2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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辻信一氏(以下、辻):ということで、PowerPointを使った話はここまでにしたいと思います。まだ時間が残っているので、できたらみなさんから質問をいただきながら、楽しくムダな時間を過ごしていきたいなと思うんですけれども。いかがでしょうか。
「日常の暮らしの中でムダな時間とは、どんな時間か」というご質問でしょうかね。要するにムダというのは、最初に言ったように視点の問題なんですね。人や社会から見たら、ムダなことをやっている時間ということです。
でも、それは僕にとっては決してムダな時間じゃないかもしれないわけですよ。例えば子どもたちが遊んでいる。「ほら、そんなムダなことをやってないで、早く宿題やりなさい」とか言われる。
でも、子どもにとって、まさにその遊びこそが、生きることそのものなんですね。彼らから見たら、宿題なんていうのは、ムダなんですよ。僕も長年大学で教えましたけど、振り返ってみると僕が教壇に立って言ったことなんか、ほとんど役に立たない、つまりムダだったなと思うんです。
おそらくそれを聞いてた学生たちも、たぶん同じように感じてたんじゃないかな。でも、僕の言葉のいくつか、喋り方や態度、僕の存在が醸し出していた思い......。それらがもしかしたら伝わって、聞いている人たちの中に、何かの反応を生み出していたかもしれない。
中には、心に届いたことがあったかもしれないし、共鳴を起こすようなことがあったかもしれない。
辻:あとは、人から見えればムダなことに見えていただろうと思うのは、毎年ゼミ生たちとやる田んぼでの米作りです。「国際学部」なんてところに来てる学生が、なんで田んぼをやらなければならないのか? と聞かれても答えようがない。僕にできることで、これ以上大切なことはない、と思えたんです。
また、僕のゼミは毎年、ふつうは行かないような辺境に行くわけですよ。アマゾンとか、ブータンの奥地とか、カナダの先住民の島とかね。そこで何をしたかって、別になんてことはなくて、現地の人たちと焚き火をするんですよ。歌を歌ったり。そしてぼけーっと空を見上げると、もう星が降ってきそうなんです。学生たちはみんな、そんなの見たことがないんですよ。それだけで感激して泣き出したりするんです。
学生にとってその時はムダに思えても、ああいう経験は、きっと彼らが生きていく上での力になる、と僕には信じられる。
その時には、ある意味、直感的にこっちだなって思っているわけですよ。そういう直感は、みなさんの中にも必ずあるんです。みなさん全員の中にあるんです。人から見たら、すごくムダなんだけど、「いや、これ!」みたいなものがある。それをぜひ大切にしたいなと思います。
司会者:ミニマリストという言葉がありますが、「カタカナのムダの視点から見ると、ミニマリストは、どういうふうになるんでしょう」という質問です。
辻:「ミニマリスト」と「断捨離」についても、僕も本の中に出てきます。「断捨離」って「断つ」「捨てる」「離れる」でしょ。どれも厳しく冷たい言葉ですね。また本で取り上げている、のは、「省く」って言葉なんです。「ムダを省く」って、よく言うでしょ。
「省く」「断つ」「捨てる」「離れる」という行動がとられるとき、省かれたり、捨てられたりする対象があるわけです。そういうモノ、コト、ヒトたちの身になって、ちょっと考えてみる。そういう視点が大事なんじゃないかなと思うの。
そもそも僕らは、こんなムダで溢れかえった世の中を作っちゃったわけだよ。めちゃくちゃにムダで溢れてる。世界がもうごった返してるわけですよ。きっとみなさんの家や部屋もそうでしょ?
だから、まずそういう状態を作り出してる仕組み、そして、私自身の生き方に、ちゃんと目を向けてみる。そういう構造的なことをカッコに入れておいて、断捨離、ミニマリストっていうと、ちょっと僕は首を傾げたくなるわけ。
それと、けっこう都合のいい自称ミニマリストもいるよね。「洗濯機もキッチンもいりません」みたいな。「でも、ちょっと待ってよ」って。洗濯も食事もしないで生きてるわけじゃなくて、外注しているだけでしょって。それって、家にあるものが少なくても、暮らしは別にエコでも簡素でもない。
要するにお金や特権を使って、一見シンプルに見える生活スタイルを作ってるだけなんじゃないかなって気がするんですね。
ただ、僕は否定してるわけじゃないですよ。ミニマリストにも断捨離にもすごく重要な発想の転換が含まれていると僕は思っています。
司会者:ありがとうございます。今の質問を寄せてくださった方も、断捨離していく中で、ムダの中の大切なものが見落とされてしまう危機感を感じられたのではないかと思います。
「企業活動の中でも、省かれているムダの中に大切なことがあるんじゃないかと思って、それをどう仲間に伝えようかを考えています」など、いっぱいコメントが来ています。
司会者:保育園勤務の方からは、「子どもたちにはムダな時間は、本来まったくないと思うんだけど、学校へ上がる年齢になると、学校ではどうしてもムダを省くようなシステムになってしまう。ボーッとすることの大事さも伝えたい。子どもたちには、どのようにしたらいいと思われますか」という質問です。
辻:今の子どもたちは本当に大変だよね、僕は気の毒だなぁと思いますよ。僕らが子どもの時に比べたら、「怠ける」「遊ぶ」「休む」は、もう本当に片隅に追いやられているんですから。
怠けているだけで、病気にさせられちゃったり、診断書をもらったりしちゃうんでしょ。遊んでるだけでも、そうなりかねないね。本当に子どもにとっては、風当たりの強い大変な時代であり、大変な社会だと思うんです。
だから、僕らは、もう1回、子どもを真ん中にしてすべての物事を考え直すべきです。すべての物事とは、つまり、政治、経済、教育、福祉などのすべて。この世の中の仕組みそのものを、子どもを真ん中にして考え直し、組み立て直すんです。子どものことを真ん中にして考えるからこそ、おぼろげにでも未来は姿を現すわけですよ。
「未来思考」なんて言葉がよく使われるけど、そういうのに限って未来が見えてないし、わかってない。未来思考なんて言って何かを売り込んでいる人たちって、実は、未来のことになんかぜんぜん関心がない。今だけ、金だけ、自分だけ、になっちゃってる。
そういう意味で、僕たちの社会にとって鍵になるのは、子どもなんです。遊んでいる子どもは、何の得にもならないのに、何の見返りも求めないで、懸命に遊ぶでしょ。
ここに、人間が生きることの意味がもう十分に表現されているじゃないですか。そのことを土台にして、もう一回教育をつくり直しましょうよ。
辻:『ムダのてつがく』にも、遊びについて考える章と教育についての章があります。
実は子どもだけじゃない。大人たちにとっても、「遊び」と「仕事」がかけ離れちゃってることが大きな問題なんです。「遊び」と「休む」も、すごくかけ離れちゃってるでしょ。だいたい遊びにお金がかかるから、みんな、もうめちゃくちゃ働かないと遊べないと思い込んでいる。
これって、本当に逆立ちでしょ。まずは、そのことに思い至る。そして「本来の仕事ってどういうものなんだろう」って考え直してみる。理想主義者だって言われるかもしれないけど、やっぱり僕は忘れちゃいけないと思う。
仕事は、本来とても楽しいものなんです。遊びみたいに楽しいもの。それによって何かが得られるからやるんじゃなくて、これをやらずにいられないからやるんですよ。
人を助けたらお礼がもらえるから助けるんじゃないんですよ。人が困ってたら、もうやむにやまれず助けるわけでしょ。それが本来の人間じゃないですか。
僕は、仕事もそういうものだと思っています。そうだとすると、もう一度仕事と遊びの融合を考え、デザインしていく。それが、これから僕らの大きな課題の一つだと思いますね。
司会者:ありがとうございます。
司会者:最後の質問になるかもしれませんが、今回のタイトルの「ムダ」はカタカナですよね。一般的に漢字で書くことが多いと思うんですけど、辻さんは「カタカナと漢字の無駄をどういうふうに使い分けてますか」という質問です。
辻:うーん、あんまりちゃんと分けてません(笑)。ただね、普通の「無駄」からちょっと離れて違う視点で考えるという意味が、カタカナに込められているのかな。ちょっとこう、ずらしてみる。違う視点を見出していくための手助けになるかなっていう感じです。
「てつがく」もひらがななんですけど、これは僕は哲学者じゃないしね。そんなに自分のことを頭がいいとも思ってないんで。
ただ、僕はみんなが「てつがく者」だと信じてるんです。子どもたちだっててつがく者。教育を受けていようがいまいが、てつがく者なんですよ。「てつがく者とは特別な種類の人のことではなくて、すべての人が特別なてつがく者なんだ」と僕は言いたい。その意味でひらがなにしてみました。
そして、物事をいろんな側面から考えていく。僕はそういうことを人類学でやってきたわけですけど、この楽しさをみんなに知っていただきたいなと思うんです。こんな楽しいことを、学者なんて言われてる人たちに独占させとくのは、もったいない。
自分たちの手元に「てつがく」を取り戻しましょうよ。
司会者:ありがとうございます。「直感という言葉が響いた」というコメントもいくつか来ていて。「明日から直感の旅に出掛けます」っていう方がいらっしゃったり。あと、人の話をじっくり聞く。「聞く」という言葉に共感してくださったコメントもありますね。
辻:ぜひ、まだの方は本を読んでいただきたいと思います。
司会者:まだ新しい年が始まったばかりです。2023年はいろんな物事、社会、そして世界で起こっていることや、自分の身の回りのこと、足元の土などを「ムダ」というキーワードから眺めたり、実践してみたり、話したりする。そんなきっかけに、ぜひこの本を使っていただけたらなと思っています。
辻:みなさん、ありがとうございました。2023年、またどこかでみなさんとムダな時間を一緒に過ごせたらなと思います。
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