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『冒険の書』~テクノベート時代の未来を切り拓く力~(全4記事)

孫泰蔵氏が危惧する、AIの発展による「格差の開き」 連続起業家が今「教育の本」を書いたわけ

『冒険の書 AI時代のアンラーニング』の出版を記念し、著者で連続起業家の孫泰蔵氏と、グロービス経営大学院の田久保善彦氏が対談を行いました。AI時代、「なぜ勉強しなきゃいけないの?」という問いに向き合い、教育について書かれた本書。本記事では、なぜ「教育」に白羽の矢を立てたのか、その背景が語られました。

連続企業家が「教育」に向き合い本を書いた理由

孫泰蔵氏(以下、孫):こんばんは。

田久保善彦氏(以下、田久保):こんばんは。今日はグロービス経営大学院のセミナーにご参加をいただきまして、ありがとうございます。泰蔵さん、本当にご多忙の中、時間を割いていただいて、本当に心より感謝申し上げます。ありがとうございます。

:こちらこそ、ありがとうございます。

田久保:今日は泰蔵さんに最初のプレゼンテーションというよりは、最初から対話をさせていただくということなので、少し説明をさせていただければと思います。

私が、この本(『冒険の書 AI時代のアンラーニング』)に出会いました。そして、1回目、こんな感じで(付せんをたくさんつけながら)読みまして。2回目、こんな感じで(さらに付せんをたくさんつけながら)読みまして。3回目は、ボールペンで線を引き(ながら読み)ました。本当に多くの刺激をいただいて。

「この本については、泰蔵さんの生の声を聞かせていただきたいな」って心から思って。ご多忙の中、本当にたぶんたくさんのオファーがあられて、すべてにはお答えいただけてないのかもしれませんけれども、グロービスにご登壇いただいて、本当にありがとうございます。

『冒険の書 AI時代のアンラーニング』

:いやいや、もうこちらこそ本当に、そんなに読み込んでいただいて本当にうれしいですし、恐縮です。ありがとうございます。

田久保:ありがとうございます。グロービスも大学院は丸16年。社会人教育の会社という意味では30年経たせていただいて、ずっと教育というものに向き合ってきているエンティティではあります。

ただ、この泰蔵さんの本にもありますように、やはり教育というものは、常にいろんなことの中で話題になりますし。

すべての人が、どこかで何かの教育を受けている。もしくは自分のお子さんに(受けさせている)。「本当にこれでいいんだろうか、あれでいいんだろうか」みたいなことを思う何かでもあるんだと思うんですね。

なので、グロービスも、本日のこうした対話をきっかけにしながら、さらにこれからの時代、どうしていくべきなのかということを真剣に取り組んで考えていきたいなぁと思っております。

シンガポールで体験した「コロナ禍」

田久保:今日ご参加のみなさんは、なんと「365ページの本を読んでから参加してください」っていう、すごくハードル高いことになってるんですけども......。

:ハードルが高い(笑)。

田久保:私はいつもこんなことは言わないんですけども、今日に限っては、「泰蔵さんの話、聞いてよかったね」とか、「いろいろ教えてもらったね」で済ませるのではなくて、じゃあそこから自分は何を考えるのかとか、例えば自分の会社の中のトレーニング、学校の関係者であれば自分の学校は、もしくは親として(できること)。そんなことをまさに考える場にしたいなと。

そして、自らが何かその考えたことにしたがってちょっとでも動いてみることが、たぶん今日のセミナーを開催することの本当に一番大切な意味だろうと思いますので。

ただ聞くよりも、考えながら、自分だったらどうするかな、こうするかなみたいなことも含めてチャットとかに流していただくと、そのチャットを拾って泰蔵さんと私のほうで、そこをフックに議論することもあろうかと思いますので、ぜひ積極的にご参加いただければと思っております。

では、こんな前振りをさせていただいた上で、さっそく泰蔵さんとお話をさせていただきたいと思うんですけども。まず、なんといっても私は、この表紙の美しさ。これがすごくインパクトがあったなと思います。

『冒険の書』。いろんな意味の「冒険」があると思うんですけれども。まず、この本を書かれた背景、動機。「どうして教育はつまらないんだろう、学校はつまんないんだろう」という問いかけから始まる本をなぜ書かれたのか、お聞かせいただければと思います。

:みなさんも、私も同じでしたけれども、コロナ禍で。特に私は今シンガポールに在住しているんですけど、昔、鳥インフルエンザとか、SARSが蔓延しました。幸いなことに当時日本ではあんまり大変な状況にはならなかったんですが、シンガポールは日本以上に(大変でした)。

なのでシンガポールでは、コロナが始まった頃、もう本当にものすごいスピードで、サーキットブレーカーと言って一歩も家から出てはいけませんっていう非常に厳しい規制がかかったんですね。

興味・関心の赴くままの「自宅留学」を開始

:余談ですけれども、シンガポールって人口1人あたりの監視カメラの数が世界的にも非常に多い国のひとつらしくて。本当に“見られている国”でして。そういった意味で、(外出しているのが)見つかって、外国人だと強制退去をさせられたなんていうのもあるぐらい、非常に厳しい運用がなされたんです。

私自身も本当にずっと家にいなきゃいけないという中で、幸いなことに実は、私たちはそれまで400坪ぐらいのオフィスが東京都内にあったんです。200人ぐらいがいつも出入りしてるようなオフィスを持っていたんですけれども。

ある時ふと、「オフィスっているのかな?」って思うようになって、「いらないよね」ってなって、やめちゃったんですね。そのおかげで、みんなリモートワークにコロナ前から慣れていたというのもあって。実際にはステイホームになっても、業務には特に支障がなかったんです。

でも移動とかなくなったおかげで、めちゃくちゃ暇になりまして。

田久保:時間ができた。

:時間ができた。それでどうしようかなぁって思った時に、最初はぼけっとフリーズしてたんですけど、「これはたぶん1年やそこらでは終わらないから」と思って。

ニュートンも、当時ペストがすごく流行って、大学に行く予定だったのが、実家に帰らなきゃいけなくなった期間が2~3年があって、その間に『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』っていう本を書いたりとか、万有引力の法則を体系化することができたというエピソードを聞いていたので。

僕はニュートンほどではないですけど、ずっと忙しくて、本当は「大学にもう1回行き直したいな」とか「新しい勉強をしたいな」と思ってたんです。だからこれを機会に自宅留学だと思って。

田久保:自宅留学。

:はい。勝手に、自分が大学に行ってるつもりで、興味・関心の赴くままに、いろんな本とか論文とかを読みまくるっていう日々が始まりまして。それをきっかけに、最初ノートをとってたんです。自分が本を読んで印象に残ったこととか、それを通じて考えたこととか。

毎日、学んだことや考えたことを投稿するように

:なんですけど、ノートって、1人で取ってるとだんだん走り書きになっていって、キーワードしか書かなくなっていって。これじゃあアウトプットとしてだめだと思いまして。SNSで仲間のグループを作っているんですけど、そこに毎日、自分の考え、学んだことや考えたことを投稿するようにしたんですね。

なんでそうしたかというと、自分のためのノートだと自分がわかればいいってことで、走り書きになっちゃうんですけど。せっかくだから同じような興味・関心がある仲間、グループのコミュニティの仲間に、「こんなことらしいよ」ってシェアをすれば、その人たちにとっても、ひょっとしたらいい気づきとか学びになるかもしれないし。自分にとっても、いいアウトプットの場にもなるし。

そこにみなさんがコメントをどんどんつけてくれたので、それがまた私にとっての学びになったり。それで毎日ほぼ毎日投稿するようになりました。だいたい、400~500字ぐらい。

それをずーっと、1年以上続けていたうちに、今回の本を出していただいた日経BPの編集を担当してらっしゃる中川さんという方に「本にしませんか」って言っていただいて。それからいろいろまた紆余曲折あったんですけど、それがきっかけで、本にするということになった感じですね。

田久保:ちなみに、いろいろなものを読まれたということで、本の後ろの参考図書がついていて。リファレンスを読むだけでも、すごいいい勉強になるんですけども。

AIで「格差が開いていくんじゃないか」という危惧

田久保:泰蔵さんの場合は、連続起業家としても、投資家としても、本当にさまざまなことをご覧になられてる中で、どうして「教育」に白羽の矢を立ててみたのか。そこは、どんな背景だったのでしょうか。

:最初、自分で自宅留学してる時は、自分の興味・関心のある経済のこととか、テクノロジーのこととかが中心だったんです。ただ私自身、最新技術を駆使して何か新しい価値を生み出そうという、テックスタートアップを支援している仕事柄、みなさんよりはちょっとだけ、昨今のChatGPTのようなAIに触れる機会が早かったんですよ。

それで、みなさんも今衝撃を受けてらっしゃるように、これはとんでもなく世の中が変わっちゃうなと思いまして。その時に一番危惧したのは、「格差が開いていくんじゃないか」ってことだったんですよね。

その格差のこととか、これから社会がどういうふうに変わっていくんだろうかっていうことを、いろいろと読み漁ったり、いろんな人とディスカッションしたりというのを、ずっとやっていたんです。

それで「本にしませんか」ってに言っていただいた時は、おそらく日経BPですし、彼女(中川さん)自身も、ベストセラーのビジネス書などをたくさん出してらっしゃる方なので、「(出版するなら)ビジネス書みたいなものを」という感じがなんとなく、空気としてあったんですけど。

でもあまり、すぐ陳腐化してしまうようなものを……。最新技術を追っかけると、すぐ、陳腐化しちゃうので。そういうものを書籍として出す意味があるのかな? って思ったんですね。

そういうものは、例えばブログだとかYouTubeだとかいろんなネットのメディアもありますし、そういったもののほうが常に更新していけますので、わざわざ本というメディアを使う必要はないだろうって思ったんです。

「本」というメディアを使って、若い世代の人たちに伝えたいこと

:ある程度一通り自分なりに、なんとなく一区切りついたなっていう時が来た時に、本にするってどういう意味があるのだろうって考えた時に、本というメディアの良さって、手に取った人が自分のタイミングで読めるもの。

積読のような「そういえば買っといたけど、これ、ちょっと読んでみようかな」っていうのも含めて、自分のタイミングで読める。自分のスピードで読める。何回でも読める。

僕自身も何十年にわたって、10年に1回ぐらいずつ読んでいる本ってあるんですけど。自分が変わってるので、その読んだ本は一緒でも、読むたびに違った受け止め方ができたりっていうのがあるなと思って。

そういう内容だったら、その本というメディアにとってもいいのかなって思った。その時に、私は未来の社会を作っていく、若い世代の人たちに伝えたいかなって思ったんですよね。

そういった人たちにも届くようにって考えると、これはちょっと全面的に書き直さないといけないと。しかも、彼ら・彼女たちにとって、身近な問いからスタートしたほうがいいのかなと思ったので……。

私自身ももちろん、周りに子どももたくさんいるので、そういう人たちと接する機会が多い中で、彼ら・彼女たちを見てて……。どういうふうにすれば伝わるかなぁっていうのを一生懸命苦心してるうちに、こういう内容になったっていう。

ですから、あまり教育論を語りたいということで書き始めたわけではないですよね。

田久保:なるほど。

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