2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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三浦宗一郎氏(以下、三浦):まさにその(作家になるという)夢を叶えたわけじゃないですか。時代の流れ的に、キャリア教育でもまさに「夢は何ですか」という話はあったりするんですけど。今は、その当時と比べると(ご自身の夢について)どういう変化があるんですか?
水野敬也氏(以下、水野):もうまったく違っています。一番大きいのはやっぱり子どもが生まれてからですね。結局最初の夢って、僕が名を上げるという、この資本主義社会でランクを上げるみたいな自己実現なんですよ。これは学歴にも近いですよね。偏差値を上げて、偏差値が年収になり、知名度になり、本の部数になると。「100万部です」「まだ10万部ですか」みたいな。
三浦:そうですね、(数字は)わかりやすいですよね。
水野:でもなんか『ハリー・ポッター』からマウントをとられている気がするみたいな。何億部? (累計)6億部とか?
三浦:『ハリー・ポッター』からマウントをとられていると感じられる人はあまりいないですけどね。
水野:なんか感じるんですよね。でも海外で売れている人もいるので、「俺も海外行かなきゃ」みたいな世界ですよ。上に行けば行くほど幸せになれるんじゃないかと思って繰り返してきたけど、ずっと苦しいままだと。
水野:ここからまたいろいろあるんですけど、子どもが生まれた時に、やっぱりめちゃくちゃ邪魔してくるというか、単純に足を引っ張ってくるんですよね。(自分が)子育てをしている時間はライバルが本を書いているわけですから。新しい『ハリー・ポッター』が出ようとしているのに、なんで俺はこんなに寝かしつけをやっているんだみたいな。
三浦:水泳教室も見て。
水野:そうなんですよ。今日もこのあと水泳教室があるんですけど、7歳と3歳が同じ時間に一緒にならないんです。(それぞれ1時間ごとで)2クールというか、めっちゃ暑い中、2時間見るんですよ。
三浦:目が離せないですもんね。
水野:そう。1時間ずっと仕事できりゃいいんですけど、ずっと泳いでいるくせに、たまにこうやってチラッと見てくるから。その時に(僕が)見ていないと「あぁ駄目だこいつ、愛情かけてねぇ」みたいな感じで。
だからずっとこっちも見ていないといけないんですよ。たまにチラッと見て「わー」って手を振ってあげたり。あんまりやっていると「先生の話を聞けていないよ」と動きで注意して、みたいな。めちゃめちゃしんどいんですよね。
三浦:すごいな。でもその間にライバルは『ハリー・ポッター』を書いているわけですからね。
水野:そうそう、ライバルは書いているわけで、子どもが本当に足を引っ張る存在になっちゃったんですよ。その時に「俺の夢ってなんなの」「何がしたかったの」というのが問われるんですよね。
水野:この子はもう「命」なんですよ。命がここにあって、「二択です。こっちのボタンを押したら1,000万部いきます」。「こっちのボタンを押したら、この子は死にます」みたいな極論。「こっちのボタンを押したら、命は助かります。でもあなたは、もう本を書くのをやめてください」みたいな。
極論ですけど、「どっちかのボタンしか押せなかったらどっちを押すか」みたいに問われるわけですよね。その時に「本当にお前は名を上げたかったのか」ということがすごく迫ってきて。
子育てのエキスパートの人たちの話を聞いていくという、まだ発表になっていない別の媒体で用意している企画があるんですけど、その中でまたすげぇ話があって。
僕が「子どもが生まれたことでやっぱり諦めたり、自分じゃなくなっていく感じがある」と。今までの「俺は水野敬也だ」「本を出していて部数が……というのが、子育てをやっている時に消えていく感覚があるんですよね」と言った時に、エキスパートの方が「いや、違うんじゃないですか」と(おっしゃったんです)。
「新しい自分が出てきているんですよ」「それが本来のあんただ」みたいなことをすごい言ってくるんですよ。「そういう考え方もあるか」と思って。
僕が今まで見ていた夢は自己実現、己をなんとかしたい、もっと言えばモテたいみたいなもので。「俺はこれだけのもんですよ」と不特定多数にアピールしなきゃいけない。
でも子どもができて、その子のことを考えた時に初めて「自分って本当はこういうことをしたかったんだ」とわかりました。だから、夢というものに対する考えもやっぱりかなり変わってきています。
三浦:なるほど、ありがとうございます。それこそ僕らはヤンキーインターンという事業をずっとやっていて、いろんな学校の先生と話しながら、「いわゆる元気なヤンキーが本当に減ってきた」と。
まぁね、僕の相棒の勝山も「ビッグになりてぇ」みたいなことを10代の時に言っていたと思うんですよね。こういう人が減ってきているなという印象もあって、(今多いのは)もうちょっとエネルギーが内側に向いていて、問いかけてもなかなか未来の方向に向いた回答が返ってこない、みたいな。まさに『夢をかなえるゾウ0』は夢がないという主人公に対して……。
水野:そうですね。上司から押し付けられるというか、「お前の夢はなんだ」「夢にコミットしろ」みたいなことを言われるんですけど。やっぱり強制されるのが一番違うと思いますね。3日前ぐらいに電車で広告を見かけたんですよ。
いわゆる発展途上国の女性が家事や育児を強制されて教育も受けられず、ずっと押し込められている。だからそれに寄付しましょう、という。ちょっと古いタイプの広告だなって正直思って。
いや、言っていることは間違っていないんですけど、なんか全体のトーンとして、そこでは家事とか育児が「悪」になっていたんですよ。
僕は今、4人目が生まれたので仕事をストップして家事とか育児に自分を持っていっているわけですよね。その時にここでのやりがいというか、この生活の中に物語を見出そうとしているのに、それが悪だって言われると逆にめっちゃ腹立つなという。
一方で、僕は1日10時間本を書くのは苦じゃないというか大好きなんですけど、「お前は今から部屋に閉じこもって、1日10時間パソコンの前から離れるな」なんて上から言われたら、もうこれは苦行でしかないので、そこに選択肢があるかどうかが大事だと思うんですよ。
三浦:なるほど。子どもたちと向き合いながら、本当に難しいなと思っていることがあります。やっぱりなんとなく今に閉塞感があって、対話の中で活路を見出そうと、「卒業したら何をしたいの」「何かやりたいことはないの」と、ついつい聞いてしまう。それって、ある種の強制の意味もはらむというか。
水野:それは本当にありますね。「ドリームハラスメント」みたいな言葉もあるんですけど。ただ、例えばですよ、「夢が人を強制してしまう。だから『将来何をやりたいの?』って質問ができない」という状態って、一方で僕は夢のすばらしさにちょっと失礼なんじゃないかなと思うんですよ。夢はすごいやつなんですよ。これを忘れちゃいけないなって。
「将来何をやりたいの?」という質問がナチュラルに出るんだったら僕はしていいと思うし、「ない」という答えもまたありで、どっちも本当にすばらしいんですよね。だから、そういう夢を押し付けるなという言説になってくると、今度は夢のすばらしさが消えてしまうというか。
あの門前仲町で本をまだ1冊も出していない、何者でもない25歳の自分が、エアコンもない部屋でもう本当にギリギリのお金でまかないのチキンを毎日食べて、めちゃめちゃ幸せだったのって、夢があったからなんですよね。
夢に助けられているし、今も僕はまた新しい夢を持っていて、子どもが多くなってくると、やっぱり今度は自分の自己実現から1回足を洗わなきゃいけないなと思った瞬間があったんですよ。
でも今度は「他者の自己実現って同じぐらいすばらしいじゃん」と自分の意識を持っていくと、書いている本も実は他者の自己実現のためなんです。僕が書いている、特に自己啓発書というのは、他者の自己実現をサポートする仕事なんですよね。
水野:みなさん教育者も、他者の自己実現を支える仕事じゃないですか。ということは、本を書く行為も、夜に家で娘のためにポトフを煮込む時間も、一直線でつながっているので、僕の中で夢がまた僕を助けてくれているんですよね。
三浦:なるほど。
水野:育児はめちゃくちゃ大変なんですけど、この時間と、世の中にいるまだ見知らぬ子どもに僕の作品を届けるというのが1個の物語として統合できているので、「この子育ては夢がなかったらきついだろうな」という。
三浦:それって誰かに「(夢を)持て」って言われたわけじゃないですもんね。「そうしたほうがいいんじゃない、水野さん」って。強制されたものではないから価値があるという話じゃないですか。
水野:そうなんですよ。もっと言うと、よくわからんけどこうなったみたいなところもあるんですよね。自分以外のものにどんどん転がされていって、なんかここにたどり着いて、そこでもがいていたら、この物語でしか今の自分は生きていけないし、すごくやりがいを感じているという。
水野:だって『夢をかなえるゾウ』の1を書いている頃に、深夜眠い目をこすってポトフを作って。またポトフというのが大事なんですよ。
三浦:ポトフ……。
水野:子どもが4人いて1人は赤ちゃんなので、3人(は普通に)食べているじゃないですか。お子さんがいらっしゃる方はわかると思うけど、この3人がまたぜんぜん違うものを食べたがるんですよ。
野菜だったら野菜の肉巻きを全員が好きになれば楽でいいのに、こっちは野菜の肉巻きを食うけど、こっちは麻婆豆腐しか食わないじゃんみたいな。味噌汁も食べる子と食べない子がいるんですよ。それを全部削ぎ落としていくと、ポトフなんですよ。
三浦:すげぇ。
水野:「野菜はめちゃめちゃ細かく切って、コンソメ味、以上」みたいな。
三浦:ポトフは真ん中なんですね。
水野:ポトフはすべての始祖というか。だからポトフなんですよ。
三浦:豚汁もいけます?
水野:豚汁はいけないんですよ。
三浦:いけないんや。
水野:一番上の子ね、豚肉が駄目なんですよ。
三浦:なるほど。
水野:大人としては、豚汁いったら(全部)いけるかと思うでしょ。豚汁いって豚肉もいって肉を巻いていいじゃんってなったら「これ駄目、豚肉が入ってる」みたいな。もう試行錯誤の結果、ポトフ。
三浦:落とし所がポトフ。
水野:ポトフは3人全員食べるので。
三浦:すごい(笑)。
水野:一番下の子はコーンが好きなので、コーンを多めに入れて。
三浦:今、家庭科講師の方から「うん、ポトフ大事」ってコメントが来ていますね。
水野:(笑)。そう、ポトフ大事なんですよ。
三浦:「うん、ポトフ大事」って(笑)。
水野:このポトフを夜の12時とか1時ぐらいに作りきった時の達成感なんて、25歳の僕には絶対にわからないですからね。「深夜にポトフを作るのがこんなに幸せなんだぞ、知っているか」と。でも今まで生きてきてこのポトフの大事さを俺は誰からも聞いたことがない。
三浦:僕も今、初めて教えてもらいました。
水野:すごいのよ、「やっとできた」という(達成感が)。「これで3日間は娘たちが野菜をちゃんと食べられるぞ」と。あとはパンとかちょっと食べられるものを与えておいて、このポトフがあれば、ポトフ神が……。
三浦:命のポトフが。
水野:そう、支えてくれるんだという。そんなの感じたことがなかったからな。しかも結果的にそこに追いやられているというか、僕は狙ってやっていないですからね。
三浦:強制ではなく。
水野:そう。でも全部が自分のコントロール下にあるというのも、またある種の傲慢であり、偏見なんだということにも気づかされますね。人生は計画を立てて全部自分でコントロールできると思っていたんですよ。
三浦:確かにそうですよね。今日の夜はこうして、明日の夜はこうして、あの人と会ってみたいな計画を立てていたら、急に学校の先生から連絡がかかってくるみたいな。
水野:本当にそういうことがあるわけですよね。
三浦:別の人生が同時に走っているわけですからね。
水野:学校の先生なんてその極致じゃないですか。
三浦:確かに。
水野:誰が何を起こすかなんて(わからない)。あんなに楽しくやっていたのに次の瞬間めっちゃ泣いてめっちゃ揉めていて、あの和気あいあいとしていた5秒前はなんだったのみたいな。
三浦:ですよね。
水野:でもね、恐ろしいことに子どものほうが、もっと言うと赤ちゃんのほうが正しいんですよ。だって神さまが作っているわけですから。
三浦:そのまんまですからね。
水野:そう。娘と「神さま・人間どっちが作ったゲーム」というのをやったことがあって。「これは神さまと人間とどっちが作っているでしょう」「はい、これはどっち」「人間」みたいな。
ここにある観葉植物(を作ったの)はちょっと人間っぽいですけど、パッと猫じゃらしをとって「はい、これはどっちでしょう」「神さま」みたいにやっていくんですよ。「これはどっち」「人間」「神さま」ってやっていって、「はい最後、あなたは誰が作ったでしょう」「人間」「違う、神様ですね」みたいな。
三浦:やっばいゲームですね。えぇーー。
水野:(笑)。そこだけ聞いたらなんか俺やばい……。
三浦:いやいや、でもやりたい。
水野:わかるでしょ。このすごさ、わかります? 海岸でいろいろ遊んだりしている中で、たまたまやったんですよ。
三浦:それ、めっちゃすごいですね。
水野:この子は自然から生まれているので、作ったのは神さまなんですよね。
三浦:なるほど。これはぜひみなさん、帰ったらやってみてください。
水野:いやいや、すげぇやべぇやつになっちゃうけど。
三浦:(笑)。「お母さん、急にどうした?」みたいなね。
水野:そう。やばいところに行ってきたんじゃないかって。
三浦:いやぁ、おもしろいな。自然ということですよね。
水野:本当にそう。みんないろんな宗教があるので、神さまというのは語弊がありますけど、この世界が作った……。
三浦:問いかけによって生まれる「持たなきゃいけない」という、ある種の強制された夢。
水野:それはすごく人工的なものだと思いますね。
三浦:いろんな人に夢をしゃべってもらって、子どもたちに「神さまの夢か人間の夢か」って……。
水野:(笑)。
三浦:「これは人間の夢」「これは自然の夢」みたいな。
水野:そう!
三浦:僕もちょっとわかるんですよ。
水野:わかるでしょ?
三浦:高校生と面談していて、「これはちょっとここ(胸のあたりを指して)から出ていないな」という、言わなきゃいけなくて言っている感じだなというのがあるんですよね。
水野:理屈というか、嘘とも言えるし、ナチュラルじゃないとも言えるし。
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