見るとそれは不思議なことなんですよね。日本にはポピュラーカルチャー以外のいろんな文化がいっぱいあって、マンガよりも深い歴史のある本当の日本の部分があるのに、なんでポピュラーカルチャーから入るのかと。
ベンジャミン:そういう観点で違いがあって当然です。それが自然で、それでいいんです。やっちゃいけないのは、違う観点をほかの観点に混同してしまうことです。例えばせっかくゲームで日本を好きになった人たちに、直接「マンガを好きになってはいけない」「ゲームを好きになってはいけない」「それは日本の文化じゃない」と言うような。
第三者との会話では言ってもいいと思いますが、本人に直接言ってしまうと、せっかくその人が入り口に立っているのに門前払いされるようで、本物の日本を知る機会があったのに逃してしまう可能性が出てきてしまいます。
自分の国際コミュニケーション・コンサルタントの仕事でも、クールジャパン・プロデューサーの経験でも、このような話は何回も何回も聞いたことがあります。言い方を変えると「Your Japan」とは、外国人が直接日本を見ている外の観点で、「My Japan」はそういった外の観点を見ている日本人の観点です。
外国人の観点をおもしろがる日本のコンテンツ、いっぱいあるじゃないですか。『COOL JAPAN』や『YOUは何しに日本へ?』という日本のテレビ番組です。紀伊國屋の中でもそういう日本人が日本人のために日本語で書いている外国人についての本はたくさんあります。
そういった外の観点に興味を持っていることはすばらしいと思いますが、外の観点への興味は外の観点そのものとは違います。「Your Japan」と「My Japan」は結局同じものを見ているのかもしれませんが、観点が異なっているので混同してはいけません。
小早川:今の話を受けてハンナさん、何かありますか?
カン・ハンナ氏(以下、ハンナ):私の『コンテンツ・ボーダーレス』の本の中にもちょっと書かせていただいているんですけれども、やはり「外国人が見る日本の魅力」や、「日本の方々が伝えたい日本の魅力」の違いは、世界のどの国でも起きることだと思うんですよね。
私が韓国人として「韓国人にすごく人気がある日本のコンテンツはなんですか?」という質問に『孤独のグルメ』と答えると、よく「意外」って言われます。漫画が原作のドラマで、みんな大好きなんですよ。
『深夜食堂』というドラマも人気で、私も実は『深夜食堂』が好きで、特にオープニングの(靖国通りの大ガードをくぐって歌舞伎町から西の方に抜けていく)車の中から撮っているシーンがすごく好きなんです。好きすぎてそれを実際にやりたくてタクシーに乗った経験があるぐらいなんですけれども(笑)。
(会場笑)
みなさまからすれば「なんで?」と疑問に思うことがあると思います。でもそういったコンテンツは「すべてのことを伝えるべき」なのではなく、そこに流れる音楽だったり、あるいは日本のファンタジーを感じたり。
『孤独のグルメ』に出ているトンカツを「これこれ、これが食べたいの」っていうようなことが外国の方々にはたくさんあって。『孤独のグルメ』の場所を巡っている人たちもすごく多いです(笑)。
なので、実はそういう情報ってものすごく大事かなと思います。日本の国内の方々の関係性やビジネスもそうですけど、コンテンツも一緒です。すべてのことで「海外では何が流行っているのか」もしくは「海外の人々が何に興味を持っているのか」を一緒に共有することによって、より「Your Japan」「My Japan」の差が縮まってくるのかなってすごく感じます。
そのためにも、私たちのような日本が好きな外国人がもっと活躍できて、いろんなお話ができると私自身もすごくうれしいですし、いいなと思いますね。
小早川:お二人のお話をお聞きして今思ったんですけど、日本だけじゃなくて例えば「Your America, My America」とか「Your Korea, My Korea」というのもあるんですか?
ハンナ:ありますよ(笑)。もちろん韓国は次のところのテーマになります。韓国は今、グローバルですごく成果を出している国の1つとなっていますが、昔はもちろん失敗の経験がいっぱいありました。今になっていろんなノウハウが出来上がってきて今の韓国があるだけで、1990年代や2000年代にはいろんな失敗をしていたんです。
その時はとにかく伝統衣装のチマチョゴリを見せるとか、もうとにかくキムチとか、私たちもわかりやすいものを広げるっていうことをひたすらやっていました。実はK-POPも、最初は韓国っぽさがすごく強かったんです。それをますますグローバルのフォーマットにあわせていくというやり方になっていって、そこもやはり「Your Korea, My Korea」のギャップがあった時代でしたね。
小早川:アメリカはありますか?
ベンジャミン:私が実際に体験したアメリカと、日本人の友だちが見ているアメリカのイメージが異なっているとは何回も感じたことがあります。例えば友だち、特に年上の友だちと一緒にカラオケに行くと「ベンジャミンさんはアメリカ人なので、エルヴィスを歌ってください」と。「すいません、エルヴィスはちょっと知らないです」って言ったら怒られました(笑)。
(会場笑)
「えっ、アメリカ人なら誰でもエルヴィスは知ってるでしょ」と。一世代、二世代前はそうだったかもしれませんが、そういう世代の日本人のイメージの中ではそういったアメリカがまだ生きているんです。
だからといって変とか場違いというわけではなくて、アメリカのエルヴィスのような世代のライツホルダーとして日本の年上の人口を狙ったほうがいいということです。
ベンジャミン:本当にハンナさんが……カン先生ですね、ハンナ博士。もう博士ですから。
(会場笑)
先ほどおっしゃっていたとおり、何が人気なのか、自分たちが対象・ターゲティングしたい人たちはどういう人なのか、その人たちが自分をどう見ているか、何が欲しいかということを把握してからの発信(のほう)が、より効果が出るんじゃないかなと私は思います。
小早川:おもしろいお話でしたね。次は「なぜ韓国コンテンツは大成功しているのか?」で、これは「Your Korea, My Korea」を認識して戦略を変えたということなんですかね?
ハンナ:もちろんそれがすべてではないかもしれません。韓国コンテンツは、みなさまには今すごく流行っているように見えているかもしれないんですが、実は韓国は30年近く「コンテンツが大きな産業の1つになるんだぞ」っていうことをすごく意識してきた国でもあります。
韓国では国の支援も含めて、コンテンツを1つの主力な産業として見ていたんですね。いろんな支援があって、失敗しても支えてもらっている環境があった中で生まれたということになります。
ではそもそもなぜ韓国コンテンツは大成功しているのかについて、いろんな観点から『コンテンツ・ボーダーレス』に書かせていただいています。その中で私が今日1つお伝えしたいところは、先ほどの話ともつながりますが、韓国コンテンツはすべての物語や関係するすべての制作環境をメイド・イン・コリアで作るかというとそうじゃないんです。
一番大事なのは「韓国っぽい」っていう「ぽさ」です。みなさまは韓国ドラマを観てどう思いますか? 「これ韓国っぽい」「韓国ドラマらしい」って(感じると)思います。音楽のK-POPを聴いても、どこかしらK-POPのリズムや衣装、もしくは魅せ方、すべてのことに「これは韓国だよね」っていうところがあり、ある意味でブランド化しているんですよね。
ブランドとしてすべての関係する人たちが意識して、そこをフォーマットにしているんです。でもよくよく中を見ていくと、音楽の特徴はアメリカで流行っている音楽のジャンルを使っていたり、ファッションに関してはグローバルの有名なブランドの服を着ていたりします。それでも「なぜ韓国っぽさが出るんだろう」ということをひたすら研究してきていて、失敗も含めててそれがノウハウなんです。
ハンナ:これを踏まえて考えた時に、私は日本のコンテンツを見た時に「日本っぽいな」って思うところはいっぱいあります。ただ、そこをもっと強めたり、日本らしさをすごく大事にしてもらいたくて。
「グローバルのコンテンツ・ボーダーレス」と表現しているんですが、今コンテンツというものは国境がない状態です。NetflixだったりAmazonのPrime Videoだったり、アメリカで見ている方と同時に見ていて……私も最近ハマっているアメリカのリアリティ番組があるんですけど、それをきっかけによくわからないアメリカ人のインスタまで拝見して(笑)。もうリアルタイムなんですよね。
せっかくリアルタイムで広がっているんだから、より「日本らしさ」を作っていくことってすごく大事なんじゃないかと思います。韓国コンテンツの強さは、世界的に通用しているんだけど「韓国っぽい」って思わせるところ。ここは1つヒントになればと思います。
小早川:コンテンツの力ってすごいですよね。ちょうど1年ぐらい前に日経新聞を見ていたら、韓国の、それこそハンナさんがやられている化粧品と食品の輸出量がものすごく増えているみたいで。それって、やはりコンテンツとかNetflixの影響はありますよね。あとアーティストとかね。
ハンナ:あります。私自身も研究し始めた時に疑問だったんですが、「なんで韓国政府は1990年代から韓国の文化・コンテンツにこんなにお金をかけたんだろう?」と。
それでも今、BTSやBLACKPINK、韓国ドラマに映っている化粧品ブランドや服、食べているもの、そのすべてが世界に広がっているんです。なので、1人の、例えばBTSという世界的なアーティストを生み出すことによって経済効果がものすごくあるんですよね。
BTS自身も、自分たちが世界的なアーティストになっているから、韓国のさまざまな消費財やいろんなものを伝えたい気持ちもあって、どんどん広がっています。
これはコンテンツの力だと思っていて。私自身も日本のドラマを観ながら「焼き魚が食べたい」とか「味噌汁が飲みたい」ってやっぱり思っちゃうんですよ(笑)。そうすると調べ始めたり素材を買いに行ったりする世界の方々が増えると思うんです。
なので日本のコンテンツも、グローバルに動画配信ができるからこそこれからすごく跳ねるコンテンツがいっぱい出てくると思います。その時にいろんな企業やブランドも含めて世界にもっともっと広がるチャンスがあると思います。
小早川:ベンジャミンさんのご出身のアメリカは、本当に世界のコンテンツの代表であり発信の代表ですよね。ご自身もNetflixでのお仕事をされていますが、ベンジャミンさんから見た韓国コンテンツの成功や、そもそもコンテンツが世界に及ぼす影響について何か思うところってありますか?
ベンジャミン:本当に毎日気になっていますね。政府関係の仕事をしていて、韓国の大成功が一番気になっているのは日本政府じゃないかなと思うぐらい。
何ヶ月か前に、クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構/Cool Japan Fund)っていう何百億円が投資されている日本の文化を発信するための投資信託で委員会が開かれました。委員会の1人が、引用だと思いますが「もう日本は韓国にボロ負けしている」とおっしゃいました。
でも、それに対して自分は「本当にボロ負けしてるのかな?」と思っているぐらいだったんです。この発言は、日本そのものがボロ負けしているということなのか、それとも高い可能性があるのにそれに携わる発信力が足りないという比較的な負けなのか、(ハンナさん)どうお考えですか?
ハンナ:私自身は、実際は韓国がちょっと早かったということだと思っていて、日本がこれからなんだと思うんですね。ボロ負けっていう表現は、自分的にはあんまり受け入れられなくって。
ハンナ:本にも書かせていただきましたが、やはり失敗の経験を積み重ねることによって見えてくるものがあるので、とにかく始めましょうということです。今、日本のコンテンツも非常にたくさん始まっています。
それに伴って、「グローバル動画配信サービスってこんなに良いことがあるんだ」「ここまで広がるんだ」とか、「世界の人たちは日本のここに興味を持つんだ」とか、いろんな議論がスタートしています。
前の韓国の場合はそれほどデジタル化していなかったので時間がかかったんです。ですが、今はもうデジタル化しているので、5年以内にはいろんなことが変わってくると思っています。
政府がそこに気づいてくれたのはすごくうれしいことです。政府の支援がないと、やはりコンテンツを制作する側としてもいろんなことがつらいと思うんですよね。なので、そこに支援が入ってくるのはすごく楽しみです。
小早川:なるほど、ありがとうございます。
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