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「先生」を考えなおす。(全4記事)

学び続けている人は、想定外の事態でも「ビビらない」 ピンチの状況でも、不安やパニックにならない経験値の活かし方

「教育現場において日々当たり前のように使われる言葉を、みんなで考えなおす場」として、「HASSYADAI Teachers' Forum 2023」が開催されました。 時代が変わる中、「先生」は何を変えず、何を変えていくのか。本記事では、元文科省副大臣であり東京大学・慶應大学教授の鈴木寛氏、暮らしの交通株式会社代表の田島颯氏、ハッシャダイソーシャル共同代表理事の三浦宗一郎氏が、学生をとりまく現状と、人間が学びたくなるきっかけについて語りました。

先生の役割は「タイミングを見極めて縁をつなぐ」こと

三浦宗一郎氏(以下、三浦):なるほどですね。まさに「憧れを散りばめておく」という、先ほどすずかん先生が言っていた話と今の話はすごく近いと思っていて。ある意味、先生の役割はおもしろい人間を集めるキュレーターみたいになってきてるんですかね。

鈴木寛氏(以下、鈴木):そうですね。キュレーターと、仲取り持ちというか。「今のこの子のタイミングでは、この人と縁をつないであげたらいいな」とか。

あるいはこの「コト」と。名人、名物、名所、名演、名著。「今この子にこの芝居を勧めよう」とか「今この子に糸井重里さんを勧めよう」とか。「ここに行ってみたら」「この人に会ってみたら」「この本を読んでみたら」みたいな。だからキュレータープラス、その人へのレコメンデーションという。

三浦:選択肢を広げるコミュニケーションということですよね。

鈴木:選択肢は、全体として見たらものすごく広いんだけど、その時その人にはほぼ1つです。もちろん来週になったらまた別のものになるというか、選択肢をドバっと見せちゃったら、人間は選択できなくなるんですよ。

三浦:めちゃめちゃストレスですよね。

鈴木:うん、行動経済学的に言うとね。だからやはり、このへんまで来てるのがわかったら縁を結ぶ。まだ内省してたりインプットが足らなかったり、結局コップの水と同じで、いろんなものを入れていったら(あふれてしまいます)。

まず今の子どもにはリハビリが必要なの。あまりにも外からいろんなものを入れられまくってるから、もうお腹いっぱいというか、栄養ドリンクなんかをガブ飲みさせられて「もういいです」みたいな。だからある種の絶食じゃないけど(笑)、1回コップから全部出さなきゃいけない。

「ものすごい進学校」に通う学生がこぼした苦しみ

三浦:僕らは学歴が中卒・高卒というのもあって、進路多様校に呼ばれることがすごく多いんですよ。でも最近、進学校にも呼んでいただけることがすごく増えて、とてもありがたいなと思うんです。この前ある学校で話をしていて、終わったあとに「ちょっと、三浦さん……」って(1人の生徒が)来て。

ものすごく進学校で、周りの子たちもみんな進学するし、親からもすごく支援を受けてるし良い先生ばっかり。「でも私はしんどい」って泣き始めちゃったんですよ。「そうか、しんどいか。大学に行かない選択肢はないの?」と言ったら「でも大学に行かないってことは、道を外れるってことじゃないですか」と言われたんですよ。俺は外道かって(笑)。

(会場笑)

「俺は外道に見えるか」と言ったんですけど。それで散々話を聞いて「どこ受けるの?」と聞いたら「私ぐらいだったら、一般で早稲田しか受かりません」と。「全部時間返して!」っていう(笑)。

(会場笑)

でも本当に、そういう意味での選択肢のなさ(を感じた)というか。AIだったらその人に学力を上げるためのレコメンドしかしないところに、観察をして「ちょっと違うこいつをぶつけてみよう」というのができるのがまさに人で。そして、この社会で最も子どもたちの近くにいる先生という仕事だからできることなのかな、と。

今の子どもに一番必要なのは「余白」

鈴木:もちろんケースバイケースですけど、今の日本にとって教員、あるいは教師というのは、家庭や地域や民間や、放っておいたら(出会え)ないものをレコメンドするとか縁づけることだと思うんだけど。今の状況でないものは「余白」だと僕は思うんですよね。

三浦:わかるー……(笑)。

鈴木:もちろんケースバイケースだけども、今多くの子どもたちにとって一番必要なことは、余白あるいは自由だと思います。

要するに、時間はその子にしかない資源なんですよね。それを本当に自由に自己決定できる時間がほとんどない。あるいはどこの空間にいるか、三豊にいるか六本木にいるかもほとんど決められない。

三浦:それね、僕は21歳の時に大発見をしたんです。僕は会社を辞めて翌日からバックパックをして半年間旅に出て、友だちの結婚式があったので帰ってきたんですよ。終わって「いやぁ、良い式だったな」と思って自分のカレンダーを見たら、予定が入っているのが祝日だけだったんですよ(笑)。

鈴木:(笑)。

三浦:(祝日だけ)色が違うの。「暇やん」ってびっくりして、すごく怖くなったんですよ。振り返れば小学1年生の時から時間割が決まっていて、15~16歳の時からは工場のチャイムで始まって工場のチャイムで終わって。

暇な土日はあっても、それは次に始まる月曜日のための暇であって、本当の暇ではなかったっていう。「人生ってむっちゃ暇なんや」と気がついた時に「どうせ暇なら楽しい暇つぶしがいいな」と思えたんですよ。

人間は「怖くなった時」に学ぼうとする

鈴木:そのカレンダーを見て怖くなったのが学びのポイントで、怖くなった時に学ぶの。要するになんで学ぶかっていうと、「ビビらないため」なんだよね。人間はいろんな意味で不安になってパニックになっていくわけです。しかし、学んでいる人はビビったりパニックになりにくいんですよ。

例えばコロナが来た時、みんながこのXというものに対してどうしていいかわからず、世の中が騒然として浮き足立つわけですね。その時に学問を修めてる人は、ファクターXと遭遇した時にどのように臨んだらいいかという姿勢や方法を身につけてるから、そんなにビビらないんですよ。

まず落ち着こうと。それで、かつて世界にこのことを調べたやつがいるか、あるいは今同時代にどこにいるかを調べる。そうすると、専攻論文とかを検索をすると「こいつとこいつがこの国では詳しいんだ」とか「アメリカに詳しいやつがいる」とかわかるわけですよ。

詳しいやつが世の中に存在してると思うと、ちょっと安心するじゃないですか。「そいつに聞けばいいんだな」あるいは「そいつが言ってることを学べばいいんだな」とわかる。これが先行研究っていうものです。

次に、重さを測ってみたり割ってみたり、レントゲンにかけてみたりといった「どうやって実験していったらいいのか」(を考えます)。要するに実験の仕方や、あるいは仮説の立て方。つまり真理への接近の仕方を知っているのが、学を修めた人であり、先生なんですよ。

大ピンチの状況で、大谷翔平が「ビビらない」わけ

鈴木:今までに未知と遭遇したり、あるいは板挟みの状態になった時に、最初はみんなビビったり泣き叫んだりしますよ。

赤ちゃんは未知の連続だから泣くのだけども、その時に触ってみたり食べてみたりして、いろんなことをしながら、だんだん未知との遭遇の仕方に慣れてくるわけです。先生はそういう意味でいろんな未知と遭遇しているからビビってないんですよ。

三浦:なるほど。僕、WBCの日本代表のドキュメンタリー映画を見たんですけど。準決勝でメキシコにパーンと逆転されて大ピンチの時に、大谷翔平だけ笑ってたんですよ。あれはマジですごいなと思って。ビビってないんですよね。

鈴木:だから、先に生きてるんですよ。やはり大谷は修羅場をくぐってるから、いくつもああいうシーンに出くわして、その時にもちろん失敗もいっぱいしてるけど、うまくいった時のシーンが彼の中に入ってるんですよ。

その時にどう臨んでいったかが(経験値として)いっぱい入ってるので、それをもう1回リフレインする。そこからアレンジして、どう臨んだらいいかが大谷には見えてるんだと思いますよ。

三浦:なるほど、ありがとうございます。

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