2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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若宮正子氏(以下、若宮):お待たせいたしました。みなさん、こんばんは。若宮正子です。通称「マーチャン」でございますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
今日は、「エストニアで、“すでに始まっている未来”を見てきました」というお話をしたいと思います。世界地図でエストニアがだいたいどのへんにあるか、おわかりの方?
(会場挙手)
半分ぐらいの方はわかってくださっているみたいです。エストニアというのは、ヨーロッパのわりと東の外れで、フィンランドの南。エストニア・ラトビア・リトアニアのいわゆる「バルト三国」。その一番北側にあるのが、エストニアです。
私がおじゃましたのは、この国です。人口が130万人ですから、日本の100分の1。小さな国ですね。ただ面積はと言うと、九州ぐらいの大きさがあります。ですから、過疎地というか、人があまり住んでいないところが多い。そんなイメージです。非常に寒くて、冬はマイナス30度になったりするところです。
「衛星国」と言いますけど、1990年に独立するまではロシアの実質的な植民地でした。今は独立して、自分たちの国を一生懸命に築いているところです。なお、バルト三国はEUに加盟していますし、その上、ユーロ圏です。
私は「なんでエストニアに行ったの?」とよく聞かれるんです。エストニアというと「電子政府」で有名ですよね? だけど「電子政府というのは、どういうことだ?」となりますね。
「電子政府になると、どういうことが起きるの?」ということになります。まず市役所に行きますよね? 今、(日本で)市役所に行ったら、住民票の係とか、戸籍の係とか、健康保険や介護保険手続きの窓口とか、いろんな手続きのための窓口がいっぱい並んでいて、「はい、13番の番号札の方、どうぞ」とか言ってやっていますね? あれが、いらなくなるわけです。
「行政の電子化が進んでいる国」と「電子政府」を、どういうふうに仕分けているか。一般的にはエストニアの電子政府のような場合は、例えれば「パッケージ商品」です。他は例えれば「バラ売り」と言ったらおかしいですけれども、納税についてはもう完全に電子化されているとか、それから選挙は電子投票でやっているとか、それぞれバラバラに存在している国とかそういうことです。ほとんど機能していない国とかもいっぱいあるんです。
けれども、いわゆる「電子政府」と言っているときには、ある程度パッケージ化されていて、いろいろなサービスが1つのまとまったかたちで存在しています。だからいろいろな操作手順も全部別々に覚える必要がない。そんな国を、一応「電子政府」と言っております。
電子政府というのは、どこの国もやりたくてしょうがない。だけれども、なかなかできない。今年(2019年)の6月にG20があって、世界中からお偉いさんが来ていました。もちろん私は大統領でも首相でもないですから、そんなところに出ていたわけではないんですけれども、その下部組織として、いろんな省庁、例えば環境省とか何々省とか、それぞれサブのイベントをやっていました。
その中で、金融庁がやっていたイベントが「高齢化と金融包摂」でした。タイトルを言うと難しくて何を言っているのかさっぱりわからないんですけれども、最初は、手っ取り早く言えば「年寄りが金融活動をやらないから日本の金融活動は衰退していて、それを活性化させるには、もっと年寄りにがんばってもらわなければならぬ」ということだったんです。
ところがそれ以前の問題として、活発化ということよりも「金融教育」という話に持っていきたかったらしいんです。(さらに)それ以前に、そもそも今は「金融教育」以前の問題。例えば株屋さんで株を買うとしても、よっぽどの大金持ちだったら担当者がついて、いろいろ手続きをやってくださるところもあるらしいですけれども、普通はネットでやりますよね?
それが、なかなか手強い。これは難しい。「だったらお嫁さんとか娘に頼んだらどうですか?」って言うと、お嫁さんが「ねえお母さま、『Amazonで本を買ってください』ぐらいでしたら私も代わりにやりますよ? でもね、何百万円という株を買ったり、公社債を売ったりとか、そんなおそろしいこと、私にはできません。ごめんなさい」と言われてしまう。
結局、なかなか溝が深いということです。そんなことで、「それよりもまず、ITリテラシーをもっと上げてもらうことのほうが大事なんじゃないか」という話になっちゃいました。実はキーノートスピーカーの1人として私なんかが呼ばれたんですけれども、そういうような話がありました。
そこで、各国のいろいろなパネリストの方がおいでになって、いろいろ論議をしておられました。その中で「やっぱりもっと電子化していきたいんだけれども、どうも年寄りがそっぽを向いちゃうもんだから、なかなかうまくいかない」というお話が非常に多かったんです。
あのドイツでさえも「年寄りが動いてくれないから先に進めない」という話がよく聞こえてきたんですね。そのときはもちろんエストニアみたいな小さな国が呼ばれるわけはないので、エストニアの人は来ていません。
だけれども、そんなにどこの国も困っているのに、どうしてエストニアではできるんだろう? 私の若い友達に聞きますと、「マーチャン、エストニアという国のやつらはみんな頭がいいんだ。あんた、Skypeって知っているか? あの会社ってエストニアで作ったんだぞ。あいつらは、みんな頭がいいんだ」と言います。
でも私は、その答えに納得しませんでした。すばらしいユニコーン企業だかポップコーン企業だか知らないですけど、そういうものを作るんだったら、頭のいい人が何人かいればできると思うんです。
けれども、電子政府を作るというのは国民全体が参加しなきゃできないものです。10人やそこらだったら電子政府にはなりません。エストニアだって、やっぱり年寄りはいるわけですよ。だから年寄りがそっぽを向いちゃっていたら、できないはず。なので「どうしてエストニアの年寄りは、そっぽを向かなかったんだろう?」ということで、これはどうもよくわからないと思っていたんですね。
なんで私がそんなことを考えたのかというきっかけですけれども、実は、去年の暮れ……、一昨年の暮れだったのかな? MasterCardのイノベーションフォーラムに参加しました。MasterCardがバックアップして、中南米とかいろんなところでイベントをやって、「もうちょっとITリテラシーを上げるにはどうするか」という話をしています。
私がおじゃましたときに基調講演をされたのが、エストニアのヘンドリック元大統領です。その中でヘンドリックさんは、「エストニアの電子政府化成功のカギは銀行を口説いたこと。そのおかげである」とおっしゃったんです。
私はその時点では、なぜ電子政府が民間の銀行を口説かなきゃいけないのか、よくわからなかった。そういうことで、よくわからないけども「これは何かあるのではないか」と思ったんです。
そんなことでエストニアに関心を持っていたあるときに、こういった本(『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけたつまらなくない未来』)を目にしたんです。(本の帯には)「僕らの未来をダントツにおもしろくする“ひみつ道具”はここにあった」とあります。読んでみたら……ふむふむ。
孫泰蔵さんとおっしゃる方の話を小島健志さんがまとめて書かれたんですけど、この本を読んでみると、どうしてそういうことになったかという背景が、少しずつわかってきたんです。これはもうエストニアを知るためには、(現地に)行くしかないんじゃないかと思いました。それで、ポケットマネーで飛行機の切符を買いまして、エストニアにおじゃましました。
エストニアには、孫泰蔵さんのお力で開設された「VIVISTOP」という施設があります。その施設もあり、日本の方もおられて、それからエストニアの方もおられて、私の希望を一生懸命にかなえてくださった。そういうバックアップがありました。その1人が、ここにいらっしゃっている齋藤アレックス剛太さんです。そういう方々のサポートがあって、だいぶわかってきました。
まず電子政府のショールームというのがあります。外国からの「エストニア詣で」というのがありまして、エストニアは電子政府先進国だから、どこの国からも「ノウハウを教わりに行こう!」ということで、行くわけです。日本からもたくさん来るらしいです。
ただ、私が「日本から来た」と言いましたら、「日本か……」と言って嫌な顔をされたんですね。「また日本から来た」みたいなことを言われたんです。私もそのときは、「なんで私は嫌な顔をされるんだろう?」と思ったんですけれども、日本から来るお客さんと、ほかの海外から来る人は違うらしいんです。
海外から来る人たちは、自分の問題意識を持って来ていて「エストニアの健康保険とあれがどういうふうに結びついているか」とか、「X-Roadというセキュリティシステムのことをもうちょっと詳しく知りたい」とか、テーマを持ってきてらっしゃる方が多い。
でも、日本から来る人は、いわゆる「視察団」みたいな人が多いらしいんですね。「何を聞きに来たんですか?」と聞くと「はあ……」と言われ、「何の話をしてほしいんですか?」と聞くと「はあ……」ってなる。よく聞くと、「視察団の日程の中に組み込まれていて、ここに来ないで外で待っていても寒いから来た」みたいな方もいるそうです。
また、ある方に言わせると、議員の先生の活動状況を地元の有権者に宣伝する意味で、政府高官にお願いして2ショットで写真を撮ってもらって、ブログに載せたりということもあります。まさかそんなことはないと思うんですけれどもね。しかし、あまり(日本人は)的をしぼれず、何を聞きに来たのかわからない人が多いということなんです。
嫌みったらしく、日本語版のAmazonのあれ(本の検索結果を表示したもの)を持ってきて「ほら、ここにあるじゃないですか。『エストニアのなんとか』っていう本が4冊ぐらいありますよ? なにもこんなところまで高い飛行機代を払って来なくたって、これを読めばいいじゃないですか」と言われてたという話も聞くことがあるんです。
私の場合は「聞きたいことはかくかくしかじかだ」と言ったら、「聞きたいことがわかったから、それに答えます」ということで、教えてくださった。
その方に「なんでエストニアのシニアはそんなに協力的なのか?」と聞くと、「我が国の高齢者は、今の電子政府に満足しているんだ」とおっしゃっていました。「成功の秘訣は何ですか?」と聞くと、「とにかく利便性が高くて満足できるサービスを揃えたことだ」ということなんです。当たり前と言ったら当たり前なんですけれどもね。
その次は「ユーザビリティにとことんこだわった」ということだそうです。「操作手順がわからなくなっちゃうことがないようにした。ましてやトリセツ(取扱説明書)がなければいけないとか、コールセンターがなければできないというようなものを作るのは、恥だ」というようなことをおっしゃっていました。
それから最後に、「官民の壁を取り払った」ということです。要するに「役所のためのもの」ではなくて、役所も民間もまぜこぜにしてやったということです。「常に使う側の立場でもって、『こういうときに、どういう画面が欲しいか』とか、そういうことを考えて作った」とおっしゃるんですね。
役所が自分の国の作ったものをけなすことはないので、それはそういうことなんでしょうけれども、私はシニア自身が電子政府をどう見ているか、ぜひ知りたいと思ったんです。
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