2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田久保善彦氏(以下、田久保):泰蔵さんの意図と私の解釈が合ってるかどうかっていう問題はあるんですけども。これ表向きは、教育に対する問いかけっても読めますけども、「理想書」のようにも読めます。
ものすごい数の、ハードな哲学者と言われる方々が、どういうふうに自分の思想を紡ぎ出し、何がその時代の限界だったのかみたいなことを、泰蔵さんとの対話みたいなかたちで紐解いていく「哲学史の本」みたいにも読めますし。いろんな要素があるんだなと思います。
その中でも、教育っていうテーマは、おそらく人類の長年のいろんな思いが詰まった課題であって。そして、ここから何かが始まる可能性みたいなものを強く感じられて、ここにたどり着かれたのかなぁと。
泰蔵さんのいろんなご活動の中で、例えばまさに本にも書いてありますけれども、VIVITA(ビビータ)っていう子ども向けの、先生もカリキュラムもない、大人も子どもも関係ないコミュニティというんですかね。そういうご活動とかあられるじゃないですか。
孫泰蔵氏(以下、孫):はい。
田久保:そういったことも、世の中を良い方向に持っていくためにメッセージを出したいって思われた1つの理由だったりするのでしょうか。
孫:そうですね。本の後ろのところに抜き書きしてるんですけど、「やはり教育と社会は両輪であり、社会を変えたければ、教育も同時に変えないといけない」っていう言葉を置いてるんです。
いろんな哲学者とか、その時代で社会を大きく変える思想を提示した人たちに興味があって。いろいろな著作を読むと、必ず教育論を書いてらっしゃったって、ある時気がついたんですよね。
それでルソーもロックもみんな社会をそういうふうに思ってたのかなと、ふと気がつきまして。自分自身も、単なる経済活動として利潤の追求だけをやっているわけにはいかないっていうか。いや、そういうもんでもないってか、そのために別に仕事をしてるわけでもないしなぁって思いがずっとあったんですけど。
自分自身が起業家を応援したいと思うのはなんでだろうってずっと考えて突き詰めていくと、自然に地続きで、子どもたちにとってすごいいい環境とかを与えてあげると、もっとすばらしい起業家がどんどんたくさん生まれるだろうなと、裾野が広がるだろうなと思って。7年前からVIVITAという活動をしております。
孫:「Creativity Accelerator for Kids」と言ってるんですけども。今、世界7ヶ国15ヶ所ぐらいにコミュニティの拠点があるんです。このビデオ自体も、そのコミュニティのメンバーの子どもたちが中心になって作ってくれたやつがあるので、ちょっと2分弱ぐらいのビデオ、ご覧いただきたいと思います。
> ナレーション:私たちにはしてはいけないと言われることがたくさんある。それは私たちがまだ小さくて幼い、ただの子どもだから。でも、VIVITAではそうじゃない。ここでは子どもでいることがすばらしい。ここは世界とつながるコミュニティ。自由なこの場所で、私たちは好きなように考え、探検し、想像する。私たちが夢見ることは、なんだってできる。
例えば、自分の洋服を自分で作ってみたり、ドローンをデザインしたり、ロボットを作ったり、ジェットコースターを作ることだってできちゃう。音楽を作り、みんなでダンスをし、傑作を生み出しながら、たくさんの仲間を作ることができる。それも、世界中のみんなと。
ここは学校じゃない。だから先生もいないし、カリキュラムだってない。あるのはたくさんのアイデアだけ。私たち、子どもたちが考えたアイデア。世界をより良くし、より明るくするアイデア。だって、私たちこそが世界を変えていく。発明家であり、クリエイターであり、リーダーだから。
私たちは自分たちの未来を作っている。今日もここ、VIVITAで。
田久保:この動画、やばいですね。
孫:これね、「『学校いらない』とか『先生いらない』とか『カリキュラムいらない』とか、すごい過激なことを入れる必要ある?」って僕が聞いたら、「いや、入れたい」って言われまして。それで、「まぁ、じゃあ入れたいんだったら入れていいよ」って言ったんですけど。
今ぱっと見ると、工作教室のように見えたかもしれないんですけど、実際には子どもたちが自分たちで「これやりたい、あれやりたい」ってやってるやつを映してるだけなので、こちら側が提供しているのは何もないんです。
子どもたちがプレゼンをしてくれたり、ちょっとこういうのやりたいんで資材が足りないから提供してくれって言ってくるので、「お、いいね」「じゃあやってごらん」って言ったり。
孫:場所自体も、彼らが自分たちで作っていってまして。家具とか。これおもしろい写真なんですけど、建物を作ったり内装を作ったりする時って、まず図面を起こして、その後にパース図を描いて、その後に模型を作ってみて、それから実際に物を作る、造作をやると思うんです。
(子どもたちは)最初にダンボールで実物大の造作を、自分たちでテーブルとか椅子とか棚とか、本当にでっかいダンボールを自分たちで張り合わせて、「これぐらいの大きさが良くない?」っていうのをひたすら作った後に、そこから生き残ったナイスなアイデアを逆に模型にして俯瞰してみて。
これで「いいね」ってなったら、実際に家具を作る。逆のやり方をしているんですね。これも彼らから出てきたアイデアなんですよ。「図面とか見てもよくわかんないし、使いやすいかどうかわかんないから、実際にダンボールで実物大を作って見たほうが良くない?」とか言われて、「確かに」って。それで最終的には自分たちの場所作りも彼らがやってくれて。
そのおかげで、「自分たちで作った場所だ」っていう、オーナーシップみたいな気持ちを彼らは持つんです。「ちゃんと散らかすな」とか「片付けろよ」とか、お掃除の業者を雇うとかそういうのがぜんぜんいらなくて。「自分たちの部屋だから、自分たちでちゃんとやるんだ」って運営していて。
ここは完全に無料です。会員制でもなくて、勝手に、放課後に来ていい場所にしています。彼らから学んだことが、実はこの『冒険の書』の大半だと言っても過言ではないですね。
田久保:いや、ちょっとぐうの音も出ない感じですけど。なるほどなぁ。なんで学校がつまらないんだろうとか、なんで先生と子どもは分けてるんだろうとか、いろんな問いが浮かんできたと思うんですけども。
田久保:こういうご活動が先にあって、そこで泰蔵さんが感じられたことが、真剣に取り組まれた問いの連続になって書籍に現れているということでしょうか。
孫:そうです。ただ、本のレビューなどを見ると、「すごくよかったです」って言ってくださる5つ星をつけてくださる方もいらっしゃるんですけど、「クソみたいな本だ」って1つ星も並んでおりまして、賛否両論になっているんです。
その時に、「(この本は学校教育を)つまらないって決めつけてるけど、今、学校の教育現場って昔に比べればずいぶん多様になったし、つまんないって決めつけてるのは、逆にそれがバイアスだ」と反論してらっしゃる方もいて。それは本当にそうなんだろうと思います。
昔に比べれば多様化したところは本当にあると、私も知ってるんですけれど、そういう方と、僕の「つまらない」とか「おもしろい」の定義が、たぶん違うんですよね。
僕が「おもしろい」って言っているのは、遠足の前日とか「早く明日にならないか」とか、もう楽しみすぎて寝れないとかっていう、それぐらいだとおもしろい場所って言えると思うんです。
それで言うと、学校ってそんなに毎日おもしろくないじゃないですか。どこまでいったって。なので、学びの場ってもっとおもしろくできると思うよっていうことが言いたかっただけで、別に学校を批判したいわけでは、まったくないんですよね。
田久保:この本を読んでいて思ったことは、泰蔵さんご自身が、今の学校を批判するとか、今の学校システムを批判するとかではなくて、ぜんぜん違うことがもっとあるよねとか、もっと原点に戻った時にどうなるのとか。
哲学者との対話っていうのも、この哲学者の考え方がいけませんって言ってるんじゃなくて、この時代は諸事情あってここまで来たけど、今、新しいことを考えるとしたら、ここを超える何かがあるよねとか、そういう意味での……。
泰蔵さんのご意見を出されるというよりも、そのことについて泰蔵さんがどう向き合われたか、軌跡みたいなことが書かれているので。
僕の中では、泰蔵さんに「こうあるべし!」っていう説教されたっていう感覚とかがぜんぜんない本なんですよね。一緒になって考えようって気になってくる。そこが、泰蔵さんが狙われたことなのかどうなのか、それも含めてうかがってみたかったんですけども。
田久保:私自身は、哲学者の話ってどっちかっていうと「はぁ~!」って受け取っちゃうけど、お友だちのように接してみれば、こうやって哲学者とも対話ができるし、考えを深めていくことができるじゃないっていうことも教えていただいた気がしていて。
こんな読後感って、泰蔵さんからすると、どんなふうに受け取っていただけますかね。
孫:一番うれしい読み方をしてくださって。もう本当に我が意を得たりっていうような感じです。「考え続ける」ことに意味があるって思ってるんです。
最初は苦しんでいる子を目の前にすることも多いので、「いや、そんな苦しんでまで学校行かんでいいよ」って。こう言うと、「いや、でも、そういうわけにはいかないし」って。「なんで、そういうわけにはいかんって言うと?」と聞くと、「親に迷惑がかかったりするとやだ」とか、「お母さん、悲しむかもしれん」とか。「はみ出ちゃうのが怖い」とかいろいろ言うわけですよね。その気持ちは、とってもよくわかる。
でも、なんでこんな子たちがこんなに無理していかなきゃいけないんだっけ? って思って、最初は怒りがあったんです。
「誰だ。こんなふうに学校システム、教育システムをつまんなくした張本人は誰やー!」って、最初は、うおーって(文献を)読みまくってたんです。ただ、いろいろ読んでいって背景がわかるにつれて、いや、彼らも悩みに悩んで、どうしたらいいんだろうって、一生懸命考えていたんだなと。
矛盾をはらみながら、もしくは当時、ヨーロッパの中世とかだと、異端な宗教みたいに扱われて。要するに、命すらも危ない時代に勇気を振り絞って言ったりとかしているわけですよね。実際、追放されたりとかもしてるっていうのもわかったりして、命懸けでやってると。
そういうことも含めて、いろんなことがわかってくるようになると、「簡単に、善とか悪とか、いいとか悪いとかっていうもんじゃないな」とか、彼らの苦悩も少しはわかる気がする。逆に、偉人とか先人じゃなくて「すごいパイセンだなぁ」みたいな感じで、身近に感じられたんですよね。
それから、自分自身が変わっていったんですよ。犯人探しをしてるような、炎上させようみたいな気質でヒステリックに見てた自分から変わっていく。それが最初は苦しかったんですけど、だんだん、変わっていく喜びとか、快感みたいなものが得られるようになった。
そのプロセスそのものがシェアできたらと思ったんです。子どもたちに「親の言うこと聞くなよ」とか言っといて、「俺の言うことは聞け」っていうのは、もう甚だしい矛盾。矛盾もいいところ。そんな大人には俺はなりたくないと思ったりもしたので。
苦悩したこととか苦しかったこととか、うわーって思ったこととかを、まるごと追体験できたらおもしろいかなぁと思って、こういうスタイルになっていった感じなんですよね。
田久保:哲学者の方がした冒険のことも感じるし、そことの対話という冒険をされた泰蔵さんのいろんなことも感じるし。でも、共通することは、その時その時に本当に正直に思ったことに対しての問いを立てると。つらいことですよね。ある意味で。
孫:つらいことですよ。
田久保:「なんで学校がつまんないんだろう」ってそんなに簡単に答え出ないし、そういうことを言えば、誰かに叩かれることもなんとなく見えてるし。でも、そこで考えることを止めずに、世の中がいいって言ってることとかに毒されずに、問いを立て続けるっていう。
泰蔵さんがやられて、本に書いてくださったことを、僕らもこれからやるべきことなんだよねって、そういう気もするんですよね。
孫:おっしゃる通りだと思うんですね。
これを読んだ結果、満を持して「学校に行くんだ」ってなったら、「おー、いいね」って僕は拍手したいですし。「今行ってる意味を感じないんで、いったん休学します」とか、「辞めます」とか、もしくは学校を変えるとかになったら、「おお、それもそれでいい決断だね」って言ってあげたいし。
でも、みんながお互いに一生懸命考えて対話をして、考え続ける社会であることが、全体主義みたいな危険な社会の状況に陥らない最大の大事なポイントなんだろうって思うんですね。
答えはある意味どうでもいい。どうでもいいじゃなくて、どちらでもいい。何があってもたぶんよくって。考え続けていく、問い続けていくことが、最も人間らしい活動だとも言えるんだろうなと思うんですよね。
田久保:おそらくそれをやめると、ChatGPTのこととかもありますけども、人間がやることが本当になくなっちゃうというか。
孫:そうですね。
田久保:問いを立てるのを止めて考えるのを止めると、本当にやることがなくなっちゃうんだろうなぁという気もして。
孫:それもありますし、同調圧力が頂点までいくと全体主義に陥っていくっていうことですよね。その全体主義になってしまった悲惨な結果は、私たちは歴史でいくらでも例があって。
そういったことにならないためにも、多様性はすごく大事です。その多様性は「自分で考える」ことから生まれていくんだろうと思うんですよね。
田久保:そういう意味では、ちゃんと自分の考えを持つとか、自分が問いを立て続けるとか。その立てた問いに、この本の中で泰蔵さんが向き合い続けたみたいなプロセスの中で言うと、世の中ってすごく不思議だなと思うのが、ロジカルシンキングが流行ると、「ロジカルシンキングはもう古いから今度はデザインシンキングだ」とか。
デザインシンキングが流行ると、今度はアートシンキングだって。「アートで考えるのか」って、言葉が矛盾してんじゃないかって思ったりもするんですけども。
そういう二項対立にして分けて考えて、こっちはいいけどこっちはだめとかって言いたがる方々が、世の中的には出てくると思うんです。
泰蔵さんからも感じることで、ものすごいクリエイティブだと思う方で、論理思考が苦手な方って、私は会ったことがないんです。
両方できて相乗効果を狙うからいいものができていくものを、分けて考えすぎじゃない? みたいな問題提起も、この中で(ありました)。子どもと大人もそうですし、遊びと学びとか、遊びと働くとか。
分けていくことによって、僕らが苦しくなりすぎてしまって、考えるのをやめざるを得なくなっちゃってることも、1つ、これから変えていかなければいけないことなのかなぁとも思った本なんですけども。
分けて考えること、その危険性とか、泰蔵さんはその辺りあらためてどう考えてらっしゃいますか。
孫:そうですね。まさに今、田久保さんおっしゃったような、分けて考えることの良さっていうのもあるんですよね。どんどん細分化して、因数分解していくことで、本質的なエッセンスが見えることもありますし。
だけどあまり分けすぎると、それはそれで別の悪い副作用が出たりすることもあること自体を認知(する必要がある)。これはよく「メタ認知」と言ったりしますけども。「ということがあるよね」っていうことを認識できればいいんだと思うんです。
ただ、その危険性、AIでも鵜呑みにしちゃいかんよねと。ChatGPTがよく間違ったことを返しちゃう。これをハルシネーション、幻覚みたいに言ったりしますけど。「嘘を言うこともあるよね」ってわかっていれば、そんな危険はないと思うんですよね。
田久保:びっくりしないですよね。
孫:はい。全部鵜呑みにして「正しいんだー!」って妄信してしまうと、それは危険ですね。逆に言うと、それをあまり危険だと言う必要もない。わかっていればよくて。考えてみれば、人間だってよく嘘を言うし。人間もAIも間違うよねと。
「いや、間違ってもいいじゃないか、人間だもの」じゃなくて「AIだもの」とか言ってね。相田みつをさんみたいな。
田久保:相田みつをの世界。
孫:「それぐらいに思っておけばいいんじゃないか」って思っていれば、たぶん危険なことにはならないと思うんです。
孫:例えば、昨今で言うとAIが間違うこともあるからビジネスには使えないって言ったりもしますけども。いや、でも人間だって間違えるじゃんっていう。ビジネスでも間違ったことだってあるじゃん。
その時は「本当に申し訳ありませんでした」ってね。「すみません、もう1個差し上げますので、これでなんとかお納めください」とか言って「まぁ、しょうがないね」とか。そういう社会であればいいじゃないって僕は思うんですよ。
分けすぎると、責任の所在はどちらにあるのかと詰めていくことになるので。結局、それを詰めていくと、本当に不幸っていうか、地獄の道しか残ってないわけですよ。
だからあまり分けすぎたり詰めすぎたりするのは良くない。それは昔の人の知恵としてもあったって、僕もじいさんとかばあさんからも聞いたこともありますし。「あんまり詰めすぎたらいかんとばい」みたいなね。
そういうことが大事だったりするなぁと思ったりしますよね。メタ認知さえあればいいと、僕は思っています。
田久保:そういう意味では東洋思想のことにもずいぶん触れられていましたけども。どっか悪いとぜんぜん違う(場所にある)ツボを押して直そうとする東洋医学と、悪いところにメスを立てる西洋医学。どっちがいいとか悪いとかっていうことではなく、両方あって。
両方の考え方がある中で、どっちを今回はとるのかというのも、これから先は大事なのかもしれないですよね。
孫:本当にそうだと思います。それがすごく「人間らしい判断」になるんだと思うんです。
AIに聞いたら、「こっちがいいんじゃないですか」って言うように教育、トレーニングされてることが多いので。そうじゃないと「なんだ、えらい曖昧な答え出すぞ。なんやこれ!」って怒るから。実はAIのトレーニング自体はいかようにもできるんです。「はっきりめに言え」っていうチューニングがされてるんですよね。
それに対して、「うーん、でもどっちもいいんじゃない?」「両方やってみればいいんじゃないか?」って、いい意味の中庸な判断っていうのが、むしろ人間らしい判断であって。これからますます大切にされていくような世の中になると思うし、そうするべきですよね。
田久保:はい。ありがとうございます。
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