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グローバルでクリエーティブに働くことの舞台裏(全4記事)

世界で働く日本人が、一番壁を感じることとは? グローバルでクリエーティブに働くことの舞台裏

2019年5月27~30日、「Advertising Week Asia 2019」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。本セッションでは、広告やコンテンツなどのソフト領域で海外と渡り合い、成功を収めている先駆者らが登壇。それぞれのユニークな視点から、アイデアやコンテンツの領域で日本人がぶつかりがちな壁やその乗り越え方などについてディスカッションを行いました。今回は、「世界で働いて、一番壁を感じたこと」をテーマに意見を交わしました。

グローバルでクリエーティブに働くことの舞台裏

坂本陽児氏(以下、坂本):みなさまこんばんは。本日は本当にいろんな場所で、すばらしいセミナーやパネルディスカッションが繰り広げられていると思います。その中でも私たちのパネルディスカッションにお越しいただきまして、ありがとうございます。

私、司会進行をさせていただきます、Dentsu GBC(Global Business Center)の坂本陽児と申します。

本日はタイトルが「グローバルでクリエーティブに働くことの舞台裏」ということで、まさに世界中でクリエーティブなリージョンで活躍している3名さまにお越しいただきました。

最初は、Dentsu ShanghaiのChief Creative Officerである津布楽一樹さん。次は、R/GA TokyoでManaging Directorをやられている鈴木洋介さん。そして、FabCafeでChief Operating Officer、COOをされている川井敏昌さん。ということで、本当に三者三様な立場と文脈で、世界で働かれて活躍されているみなさまでございます。

実は私も2016年ぐらいから、シンガポールや台湾にある電通の各社でクリエーティブディレクターとして働いてまいりました。その経験も織り交ぜながら、「グローバルでクリエーティブに働くことの舞台裏」というのをみなさんにしゃべっていただきます。

それが「これから世界に出たいな」「今世界に出ているんだけど、どうしたらもっと活躍できるんだろうか」という思いを持っている方たちの刺激になればと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは、みなさまに軽く自己紹介……すでに有名な方ではございますけれども、あえてバックグラウンドなどを軽くシェアしていただこうと思っております。では、最初に津布楽さんお願いします。

海外のクリエーティブ領域で活躍している3名が登壇

津布楽一樹氏(以下、津布楽):こんにちは、津布楽(つぶらく)と申します。私は中国の上海に住んでいて、5年ほど北京と上海で仕事をしています。その前の約5年間は、中国に行く前もグローバルなビジネス、グローバル拠点をいろいろ回っているという仕事をしていまして。

そういう意味では、手前10年ぐらいは海外の仕事を日本から、もしくは中国に住んでやっているという感じです。今は上海のクリエーティブチームを管轄しているというのが、私の簡単なプロフィールでございます。よろしくお願いします。

坂本:じゃあ、鈴木さん。

鈴木洋介氏(以下、鈴木):鈴木洋介です。けっこう日本語がやばいのですが、今日は久々に日本語で話すので緊張しています。最近は仕事で日本に来ることも多いですが、もともと海外暮らしが長いんですよ。いろんな意味でハイブリッドな感じです。

R/GA Tokyoを2017年に立ち上げたんですけれども、僕もいろんな海外で暮らして仕事をして、いろんなことを経験してきたので、今日はちょっとでも役に立つお話ができればと思います。よろしくお願いします。

坂本:では、次ですね。FabCafe COOの川井さん。

川井敏昌氏(以下、川井):ちょっと1人だけFabCafeというカフェで、「お前、なんでここにいるんだ」という感じなんですけど(笑)。半分はカフェをやっていて、もう半分はクリエーティブプロダクションみたいなことをやっています。

僕も10年ぐらい前にシンガポールに移り住んで、3年間、その中ではデジタルストラテジックプランナーということで、間接的に電通の中で仕事をさせていただいたりしていました。

FabCafeという事業を始めて7年なんですけれども、今グローバルで10店舗を展開しています。ここにいる方がどのくらい英語をしゃべれるかというのがあるんですけど、僕がシンガポールに行ったとき、本当に「TOEIC350点ぐらいなんじゃないか」ぐらいなところからで(笑)。

10年間グローバルで仕事をしているので、役に立つというか、人に勇気を与えられる可能性があるなと思って、ちょっと今日はお話ができればと思います。よろしくお願いします。

坂本:じゃあ、会場のウォームアップも兼ねて拍手をしましょうか。

(一同笑)

(会場拍手)

世界で働いてみて、一番壁を感じたこと

坂本:今日は本当に三者三様でおもしろいんですよ。津布楽さんは、実は今も電通の社員ではあるんですよね。一緒に同じ作業をしていたんですけれども、いまやクリエーティブチームは100何人だっけ?

津布楽:120人ぐらいですね。

坂本:120人のほぼ現地の人たち。台湾の方とかもいますけれども、多種多様な国から集まっている人たちをリードしているという、文字どおりChief Creative Officerをやっているというところですね。

かたや鈴木さんは、舞台は東京なんですけれども、R/GAは世界的にもすごくレピュテーションの高いグローバルのエージェンシーですよね。イノベーティブなエージェンシーのところで、逆に世界戦略の中でいかに東京で結果を出すかということで日々がんばっている。

かたや川井さんは、FabCafe、比較的grassroots(草の根)なところでボトムアップ型で、まず現地にうまく溶け込みながらFabCafeというムーブメントを広げていっている。みなさんそれぞれの角度が違うので、いろんな意見が聞けると思います。

じゃあ自由に話していただいてもいいんですけれども、あまりに脈絡がなくなってしまうかなと。前回2〜3回Skypeでやったんですけれども、けっこうみなさん自由な発想だったので、今回はテーマを2〜3個持ってきました。まずはそれに沿って、話をしていこうかなと思います。みなさまのほうでもなにか意見や聞きたいことがあれば、どんどん野次を入れてください。

では、最初のテーマですね。やっぱりみなさん気になると思いますけれども、「世界で働いてみて、一番壁を感じたこと」。これをテーマに進めていきたいと思います。じゃあ津布楽さん、世界に出てみて一番壁を感じたことはありますでしょうか?

津布楽:もちろんそれは、言語の壁、カルチャーの壁とか。価値観の違う人たちと一緒に同じ目標に向かって仕事をするので、そういった意味での壁は当然あります。壁という言い方が正しいのかはわからないですけど、一番「どうしようかな」と最初に思ったのは、「『駐在員』ということをどう捉えるか」でしたね。

「たまたまそこに外国人がいることの価値」をどう生み出すか

津布楽:企業さんによって、いろんなタイプの駐在員の方々がいらっしゃると思うんですね。ヘッドクオーターとの仕事をスムーズに行うための役割を持っている駐在員の方もいれば、ローカルマーケットでバリューを出すために駐在している人もいる。いろんな方がいると思うんですけど、私の場合は比較的後者だったんです。

「そこに私がいる必要があるのか?」というバリューを当然出さなくてはいけないので、「それをどこにどう置けばいいのかな?」というのをすごく考える。つまり、私が……最終的に私は上海で仕事をするんですけど、私がいることによって、どれだけ中国のマーケットにおいて存在意義を出せるか。

それは「そこのローカルの人材ではなく、ほかの国から来る人材ではなく、たまたま日本人である私がそこに行くことで、なにか貢献できることがあるのかな?」「どういった貢献をすればいいのかな?」ということを考えて、それに基づいてできるだけかたちにしていくことです。

壁というよりは、「駐在員なのかもしれないけれど、どういった存在意義を作っていくことが必要なんだろう?」をすごく考えるといった感じですかね。

坂本:そうですね。僕も同じです。確かに海外にいるときはすごくそれを感じました。「なんで日本人の彼がそこでリードしなくちゃいけないのか?」とか、そもそも日本人じゃなくて「じゃあ、なんでこの人がリードをしなきゃいけないのか?」とか。

そこの理由を、日本人である……日本のクライアントがお客さまとしているようなケースもあるのですが、じゃあそれを外したときにどういう価値を生み出せるのかというのは、とても難しい。

逆にそこが一番クリエイティビティを発揮、必要とされるところかもしれないですね。部下から見て「なんで津布楽さんがリーダーなのか? COOなのか?」ということに、ちゃんと応えて結果を出すというような。そういう感じですよね。

津布楽:そうですね。僕も5年前に行ったときは部下が1人もいなくて。今は100何人いますけれども、1人で行っちゃったんですね。だから、どういうふうにグロースさせていくのかというときに、「たまたまそこに外国人がいることの価値」をどう生み出すかということはすごく考えていました。

自分で作ってしまう壁と、会社が作り出す壁

坂本:鈴木さんはさまざまな企業を渡り歩いて、その辺りはどうですか?

鈴木:いろんな企業と、あといろんな国で仕事をさせていただいたという意味では、壁は本当に2つあるなと思っていて。

1つの壁は、いわゆる自分です。人の性格にもよると思うけど、壁を自分で作ってしまう傾向がある。守りに入るというか。やっぱりどの国で働いても、自分でちゃんと自分の入るポジショニングと、周りのコンテキスト、いわゆる環境を理解した上で、自分がどう働くかという意識をずっと持ち続けるのは、壁というよりも「大変なことだな」と思っていて。

ただ、それでちょっと変に遠慮したりすると、たぶんそこで止まってしまう。自分で壁を作るとうまくいかなくなるので、大きな考え方として自分の限界を感じるときがあるということですね。

もう1個の壁は、逆に自分というよりも会社の問題だなと思っていて。これは持論ですけど、会社がそのスタッフを生かすか殺すかは、会社次第でもあると思うんですよ。

例えばマーケティングだと、ここ数年間の大きな課題はマーケティング=広告になってしまっていて、ある意味コストですぐカットするみたいな話が出てくると思うんです。ただ、普通に考えたら本来マーケティングは広告という話じゃなくて、マーケティングの存在意義はやっぱり機会を創出することなんです。

会社も同じで、会社としてその社員にいかにいろんなオポチュニティを作ってあげられるか。これはある意味、会社の責任でもあると思うんですよ。自分が持っている考え方と会社と。

立場を介したオペレーションで、会社がその社員のオポチュニティを作ってあげられる環境かどうかというのは重要かなと思います。それが両方ないと、どこへ行ってもうまくいかないことはありますね。

どの国でも「自分」は変わらないという感覚

坂本:海外で現地の人をどうモチベートして動かすかの秘訣というか。

鈴木:まぁ、そうですかね。日本から外へ行く方も、ほかの国から日本に来られる方も、やっぱり両方にちゃんとオポチュニティを作ってあげるという意識が、会社も個人の中にも足りない。

坂本:そうですね、ちょっと僕は古い感覚なのかもしれない。確かに、日本から海外へ行くとき「海を越えてなにかを成し遂げてくるぞ」というすごい気負いを持っていくんです。それが逆に縛りになって、向こうで対応すべきものに柔軟に対応できないという方もいらっしゃるのかなと思いますね。

あとは、やっぱり現地の人を動かすには、現地でモチベーションを高められるような、「こういうことをすれば、リワードが来てちゃんといいことがあるよ」ということを示しながらやっていく。そうすることで壁を超えたりできるのかなとは思いますね。

鈴木:国へ帰っても、例えば電通なら電通で、本社から海外へ行ったとしても、会社自体は一緒で自分のホームに帰っただけなので、その意識でやれるかどうかという気がします。

坂本:すいません、ちょっと脱線します。鈴木さんは俗にいう帰国子女……ですよね。

鈴木:そうです(笑)。

坂本:実はずっとタメ口でコミュニケーションしていて、いい感じなんですけど。

鈴木:(笑)。

坂本:逆に、帰国子女として見ると、日本の人が海外へ出るときに「もっとこうすればいいのにな」と思うことはありますか?

鈴木:僕が日本で生まれて日本人として海外へ行って、当然知らない国、文化、社会、人という中で最初にやっていたのは、いかに自分に素直でいられるかという気持ちを大事にすることですね。

それは僕が帰国子女だからというのもあると思うんだけど……というよりも、あんまり関係ないです。逆に言うと、どの国でも「自分」は変わらないはずなんですよね。環境が変わっているだけで。そこの感覚のような気がします。

坂本:ありがとうございます。

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