2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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星川安之氏(以下、星川):この本(『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』)には3つのガーン、気づき、驚き、感動というのがあるんですが、もう一つのガーンが、「ゆっくり」ということで、ここは緑さん。
『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』(文・絵:多屋光孫/合同出版)
鈴木緑氏(以下、鈴木緑):そうですね。本当にゆっくり掃除をする生徒さんがいらっしゃいました。(特別支援学校の)先生が「実習をお願いできますか」と電話してこられて、どんな生徒さんなのかと聞いたところ、「とにかく掃除がうまいんです。掃き掃除が本当に上手なんです」と。その時に先生が大変熱心に話されたので、掃き掃除がそんなにうまいんだと思って実習をうけました。
でもあとで考えると、実習で掃き掃除だけを4,5時間お願いするというイメージが湧かない。いやでも受けてしまったしと思っていました。いざ実習が始まり、その生徒さんが来てみたら、本当にゆっくりですけど、ハウスの中にある通路や栽培棚の下など、そういうところを丁寧に掃き掃除をしてくれるんです。
それとハウスのなかに生えてる草を取ってくれました。実習の間は集中して作業してくれていたので、あぁ掃き掃除もいい仕事になるんだなと思って続けていました。
その後、その生徒さんが卒業を迎えるという時に「京丸園に就職をさせてほしい」という声をいただきました。「でも実習中はハウスの掃除しかしていないのですがそれで就職で逆にいいんですか」という話を先生にしたら、「彼女も掃き掃除の仕事が好きで、一生懸命『ここで働きたい』と言っているので」ということで、採用させてもらいました。
鈴木緑:当時はまだ体力がなくて、なかなか1日8時間は大変そうだったので半日だけの勤務にしました。毎日離れた所にあるハウスに歩いて行って1ヶ所ずつ掃き掃除と草取りを丁寧に作業してもらっていました。
みなさんも家の掃除をしますよね? それと一緒で、ハウスの中も掃除や草取りをすることで絵本に描いてくださったように、野菜の病気が出なくなったり虫の発生が抑えられたんです。
ハウスを掃除して農園をきれいにするということが、頭の中で薄々は大事なんだろうなとは思っていたんですけれども、こんなに変化するのか、こんなに大事なことなんだというのをあらためて教えてもらいました。本当にガ・ガ・ガーンなびっくりした出来事でした。
星川:ゆっくり掃いて虫がいなくなって薬をあまり使わなくて済んだ。さらにそこの次に、機械を作るんですよね。そのあたりをお願いします。
鈴木厚志氏(以下、鈴木厚志):僕らは農業って虫が出たり病気が出ると農薬というものがあるので、農薬でなんとかすればいいやというのがやっぱりあるんですね。もし病気が出たり虫が出たら農薬で殺したり防ぐという手段を持っているので。そういった意味で、農薬に頼ってたところがあるんですが。
その特別支援学校から来た生徒さんがハウスをきれいにしてくれたことで、虫が減るんだということがわかった。これはもっときれいにすれば、農薬が本当になくせるんじゃないかという気づきをもらって。でもやはり人の限界というのもあるので、ここはちょっと機械を導入したらいいんじゃないかと考えた。
たぶんみなさんも広い部屋の掃除で、ほうきだけ渡されて「きれいにしてくれ」と言われたら、「ここをほうきで掃くの?」と思うと思うんです。そうしたら何か近代兵器が欲しくなりますよね? 掃除機があったらいいなと思うと思うんですね。
※『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』(文・絵:多屋光孫/合同出版)より
じゃあ虫を吸い取る掃除機を開発すれば、本当に農薬がいらなくなるかもしれないという発想になって、そのまま「虫トレーラー」というものを作ることになるんです。
鈴木厚志:ここでちょっと想像してもらいたいんですけど、掃除機って速くかけるとなんて言われると思います? 「もっと丁寧にかけろ」と言われると思うんですね。掃除機ってゆっくりかけたほうがきれいになるじゃないですか。
そういう点でいうと、ゆっくりやると褒められる仕事ってなかなかないと思うんですけど、掃除機に限っては、ゆっくりやったほうがちゃんと吸える。そう考えるとこの掃除機を作ることで、ゆっくり体を動かす人が評価される仕事が作り出せるかもしれないということで、虫トレーラーというのを作った。速いと怒られるわけですからね。ゆっくりだと、「お前いい仕事してるな!」と言われるわけですよね。
そういう中で、うちの農場の中でもゆっくりやって褒められる仕事はないねという話だった。普通は仕事は速くやるものというのが大前提になると思うんですけど、仕事場の工夫の中で、ゆっくりやると褒められるような仕事を作り出せた。そこに僕らもちょっとびっくりして、それも機械を作ったことによってそれが生まれたという部分が1つ大きな発見だったということもありますね。
星川:どちらにしても最初はゆっくり掃くという、それがすごい能力だということを2人で見つけたということでもあるわけですよね? すばらしいと思います。
ちょっと話が違うんですが、今までの話を聞いていて芽ネギだとかチンゲン菜だとかいう野菜なんですが、もうちょっとトマトとかイチゴとか、そういうものは作ろうということは今までなかったんですか?
鈴木厚志:よくぞ聞いてくれました。やっぱり農業って言ったら、ミツバとかチンゲン菜とかそういう葉っぱものじゃなくて、イチゴとかトマトのほうがおいしそうじゃないですか。「なぜ作らないのか」という質問をよく受けます。
なぜ緑色の葉っぱものばかり作っているかというと、僕の女房の名前が緑という名前だからですね。僕がどれだけ妻のことを愛しているかということになります。ですからトマトとかイチゴとか儲かりやすいんですけど、やっぱり妻を裏切ることになるんじゃないかということで、緑色のものしか作らないという。そんな決意のもとに農業をさせてもらっているんですね。
星川:今までもこれからも緑さん一筋なことがよくわかりました(笑)。
(一同笑)
鈴木厚志:だから時代が変わって、京丸園でトマトとかイチゴを作るようになったら、夫婦関係がどうかなってるかもしれないとご想像をいただければ(笑)。
星川:ありがとうございます。多屋さんに移りたいと思います。多屋さんに、この京丸園さんの話が行ったのは、合同出版さんからだと思います。坂上さんと最初に浜松まで乗り込んでいかれて、そこでこのガ・ガ・ガガーンを見つけて絵本を作って展示会をされた。最近では高校生200人に対して、見事な講演をされていたということですね。
多屋光孫氏(以下、多屋):(笑)。
星川:この絵本に関わった一連の経緯だとか、そのあたりを教えていただけたらと思います。
多屋:まずこのお話をいただいて、それで浜松のほうまで行き、職場を見せていただきました。最初に思ったのは、私が想像していた以上に本当にみなさんが楽しそうだなぁということです。むしろ「自分が、自分が」という感じで、みんな生き生きしてるなぁって思いました。
けっこう細かいところで、お話の中では出ていないんですけど、その時一番高齢の方は今85歳なんですかね。年配の方も働けるような仕組みもいろいろ工夫されていて、絵本の中で、文章では触れてないんですけど、セニアカーというのがありまして。
おばあさんが……。(絵本を示す)見えないか(笑)。おばあさんとおじいさんがセニアカーというのを操縦しているシーンがあるんで、ぜひ買っていただいてあとで見ていただければと思うんですけど。
車ごと入っていって仕事ができるというようなこともいろいろと検討されているものなんですが、この間保育園に実演で読んでいただいた時には、保育園の子どもはこのセニアカーになぜか食いついていて、「ロボットじゃないのか」と自分の中ではもやもやしたものがあったんですけど。そういった工夫など、非常に刺激になるようなことがありました。
あと、よく遅刻してくる方のために、プリントが作ってあって、「遅刻しない100日チャレンジ」みたいなのをマップにして、うまくいったら○かはんこか、1個というようにしてありました。
そういう工夫による改善もあって、すごく刺激的でおもしろい職場です。いい絵本ができるぞって勝手に思ったかどうかわからないですけど、その時は非常にいろんな刺激をいただきました。
多屋:それから侃々諤々紆余曲折あって、絵本ができるんですが、それを銀座のゆう画廊というところで私の個展に併せて発表をしましたらかなり予想外の反響でした。だいたい100万人ぐらい来たと思うんですけれども(笑)。その半分ぐらいの方が、絵本を購入されて非常にありがたかったです。
学校の先生がけっこう来てくださったこともあって、足立区にある青井高校というところで、この間お話をさせていただきました。ちょこっと行ってしゃべるだけかと思って行ったら、講堂にうん百数十名の、6クラス分ぐらいの生徒さんが座っていて、ちょっと引きつって、ガ・ガ・ガガーンとなってしまったんですけど。
あとは都立工芸高校というところで、先生が国語の授業で、やはりこの『ガ・ガ・ガガーン』を読んで下さって、感想文を両方からいただいて、全部で200通ぐらいあったので、かなりこれもガ・ガ・ガガーンという感じで大変だったんですけど。
ちょっと抜粋して読んでみます。多かったのが、やっぱりさっき読んだ「人を仕事にではなく仕事を人に合わせるということに共感した」という生徒さんです。「やっぱり人を見ただけで決めるのはよくない」とか、あとは高校生なので、部活とかアルバイトをやっている時に、後輩に指導をする時に、「同じことをやってたなぁ」とか、「自分がそういうのを言われたら嫌だなぁ」というのが多かったです。
ちょっと感想を抜粋して読みます。たわいもない感想から。「芽が出て間もない細いネギのことを芽ネギというのを初めて知りました」「僕はこの話で、芽ネギの存在を知りました」「芽ネギの特徴を聞いて、そういうネギもあるんだなと思いました」。いかに銘々かということですね。
「この絵本を読んで思ったことは、芽ネギの寿司を食べたくなってきました」「芽ネギ好きです」。最初に絵本を作り始めた時に、芽ネギというのは、私はたまたま知っていたのでメジャーなものだと思っていたら、いろんな人に「こんなの作っているんだけど」とこの絵本を読んだら、ちゃんと聞いてくれるんですけど、ある日「ところで芽ネギって何?」と聞かれて、こんなにマイナーだったんだというのが、ちょっと驚きでした。
青井高校で、生徒さんに「この中で芽ネギを知っている人?」と言ったら、200人以上いるのに誰一人反応しなかった。自分がとばそうと思ったギャグも全部吹っ飛んでしまって、すごくガ・ガ・ガガーンという状態になったんですけども。それを補う意味で、最初のページの半分を、芽ネギの説明に割いたという経緯がございます。
多屋:さっきの感想文に戻りますけども、「なんとなくインパクのある作品だと思います(原文ママ)」...…インパクトのトが抜けてますね。
「最初に感じたことは背景のクオリティがえげつないことです」これって褒められているのかどうかわからないんですけどね。「僕がこの作品を読んで感心したのは、鈴木さんのすばやさでした」「私もヤマダ先生のような心がきれいな人になりたいです」
ここからわりとまともな……と言ったら失礼ですね(笑)。ちゃんとした感想。「仕事を早く終わらせるだけでなく、丁寧にゆっくりやることで植物も気持ちよく過ごせるなと思いました」あまり、あれですね。あれですけど……。
「私も人に勉強を教える時に、わりと大雑把に説明してしまうことがあるので改善したいと思いました」「私も最初の冒頭の時に、あんまり細かく教えてもらえなくて、毎回のように怒られました」「この本を読んで思ったことは、発想や考え方を変えてみることで、世の中が変わるということです」
「自分の常識が壊れて新しい気づきを得る時の衝撃はガ・ガ・ガガーンですよね」「人との出会いは大切だと思いました」「13代目の人の」これはたぶん鈴木さんのことですね。「パフェのようなものにネギが刺さっていてシャキシャキして辛そうだなぁと思いました」「できるかなと思う方々も一緒に働けて成長していけるのはすてきだと思いました」
「最終的にはロボットを開発したり、働く人が100人を超えていることに驚きました。そして個人的には、このイラストがとてもおもしろかったのとわかりやすかったので、また読みたいと思いました」ありがとうございます。
多屋:「このような絵本をまた読みたいと思いました。絵とかもそうですが、こういった斬新なデザインが、読み手を楽しませてくれました。作者に会うのが楽しみです」。私、その場にいたんですけどね。私が作者だと思われていなかったみたいです。「今度近くにある図書館で、その本があったら借りたいと思います」。買ってください。
「小さな子でも読みやすくて、途中で読むのをやめてしまう子は少なそうだなと思います」「体のどこかがだめだからだめではなく、平等に接してお互いを支えあう社会こそが自分は正解だと思います。日本のゴールはどんな人でも平等に生きていられるような生きやすい世界が1つのゴールだと思いました」。すばらしいですね。
「私も何か決めつけだったり思い込みで効率の悪いやり方をしていることがあるかもしれません。それはもしかしたら下敷き1枚で解決できるのかもしれません」。いっぱいあったのでちょっと抜粋ですけど、すばらしい感想をいただきました。
星川:250通ぐらいあって、ちょっと抜粋ではないですね。ちゃんと物語になっています。
多屋:だいたいみんなほぼ同じことをおっしゃってくれます。緑さんのキャラクターについてもコメントがあって、これが誰かに似ているとか、いろいろそういうのもあったりして、それはちょっとここで発表するなというので、割愛させていただきました。
星川:ほぼ発表していますよね(笑)。今回の人は、唇が特徴的ですよね。
多屋:そうですね。なんとなく最初に描いたらそういう感じになっちゃったんですね。
星川:今回、京丸園の鈴木さん夫妻の仕事と多屋さんの絵の調子がとってもよく合わさっていろんな化学反応ができてきて、今のような感想は、これからもどんどん広がっていくだろうと思いますが。うれしいですよね?
多屋:はい。やっぱり多くの人に共感してもらいたいというのが、ものを作るというか、絵本を描く喜びだと思いますね。それがいろんな方と共有できたのは、すごくうれしかったですね。
星川:ネギの飲み物とかって……。
多屋:真ん中のページにあるんですけど、先生が、鈴木さんと向き合っているシーンですね。このシーン。非常に凝っていまして。実際天皇杯(令和元年度農林水産祭天皇杯)もかなりリアルな感じで描かせていただいたんです。
※『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』(文・絵:多屋光孫/合同出版)より
ここに芽ネギ羊羹とか芽ネギ茶とか芽ネギパフェを描いて、芽ネギシャンプーも後ろに飾ってあります。あと鈴木さんが13代目ということで『めねぎ十三代記』という、その歴史400年の繁栄、芽ネギの裏埋蔵金伝説のすべてみたいな、本の解説とかを入れたんです。高校生ぐらいだとこのあたりを突っ込んでくれて楽しかったですね。
星川:そのへんは、どういう発想で生まれてくるんですか?
多屋:ちょうど隙間が空いてたから(笑)。遊べるのはこのぐらいのページかなと(笑)。
星川:ありがとうございます。今の高校生の感想を聞いて、一言ずつ厚志さんと緑さん、何かあります?
鈴木厚志:高校生とか、先ほどの保育園の人たちにも発表されて聞いてもらったという話をうかがって、絵本だからこそ伝えられるものがきっとあるんだなぁと思いました。もっともっとこの感想をまた集めて、それで楽しみたいなと思っています。
多屋:そういえば「芽ネギを食べたことがあります? 知ってますか?」という質問で1人だけ食べたことがあるという年中さんの5歳の子どもがいました。「お寿司屋さんで食べた」。なんてすごいグレードの高い5歳児の方なんだと思って、ちょっと感心しました。
星川:保育園で話したんですか?
多屋:保育園の先生の話を私が聞いたんですね。そうしたらそういう答えが返ってきてちょっと驚きでしたね。
鈴木厚志:そういう点では、芽ネギを知らないとか食べたことがないっていう方がまだまだたくさんいるということは、営業努力がちょっと足りていないなと思いましたので、早急に、また営業をがんばらなきゃいけないと思いました。
星川:どういう営業をしているんでしたっけ。
鈴木厚志:僕の営業の方法はお寿司屋さんに行って、「芽ネギあります?」と言って、「ない」と言われたら「え~!? ないの?」と言って帰るという、そういう営業を地道に行っております(笑)。
星川:そうするとそのお寿司屋さんから電話があってそこに納品すると。
鈴木厚志:そうですね。そういう作戦をやっています。あとはここに持ってきたんですけど、芽ネギのお寿司はこんなふうに食べるんですという、芽ネギのお寿司サンプルを作って、何気にお寿司屋に忘れてくるというような作戦でお寿司屋さんに知ってもらうようにしています。
星川:ところで芽ネギを作り始めたきっかけというのは、どういうところだったんですか?
鈴木厚志:これもお寿司屋さんに行った時に、大将が「芽ネギというのがあるんだよね」と言うのです。僕もその時は知らなくて、「お前農家なら作ってみろ」と言われたのがスタートになります。
でも、ぜんぜん作る気もなかったんですけど、その大将が怖かったのと、この大将と仲良くなるとお寿司屋のカウンターでお寿司が食べられるようになるんじゃないかというちょっとした下心と。それがあって農園でチャレンジをしました。
できたら大将のところへ届けるみたいなことをやっていたら、2年間ぐらいやり取りしている中で大将から「お、この芽ネギいいな」と褒められたんです。そうしたら全国で売れ始めた。僕はその大将たった一人のためだけに作っていたんですけど、それが本当に全国に広まった。
今は全国の芽ネギの、70パーセントぐらいをうちの農園で作らせてもらうようになった。1人のお客さんの要望を少し叶えたら、それが全国に広がったというのが本当に不思議なご縁でしたね。
星川:私もたまにお寿司屋さんとか和食の店に行って、本当に偶然なんですが、行ったお店2軒ともで芽ネギが出てきた。「どこのですか」と言ったら「静岡みたいです」。「それはたぶん京丸園さんという……」。一役担わせていただいておりますので。ありがとうございます。
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