2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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苫野一徳氏(以下、苫野):時間がきてしまったみたいなので、いったん締めにいきますか。じゃあ、質疑に移りましょうかね。
坂口惣一氏(以下、坂口):工藤先生、苫野先生、ありがとうございます。非常に熱いお話をありがとうございました。質問もかなりたくさんいただいております。
一番多かったのが、現場の教員の方からの質問です。「改革を実行したいけれど難しい」「時間的な余裕と心の余裕がありません」「疲弊しています」という声が届いています。同僚や上司の方の理解がない時に、そこを突破する考え方を教えていただけますか。
苫野:ぜひ、工藤さんから。
工藤勇一氏(以下、工藤):気持ちはよくわかります。僕が校長になったのが54歳なので、校長の立場を得るまでに相当な時間がかかっていますよね。やはり、トップにならないとできないことってあるんですよね。でも僕はいつも、「上位で合意すること」と「目的は何のため」を考えてきたんです。
20代で山形で教員を始めた時にも、僕は中学の時の管理教育や先生たちが大っ嫌いでした。殴る教員は、本当に大嫌いの大嫌いでしたね。職員室に連れて行かれて、髪の毛をバリカンで丸刈りにされたこともあります。
苫野:えぇ、工藤さんがですか!?
工藤:はい。あります。
苫野:うわぁ、生々しいですね。
工藤:小学校の時から殴られるのはしょっちゅうでしたし、もうほとんど理不尽だなと思っていました。全体主義で誰かがミスったら、みんなで殴られるとか。
苫野:連帯責任ね。
工藤:連帯責任とか、しょっちゅうやらされましたよ。今よりも遥かに理不尽な時代ですね。僕はその頃からもう「服装・頭髪なんて自由でいいだろう」って思っていました。「服装・頭髪で人は判断できないでしょ」と思っていましたし、教員になった時もそう思っていました。
でも、さっき苫野さんが言っていましたが、着任した学校は(生徒たちが)丸坊主の学校だったんですね。
苫野:(笑)。
工藤:僕も経験したことがない、初めから全員が丸坊主という、地方の学校だったんですよ。「大変だな」「丸坊主かぁ」と思った。みんな丸坊主になって、ハゲがあったり傷があったりして。みんな本当は嫌なんだけど、丸坊主にさせられている。
でも、教員たちは優しい良い先生で、熱い先生ばかりだったんです。それでも殴るんです。教員たちがぶん殴るということは、つまり本当は民主主義を否定している人間たちです。
だって、法律でやってはいけないのにぶん殴ってるんだから。法律よりも大事なものがあると言って、「糞くらえ」「わかっているのか?」と殴っているわけじゃないですか。だから、それ1つ見ても、日本は民主主義を学んでこなかった国だなと思いますよね。
工藤:ちょっと話が変わってしまいましたが、その時の子どもたちも若い僕に「先生、服装とか頭髪って関係ないよね?」と聞くわけですよ。その時に、心の本当にまましゃべるなら「関係ないよね」と言いたかったんですね。でも、言ったら確実に子どもたちはそこに意識がいくわけです。
だって子どもたちは、若くして(学校に)入ってきて、子どもたちといつも遊んでいる僕のことが大好きで、その大好きな先生に「こんなルールおかしいよね」と言ってくるわけです。僕もまだ若かったので、そう思っているんですね。
でも、「おかしいよね」とは思っているけど、そう言った途端に子どもたちにとっては対立軸ができるわけですよ。
苫野:なるほど。
工藤:問題が起こるわけですね。それよりももっと大事なものがあるのに、そんなものに心がとらわれてほしくなかったんですね。「いらない波風を立てることは、子どもたちのためになるんだろうか?」と。
でも、そこで僕は「学校で決められたルールだからそうしなさい」という言葉も言いたくなかったんですよ。それは自分の生き方に反することだから、言いたくなかった。
じゃあ、自分の生き方に嘘をつかずに、この子たちに「そんなのどうでもいい話じゃないか」と伝えるにはどうしたらいいのか? と思って。ある意味嘘ですけど「(頭髪や服装の件は)どうでもいい話だから嫌いなんだよね。僕に二度とその話をしないで」と言ったんですよ。
工藤:僕のことを「大好きだ」って、「先生」と慕ってくれる。その先生が「そんなもんどうでもいいんだよね」「そういうことを言うの嫌いなんだ」と言ったら、僕にその会話をしないから表に出なくなるじゃないですか。
そうすると、子どもたちは自分の将来や大事なものとか、本当にもっと哲学的な話に目を向ける。僕は生徒会を持ったので、それこそ民主的に、子どもたちに「自由に学校を変えてごらん」という経験をさせていくほうに目を向けていったんです。そっちのほうが遥かに重要なので。
苫野:なるほど。
工藤:今の例もそうだし、子どもたちのために何が優先なのか、より目的を考えることによって、その言葉を変えていく。
苫野:はい。
工藤:例えば、ある上司がめちゃくちゃ頭にくるやつだったとしますね。「やつ」と言ってはいけないな(笑)。
苫野:(笑)。
工藤:頭にくる人だとしますね。その人に対して感情的になって、「それは違うでしょ」と言うのは、酒を飲んだ時ぐらいしかできないというか。相手が許してくれるから。でも、これを真顔でガーンと言ったら感情的になる可能性がありますよね。
とすれば、本当はこんな理不尽な人に謝りたくないんですが、トータルとして目的のことを考えたら、「子どもたちのためにここはぐっとこらえて謝っておいて、この人にはこっちを求めよう」とかね。子どもたちにとって、学校の教育にとって、何が優先されるのかを考える。
工藤:一時の自分の感情で対立構造による起こるハレーションを考えると、「より上位の目的は何だろう?」と考えて、ぐっと感情をこらえて、発言を変えた経験は山ほどあるわけですよ。
でも、それでも対話をして上位のものを探り出す日常をどれだけ積み重ねるかで、その後の言葉のセンスも変わってくるんだと思うんですね。だから感情的に否定するのではなくて、よりお互いに合意するため何の言葉があるんだろう? と探し続けることが大事だなと思いますね。
苫野:ただ、やはり訓練がいるんですよね。意識しなかったらできないので。逆に言うと、意識すればできる可能性が高まりますので、このスピリットのミメーシス(模倣)が望まれるなとあらためて思います。
さっき「忙しくてなかなか対話ができない」「対話を通して合意形成する余裕もない」というお話があったんですけれど、私もたくさんの学校で働き方の見直し等々も含めてご一緒する中で感じているのは、むしろ逆だということです。
しっかりと対話をする時間を作ることで、「これは断捨離できるよね」ということも見えてくる。対話をする時間がなければ、みんな自縄自縛に陥ってしまって「やっぱりこれはやらないといけないよね」「何かおかしいなと思うけれども、これをやらなかったらなにか言われるしな」とか。
みんな、「人に何か言われるに違いない」という自縄自縛に陥って、物事を変えていくことができなくなっちゃうんです。「何のためにこの仕事をしているんだっけ?」という本質を対話する時間がちゃんとあれば、そこをもとにして合意した上で、断捨離ができる。やはりまずはそこからなんだなと思いますね。
坂口:ありがとうございました。もう1点、多かった質問です。保護者の立場として、あるいは家庭で、子どもたちに民主主義を教えていくために、どんな接し方ができるでしょうか。
苫野:親は「子どものことをどこまで尊重できているか」を問われていると思うんですよね。ヘーゲルという哲学者は、民主主義社会を家族、市民社会、国家という3つの圏域に分けて論じています。
その中で、まず家族は相互尊重を本当の意味で学ぶ場です。家族は「私は存在していていいんだな」「私の存在はちゃんと受け入れられるんだな」という安心感を最も得ることができる場である必要がある。それが民主主義社会を一番底で支えるのだと。
今日は民主主義の本質をあまりお話ししませんでしたが、一番重要なキーワードは「自由の相互承認」だといつも言っています。つまり、他者のことも自分と対等な存在として認められるということです。自分のことを認められないと、不安が溜まって他者に対して攻撃性が出てしまう。
なので他者を認められるようになるためには、「自分はOKだ」と思えることが大事です。そのためには、「あなたはちゃんとOKだ」と尊重された環境の中で育つ必要があって、その一番根幹になる場所が家族という場なんだと、ヘーゲルが言っているんですね。
ちなみに、次の市民社会というのは、ヘーゲルでは市場経済社会を意味するんですが、市場を通して経済的にちゃんと自立できることも、自由であることの条件です。
だけれども、経済社会の中では、失敗してしまったり、病気になったり、初期条件に恵まれていなかったりと、すべての人が十分に自由になれない可能性があるので、最後は国家がすべての人の自由を保障する。これが、民主主義社会を実現するための3つの圏域のあり方です。
ともあれ、「私たちはあなたの存在を何よりも尊重しているよ」と、私たちがちゃんと子どもに伝えられることが、家族における一番の根幹なのかなと思います。
坂口:ありがとうございます。工藤先生、いかがでしょうか?
工藤:仕事として子どもたちに対してどうあるべきかというと、プロとして仕事をしようと思いますから、相当感情をコントロールして冷静に行動できるんです。だけど家族となった時には、感情的になった経験は何度もあります。でもその失敗を通して、歳とともに最上位がますます確かめ合えるというんですかね。
みなさんにはみなさんの家族があると思うので、僕が大きく助言するのもおこがましいんですけど。でも、あえて助言をするなら、例えば妻との関係、夫婦関係、それから子どもがいるなら親と子どもの関係、兄弟がいるなら兄弟の関係という視点で、少しずつ簡単にお話しします。
例えば「妻との関係」でいったら、お互いの最上位が「楽しく幸せに生きたい」だとします。そこでお互いに合意さえできたら、多少いざこざがあったり喧嘩したって、「本当はお互いに幸せだと思って、尊重しあいたいんだもんね」という最上位に到達すれば、いろんな怒りが消えてくる。
当然謝ることだってあるだろうし、謝ってもらうことだってあると思います。いろんな違いがあるけど、お互いに最上位で合意できる存在なのかな? という確認は、とても大事なことだと思うんですね。
工藤:じゃあ子どもとの関係で言ったら、今苫野さんがおっしゃったように、子どもをどう尊重できるか。親って初めての出来事なので、これは難しいんだと思うんですよね。失敗して「ああすればよかった」「こうすればよかった」って思う。
僕も2人の息子がいるので、そう思ったことなんて何度もあるし、「あれは失敗だったな」「なんであんなことを言ったんだろう」と、今でも嫌な思い出はいくらでもありますよ。
でも、今も息子たちといろいろ付き合う機会はありますが、歳を取れば取るほど、基本は子どもの自己決定を尊重することなんだなと思います。だから理想的に言ったら、「何かあった?」「どうした?」と聞くこともあるかもしれないし。
さっき苫野さんが例で出してくれたように、自分の下の息子が「幼稚園に通いたくない」と言った時に「どうした?」と聞いたら、「実は嫌いな子がいて、嫌いな子がいるのが許されないような気がするんだよね。嫌いな人がいたらいけないんでしょう?」と、子どもが子どもなりに言ったんですね。
「嫌いな人がいるんだよね」と子どもが言ったから、「僕も嫌いな人はいるよ」と言ったんですが、結局は子どもが自己決定できることを支えてあげることです。
「どうした?」「君はどうしたいの?」「なにか手伝えることある?」という3つの言葉をいつも頭の中にイメージして、子どもが自己決定できる支援をどうするかを考えていました。
工藤:だっていつか離れるんだから、基本的に(親は)手を離す訓練をしていかないといけないんですもんね。でも、助けを求められる子どもになってほしいので、「なにか手伝えることあるかい?」と聞く。僕はなかなかそれが言えなかった父親で、だから息子たちは1人でがんばろうとするんだと思うんですけどね。
なのでもし兄弟喧嘩したとしても、本当は大人は関わらないほうがいいんですね。どっちも大事です。もしおかしな関係で関わるとすれば、「お兄ちゃんだから」という言葉ではないと思うんですよ。そうではなくて、「君は弟とどうしたいの?」と聞く。
だからトラブった時に、「明日から楽しく暮らしたいの? 暮らしたくないの?」「どうしたい?」と聞けばいいということですね。そうしたら絶対に「楽しく暮らしたい」と思うわけなので、「そうか。じゃあ楽しく暮らしたいんだったらどうすればいいかな?」と聞くんです。
もし弟がわからず屋だとすれば、「じゃあ自分が面倒を見てあげないといけない」と、兄はきっと思うはず。そうすると、弟に「これでいいよ」みたいな妥協案を出すと思うんですね。そういうことを自己決定させていくと、人のせいにしないですよね。
でも、そこに親が入って「お兄ちゃんなんだからこうしなさいよ」と言ったら、たぶんお兄ちゃんは親を恨みますよね。自己決定していないから、子ども(弟)をもっと恨むようになりますよね。自分の力でこれをどうするのか、当事者にさせていく兄弟喧嘩をさせることがとても大事で、そういうのも民主主義だと思いますよ。
坂口:ありがとうございます。
坂口:まだまだ質問はたくさん届いているんですが、残念ながらお時間が過ぎてしまいました。最後にお二人に一言ずつメッセージを頂戴できればと思います。
苫野:最後の締めは工藤さんにしていただくことにして(笑)。
工藤:(笑)。
苫野:工藤さんとのお話って、さっきの感染の話……このご時世にはあんまりよくない言葉かもしれませんが(笑)。感染の話もそうですが、けっこう病みつきになるんですよね。「そろそろ工藤エキスを注入したいな」って思うことがあって、本当に贅沢な時間をたっぷりと過ごさせていただいたなと思っています。
この本を通して一番学ばせていただいたのは、読者のどなたよりも私なのではないかな、と思っています。
私はいつも、最後に、教育の基本中の基本は、「信頼して、任せて、待って、支える」だと私はいつも言っています。
今回は、理性的に対話を通して合意形成していくところにフォーカスしたお話でしたが、この教育の基本は、それを支えるいわば「存在の次元」の話でもありますね。
幼少期は特にそうですが、小学校の間、もちろん中学校でも、信頼されたり、尊重されたり、存在をちゃんと承認される場作りは、学校にとってすごく大事なことです。そのことを、最後にお伝えしたいと思います。今日も楽しい時間でした。ありがとうございました。
工藤:僕は苫野さんといろいろ仕事をする機会があって。「自由と自由の相互承認」という言葉を聞いたのが、麹町中のすぐそばで分科会で初めて苫野さんとお会いした時で、いくつかのグループに分かれて、たまたまグループが一緒だったんですよね。
苫野:そうそう。その後の分科会で。
工藤:その時に僕は「あぁ、苫野さんという人がいる」と初めて知ったんですね。その時に語っていたのは、もう本当に哲学的な言葉だったんですよ。子どもが聞いたらさっぱりわかんない話なんだけど(笑)。
苫野:(笑)。
工藤:でも「自由と自由の相互承認か。良いことを言う。この人は本当に哲学者なんだ」と思ったて、こからすごく注目をするようになって。「良いことを言っているな」「この人がみんなにわかる言葉を語ったら、世の中は変わりそう」とずっと思っていたんですよ(笑)。
苫野:(笑)。
工藤:だから僕は苫野さんと会った時に、よく「いや、みんながわかる言葉使ってよ」と言うんです(笑)。
苫野:中学生にもわかるように(笑)。
工藤:そうそう。「哲学の言葉を、もうちょっとわかりやすくしてくれないかな」とよく言っていたんですね。そういったこともあって、今回は本当に語り合ったなと思います。ますます明確にわかったこととか、僕もすごく考えの整理ができました。
ある意味僕は、心の教育を“敵”のように扱っていろいろなメッセージを出していますが、実は心の教育は敵ではないんですよ。
でも、心の教育に頼ってしまったら、民主主義は絶対に得られないんですね。心と感情はちょっと違うんだと思うんですが、感情と理性を切り分けて、理性的に物事を考えていく。これが人間の社会をより成熟させていくことなんだという、この原理は絶対に変わらないです。
工藤:心を豊かにしていったから成熟するのではないんですね。理性できちんと社会をコントロールしていく。これを心の教育と呼べるんだったらいいですよ。でも、ごちゃごちゃになっている状態で心の教育を安易に使ってはいけないですよと、僕はメッセージを出しただけですね。
だから僕はバイアスを取り去っていく動きをしているんですが、今日聞いてくださった方がそれぞれの立場でもう一度本質を考え直していく。それも、ちっちゃな対話から始めてかまわないと思うんです。身近なところで対話をして、アウトプットしてインプットしてを繰り返していくと、本質が見えてくるんですよね。
それが日本全国に広がっていくとうれしいな。「この本(子どもたちに民主主義を教えよう)を本当に読んでほしい」と思うのはめったにないですね。これは本当に読んでほしいです。全精力を使ってやりましたよね。
苫野:はい。もう本当に、すっごくエネルギーと志を注ぎましたよね。
工藤:もし書き直したいところが出たら、書き直したいですよね。ちょっと修正したい部分もありますが、この本が世の中が良くなるきっかけになってくれたらなと思っています。今日は本当に貴重な機会をありがとうございました。
苫野:ありがとうございました。
坂口:この本は一度だけではなくて、何度読んでもまた違った発見がある本ですので、「1回読んだよ」という方も、ぜひ再読していただけるとうれしいですね。工藤勇一先生、苫野一徳先生、誠にありがとうございました。
工藤・苫野:ありがとうございました。
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