2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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宮川遙氏:このように、(日本の制作現場では)昔から変わらない構造や仕組みに関する問題とか、あとは国内に革新的な技術をどうやって取り入れていけばいいのか、取り入れにくいといった土壌がありまして、制作に関わる方にとっても、閉塞感を感じていらっしゃる方が多いように見受けられます。
Netflixとしては、弊社の作品に関わる方はもちろんなんですが、業界全体に対しても、ワクワクしながら素晴らしい作品づくりをしていただけるようなお手伝いをしていきたいと思っていますし、そういう思いがあるので、毎年私たちのできることをいろいろな取り組みとしてやっています。
まず、今年すでに行ったイベントが、バーチャルプロダクションのオープンハウスで、4月に東宝スタジオさんを借りて実施したんですが、今、ご覧になっている写真はその時のものです。
カメラマンや撮影部さん、照明部さんを中心にお声がけさせていただきまして、実際にセットを組み立てて。参加者のみなさんには、撮影時にどう撮ったらいいのかを実感してもらうべく、このようにセットの近くに寄ってきていただいて、いろんな撮影手法の説明などを行いました。
今、ご覧になっているこちらの映像は、その準備としてスタジオ内にLEDスクリーンですとか、美術を設置しているタイムラプスの映像になります。ちょっと見ると、雰囲気がわかってもらえるといいかなと思って出してみました。
ご覧のように、スタジオ内に機材を持ち込むところから始まって、LEDパネルを何枚も重ねて、さらにこのあと右側には車が配置されたり、左側にはテントが置かれていますが、キャンプのセットが作られて、窓の外やキャンプの背景のグランドキャニオンの画が出たりと、3セットのセットアップを作ってデモを行いました。
車はちょっと長いので外しましたが、実際にこのセットアップで撮ったものがどうなったかもお見せしたいと思います。
これは室内の窓外がシアトルの夜景から始まるんですが、鏡に手前のランプが反射したり、人が写り込んだりというところが非常に自然にできているので、こういうのってグリーンバックではすごく難しいというか、手間のかかる作業ですので、ナチュラルさがあります。
そして、この2人が部屋を出て外に出ていくと、先ほどキャンプのセットがあったと思うんですが、CGで作られたグランドキャニオンを背景とするキャンプ場に切り替わりまして、つかの間のキャンプを楽しむという話になっています。
このあとまた室内に戻ってくるんですが、そうすると先ほどと背景が変わって。今度は雪山が窓外に見えるセットアップを1テイクで撮影して、だからこれだけ短い時間でまったく違うセットアップでも、こんなにおもしろくできるんですよというところをお見せしました。
『マンダロリアン』で背景やCGをLEDに投影したという話がかなり有名で、お聞きになった方もいらっしゃるかもしれないんですけれども。このコロナの状況も手伝ってだとは思うんですが、海外での運用実績はどんどん増えています。
弊社の作品でも最近ですと、『アイリッシュマン』『ミッドナイト・スカイ』『ペーパー・ハウス』などの作品で多く使用されていますし、国内でも現在撮影中の作品で使用しています。
私たちのオープンハウスでは、単に「LEDスクリーンが素晴らしいんですよ」というお話しではなくて、LEDスクリーンを使う時の撮影手法や、背景として使う素材をどうやって準備したらいいかとか、現実的に運用するにはどういうことを気にしたらいいのかといった、そういう知識をみなさんに理解していただきたいという思いで、こんなイベントを行いました。
ちなみに最近では、ソニーPCLさんが常設のスタジオを開設されるというニュースも発表されたところだったので、国内におけるバーチャルプロダクションの機運は高まっているように感じます。こういった新しい技術も取り入れて、どんどん業界が盛り上がったらいいなと思っております。
そして次に、今年の夏に実施したのが、スクリプターさんのデジタル化に向けた取り組みです。スプリプターさんというのは、監督に寄り添って撮影した内容を細かく記録するのがお仕事なんですね。
スクリプターさんはだいたい現場では、紙に印刷された台本やシートに手書きでメモを取って、撮影が終わって、夜遅く自宅に帰ってからそれを清書して、データでスキャンしてPDFで送ってという作業をやらないと、一日が終わらないので、デジタル化もそうなんですが、そもそも寝る時間もないほど忙しいという切実な問題もありました。
そこで、撮影現場で仕事が完結するように、スクリプター協会さんとも協力しました。以前からiPadでお仕事をされている方に講師をお願いして、約30名の方にNetflixよりiPadと現場で使用できるアプリを無償で1年間貸与しまして、講座も実施させていただきました。
7月から8月にかけて何回か分けて行ったんですが、これからあと半年〜1年後に、みなさんに運用状況や使用における感想なども聞きながら、まずはデジタル運用に慣れていただきたいと思っております。それができた段階で、今度はさらに現場から編集にどういった情報をデータとして渡せば、よりよいワークフローが組めるのか、対策を練っていこうと思っているところです。
もちろんこの30名の方は、Netflix以外の作品にも関わって行かれると思いますので、このような取り組みを通じて、業界全体の活性化や将来の人材育成の助けになることを願っています。
そして今、まさに計画していまして、今月の後半から来月中旬にかけて行う予定なのが、フォーカスプラー向けのトレーニングセッションです。先ほどもお話しましたとおり、映像におけるフォーカスは、後修正ができないすごく大事なことなんですが、そもそもフォーカスを合わせる技術が体系的に学べる場所は、日本にあまりないという現実がありますので。
アメリカの撮影協会のメンバーでもあるシェーン・ハールバットさんという撮影監督さんとタッグを組みまして、彼が長年働いて信頼のおけるフォーカスプラーであるデレック・エドワーズさんという方にもご協力いただくことになりました。
彼の作った、フォーカスプラーになるための講座というビデオがあるんですが、これに弊社で日本語字幕を付けました。無料で見られる仕組みと、それからビデオを見た方を対象にWebセミナーを企画しておりまして、シェーンやデレックと一緒に実施することも計画しております。
(スライドを指しながら)この写真にもあるようにビデオの中では、フォーカスプラーとしていつもどんな道具を持って、何が便利なのかという話があったりとか、それから実際のシチュエーションで、フォーカスを合わせる際のコツや気を付けることについても紹介をしています。
そしてあともう1つですね。現在企画中なのが、カラーマネジメント講座です。先ほどもお話ししましたが、撮影現場からポストプロダクションまでの一貫したカラーパイプラインを構築するには、十分な準備と打ち合わせが撮影前に必要です。
特に、ポストプロダクションという撮影の後工程においては、仕上げに向かってさまざまな過程で色を確認する必要が出てきますので、今回はNetflix作品によく関わってくださる会社さんを対象に、来年早々で実施したいと考えております。
実は2019年に、韓国のVFX会社向けに似たようなカラーマネジメント講座を私のチームで行っておりまして、(スライドを指しながら)こちらはその時に撮った写真なんですけれども。その時に得た知見も踏まえまして、どうやったらカラーマネジメントの重要性を理解してもらえるかと共に、各社が正しい色で作業ができるようなワークフローを、自分たちで組み立てられるようになるところを目標にして、進めていきたいと思っております。
このように弊社の作品に関わる方だけではなくて、できるだけ業界全体の貢献も考えながら、私たちもさまざまな取り組みを毎年行ってきているんですが、やはり一企業ができることには限界もあるかなと思っています。
最初にお話しした技術ガイドラインについても、Netflixの業界参入によって、制作に対する業界の考え方が「いいほうに変わった」と言ってくださる方もいらっしゃる一方で、「Netflixの作品以外では、こういう技術ガイドラインと同じようなワークフローにはならないのでやってもしょうがない」というような意見も、もちろんあるわけですね。
例えば、現場のデジタル化や現場の後工程に、どうやって引き継ぐかということについては、単にいくつかの機材を入れるだけでできるようなこともありますが、一方でフォーカスプラーのように、組織や構造上の問題で簡単に解決できないこともたくさんあります。
こういった部分は、より大きな枠組みで取り組みができるように、関係各所が一丸となって仕組み作りをしていただく必要があるのではないかなと感じました。
最近、お隣の韓国では『パラサイト』がアカデミー賞を受賞したり、先ほどご紹介した『イカゲーム』がアメリカを含む世界94カ国で1位になるほどの人気ぶりです。長編映画制作において日本の関係者のみなさんとしては、「悔しい」という思いと「羨ましい」という気持ちが混ざっているということを、よくお聞きすします。
今、何でこんなに韓国作品がウケるのかとなると、多くの方は「この20年くらい、ずっと国策で映像業界に国側で投資してきたからなんですよ」と、おっしゃることが多いです。それは間違いなくそうでもあるとは思うんですが、単にお金が投入されただけではなくて、正しい場所に正しく投入されたから変わってきたんだと思うんですね。
例えば韓国の撮影監督は、毎年何人もアメリカで研修を受ける機会を与えられますし、脚本家の養成プログラムがあったりと、投資と融資と無償支援を非常にうまく組み合わせて、人材育成に力を入れてきたからの結果ではないかなと思っています。
そして韓国スタッフから話を聞く限りでは、撮影業界の受け入れ体制も非常に懐が広いかたちになっているなと思いました。例えば、先ほどのフォーカスプラーも似たような状況ではあるんですが、下の世代を確実に育てられるような仕組みが撮影部の中でもできていたりします。
このように、おそらくほんの少しでもみなさんの意識が変わることで、変わることってたくさんあるのかなと思いました。
先ほどご紹介した、バーチャルプロダクションのオープンハウスの時にアンケートを取りましたが、その時に、「予算とスケジュールがタイトで、自由な作品作りや品質を上げる作品作りが難しい」とお答えになった方が、参加者の大部分を占めていました。
また、「学びの場が初心者に向けても経験者に向けてもあまりない」というお話しも多く聞かれました。次世代を育てて、映像制作業界の発展を目指すためには、やはり学びの場や専門性の高いスタッフの育成に力を入れていただけるように、政府機関や各種協会団代には期待したいという思いがあります。
そして、制作現場のさまざまなプロセスにおけるデジタル化や、制作全体のシームレスな連携なくしては、現場で働いているみなさんにとっては非効率な作業で、それが長時間労働につながって、結果的にどんどん人が辞めていって育たなくて、業界が衰退してしまうという可能性が見えてきているんじゃないかと思います。
やはり一番大事なのは、人材育成だと思うんですね。人が業界を育てていくと思います。日本製の素晴らしい作品の制作にこだわり続けていくためには、やはり優秀な人材が集まる業界であり続けるということが不可欠ではないかと考えます。
今後も引き続き、素晴らしいエンターテイメントの作品が作れるような持続可能な仕組みですとか、さらなる可能性の拡大のためにも、みなさまと一緒に関係各所と士気を高めて、仕組みづくりに取り組んでいけることに期待したいと思っております。長くなりましたが以上です、ありがとうございます。
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