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NYLON JAPAN編集長&ノオト編集者・朽木氏が語る、メディアと編集の未来(全3記事)

個性を生かすにはロジカルなものが必要 『NYLON JAPAN』編集長が海外のクリエイティブから学んだこと

DeNA Paletteが主催する「Palette Party」。第3回となる今回は、『NYLON JAPAN』編集長の戸川貴詞氏、ノオト編集者の朽木誠一郎氏を迎え、「Writer Nite」というテーマでトークセッションを行いました。

編集者・ライターはどんなキャリアを積むべきか?

石原龍太郎氏(以下、石原):では、最後の質問に入っていくんですが、ここにいらっしゃる方々は、ライターや編集者の人が多いと思います。「編集者とライターで、これからどんなキャリアを積んでいけばいいかな?」ということを、大先輩と若手編集者(戸川氏と朽木氏)にまず聞いてみたいなと思うんですが。

その前に、ここにいらっしゃる方々に、どんなキャリアプランを描いているのか質問をしてもいいですか?

(立ち上がって、観客席に歩み寄る)

すみません、ライターとか編集者の方ですか? どんな媒体とか、どんな編集を?

参加者1:今、フリーでやっております。

石原:フリーで活動されてるということで、どんなキャリアをこれから歩んでいこうとか考えてらっしゃいますか?

参加者1:最近やっぱり、Webも紙も両方やるんですけど、私は紙が好きだなという気持ちがあるので、今後は紙中心にやっていきたいと思っています。

石原:はい、ありがとうございます。

これから編集者やライターのキャリアはWebや雑誌みたいな活動する分野が広がっていくかなと思っていますが、ちょっと前だと雑誌の出版社や、雑誌の編集者はよくも悪くもそれだけみたいな。紙なら紙だけしかできないという言い方はアレですけど、それ1本で進む人が多いというのは、僕の肌感覚として感じています。

個人的には、これからというのはジェネラリスト的なスキル、例えば自分で編集もできてライターもできてみたいなとか、紙とかWeb関係なくなんでもできる人が、これから持っているスキルセットとして必要なのかなと思っています。その辺は実際に現場で働いている方として、例えばどんなキャリアを考えていますか?

朽木誠一郎氏(以下、朽木):いろんな先輩とかとお話していろいろお聞きする機会はあるんですけど、さっきおっしゃっていた「なんでもできなきゃいけない」というのは……どちらかというと違うことを言って申しわけないんですけど。

石原:はい。

朽木:なんでもできなきゃいけないというのは、きっと前提なんだろうなと思うんですよね。求められてるものは当然多いし、今、少なくともWebのライターさん、Web中心にやっている方だったら、いい写真を撮れます、文章も書けます。なんだったら、動画も撮れますとか。1つの記事をいろんな要素から立体的にできますと言ってくれたら、それは当然仕事が振りやすいじゃないですか。

なので、きっとなんでもできたほうがいいのは決まっていて、一通りたぶんできなきゃいけないんだろうなという気がしています。

海外と日本の出版社の違い

なんですけど、そうすると縦に広げるか横に広げるか、きっとどっちかになっていくんだろうなとも思っていて。

今、動画がブームだと言ってますけど、例えば僕、今インフォグラフィックのメディアとかを担当させてもらっていて。「じゃあ、朽木、お前インフォグラフィック作れんのかよ」と言われたら、作れないんです。僕は、Photoshopは本当にちょっと色変えるぐらいしかできないので。

今はあとWeb漫画もブームじゃないですか。きっと、どんどんそうやってわかりやすかったり、パッとわかるもののほうにシフトしていくんじゃないかなと思っていて。

横に広げていくというのもけっこうしんどそうだなとは、個人的には思ってます。写真もできて、動画もできて、イラストも書けて、漫画ができて、どんどんスキルを増やすというのは、ちょっと厳しいんじゃないかなと。

だとしたら、例えば、ある程度は一通りできるという前提で、なにか1つ飛び抜けたもので勝負していくというのが、現実的なんじゃないかなと思っているんですけど。言ってもね、駆け出しなんでわかんないですけど、という感じです。

石原:戸川さんはどのような感じでしょうか? 紙、Web関係なしにいろんなプロデュースされていますけど、どんなキャリアを歩んでいくか。ここにいる方々にアドバイスを。

戸川貴詞氏(以下、戸川):先ほどから話に出てるような、ある程度のジェネラリストであることというのは、そうであったほうがやりやすくはあるかなとは思います。ただ、別にそうじゃなきゃいけないと思っているわけではないです。

違う角度で話をすると、雑誌で言うと、日本の出版社はジェネラリストをたくさん育てる。例えばファッション誌であれば、ファッションもビューティーもカルチャーも、みんながある程度ローテーションでできるように、いろんなことをやれる人というのを育てるというのが、昔からのやり方。

ただ、海外では基本的にはスペシャリストを育てて、スペシャリストを集団化させてトップがまとめる。ファッションだったらファッションしかやらないし、ビューティーだったらビューティーしかやらないし、ブッキングする人だったら、ブッキングしかやらないし、みたいな。本当に極端なスペシャリスト性を持っているところがほとんどなんですね。

僕が独立した時に、最初『DAZED&CONFUSED』というロンドンの雑誌の日本版をやってたんですけど、その『DAZED』であったり、『NYLON』であったり、海外に行っていろいろ見ていて、そういうところにけっこう最初は衝撃を受けたんです。なんか、ぜんぜん自分がやってきたことと違うことをやってるなと。それでも、日本……この話すると長くなりそうだけど(笑)。

ベースにロジカルなものがなければ、かたちにならない

自分がやっていながら言うのもおかしいんですけど、編集者という言葉がすごい嫌いで。「者」とつく呼称がやけに偉そうだし。とくにスペシャルなスキルが必要なわけでもないし、仕事の業務の1つなのに、なんで編集“者”って言うんだろうとずっと思ってて。言ってる人たちも嫌いだったし、言ってる自分も嫌だったし。

今はさすがにそんなことはないと思うんですけど、昔はお金のことは編集者は考えなくていいとか。アーティストみたいな感覚で捉えられてることがすごく強かったんですよ。

ただ、海外行った時に、よりクリエイティブなことをやっている人たちが話をする内容というのは、本当にビジネスのこと、数字のことばかり。でも、やっていること、作っているもののクリエイティブレベルでいったら、みんなもう数段上のことをやっていて。

その感じが僕にはすごく衝撃というか、おもしろかった。「あ、こういうんだったら、まだまだやっていけることたくさんあるな」と思って。

本当にいろんな確信が持てた1つの事例なんですけど、最初に話したように、きちんとものごとをロジカルに考えられるようにするというのは、やっぱりすごい大事なことなんだなと。

それぞれの個性や強みを伸ばして、それで代わりがいない人間になっていけば、仕事というのは必ずたくさんあると思うので。だから、なにかに合わせるというより、個性を生かしつつベースにそういうロジカルなものがキチッとあるということに尽きる。

そうなれれれば、本当にいろんなことができるようになると思います。受託で受ける仕事もそうですし、自分から新たなことをやり出すにしても、そういう発想であれば必ずできると思います。その人にしかない個性というのは絶対にあるので。

今日ここに来ていただいているみなさんそれぞれに強みが、僕にはないものが絶対にあります。それを生かすためには、ロジカルなものがベースになければ、それはかたちにならないので。まず、かたちにして実行することだと思います。若干、質問と答えがズレちゃったかもしれないですけど。

石原:ありがとうございます。進行にいろいろ不手際がありましたが、一連の質問に対する回答によって、いろいろ活動する領域とか役割分担は、ここにいらっしゃるみなさまはバラバラだと思うんですけども、なにか汎用的な要素というものを持ち帰っていただいて、実際の活動に生かしていただければなと思っております。

では、これでトークセッション終了させていただきます。お2人、ありがとうございました。

戸川&朽木:ありがとうございました。

雑誌にすることでキュレーションのおもしろさは失われる?

石原:では、質疑応答のお時間に移ります。今のトークセッションの内容に関することのみで、質疑応答を受け付けたいと思います。質問のある方、挙手をしていただけますか?

(会場挙手)

石原:はい、じゃあ、一番奥の方。

参加者2:戸川さんにおうかがいしたいんですけども。『MERY』はキュレーションメディアというか、1つのテーマに対して複数のライターさんが、それぞれの切り口で記事を作っている。例えば、「22時以降にご飯を食べてはいけない」という記事があったりだとか、「22時以降にもご飯は食べてもいいものがあるんです」といったものだったりだとか。

そういった複数の視点で記事になっていくという、そこもまた醍醐味としておもしろいところだと思ったんですけども、『MERY』を雑誌化するとなった時に、編集長や編集者がいて1つの編集方針が定まっていると、それに沿ったかたちで1つの雑誌になっていく。1つの本で読者と対話するというかたちになっていくと思うんですね。

そうすることで、もしかしたら『MERY』の持っている、キュレーションメディアの持っているおもしろさというのが失われるというか。

そういったところを意識されたのか。もしくは、方針をきちんと定めていたのか。そのあたりのことを教えていただきたいんですけれども。

戸川:はい。そうですね、この1号目、まだ1号しか出していないので、そのなかでの話をさせていただきます。

まず、22個のキーワードについては、『MERY』のキュレーション・プラットフォームで引きのある、人気のあるキーワードを引っ張り出しました。それで、そこからコンテンツ化させたというやり方をしました。今後どうしていくかというのはまだ明確ではないんですけれど。

先ほどちょっとだけ話したように、雑誌においてはブランディング的な意味と、『MERY』というコミュニケーションのフラッグシップになっていくようなものにしようと思っているので、このタイミングで、キチッとこちらが発信していきましょうと。

ただ、先ほどおっしゃったように、プラットフォームではいろんな意見があっていいと思うんです。でも、やっぱり体験としてはまったく違いますし、結局自分で選択していくものなので。

そこが相互的にネガティブなほうに振れるということは、基本的にはないと思っています。あくまで雑誌という紙媒体のかたちにすることでコンテンツをより豊かにすることが、Webにもいい影響を及ぼすと思ってやっているので。

これはやっていきながら少しずつ変わっていく部分もあると思いますし、見えてくる部分もあると思います。そういったこともユーザーとよりコミュニケーションをできるだけ取りながらやっていこうと思っています。

なので、今現在ではそういう感じで1号目を作りました。今後また、みなさんの声を聞きながらいろんなかたちで……いろんなかたちというのは、雑誌の方向性を変えるとかそういうことではないんですけど、やっていきたいなと思っています。

おそらく質問に対する100パーセント明確な答えではないかもしれないんですが、ご了承いただければと思います。

なぜ『MERY magazine』は500円に?

石原:ありがとうございます。ほかにいらっしゃいますか?

(会場挙手)

一番窓際の男性の方。

参加者2:戸川さんにおうかがいしたいんですけれども、さっき『MERY』を定価500円で販売するというところで、スタバのコーヒーと同じ500円でもそれより価値を持ってもらいたいという話がすごいおもしろいなと思ったんですが。なぜ500円という価格になったのか、それにまつわるお話があれば、ぜひおうかがいしたいなと思いました。

戸川:そうですね。それは今質問されて……内容に対して自分があまりロジカルじゃないなと思いながら、質問を聞いてたんですけど(笑)。

本当にベタに「ワンコインがいいよね」というところからスタートして、メインのユーザーがだいたい20代前半の方たちが多くて、「雑誌はもう少し上を狙おうか」というような思いで作っているんですね。

相対的なものの考え方になってしまっていますけど、そのクラスの雑誌の市場を見ると、だいたい580円とか600いくら、最近だともうちょっとアッパー層だと700円ぐらい、800円ぐらいのものもあると思うんですけど。そのなかで500円というのはシンプルにきれいかなと思って。

なので、収益構造的な話をすると、広告が一番のビジネスポイントなんですけど、雑誌の販売だけで言うのであれば、(価格は)今後考え直さなければいけないかもしれないです。

ただ、今はブランディングフェーズという意味でも、なるべく多くの人に届けて、いろんな検証的な意味もあったので、今回は500円となりました。例えばこれが「ページ数が倍になりました」とかになってくると、考えないといけないかなと思います。

石原:はい。ほかにいらっしゃいますか?

(会場挙手)

じゃあ、その前の方。

メディアを成功させるには、Webと紙をパッケージとしてとらえる

参加者4:朽木さんにと思ったんですけど、すいません、戸川さんに質問させてください(笑)。

朽木:ちょっと!

(会場笑)

私個人が出版社でネットの仕事をしてまして、ピンポイントでうかがいたいんですけど、今回『MERY』を雑誌にして、おそらく商業的にかなり成功されたんじゃないかなと思います。今どういうWebメディアが、あるいはどういうパターンが成功するかということを聞きたいです。

具体的にこのWebメディアと言ってもらってもいいですし、理想でもいいですし、希望でも構わないんですけど、けっこう具体的に聞きたいなと思っています。

あともう1点。『MERY』の雑誌、僕、今日初めて見たんですけど、わりとなんかピントが甘い写真が多くて、どういう意図があったのかなという、でき上がりのところというか、クリエイティブのところで、なにか意図があったらお聞かせいただければと思います。

戸川:わかりました。1つ目の質問ですけど、おそらくどのパターンでも可能性はあると思っていて、一番重要なのは取り組み方かなと思っています。極論を言ってしまえば、なにをもって紙媒体を作るのかという意図が全社的に共有できて同じ方向に向かなければ、たぶんそれは成立しないと思います。

例えば、ただただシンプルに「このWebメディアが調子いいんで、これの雑誌版出したら売れるよね」というと、僕はたぶんビジネス的には成功しないと思います。

詳細はもちろんここでは話せないんですけど、ロジカルなことがベースにあることも含めてですけど、そういうことをキチッと何度も何度も話し合って。そこから、そのうえにどんなクリエイティブを乗っけていくかということだと思うので、それが一番大事なんじゃないかなと、僕は思っています。

海外メディアで、Webメディアでも大成功して、雑誌でもかなり成功している媒体にはヒントがいっぱい詰まっています。そこの人たちと話をしていても、やっぱり(Webと紙を)別物ととらえていないというか。パッケージで1つのプロジェクトととらえて、いろいろ考えているので。

2つ目は、なんでしたっけ? (会場を指さして)僕、そのDeNAのDのチョンチョンが、海外の外国人の人が笑顔マークにするやつなんだというのに今気づきました(笑)。

石原:本当ですか(笑)。

(会場笑)

参加者4:けっこう、わりと甘い感じの写真が……。

戸川:それは『MERY』のプラットフォームで人気のものをいろいろと精査していくなかで、女の子たちに本当に響いているものがどういうものだろうと考えた時に、ちょっとガーリーなテイストのものが、やっぱりすごく興味を引いていたので。そこに合わせるために、全体的にそういう方向性でいこうとなりました。

なので、ピントがうんぬんとか、写真で服がよく見えるとかということよりも、その1つの本としての商品価値というか、写真としてのかわいさであったり、データ上も含めてそういうものを強めにしたほうがいいかなという感じです。

質問者3:ありがとうございます。

石原:お時間が近づいたので、ラスト1人にしたいと思うんですけども。質問のある方いらっしゃいますか? 大丈夫そうですかね。では、以上で質疑応答を終了します。ありがとうございました。

戸川&朽木:ありがとうございました。

(会場拍手)

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