2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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——推し活が一大マーケットを作り出し、「推しエコノミー」が拡大しているとはいえ、国内だけでは市場に限界があり、海外進出をする企業も多いと思います。日本発のエンタメのコンテンツは、まだまだアドバンテージがあると言えるのでしょうか。
中山淳雄氏(以下、中山):あえて“鎖国”と言いますけど、アニメやゲームでほかにはないものを生み出しているという意味では、世界トップ3に入る国だと思います。
日本のアドバンテージは同調圧力とか言われますけど、でも狭いところで特別な職制が育つので。海外に出てすごいなと思うのは、(日本では)必ず一定どこかの業界で(魅力的なコンテンツが)生まれ続けていることです。
各業界が取り組むべきなのは、そうやって生まれたものを適切に外に出すことだと思います。やはり出口のない沼ではなくて、他の川や池と行き来ができるようにしていかないとならない。僕自身もそうありたいなと思っていますが、そのやりとりができる人をもっと増やしていかないとならないと思っています。
——日本がこれから、国内だけのヒットに留まるのではなく、海外でも広まるものを作り出すには、どんなことが大切でしょうか?
中山:僕は「5パーセントの革新」というイメージを持っています。日本という同調圧力や沼の中では、ほとんどの人は変わる必要もない。無理に英語をしゃべる必要もないし、製造はそれで問題ないし、サービスもかなりのレベルです。
だから、会社の中で5パーセントでいいんですけど、ある意味で空気が読めない人を一定割合必ず入れることで、外に持っていったり、撹拌し続ける。やはり今は、5パーセントすらいっていないわけです。テレビ業界とかは、きっと国内比率99.5パーセントぐらいで、適切な量までアウトサイダーが活躍できる土壌にないんじゃないかなというのがちらほら。
——作り手にとっても同調圧力はいいことばかりじゃないわけですね。
中山:そうなんですよね。8割、9割まで同じ色に染まってしまうから、けっこう作為的に別の色を入れていかないと、99パーセントぐらいまで同じ色になってしまうと思います。
——2023年1月に出された『エンタの巨匠 世界に先駆けた伝説のプロデューサーたち』でも、かなり突き抜けた方々が登場されています。こういった方々がこれからも出てくると、国内外を問わずまだまだ伸びる余地がありそうですね。
中山:そうですね。今は引退したりフリーになっていたりもしますが、まだまだこういった人はいると思います。1980年代、1990年代の巨匠に、もっとインタビューをしていきたいと思っていますね。
——エンタメ業界ではやはり、あえて同質的でない人を意識的に入れるようにしているんでしょうか?
中山:今はどちらかというと、古い人に退場してもらうという意味で若返りを図って、役職定年をどんどん引き下げています。40歳で課長じゃなかったら全員アウトとか、四苦八苦してやっていますね。家庭用ゲームの会社などは、実は20年前は30歳ぐらいの部長さんもバンバン出ていたんですけど、今は国民統計と変わらなくなってきています。
平均年齢44歳、30代で課長になれたら早いとか。エンタメは世相の変化の一番早いところにいなきゃいけないんですけど、エンタメ企業がいわゆる財閥系企業と年齢構成が変わらなくなったあたりから、先ほどの5パーセントの攪拌ができていないような感じがするんですよね。
——逆に言うと、それで革新が起こせるなら、5パーセントってそれほど多くもないような気もします。
中山:感覚的なものですけど、例えば20~30パーセントになるともう外資系に近くて、今度はものづくり側の維持が難しくなるんですよ。日本人はやはりお互いが結びつき合う同質的な集団としての力があるから、そこまで中途採用が中心になっちゃうと強みが失われる傾向も見られるんです。
アニメ会社はあんまりいないかな。ゲーム会社でもバンバン外の人を入れて、サイクルが速い会社は、実はものづくりの部分で大きいミスをしていたり、真っ当なものができてないこともけっこうあるんですよね。
——なるほど、長所を活かせるバランスが難しいんですね。
中山:そういった違いを見比べられるくらい、いろんな会社を見ている経営者が少なすぎるところに課題があると思いますね。例えば取締役が15名くらいいて、全員60代以上で「1人だけ他社さんに行ってた人を入れて役員にしたけど、14人は全員プロパーで、なんなら同期です」みたいな(笑)。絶望的な気持ちになりますよね。
——その14対1で戦わなきゃいけないのはしんどいですね。
中山:それがちょうど5パーセントぐらいかもしれないですね。でも、その5パーセントの人を尊重して、「じゃあ海外はこいつに任せよう」とやっていたらまだ幸いなんですよね。最悪なのは15分の15、全員プロパーの60代の男性が、30年来の友みたいな感じでそっち側(変革)の話をしているという。
——(笑)。もし自社がそういう状況だったら、「5パーセントの革新」を思い出したほうがいいということですね。そこから、いざ海外に出ていった時は、やはり市場環境が違うとも思います。日本企業はもう少し効率重視にしたほうがいいとか、寄せたほうがいい部分はあるんでしょうか。
中山:僕は「あんまりアメリカを見るな」とよく言うんですよ(笑)。あれだけいろんな人種で構成されていて、日本の対極にある国なので。まだフランスやドイツのほうが半分くらいは同質性があると思いますし、アジアの企業のほうが日本に近い。
トヨタなど、海外進出に成功している日本企業を見た時に、すごくドメスティックだったんですよね。商社の海外支局でも、現地では「トップは日本人しかいないよね」「いつも同じような仲間でしゃべってる」と悪名高かったり。ちょっと入りづらいし給料も安いけど、まあフレンドリーなんだよね、みたいな。
150年も海外でビジネスをやっていた商社でもそうだとすると、日本はたぶんこれからもずっとドメなんですよね。だから5パーセント、10パーセントの撹拌。外の人を30パーセント、40パーセントとバンバン入れるような感じではないほうが、組織として理想形なのかなと思いますね。
海外でビジネスをしたことがある人はわかると思うんですが、日本をグローバル化という一元的な指標で見ると、めちゃくちゃ偏差値が低いんです。英語を話せたり、いろいろな国の人と働いた経験値が、絶望的に少ないんですよね。
僕はそれを批判をしているわけではなくて、作ったモノ自体は最高なわけだから、そのぐらいの鎖国性があることを自覚した上で、それを外に出していくための抜け穴を意識的に作ることが大事で。
僕は世界に196ヶ国あるなかで、“外に開かれている度合”でいうと日本は170位とか180位ぐらいにいるイメージなんですよ。そこからプレミアムリーグに勝つのは無理でしょ、という感じがあって(笑)。
「日本も開け」とか「若者に機会を与えて」という時に、やたら高いところを見過ぎていると思うんです。「アメリカとイギリスの企業はこうだ」と比較していてもあまりに違くて「遠いな……」と眺めてしまうというか。
——そうすると、これから日本企業が見ていくべきなのはどこだと思われますか?
中山:日本の参照例になりそうなのは、例えば中国とインドの会社ですとか。あと韓国ですね。ああいう会社の回し方のほうが、すごく日本の参考になる感じがします。政情が大きく変わってきたことに影響するのかもしれないのですが、やっぱり危機感があるので、すごく起業家的なんですよ。
アジア的な同質性やコミュニティは守りつつも、ジャッジする時の張り方は、戦後の日本にも通じる気がします。1970年代、1980年代の日本はこうだったんだろうなというような、前向きさがありますよね。
——そうですね。日本企業ならではの良さと現在地をきちんと把握した上で、できることがあると思える気がしました。お話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。
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