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子どもが不登校になったら、仕事はどうする?不登校と貧困について考える(全3記事)

子どもが不登校の家庭の25%で、保護者の年収が下降 不登校者数が過去最多の今、シビアになっている「貧困」の危機

文部科学省の調査によると、2021年度の不登校者数は24万人と、過去最多の人数であることが明らかになりました。また自分の子どもが不登校になった場合、サポートのために仕事をセーブする家庭も少なくなく、経済面でも厳しい状況を強いられるケースも。そこで今回は「子どもが不登校になったら、仕事はどうする? 不登校と貧困について考える」と題し、10代のセーフティネット作りに取り組む認定NPO法人D×P理事長の今井紀明氏と、DEIを推進する採用マッチングプラットフォーム「Sangoport(サンゴポート)」の運営を行う株式会社SAKURUG代表取締役の遠藤洋之氏が対談しました。

2021年度の不登校者数は、過去最多の24万人

遠藤洋之氏(以下、遠藤):本日はウェビナーにご参加いただきありがとうございます。12月が寄付月間ということで、本日は「子どもが不登校になったら、仕事はどうする? 不登校と貧困について考える」について、NPO法人D×P(ディーピー)の今井さんをお招きしてウェビナーをお送りできればと思っております。

まずは簡単に私の自己紹介をさせてください。SAKURUGという会社の代表をしています、遠藤と申します。千葉県出身で、もともとは教員を目指していたんですが、大きな社会問題を解決しようと思ってビジネスの側に飛び込んでまいりました。

今井さんとは2年ぐらい前にお知り合いになって、そこからいろんなご縁があって今に至るんですが、本当に尊敬できる同世代の方だと思っています。今日は一緒にウェビナーができることをすごくうれしく思っています。

(スライドを指しながら)こちらをご覧いただきたいんですが、2021年度の不登校の子ども・若者が過去最多の24万人です。僕個人としても、これは解決しなければいけないことだと思っています。

もともと教員を目指していたこともあって、教育は世の中を良くするために必要なことだと今でも思っていますので、これを解決したいなと。

あとは、子どもの不登校が貧困につながる可能性があるという側面もあります。(スライド)右側をご覧いただくと、就労形態の変化であったり、年収であったり、あとは選択肢を増やすためにお金が必要であったりと、子どもの不登校が貧困につながる可能性もあります。

当社としては、事業を通して多様な「はたらく」を支援したいなと思っていて。

もちろん社内の働く環境の整備もあるんですが、当社の事業であるDEIを推進する採用マッチングプラットフォーム「Sangoport」の運営を通して、いろんなかたちでの多様な「はたらく」を支援したいなと思っています。

10代のセーフティネット作りに取り組む、寄付型NPO法人

遠藤:実際に子どもたちを支援している今井さんからのリアルなお話をお聞きすることで、不登校であったり、子ども、親、親子という側面でいろいろお話ができればと思っております。それでは今井さん、ご準備は大丈夫でしょうか。

今井紀明氏(以下、今井):今日はよろしくお願いいたします。

遠藤:よろしくお願いいたします。今井さんの簡単な自己紹介をお願いします。

今井:わかりました。みなさん、そして遠藤さんも今日はよろしくお願いします。D×Pの今井と申します。

私は今、11期目の寄付型のNPOを運営しておりまして、約2億円の規模のうちの8割が寄付で運営しています。多くの方々にサポートしていただきつつ、「10代の孤立を解決する」というテーマで仕事をしているNPOとなっております。

今日の話でいうと、D×Pの場合は3つ事業があって。定時制高校の中で居場所事業を運営して、そこで食事も提供しつつ就職の相談に乗るとか。あと最近始まりましたのは、「グリ下」と呼ばれる、家庭や学校などに居場所がない子どもたちが集まっているグリコ(道頓堀グリコサイン)下。

ニュースで見ていただいてる方はわかると思うんですけど、「トー横キッズ」とか「グリ下」が最近はすごく話題になっているんですが、今はグリ下で週に1回テントを開いて食事も提供しつつ、家出などをしている子どもたちと話していたりします。

困窮した子どもからの相談が寄せられる「ユキサキチャット」

今井:あとは今、1万人弱が登録している「ユキサキチャット」という、不登校・高校中退・経済困窮状態の子どもたちの就職・進学相談。そこからオンライン相談を通じた食糧支援・現金給付支援等も行っています。

不登校だけではないんですけれども、孤立しがちな10代の子どもたちが希望を持てる社会を築いていこうということで創業して、11年経っています。そこの代表を務めさせていただいています。今日はよろしくお願いいたします。

遠藤:よろしくお願いいたします。創業もほぼほぼ近しい時期ということで。

今井:本当にそうですね。

遠藤:あっという間の10年のような、長かったような、そんな思いがありますよね。

今井:そうですね。特にうちの法人は、もともとは不登校の方が多い通信制高校のサポートから始まっていって、そこから全国的に広まってきたところもありますね。今日は「サンゴポート」といった、親御さんのサポートをしていただいているSAKURUGさんと一緒にこういったお話ができるのはうれしいです。本当によろしくお願いします。

遠藤:よろしくお願いいたします。前段ではないですが、僕も今井さんと知り合うまで、もちろん「困ってる子どもたちがいるんだろうな」というイメージはあったんですが、まさかここまでとは思っていなくて。現状というか、ざっくりした概要を簡単にお聞きしてもいいですか。

今井:そうですね。今日の話でいうと、不登校のお子さんについてのテーマだったと思うので、そこについてもお話ししたいんですけれども。

少しだけオンライン相談の現場の話をすると、D×Pの場合は「ユキサキチャット」で不登校・中退・経済困窮の子どもたちと話していきます。現金給付支援に関しては、この2年間で4,600万円になってきていて、食糧支援に関しては8万7,000食ぐらいになってきていて、困窮状態の子どもたちからの相談がすごく増えています。

ユキサキチャットの登録者の約3割が不登校の相談で、経済的に困窮している子どもたちが多いです。

コロナ禍で、10代を取り巻く環境は大きく悪化

今井:給付支援・食糧支援に関しては、この1年で全体の給付数の7割ぐらいを実施してきているので、コロナ禍ですごく状況が悪化したことが見て取れるかなと思っています。

例えば、子どもの貧困や不登校とか、いろいろな課題を抱えてる子どもたちが複数の問題を抱えるというのが、コロナ禍と物価上昇の(影響を受けた)この3年近い状況だったなと思っています。

不登校だったけれども経済困窮になった、自分も精神疾患の当事者になった、親御さんからの当たりが強くなった、虐待をうけたとか、このコロナ禍で子どもたちが取り巻く環境が大きく悪化したなところがあります。

不登校の話でいえば、小中学生の不登校数は過去最多の24万人を超えていて、少子化にも関わらず、不登校の率が極めて上がってきていることが大きな課題です。プラス、10代では自死も増えてきていて、特に女子が多いとの報道もありました。

不登校を含め、10代を取り巻く環境は大きく悪化してきているというのが、この2~3年だったのかなと思っています。そういう意味では、NPOや国がもっと大きく対応していかなければいけない時期なのかなと、私は感じています。

遠藤:なるほど、ありがとうございます。

就職・進学相談だけでなく、経済面での相談も増加

遠藤:この2~3年、D×Pさんで「これに取り組み始めた」とか「新しいことを始めた」みたいなものはあるんですか?

今井:少しだけ経過を話すと、「ユキサキチャット」自体が2018年にできて、もともとは不登校や高校中退した子たちのための進学・就職相談に限定していたんですね。なので、そもそもは不登校とか中退の子どもたちの相談だったんですが、この2年でもう「相談だけをしていても仕方がない」と思ったんです。

「ユキサキチャット」上に、学校に行けてない、プラス「親に頼れない」「所持金がない」「ガスや電気が止められています」という相談が増えてきたんです。なので食糧支援・現金給付支援を始めたのが、この2年間でした。

今日のテーマと少しズレてしまうかもしれないんですが、8万円の給付とか、子どもによっては長期食糧支援とか、あとは短期の3ヶ月の支援を民間で独自に始めていきました。特に若年の困窮層に対しての支援は弱かったので、新しい取り組みとしてはそういった福祉的なところですね。

これまでは(チャット上で受け付けていたのは)就職・進学相談だったんですが、福祉や制度までつなぐ。生活保護だったり、障害年金だったり、なにかしらの制度面までつなぐことも加えてやってきたのが、この2年間だったのかなと思っています。

なので本当に多種多様な相談の中で、融資も借りてまでD×Pが対応してきたというのが、ここ2〜3年で新しくやってきたことでしたね。

遠藤:なるほど。ありがとうございます。

不登校の原因で最多なのは「無気力」や「不安」

遠藤:今回は不登校というテーマもあるんですが、僕自身が子どもの頃を振り返ってみると、教員を志したぐらいなので、むしろ学校に行くのがすごく大好きで。

「困った時に頼ってもらえるような存在になりたいな」と思って教員を目指したのもあるんですが、今井さんから見ると不登校になってしまう理由は何が多いんですか?

今井:ちなみに遠藤さんは、不登校って何が理由かなと思われたりします? イメージとしてですけど。

遠藤:友だち関係や先生関係ですかね。やはり、人間関係のイメージが強かったです。

今井:そうですよね。文科省の調査等も出てるので、インターネットで検索したら出てくるんですが、「いじめ」とか「教員関係」の問題はわりかし割合が低いのですが、「無気力」や「不安」とか、本人に関わる状況の要因が最多になっているんです。

ただ、この文科省の調査でけっこう課題だなと思っているのは、「教職員との関係性」の不登校の要因のデータがあんまり見えないアンケートになっていて。

現場で感じているのは、当然ながらいじめなどのいろんな要因もあるんですけれども、学校での関わり、教職員との関わりの相談も「ユキサキチャット」上ではすごく多く見受けられますし、家庭要因もかなり見受けられるなとすごく思ったりしています。

遠藤:家庭要因ですか。

今井:そうですね。例えば親御さんからネグレクトを受けていて、ご飯を作ってもらえないから元気がなくて、学校に行った時にすごくしんどい思いをする。これはたぶん単数の問題じゃないかもしれないんですが、加えて「学校で対応してもらえなかった」「あんまり相談に乗ってもらえなかった」ということもあったりするんです。

なので、1つの問題だけじゃなくて複数の問題が絡んでくるのかなと思うんですが、家庭要因から始まる不登校もあったりしますね。

一度不登校になると、なかなか逃げ場所がない

遠藤:それでいうと、僕も幼少期はあんまり家庭環境がよくないところで育ちました。それでも学校はすごく好きでしたね。

今井:きっと、歯止めになった要因があったりしますよね。家の中がけっこう荒れていたとしても、学校で受け入れられたり友だちが多かったりすると、行けたりしますもんね。(学校が)逃げ場所になるというか。

遠藤:そうですね。確かに、友だちと会うために学校に行ってたというのはありますね。

今井:そうですよね。不登校の子どもたちの数がすごく増えてきているのは、いろんな要因があると思うんですが、なかなか学校側に対応してもらえなかったり。あとはやはり、今は経済的にも厳しくなってきていて、経済環境が変わってかなり貧困の子どもたちが増えてきた時に、学校側がなかなか対応できる余裕がなかったり。

先生だけのせいにできない要因はきっとあると思うんですが、このコロナ禍で親御さんのストレスが溜まっていたり、なかなか対応できない現実が見て取れたのかなと思っていますし、本当にさまざまな要因があるかなと思っています。

遠藤:一言で「これさえ解決すれば」という問題ではないですからね。

今井:そうですね。特に厳しいのは、経済的に厳しい家庭の子どもたちがいったん不登校になってしまうと、なかなか逃げ場所がないという課題もあるかなと思っていて。

学校に行けない、でも居場所が家にもない。だから、どこにいればいいのかわからないというか。家出せざるを得なかったり。

家にいる場合はいる場合で、親御さんからすごく虐待を受けるとか、精神的にも追い込まれることもあります。家にも学校にもいられない場合は、家出するようなかたちになっているので、そういった子どもたちの相談がユキサキチャットにかなり多く来ている。

経済的に困窮していると、フリースクールに通うのも難しい

今井:そのために私たちとしては、食糧支援とかでご飯を食べられる環境を作る。家に(食事を)送れない場合だったら、郵便局に届けるとか。支援団体とかなり連携しているので、そこに届けてもらって食べるとか。まずは環境を安定させていくこともやってはいるんですが、本当に経済的に厳しいと選択肢が限られてしまう。

フリースクールとか民間のところに通うこともあったりするんですが、確か調査によると、月額で平均3万円近くの費用が掛かるので、やはり厳しいですよね。

遠藤:なるほど。今回は「不登校になった時の子どものこと」ということで、僕も自分のイメージと実態がズレてしまっているところがあったなと思ったんです。子どもたち、若者たちが、実際に親に求めているサポートってどういうものなんですかね?

今井:親に求めているサポートですよね。D×Pに来ている子どもたち(の家庭)は、経済的に少し所得が低かったりもするので、そこからの見解を話したいと思います。あと、一般的な不登校の親御さんの家庭ともかなり話したことがあります。

所得の低い家庭は親御さんもかなり余裕がなかったり、もしくはひとり親家庭が多い。これはカタリバさんの調査でも出ていたと思うんですが、二人親家庭よりもひとり親家庭のほうが(子どもが)不登校になる確率が高くて。

もちろんひとり親家庭は、日本の場合だと経済的にかなり困窮状態にあるので、D×Pはそういった方々のお子さんの相談が多いということが、まずは言えるのかなと思っています。

民間でできること、行政でできること

今井:「親に何を求めているか」ということを子どもたちに聞いたことはないんですが、ただ状況としては、とにかく食べられてなかったり、家に閉じこめられているとか。つまり家から出れるような状況ではなく、交通費がそもそもなかったり、どこかへ通うようなお金すらない。

塾や習い事とかに行くことがなかったりもするので、まずは安心して生活ができるようなサポート。それが食糧支援とかかもしれないんですが、そういったところが必要かなと思っていますね。

あと、もう1つ。給付なのか、それとも民間とか行政がやっている教育的なバウチャーですね。教育資金とかに使える限定的なバウチャーも、もしかしたら役に立つかな。

大阪市とか、あとは民間でいうとCFC(チャンス・フォー・チルドレン)というNPOが試み的にやっていると思うんですが、そういったところが親御さんに配られたりすると、自分の家意外の居場所ができたりもするのかなと思っていて。

もしくは学ぶ機会とか、多様な大人に会う機会とかもできてくるかなと思っていて。通えるような場所に通うための資金ですよね。そういった提供があったりすると、かなり変わってくるのかなと思っています。

あとは経済困窮だけに限った話じゃないと思うんですが、もちろん仕事ですよね。今日の話で言うと、親御さんの収入が上がったり働きやすくなったりすると、家庭環境自体も柔軟に変わっていったり、金銭的にも変わってくると思うので。

実際に不登校になると、さっき遠藤さんのスライドでも出ていましたけれども、収入が下がるという課題があります。これはなぜかというと、(子どもに)対応する時間が増えたりするので、パートや労働数を減らさなきゃいけないというところが課題になると思うので、働きやすい環境を整えていくこともあるかなと思います。

民間からできることと行政からできることは、けっこう分けて考えていくことができるなと、あらためて思いますね。

遠藤:なるほど。

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