2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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坂本陽児氏(以下、坂本):それでは、川井さんですね。海外で働いて、壁を感じたこと。もともと最初は広告系のデザイン会社で……。シンガポールで働いたあとにFabCafeということで、ほかのお二人と立場は違うようなところもあると思いますけれども。
川井敏昌氏(以下、川井):そういう意味で、シンガポールで働いていたときというのは、まず企業の中で……僕は最初にローカル企業で働いた後、日系企業の中で働くかたちになるんです。だから、先ほどお二人が話されたみたいにエクスパッツ(Expats)とローカルの壁みたいなものがすごくあったんですよね。
坂本:エクスパッツというのは駐在員?
川井:そうですね。海外からの赴任者とローカルサイドの人たち。
坂本:日本人同士でもそういうのが。
川井:基本的には日本人と外国人みたいに。日系企業の場合だと、日本人・外国人みたいになります。外国人じゃなくて現地の人だったり、外資系の企業だとそこに白人が入ったりというかたちはあるんですけど。
僕は逆に日本に帰ってきてそこをすごく意識したのは、僕たちが「FabCafe」というブランドを立ち上げてグローバルに展開していくときですね。やっぱり「日系企業」「日本から発信したブランド」となると、良くも悪くも日本色がすごくついてしまう可能性があって。
そうなると、組織的にも入りづらい、自分たちのブランドとして受け止めてもらいづらいということをすごく感じたんですね。
あと、シンガポールにいたときにすごく感じたのは、やっぱり日本人だけで決定事項をしてローカルに落とすような、ブラックボックスなコミュニケーションみたいなものがけっこう見られたんです。それが(現地の)彼らのモチベーションが上がらない部分にすごく連動していて。
僕らもいわゆる日本企業なんだけど、FabCafeをやるときには極力そういうことを、日本人が決めたことでよしとしないというか。必然として上で話すことはありますけど、極力プロセスも含めて、いかにそこに透明性を持たせるかというようなところで、組織としてちゃんと信頼感を持ってもらう。そういうことをやる必要があるかなと感じたので、意識的にやっています。
坂本:あと、FabCafeでおもしろいなと思ったのが、FabCafeと聞いたときに「アメリカかどこかのスタートアップが広げているようなコーヒーショップなのかな?」と思っていたんですけど、聞いてみたら、日本のまさに川井さんが主導となって広げていっている。そこがすごく意外に感じたんですね。どうやってFabCafeのムーブメントは広がっていったんですか?
川井:いまだにその……「本店はどこなんですか?」と聞かれるんですね。本店の中でミーティングをしているのに(笑)。「本店はどこですか? アメリカですか?」みたいな話が出て。
坂本:本店はどちら?
川井:東京の渋谷です。僕らはちょっとラッキーがあったんです。ちょうどTEDxTokyoなどのTEDムーブメントがあった2012年に立ち上げていて、そのTEDxTokyoがヒカリエでやったとき、うちの代表がFabCafeのビジョンを話したんですよ。
そうしたらそこにいた台湾の……現台湾のオーナーなんですけど、彼がすごく共感してくれて。「僕はそういうことをやりたかったんだ」というようなかたちで歩み寄っていったんですね。
もともとFabCafeは僕が海外から帰ってきたこともあったので、「2店舗目は絶対に海外に出したい」という根拠のないビューがあって。「このチャンスをなんとかかたちにしよう」というようなところで動いて、半年後に2店舗目として台湾にオープンしました。
(現台湾オーナーの)彼はハーバード卒でもあるんですけど、そこからハーバードのネットワークで次から次にバババっと、運良く展開していくんですよ。
最初に「国内に店舗を展開していこう」みたいなビジョンでいったとしたならば、「いきなり台湾はなくない?」というような話になったかと思うんです。でも、最初から台湾というか「海外で2店舗目を」となんとなくみんなの中で言っていたので、そこは大きかったと思います。
坂本:練り上げたプランがあったというよりは、話の流れにうまく乗っていったら導いてくれた。
川井:そうですね。ビジョンがあった分、僕らに乗っかれたところはありますね。
坂本:なるほど、おもしろいですね。なにか川井さんの話で思ったことはありますか?
津布楽一樹氏(以下、津布楽):ビジョンは大切だと思っています。海外なので当たり前ですけど、日本もここ数年はそうなのかもしれないですね。一定期間ある会社にいて、みんな自分のキャリアパスの中で会社が動いていく。
それぞれ自分の人生を生きているので、その間に休息を取る日があり、会社で働くときがあり、会社が動くときがあり、自分で仕事をするときがある……ということの繰り返しだと思うんですね。
だから、僕らと一緒に働いているときは「じゃあどういうことに意義を持ってもらうか?」「どういうことにみんなでがんばっていくのか?」「今僕らと一緒にいることで、どういうことを達成できるのか?」といったようなものが必要です。
僕はそれを「この指とまれ」と言っているんですけど、「この指とまれ」のこの指をどう設定してあげて……設定してあげるというのは、別にこっちが勝手に設定するわけではないんですよ。「この指」をどうやって作っていくかがすごく大切なんです。
それをビジョンと呼んでもいいですし、いろんな言い方があると思うんですけど、それに向けてやっていく。そこである一定期間内に意義を感じてもらえれば、会社にいてくれるだろうし、違う目的が次に見つかれば、ほかの「この指」にとまるでしょうし。
みんなその新陳代謝で生きていると思うので、「一緒に働いているタイミング、期間は『この指』に向かってみんなでやろうよ」ということを、いかにクリアに日々作っていけるかかなと思いますね。
坂本:人はそもそもバラバラに動いている。ただ、ビジョンなど、なにか魅力的なものがあれば分け隔てなくやりたい人は集まってくれる。集まったからには一生懸命やる。終わったらその過程でなにかを学んでまた次に会ってもいいし、会わなくてもいいし。そういうような感じ。
津布楽:そうですね。実際、僕のところのチームでもこの5年間、僕がいる間でも平然と(他の)企業へ行って、また戻ってくる子とかもいますし、クライアントサイドに行って、クライアントという意味で今一緒に仕事させていただいている方もいますし。
そのコミュニティの中で、当然一人ひとりが会社の名前ではなく個人の名前で生きていくので、みんなそうやってどんどん動いていくわけです。
坂本:なるほど。
津布楽:なので、その人と一緒に働くときに「じゃあどういうふうな魅力を作ってあげるか」という感じだと思います。だから、国籍とかもあんまり(関係がない)。国籍という概念で人を見ていないというか。
坂本:なるほど。じゃあ、ちょっとギアを上げていきましょうか。そうですね、今いい話が出たと思いますけど、鈴木さんが、日本人の出す名刺、日本人の自己紹介の仕方に言いたいことがあると。
鈴木洋介氏(以下、鈴木):いやいや、余談なんですけど(笑)。僕がずっと前から思っていたことがあって。よく海外で仕事をしたり、こういう会合で会ったりするときに、最初は「なんだろう?」と思ったんですよ。
多くの日本人の場合は、海外に行ったときに……日本国内で日本人同士でもそうですけど、傾向としてやっぱり会社名が先に来るんですよ。そういう習慣というか、しきたりがあるのはわかるんですけれども。
ただ、僕から見るとちょっと変だなと思っていて。海外だと普通ですけど、最近の傾向としてはやっぱり、まず自分が「〇〇です」「鈴木洋介です」と。それで話し合った結果、どこかのタイミングで「会社はこういう会社」という話はするんですけど、日本では当然のように会社名が先行する。
もちろんそれはわかるんですよ。会社をちゃんと立てる習慣があって、会社大好きですよと言うのはいいことだと思います。ただ、やっぱり海外で働いている人だと、逆にそれは違和感があって「この人、自信ないんだな」と捉えられがちなところがあると思います。だからそこが不思議というか、「変だな」「もったいない」と思います。
坂本:例えばですけど、僕と鈴木さんが初対面だとして、初めて会うときに「電通の坂本です」と言ったら、「なんで社名から言うんだ?」というのはちょっとある?
鈴木:仕事の設定だったらまた別ですけど、こういう会合やイベントがあったときに会話すると。
坂本:ひょっとしたら、日本以外の方に「電通の坂本です」みたいな自己紹介をすると、そういうふうに(自信がない人だと)受け取られる可能性もある?
鈴木:そう受け取られることが多い。多いというか、そういうケースはけっこうあると思います。すごくもったいないです。
坂本:自分の魅力を見せずに、なぜ社名を出すのか、みたいな。
鈴木:そのあとにも社名を出すと、なおさら「さらに社名か」と思われてしまって。
坂本:おもしろいですね。今のお二人の話にはつながるところもあるかなと。やっぱり日本は終身雇用だし、ある意味、(1つの会社と)何十年も一緒に過ごす。いまだに終身雇用が多い企業もあります。何十年も同じ職場で過ごしているうちに「自分よりも会社の看板のほうが大事だ」と思ってしまう感じだと思います。
あとは、その会社の中のプロジェクトということでも、前後の文脈で「上司に言われたからやっている」みたいなところが多い。そういう日本のビジネス的な慣習とつながっているところもあるのかなと思いました。すごくおもしろいと思います。
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